ドリーム・シナリオ/クリストファー・ボルグリ監督
クリストファー・ボルグリ監督の「ドリーム・シナリオ」を見る。初めは「ミッドサマー」のアリ・アスター監督の映画だと誤解していたが(いや明らかに誘導している…)、どうやらA24スタジオ/アリ・アスターが「製作」ということらしい。まあ自分は「ミッドサマー」は好きではなかったので、それはそれで構わないのだけれど。
さて「ドリーム・シナリオ」は、ごくごく普通、というかむしろ凡庸と言っていいだろうある大学教授が、不特定多数の人たちの「夢」の中に登場することについての顛末を描いた映画である。ポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)には結婚して15年のパートナーと二人の娘がいる。
初めに異変に気づいたのは、ポールの次女ソフィーの語る「夢」の話である。突然起きた不可解な出来事に巻き込まれたソフィーは父ポールに助けを求めるが、そこにいる「ポール」はただ無関心にその場にいるだけで、彼女のことを助けようともしないのだという。しかもソフィーはここ数日その「夢」を繰り返し見続けているという。
その晩、劇場で偶然に再開した元カノ(と字幕が出ていた…)が、同じようにポールの出演する彼女の「夢」について語り、しかもまたしても夢の中の「ポール」はただの傍観者で、交通事故で重症をおった彼女の体験に全く「関与」してこないという。そして彼女がその体験を「心理学的に」ブログ(SNS?)に綴ると、その日を境にポールの人生に爆発的な「バズり」が起こる。大学の講義室は普段は滅多に授業に出ない学生たちで溢れ返り、彼らの「夢」をポール本人を前に嬉々として語り始める…いや嬉々としていたのは彼の方だと思う。その場で「共有」された「夢」はさらに「拡散」され、彼とは面識の無い赤の他人にまでその「連鎖」が広がってゆく。
一連の「バズり」を受け有名人となった大学教授ポールは、「Thoughts?」という名の広告代理店のCEO(かな?)トレント(マイケル・セラ)と会うことになった。ポールにはこの「バズり」に乗じ、自分の研究分野の「本」を出版しキャリアアップしたいと考えている。トレントの方はそもそも自分のビジネスのことしか考えていない。双方の思惑は噛み合わず「話」は決裂しかける。
その晩ポールはモリー(ディラン・ゲルーラ)というトレントの部下からは飲みに誘われる。これはハニートラップなのか単なる彼女の興味からなのかは不明だが、その時初めてポールは他者の夢の中の「ポール」に関与する。いや結果的には関与しそこなったわけだが、それを機に「夢」の中の「ポール」は害のない存在から他者に攻撃的な人物へと一転し、「夢」の連鎖は今度は悪い方へと「バズり」はじめ、ポールの運命がそのネットの大波に飲み込まれていくことになる…。
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もちろんこの映画は現代の「寓話」であるわけだが、我々の感情はいかに移ろいやすく、その場/ネット上の「空気」に翻弄されやすく、それは人のコントロールの限界を超えているというような件の物語であろうか。実際ポールはそれを「望んだ」部分もあり、だからこそその結末は惨めでもあるわけだ。
加えて言えば、いつの時代も「物語」の構成に柔軟なのは広告産業の方であり、ポールが世論から賞賛されようが、あるいは見放されようが、トレントとしては、ポールをビジネス/資本主義の「駒」として使い倒すだけのことであり、そこには人間性も本質論も介在する余地すらもなく、「傾斜」からお金を生み出す「媒体としての存在」があるというだけである…という「皮肉」ではあり得るのだ。
監督:クリストファー・ボルグリ
出演:ニコラス・ケイジ | ジュリアンヌ・ニコルソン | マイケル・セラ