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人間の境界/アグニエシュカ・ホランド監督

アグニエシュカ・ホランド監督の「人間の境界」を見る。名匠と言われるホランド監督は1948年ポーランド生まれ。自分は彼女の監督作とは知らずに「秘密の花園」(1993年)を見ているが、ホランド監督はアンジェイ・ワイダ監督作品の脚本を手がけてもいるという。ユダヤ系の父親を持ち、母親はワルシャワ蜂起の最前線で戦ったという記述がある…なるほど。

周知のようにベラルーシはロシアと近い関係にある。ベラルーシ政府が、陸続きのポーランドに向けて中東やアフリカの難民(彼らは西ヨーロッパ各地を目指している)を移送するのは、EU(あるいはNATO側と言うべきか)に「混乱」を起こす狙いだと言われている。もちろんロシア側の主張としては「難民」問題の直接の原因はアメリカ側にあるということだ。彼らとて海路での密入国よりは、「正規」(と言われる)ルートで亡命する方がリスクが低いと思うのは当然だ。

ベラルーシ行きの機内では、シリアから逃れてきた家族連れと隣り合わせたアフガニスタンの女性とが描かれる。悲壮感は無く、それぞれが観光旅行のような雰囲気でそこにいる。空港で迎えの車に乗り込み、国境に近づくと事態の変化に気づく。ベラルーシ軍の兵士に制止され、支払い済みのはずの「手当」を運転手から要求される。銃を構えた兵士に追い立てられるように鉄条網の下を潜りポーランド国内へ。話が違う…と申し立てる間もなくサバイバル生活が始まる。雨を凌ぎ、森を抜け、地元の農夫に水と食べ物を請へば通報され、国境警備隊に身柄を拘束されてしまう。

ポーランドはEU加盟国であり、難民保護の規定通りに「難民申請」を受け入れなければならないことになっている。しかし、彼らは一時保護下のキャンプでボランティアの活動家に衣服や食料、簡単な医療を提供されるものの、ポーランド政府は大量の難民申請を受け入れることなく元のベラルーシに送り戻しているという絶望的な事実を告げられる。

映画はその後、事態に翻弄され生死を彷徨う難民たちと、気の弱い(自分の任務に懐疑的になっている)若い兵士、難民支援の活動家たち、国境付近に移り住み活動家に協力する精神科医の女性とを巡って物語が進んでいく。映画の英語タイトルは「Green Border」といい、政府の許可なく非合法に越境することを意味する言葉だそうだ。二国間により恣意的に作られた「緑の境界」で、ある者はそこで凍死し、ある者は沼地にはまり命を落とす。だが、ホランド監督はそこで「希望」は失わずに、映画的エンターテイメント機能を存分に駆使させて、我々に訴えかける。それはドキュメンタリー映画とは違った意味で、我々の世界の真実を問うている。

監督:アグニェシュカ・ホランド  出演:ジャラル・アルタウィル | マヤ・オスタシェフスカ | ベヒ・ジャナティ・アタイ


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hideonakane
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