私たちの声
「私たちの声」を見る。7人の女性監督による7篇のオムニバス映画である。英題は「Tell it Like a Woman」。
言わずもがな映画界は男社会だ。ハリウッドではおよそ90%の映画が男性監督の手によるとも言われ、またセクハラ被害の告発も相次いでいる。2015年にジェンダー平等を目的とした非営利の映画製作会社「We Do It Together」(WDIT)が設立され、この「私たちの声」が最初の作品となる。
出自も映画手法も異なる7名の監督による映画、「ペプシとキム」/タラジ・P・ハンソン監督(アメリカ)、「無限の思いやり」/キャサリン・ハードウィック監督(アメリカ)、「帰郷」/ルシア・プエンソ監督(アルゼンチン)、「私の一週間」/呉美保監督(日本)、「声なきサイン」/マリア・ソーレ・トニャッツィ監督(イタリア)、「シェアライド」/リーナ・ヤーダヴ監督(インド)、「アリア」/ルチア・ブルゲローニ&シルヴィア・カロッビオ監督(イタリア)は、どれもが「私たち」の日常と地続きの、それ自体は小さなドラマではあっても、親密さに満ちた眼差しを通して世界を再考した作品だと言えよう。
もともとは日本以外の6遍で完結した作品の劇場配給権のオファーだったが、急遽日本も製作に加わることになり、現在の形となったという。その呉美保(お みぽ)監督の「私の一週間」は、二児の母でシングルマザーのユキ(杏)の日常を描いた小品だ。映画はユキが朝食を作るところからは始まる。
子どもたちを起こし、洗濯をし、掃除機をかけ、上の子を小学生に送り出し、下の子を自転車で保育園に送り届け、仕事に駆けつける。こだわりの弁当屋で人気の店のようだ。仕事を終え子どもたちを迎えに行き、夕食を取り、彼らを寝かしつけるまでユキの家事労働は続く。ほっとする間もなく弁当屋の新メニューを考えているとすでに日付を超えている、そんな日常だ。上の女の子は髪を編み込みにして欲しいとユキに頼むが、下の男の子に振り回される彼女の手は、なかなかそこまで回わらない。繰り返えされる日々に飲み込まれそうになった時、家に謎の贈り物が届く。
呉美保監督といえば、「そこのみにて光輝く」(2014年)のような社会の底辺で生きる人間を描く、荒々しくも美しい映画を撮っていたが、自身も二児の母となり、自身の等身大の生き方をなぞるような、良い意味で脱力した作品となっている。全体としてはややファンタジーを含んだ構成にはなったが、7つのどの物語を取っても、それは私たちの日常と切り話してはいない。そこで繰り広げられる様々な判断に対し、この映画の主題歌が指し示すような「Applause =賞賛」を与えよう。それが「私たちの声」であり、それをじわじわと浸透させてゆこうと心から思う。