広野駅から木戸駅へ
2021-2-18
[見出し画像:福島県双葉郡楢葉町前原・山田浜地区より|2021年2月18日撮影]
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[福島県双葉郡楢葉町前原・山田浜地区|2013年9月1日撮影]
はじめに
今年3月に東日本大震災・福島第一原子力発電所事故から10年目を迎える。前回の訪問は2019年12月。実は常磐線全線の運転再開を聞き、去年(2020年)3月に再訪の計画を立てていたのだけれど、コロナ禍の混乱で見送らざるを得なかった。初めてこの地を訪れた2013年の晩夏から、今回で6回目の訪問となる。
旅の目的は、前回同様、木戸駅のある福島県双葉郡楢葉町前原・山田浜地区周辺を尋ねることと、開通した常磐線に乗り帰還困難地域にある双葉駅と夜ノ森駅を降りて周辺地区の様子を自分の目で確かめること。3日間の滞在の手記をこれから順にnoteに公開していこうと思う。
ところで「全線運転再開」とは言うものの、東京都内を起点として、いわき〜仙台駅間で直通運転があるのは「特急ひたち」のうち1日3往復のみである。普通列車で言えば、いわき〜原ノ町駅間と原ノ町〜仙台駅間はそれぞれ折り返し運転のため乗り換えが必要だ。いわき〜原ノ町駅間のうち「広野駅止まり」の列車を除けば、その先にある木戸駅に停車する電車の本数はさらに少なく、往復11便のみというローカル線だ。
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2021年2月18日木曜日 (1日目)
11:00 上野駅発特急ひたち9号。13:15 いわき駅着。先日13日に発生した地震の影響で、東北新幹線が一部運転を見合わせ、その代替として、いわき駅から先、仙台駅までを臨時快速列車として運行している(もっとも次の停車駅は原ノ町駅になる)。いわき駅で25分の待ち合わせ、13:40 広野駅止まりの下り各駅停車に乗る。いわきから広野までは25分。14:05 着。次の便まで約1時間半の待ち時間があるので、ひとつ先のJヴィレッジ駅まで歩こうと考える。2019年4月20日にオープンした新しい駅。営業距離にして3.5km。徒歩だと3.8km/48分のコースをGoogleに推奨される。
広野駅より
広野駅を降りるのは今回が初めてだ。広野町は震災・原発事故の翌年2012年4月にいち早く避難指示が解除されたこともあり、駅西口からの町並みは落ち着いた表情を見せる。20分ほど歩くと正面に大きな地蔵像が見える。下北迫地蔵尊。天明8年(1788年)に起きた大飢饉の死者を弔うため建立されたといわれる。子どもが生まれると新しい着物と頭巾を着せ替える風習があるらしい。少し先を行くと単身者用のアパートや宿泊施設の立ち並ぶ地区となる。東京電力広野火力発電所はすぐそこだ。
小高い丘の上に風車小屋が見える。もちろん本物の風車ではない。地図上では「二ツ沼総合公園」と示される。広大な敷地を持つ公園だが人影は無い。空は晴れているが、はらはらと雪が舞う。風車には外階段がついていて、やや朽ちかけたそれを登ってみる。展望スペースは閉鎖中だったが、上からは火力発電所の煙突とその先の海が見渡せる。穏やかな風景だ。
福島県道391号広野小高線。広野町の国道6号交点から太平洋岸に沿って浜通りを北上する。津波被害があったはずだが今は綺麗に整備されている。緩やかな坂を登ると「楢葉町」、続いて「J ヴィレッジ駅」の看板が目に入る。常磐線の線路は県道の下を潜るように北西方向に進む。
J ヴィレッジは、駅の西側から国道6号線までの広大なエリアを占めるサッカー・トレーニング施設だ。震災時には原発事故の対応拠点として使われたが、2019年4月に全面再開。新駅も合わせてオープンした。周知のようにJ ヴィレッジは東京オリンピックの聖火リレーの出発地点になっている。このコロナ禍で「復興オリンピック・パラリンピック」の位置づけは薄れてきている。
このままホテルのある木戸駅まで歩くことにする。緩やかな坂をゆっくりと下ると、ほどなく海が見える風景が広がる。山田浜。いつもの海だ。巨大堤防と福島の海。
時計はすでに午後4時を回る。巨大堤防の上をゆっくりと歩く。突き出した高台の先に見えるのが天神岬スポーツ公園。明日はここから始めることにする。振り返れば火力発電所の煙突が3本。 (つづく)