#31 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第18話「メリアン・ベイカーの能力」
アメリカのシカゴの大都市の地下の暗い洞窟の中の階段を降り続けている一人の老人と二人の少年がいた。その中の青髪の少年・藍川竜賀は階段の長さにかなり引いていた。
竜賀「どんだけ長えんだよこの階段…!!」
すると老人のマーカス・ジャッジが口を開いた。
マーカス「このシカゴには地上を走ってる電車以外にも地下鉄もあるから、地下に繋がるアジトなんてもんを本当に造っているとしたら何十メートルとかでは足りんのじゃ……最低でも百メートル以上はなけりゃ建造物に影響が出ちまうんじゃ」
竜賀「そんな深い所に穴を掘るのは良いけど、どっから地上の酸素送って来てんだよ」
そして褐色の肌をした黒髪の少年・猿渡源太が走りながらうんざりした口調で話しだした。
源太「何か二人共難しそうな話してるけど、どうやってこのクソ長え階段ブルガント団の連中昇り降りしてたのか気になるわ!」
竜賀「それもめっちゃ気になってたわ!気がおかしそうになる!」
マーカス「それはここを良く見てみれば分かるさ」
マーカスは階段を速足で降りながら階段と壁の境目を指差した。二人はその境目をじっと見てみると繋がっていなくて溝の様なものがあった。
竜賀「完全に繋がってはいないですね」
源太「これが何なんだよ!」
マーカス「おそらくこれは階段だけ自動で上昇したり、下降する仕組とかになってんじゃねぇのか?」
源太「マジで!?これ機械なの??」
竜賀「エスカレーターみたいなもんなのか…?」
マーカス「多分そうだよ…だったらエレベーターみたいなもんを造ると思うが、ここにはエスカレーターの方が良かったんだろ」
源太「こんなに斜めってるのにか?」
竜賀「斜めってるから良いんじゃない?さっき地図確認したんだけど、さっきの診療所からシカゴ支部の建物まで中々の距離あったぞ」
マーカス「しかしその分階段自体の角度もかなりあるからこりゃ相当深い所にアジトがあるぞ…」
そう言い合いながらもどんどん階段を降り続けていった。階段の傍に延々と並んでいる灯りだけを頼りに薄暗い狭い通路を進んでいった。
そしてしばらくすると通路の先に出口の様な物がうっすらと見えてきた。三人が立ち止まって目を凝らしてみると松明の炎がユラユラ揺れているのが見えた。
マーカス「……こっからは、静かにゆっくり行こう…」
竜賀・源太「「…はい…」」
マーカスの指示に従って二人共声を押し殺しながら小さく返事をした。階段を足音を立てないように忍び足で出口まで近付いて行った。
そして出口の向こう側を見てみると、そこには松明の灯りに照らされた洞窟が広がっており、無数の牢獄があった。
源太「ここって……牢獄?」
竜賀「…そうらしいな……でも何の為の牢獄なんだ??」
マーカス「……そんな馬鹿な……」
二人が牢獄を見ている中、マーカスは檻の中にいる囚人に目を向けていた。檻の中でぐったりしている人達を見てみると衰弱している人が手錠をかけられて目を瞑っていた。
マーカス「ここにいるのは……シカゴの都市に住んでいた適能者達だ…」
竜賀・源太「「ええ!!?」」
マーカス「シーーー!!」
思わず大声でリアクションしてしまった二人にマーカスは静かにするよう口の前に人差し指を立てた。
マーカス「……静かに……あそこにいる男…左手に霊媒印がある…あの男はシカゴの街の飲食店でシェフをやっている男だ…伽霊能力を使って料理を作ることで有名でな…人気のレストランなんだよ…」
竜賀「よく知ってますね?」
マーカス「内のホテルの好敵手みてぇなとこだからな…エリックも俺もアイツの料理は良く研究しに通いつめたよ……それだけじゃない…」
源太「え?」
マーカス「あそこの檻にいるのは衣服のデザイナーや作製をやっている女だ」
源太「あそこにいる女の人ばっかりいる檻ですか??」
マーカス「ああ…あそこにいるのも人気のブランド店で働いている従業員なんだ」
源太「それじゃあ、ここってシカゴの都市で働いてた労働者の適能者の監獄ってことですか?」
竜賀「って言うか…適能者って普通に人々の為に働いたりもする人もそんなにいるんですね?」
マーカス「何言ってんだ!?当たり前だろ!寧ろそうやって生計立てて生きてる奴の方が多いんだよ!」
源太「俺もそんなに一般的な適能者に会ったことがなかったから分かんないけど…そういう人の方が多いってのは聞いたことがあるよ」
竜賀「俺は戦う適能者としか会ったことないから、そんな人達がいたんだってことにびっくりです……そもそも適能者って能力が覚醒したらマクシム連合とかって適能者の組織に絶対属さないといけない義務とかがあると思ってた」
マーカス「……登録はしなければならないが、組織の一員に絶対属さなければいけない義務みたいなものは無い…でも組織に属している方が何かと得が多いのは確かだ…契約社員になれば給料も良いし福利厚生も充実していて年金もあるらしいからな」
竜賀「そりゃかなり入るメリット大きいですね」
源太「でもここにいるのって」
マーカス「ああ…組織に入らず、自らの伽霊能力を仕事や自営業に生かして生活している無適能者と何ら変わらない人達なんだ」
竜賀「そんな人達をこんな牢獄に閉じ込めてどうするつもりなんでしょうかね?」
源太「そんな今分かんないことよりここに人達すぐに助けた方が良くない?」
竜賀「それもそうだな…考えんのは後でも良いか…!?いや少し待て…!!」
源太「ん?どした??」
竜賀「誰かが向こうから近付いてきてるぞ」
洞窟の奥からカツカツと誰かが歩いて来る足音が三人の耳に届いて来た_____
______隠し通路の入口のある診療所の受付スペースにて
ガンッ!!!
メリアン「はぁ…はぁ…ッ!!!」
壁に突き刺さる水銀の槍をメリアン・ベイカーは何度も躱してきたが、敵の攻撃がこちらに通用しても、こっちの攻撃が相手に通用しないという割に合わない状況が続いていた。そんな相手に10分も時間稼ぎをしているのだから精神的な消耗が激しかった。
そしてそんな彼女を嘲笑うかの様にせせら笑っている白衣の男がシャーマン・サラザールであった。
シャーマン「お嬢さん?もう止そう…どの道君に勝ち目などありはしないのだから…ここまでこのシャーマン・サラザールから時間稼ぎをした……それだけで大変名誉なことだと思わないのかな?」
メリアン「はぁ…はぁ…はぁ……何勘違いしてんの?」
シャーマン「?」
メリアン「悪党相手に戦ったことが名誉ですって?アンタ自分のことどんだけ過大評価してんの?戦ったことが名誉になる相手っていうのは…その相手に対して、敬意や、憧れ、尊敬の念があって初めて成り立つのよ」
シャーマン「……」
メリアン「アンタ達はこのシカゴの都市を一体これまでどうしてきた?自分の為ではない誰かの為に何かした??そんな事無いわよね?」
シャーマン「……」
メリアン「アンタ達はそれらしい理由並べ立てて…結局は自分の為、自分の都合の良いことの為にしか動いてないじゃない…!!」
シャーマン「………」
メリアン「私はね…自分に“怒り”しか感じてないのよ…!!こんなクズ相手に時間稼ぎ程度しか出来てない自分にね!!」
シャーマン「…言わせておけば…随分な口を利くじゃねぇか小娘如きが……だったら何もできない無力さを呪って、あの世に逝け!!!」
シャーマンが手を振りかざすと周囲にある物や水銀の刃が宙を浮きながら、メリアンに向かって飛んで来た。メリアンはその攻撃の弾幕を天使の刃で一気に叩き落とした。そしてその直後メリアンは天使の刃をメジャーの様に、自分の手の中に巻き取ると殴る構えを取った。
メリアン「“天使の刃・突光”!!」
メリアンの突き出した拳から光の剣が飛び出し、シャーマンの心臓を目掛けて目にも止まらぬ速さで伸びていった。
ドス!!
メリアンの攻撃はシャーマンの心臓を貫通した。
シャーマン「………かはっ!!」
シャーマンは口から大量の血を吹き出し、眼の瞳孔は完全に開いていた。そして、急所を突かれたシャーマンは腕をだらんと地面にうつ伏せに倒れた。シャーマンの身体が動かなくなってしまった。
メリアン「……はぁ…はぁ…はぁ……やった…!!」
額に汗を浮かべ、肩で息をしながらメリアンは地面に膝を着いた。しかし、
シャーマン「………俺の心臓を突き刺せば勝てるとでも思ったか?」
背中の中心の穴から血が白衣に滲み出てきて、動かなくなったはずのシャーマンの身体が動き出し言葉は発したのだ。
メリアン「!!……そんな馬鹿な!!…急所を突いたのよ!?」
シャーマン「クックックックック……そんな時の為に“保険”ってのはかけとくもんなのさ…万が一俺が急所を突かれたとしても甦られるように切り札を伏せていたのさ…」
シャーマンは左手から伽鍵礼符を取り出し、メリアンに見せつける様にかざした。
メリアン「それが…“保険”ってこと?」
シャーマン「ああ……どんな死の状況からでも1度甦ることができる…その代わり限定条件として『1ヶ月に1度しか使用できない』…そして『死んでから3時間の間にしか甦る機会がない』って言うのがあるんだよ」
シャーマンは自分の伽霊能力を自慢しながら、立ち上がった。口に付いた血を袖で拭いながらシャーマンはまた別の伽鍵礼符を取り出した。
シャーマン「ここまで楽しませてくれたお礼に、今の俺のベストカードを目に焼き付けて…地獄に堕としてやる」
シャーマンはそう言い残すと礼符が強く光り輝き出し、両手からパチパチと静電気の様な音がし始めた。そしてシャーマンは近くにあった受付の台に向かって手を振り下ろした。
バチィィン!!!
手が台に触れるか触れないかというところで、電気が弾ける様に大きな音を放って台が粉々になった。散り散りになった破片は真っ黒焦げになって薄い煙を立てていた。
シャーマン「君の持っている伽霊能力と同じ電気系の能力さ…但し、出力が君の能力とは圧倒的に違うがね!!」
シャーマンの手から次々と水銀の刃が出て来ると電気を帯びて青白く輝き出した。宙を舞う青白い刃は周囲を照らしながら、空気をパチパチと弾かせていた。シャーマンの右手には水銀の短剣も握られていた。
シャーマン「もうこれで終わりにしよう…ここまでよく戦ったよ君は…低適能の分際でここまで中適能である俺にここまで足掻いたんだからね……だがそれもここまでだ…!!」
そしてシャーマンの周囲を浮かんでいた刃が一気にメリアンに向かって飛んできた。
メリアン「はぁ…はぁ……っああ!!!」
バチッバチッバチッバチィィィッ!!!
メリアンは残った力を振り絞り出す様に光り輝く天使の刃を振り抜いて、電気を帯びた刃を全て叩き落とした。
その時メリアンの天使の刃の光が失われ、霊具であった鞭がバラバラになってしまった。
武器を失った敵を見て機会と思ったシャーマンは短剣をメリアン目掛けて突き刺そうと突撃してきた。
シャーマン「これで終わりだ小娘!!死ねぇぇ!!」
メリアンとの距離が1メートルまで近付いたシャーマンは勝利を確信して、雄叫びを上げた。
ドス!!!
短剣の刃が貫いた感覚がシャーマンの手に伝わってきた。しかしシャーマンの目の前に広がっていたのは、血塗れになったメリアンの姿ではなく羽毛の壁であった。
シャーマン「…馬鹿な…!!」
メリアン「油断したわね…!!」
ビュン!!ドスドスドスッ!!!
シャーマンの目が羽毛の壁に向いている瞬間に、彼を囲む様に無数の光の玉が宙をプカプカ漂う様に浮かびながらシャーマンに細いレーザービームを同時に放った。
シャーマン「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!痛ええええぇぇぇぇぇ!!!」
無数のレーザービームに貫かれた手足から血が噴き出し、辺りに一気に飛び散った。そしてシャーマンが蹲っている時に羽毛の壁が開く様に動き出し、シャーマンの身体を突き飛ばした。
ドカッ!!
壁に叩き付けられたシャーマンは痛みに悶絶している間に、羽毛の塊がまるで鳥が翼を広げる様に開いて中からメリアンが姿を現した。
メリアンが立ち上がると背中から大きな翼を生やした天使の様な佇まいであった。メリアンはゆっくり落ち着いた表情でシャーマンに近付いて、まるで天から見下ろす様にシャーマンの姿を見つめていた。
メリアン「これで勝負は着いたわね」
シャーマン「はぁ…!!はぁ…!!はぁ…!!…テメェ…!!こんな奥の手を隠し持ってやがったのか…!?」
メリアン「シャーマン・サラザール…霊段階6の適能者…一応中適能であるアンタが死ぬ前に正式な自己紹介しておこうかしら…」
メリアンは左手をシャーマンに向け、掌を広げシャーマンに霊媒印を見せつけた。
メリアン「マクシム連合インディアナ支部軍事部第1番隊第5席…メリアン・ベイカー…霊段階は6…アンタと一緒よ」
メリアンの霊媒印に浮かんでいた“6”の文字を見てシャーマンは目を丸くした。
シャーマン「霊段階6だと…!??」
メリアン「アンタが何故負けたか教えて上げるわ…私の戦い方を見て 勝手に私を“格下”と決め付けたことよ」
メリアンの手からまた光の玉が現れた。
メリアン「ごめんなさいね……アンタを生捕りにするには多少手荒にならざるを得ないのよ」
シャーマンは急いで自分の周囲にバリアを張った。しかしメリアンはそれも一切気に止めることなく光の玉からレーザービームが飛び出し、バリアを一撃で貫きシャーマンの眉間に直撃した。
シャーマンは眉間に当たったレーザーで、まるで電線に直接触ったかの様にしばらく痙攣を起こして動かなくなった。
メリアン「…ま……死ななかっただけ良かったってことにしておくわ」
シカゴのとある診療所での戦い
メリアン・ベイカー vs シャーマン・サラザール
勝者メリアン・ベイカー
シカゴの薄暗い地下牢獄の入口の陰に身を潜めていた竜賀・源太・マーカスの三人は誰かがこちらに近付いて来ているのじっと待っていた。
竜賀「誰なんだ?」
小さな声で囁く様に竜賀は呟いた。
そして奥から現れたのは褐色の肌をした見たことのある服を男だった。
竜賀「あの服装は…!!」
竜賀は見に覚えのある服を着ていた男を見て記憶の糸を手繰り寄せた。そして…
竜賀「どらぁ!!」
ドカン!!ガッシャン!!
その男が檻の中に視線を向けた瞬間を狙って、竜賀はその男の頭に向かって高速のドロップキックをかました。
???「グアア!!?」
男は竜賀に足蹴にされると、男は頭から身体が吹っ飛び反対側にあった牢獄の檻に身体を叩き付けられた。
竜賀は檻にもたれかかっていたその男の胸ぐらを両手でガシッと掴み引き上げた。
竜賀「よし!!オラ立て!!ジェイコブ・トンプソン!!また会ったな!!」
竜賀は男の胸ぐらを掴んでブンブン前後に振り回した。
竜賀「ここは一体何なんだ!!ここに都市の住人が何で閉じ込められてんだ!!説明しろ!!」
竜賀は怒鳴る様に男に問い詰めた。しかし、
源太「りゅ、竜!!ちょっと待って!!違う!!そいつの顔よく見てみろ!!」
竜賀「あん!?……全然知らん顔じゃん…それに刺青も無いし」
マーカス「お前らコイツの知り合いか?」
源太「いえ!!こんな人は知りません!会ったこともない人です!」
竜賀「確かに見たこと無い顔だけど……でもこの格好は、確かにあの時の…」
???「テ…テメェ…ま…また…やりやがった…な…」
竜賀・源太「「え??」」
ジェイコブ「オ…オレだよ…ジェイコブ・トンプソンだよ…」
源太「……はあああああああああ!!!??」
竜賀「…アンタ整形したのか?」
ジェイコブ「そうだ」
竜賀・源太「「!!」」
ジェイコブ「オレのこの顔はエリック・ブラックをここに幽閉した後に顔をサラザールの能力で整形したんだよ」
マーカス「それじゃあ本当にエリックの奴はここにいるんだな!?」
ジェイコブ「アンタ…マーカス・ジャッジか…!?…アンタの親友ならシカゴ支部の直下の入口付近にいる」
マーカス「そこにアイツはいるんだな!!?」
???「そこに辿り着ければいいな?」
突然また聞いたことのある声が耳に入った。そこには鎖鎌を持っていたグレイブ・トンプソンが立っていた。
グレイブ「その前にテメェら三人全員殺してやるよ」
源太「……だったらもう一回」
竜賀「ぶっ倒してやるよ!!」
To Be Continued