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精神0/想田和弘監督

想田和弘監督の最新作『精神0』の公開初日。といっても全国の劇場は全て休館なので「仮設の映画館」での公開。「仮設の映画館」はコロナ禍で劇場公開(5月2日付)中止に追い込まれた想田監督らが中心となり立ち上げた映画鑑賞のシステムで、各地の上映館から「鑑賞館」を選んで料金(一般1800円)を支払いオンラインで鑑賞すると、その料金が各劇場、配給会社、製作者とに分配される仕組みになっています。自分は本日初日を迎える渋谷のイメージフォーラムを「鑑賞館」とし、うちのiPadで見ることにしました。
http://www.seishin0.com/#introduction

想田監督の作品は『牡蠣工場(2015年)』、『港町(2018年)』と、いずれもイメージフォーラムで見ているのですが、ちょっと変わったというか、ほぼワンオペでカメラと録音機材を担いで撮影するドキュメンタリー映画監督ですね。今回の『精神0』は『港町』の公開と同時に2018年に岡山で撮影された作品で、さらに10年前に撮られた『精神(2008年)』の続編なのですが、今回はあえて前作を見ることなく鑑賞することにしました。

82歳で突然引退することを決めた老精神科医山本昌知さん、それから診察室で当惑する患者さんたちの映像から映画はスタートします。患者さんとも10年15年もの付き合い。山本医師は彼らの話にゆっくりと耳を傾け、ゆっくりと言葉を返す。おそらく10年間同じように患者に相対してきたことが伝わってきます。医師も患者も歳をとる。

あるタイミングから想田監督の目は妻・芳子さんに向けられます。高校の同級生だという二人。前作の映画の72歳と、今回の82歳の芳子さんとは全く違います。山本医師が引退を決意したのは、人生の最後に芳子さんを「支える」人生を送る決意なのかもしれません。

想田監督のことを「ちょっと変わった」と書きましたが、とにかく1カットが長く、対象にどんどんとのめり込んでいくタイプで、普通なら2カットで撮るような、「引き」から「手元へのアップ」へのズームとか、一見内容と関係なさそうな「猫」の長回しとか、地元の中学生たちのカットとか、全ての生活空間をフラットに扱い編集していく中で、年老いた妻を労る多くの仕草が、なぜか医者と患者との、長い時間と空間をも含み込んでいきます。最近は「老い」を扱う映画は多いのですが、今まで見たことがない優しい映画だと思いました。

督:想田和弘  出演:山本昌知 | 山本芳子
2020年5月2日鑑賞

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