ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス/フレデリック・ワイズマン監督
フレデリック・ワイズマン監督の『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を見てきました。ワイズマンは1930年生まれですからゴダールやイーストウッドと年が一緒ですね。89歳!
ご存知かと思いますが、ワイズマンはドキュメンタリー映画のその後を決定づけた人。ナレーション無しBGM無し。日本語版は(もちろん)字幕こそありますが、パティ・スミスが出ようがエルヴィス・コステロが出ようが、一切の説明無し。冒頭の講演会、あれは「利己的な遺伝子」のリチャード・ドーキンスなんですね...。不親切に思うかもしれませんがそれが大事なのです。それは彼らにインタビューをしているのではなく、図書館の機能としてのトークイベントの登壇者として撮っているからです。
ニューヨーク公共図書館(New York Public Library 略称はNYPL)は1911年に竣工した本館と、研究図書館、地域に密着した分館を含め92館からなる巨大図書館ネットワーク。公民協働。つまり設置主体が民間で、運営は市の出資と民間の寄付によって賄われているということです(ここは日本の公立図書館と違うところ)。
映画の中で「協働」と言う言葉が何度も出てくるのですが、英語ではpertnershipでしたね。「公共=Public」が担うものは何か。それがこのドキュメンタリーの主題だと思います。
それにしても映像の最初から最後まで、一貫してワイズマンです。撮影にあたって結論は設定されず(普通のテレビドキュメンタリーとかは先に撮りたい絵が決まっていることがほとんどです)、ただただ図書館のある通りの佇まい(外部)と図書館の機能(内部)を見つめた「断片」が繋がっていくだけ。
そこにどんな人が住んでいるか。街並みや車や人の流れを写しだけではっきりと見えてしまうのですが、そこから地域の住民に対する個々のサービスや取り組みが重ねられるという具合。そして3時間半に及ぶ映画を見終われば、そこにニューヨーク公共図書館という巨大な「像」が立体的に立ち上がる。
お盆休みということもあって、本当に満席で驚きました(私は一番前の席)。これはもう本当に大事なことが描かれた映画ですので、ぜひぜひ足を運んで見てください。「エクス・リブリス」は蔵書票のことですよね。
ちなみにPublicからは「公共の福祉」という言葉が思い浮かびます。誰もが分け隔てなく情報にアクセスできること。それを「公」に対して働きかけていくことの重要性こそが、今私たちに問われているのだと思います。そうそう「公共」と「公益」は全く違います。いずれ憲法改正の議論として出てくる文言ですが権利主体が逆。表現の自由とも関わりを持ってきますから。
監督:フレデリック・ワイズマン
2019年8月16日鑑賞