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富岡駅へ
その4 2024年4月7日 日曜日
朝5時。遠くに見えるのは阿武隈高地だろうか。ホテル7階の部屋からの眺めは、山地からの霧が立ち込める幻想的な風景だ。ホテルの南西方向はスポーツ公園があり、ここからは野球場の施設が見えているのだが、中央に見える大型マンションの存在が、風景の中で際立っている。
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思えば今まで浜通りの被災地で見た「家」といえば戸建ての住宅だ。取り壊された家の跡地に、新築の賃貸アパートが連なる風景を見ることはあっても、震災以前に建てられた、いわゆるマンションを見るのは初めてだ。5階建ての鉄筋コンクリートの構造物に、地震は大きなダメージは与えなかったように見える。南に福島第二原発を構える富岡町規模の自治体ならば、地域産業を支えるべく外部の労働力が必要だったはずだ。であるならば、かりそめにこの地の賃貸住宅で暮らした人にとっては、「復興」や「帰還」はまた別の概念であるはずだ。
検索をしてみると、このマンションは今から40年前、昭和59年(1984 年)に竣工されたとのことである。福島第二原発の1号機から4号機の営業開始が、1982年から1987年にかけてだから話は符合する。このマンションに楢葉タクシーの事務所があること以外、詳細については不明だが、2024年現在入居者募集の複数の不動産広告がでている。
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フロントに荷物を預け、6時半に早々とチェックアウトする。寄りたいところがあるからだ。去年国道6号線に沿って歩いた時に気づいたことだが、この近辺の歩道のない道路脇に、桜の木が植樹された小さなスペースがあったはずだ。
交通量の多い車道の端を歩くのは自分くらいしかいないだろう。駐車スペースがない路肩に立ち寄る者がいるはずもない。記憶を辿りながら夜ノ森方向に国道を200メートルほど遡ると、15本程の若い桜の木が植えられている。日当たりが良くないからか、蕾がひとつふたつほころび始めたばかりだ。
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「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」*という名前がついていて、それぞれの木に(震災の年から) 30年後の自分に宛てたメッセージが吊るされていた。地元の小.中学生によるもののようだ。
(註*「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」実行委員会が主催し浜通りにある複数の日本青年会議所が共催、各自治体が後援という形になっている)
「30年後の僕、今何してる? 今の富岡町は、あまり活気がなくて静かだけど30年後の富岡町は賑わっているといいな。」
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昨日タクシーで通った道を、今日は駅に向かって歩いてゆく。東京電力廃炉資料館の脇を左折し国道6号線を降りると、右手にはショッピングモール、左手には立ち並ぶ復興住宅が見える。代替バスと同じルートを今は道路上を歩いている。散歩をする夫婦がいる。
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富岡駅上りホームの待合室に座っていると、私服姿の高校生(と思われる)が入ってきた。バイトでも行くのか。彼女にしても、幼少期からの長い時間を避難先で過ごしていたはずだ。7時31分富岡駅発。続く
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