見出し画像

異端の鳥/ヴァーツラフ・マルホウル監督

チェコの監督ヴァーツラフ・マルホウルの『異端の鳥』を見ました。
http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/intro-story/


原作はポーランドの作家イェジー・コシンスキの問題作「ペインティッド・バード」(1965年)。小説は未読だが、映画には、羽に白いペンキを塗られた小鳥(そのことにより他の鳥とほんの少しだけ外見が異なる)が、群れの仲間から攻撃され排除されるシーンがある。それが、つまりこの「異端の鳥」という映画の主題なのだ。


そこで何が起きているのか、初めは全くわからない。必死に逃げる少年は取り押さえられ、殴られ、抱え持つ小動物(イタチのような)は少年から引き剥がされ、生きたまま火を放たれ焼け焦げていく...。


少年はユダヤ人で、どうやら一人で叔母のもとに預けられている。井戸と長いつるべ。横長のシネスコ画面いっぱいに不穏な空気が漂う。翌朝、椅子の上で動かないままの叔母の死に驚き、手に持ったランプを落としてしまうのだが、それはあっという間に、さながら『サクリファイス』のラストシーンのように、風景の中に「家」が燃え上がる。


しかしこれが映画のほんの冒頭であり、その後の少年は尽く、ここで書くことが憚られるような、理不尽で残虐な、ありとあらゆる汚辱を、大人達から受けることになる。異質なものへの排除と執拗な攻撃。彼に手を差し伸べる「大人」もまた異質なものとしてコミュニティーから排除される。それは人間の、あるいは動物の「欲望」の一種なのだろうか。


3時間に及ぶとてつもない映画体験だ。しかもスチルを見てもらえばわかるように映像は極限的に美しく撮られている。長い映画ではあるが、画面上の一つひとつの要素は、少年の足取りの上に綿密に計算され、次の別のシーンに繋がっているのがわかる。ギリギリのところで少年が彼自身を救うことができたのはまた、理性を持った「大人」の存在でもある。

監督:ヴァーツラフ・マルホウル  出演:ペトル・コトラール
2020年12月11日鑑賞

ありがとうございます。サポート頂いたお金は今後の活動に役立てようと思います。