#12 LOOP BLAKE 第1章 異世界 第11話「夢世界を震わす天空の雄叫び」
竜賀は空腹でクタクタの身体を引き摺る様に歩いていくと、竜賀はオシャレなダイニングキッチンのテーブルの上に置いてある御馳走を息を飲んで眺めた。
光男「竜賀……腹減っただろ?思いっきり御馳走にありつこうぜ!」
光男は竜賀の背中をポンっと叩くと竜賀をテーブルに案内して座らせた。
竜賀「これ……ホントに食べて良いの?」
光男「ああ食べて良いらしいぜ、ね?トニーさん?」
トニー「ああ!もちろんだとも!遠慮はせず好きなだけ食べてくれ!」
シャーリー「どうぞ、病気をまずやっつけるには食べ物をしっかり食べて栄養をつけるところからですよ」
光男「だってさ」
竜賀「それじゃ……いただきますっ!!」
竜賀はテーブルの上に置いてある食事の一口目を口に放り込むといきなり手が止まった。
竜賀「!!?」
光男「!?どうした!?」
竜賀「…!…!…!」
竜賀が身体をプルプルと震わせている様子を見て、ベイカー夫妻が心配そうな顔をして竜賀を見ていた。
トニー「おい、光男もしかして身体のどこか具合でも悪いんじゃないか!?」
竜賀「……美味いっ!!!」
それだけ大声で叫ぶと、竜賀は目の前に置いている料理を片っ端から口に入れていった。
竜賀「…!うめぇ!!…!!…!!どれもこれも!全部うめぇ!!……!!」
光男「コラ!竜賀!!とりあえず俺らはお邪魔している立場なんだから!!もうちょっとお行儀良く食べないか!!みっともない!!」
シャーリー「良いのよ、こんなに美味しそうに食べて下さるお客様随分久しぶりですからね、良かったらもっと料理作ってますけど出しましょうか?」
光男「あっ!いいえ!お構いなーーー」
竜賀「是非お願いします!!」
光男「オイ!!」
シャーリー「それじゃ用意するわね」
光男「……お前は遠慮とか、そんな言葉は辞書に乗ってないのか?」
竜賀「そんな文字は辞書から今だけは削除しておくわ」
トニー「はっはっはっはっはっはっ!!Mr.光男!!その子は間違いなく君の息子だな?」
光男「すみません……ってそれどういう意味ですか?」
トニー「だってさっきその子が寝ていた時の君の食べっぷりときたら、その子に負けず劣らず凄まじかったぞ?」
光男「!?」
竜賀「人の事言えないじゃねぇか!」
トニー「君達は間違いなく親子だな!!食べ方が全く一緒だったよ!!」
そんな感じで食事は進んでいき、4人は楽しい雰囲気になったーーー
竜賀「ーーーごちそうさまでした!!」
食事が終わり片付けをし始めた時、竜賀はテーブルの食器をキッチンにまとめて持って行った。
シャーリー「あら?そんな…食器を片付ける必要ないのに…」
竜賀「いえ、せっかく御馳走になったのでこのぐらいは…」
シャーリー「まぁ…気がきく子ですね?」
トニー「良い育ちをしているね?親の教育の賜物かな?」
光男「え?ええ……ありがとうございます……でも私と言うよりは母親の教育が大きいですよ…私は息子には剣道ぐらいしか教えてあげれてないですから…」
シャーリー「是非一度会ってみたいですわね」
光男「……」
シャーリー「……?どうかなされたのですか?」
トニー「…シャーリー…この親子はどうやら…この世界の人間ではないらしいんだ……そうだろう?光男?」
シャーリー「どういうことですか?」
光男「旦那さんの仰る通りです…実は我々親子は日本人ではありますがこの世界ではない、異世界から引き摺り込まれた日本人なんです」
光男はこれまでの経緯を順を追って、整理するようにゆっくり話し始めた。
これまで起きた出来事、竜賀を黒い渦に引き摺り込んだ不気味な目玉の付いた“黒い手”、気がついたらガートシティの墓地にいたこと、モートレートシティまでの出来事。
ベイカー夫妻はそれらの話を驚いて聞いていたが決して信じていないと言う反応ではなかった。ひと通り話し終わった後、トニー・ベイカーは腑に落ちないところを聞いてきた。
トニー「君達の話は解った。しかし私が気になるのは……何故、君達がこの世界に引き摺り込まれたのか?っていうことだね。なぜ君達なんだ?心当たりはないのか?」
光男「それが……分からないんです……」
竜賀「僕には一応伽霊能力があります…でも、ガートシティであったポーランドさんからはあんまり大した理由にはならないだろうって…」
トニー「……そりゃハドノア連合の連中はそう言うだろう…彼等は科学の力を使って、適能者を全滅させるのが目的なんだから、それこそ伽霊能力なんて嫌って程見てきている者達だ」
光男「あなた方お2人とも適能者を見たことはあるんですか?」
シャーリー「当たり前ですよ、だって私達の息子、娘、2人共適能者ですからね。そんなに驚くことでもないんですよ」
トニー「残念ながら私達夫婦は2人共何にも無い無適能者ではあるけどね?」
竜賀「え?ベイカーさんのお子さん適能者なんですか?」
シャーリー「ええ」
トニー「伽霊能力が覚醒してからすぐマクシム連合に所属したがね」
光男・竜賀「「マクシム連合?」」
トニー「…!おお!そうかそうか!すまない!君達はマクシム連合を知らないんだったな!気を悪くしないでくれ…マクシム連合と言うのはアメリカ最大の伽霊能力連合組織なんだ」
光男「ってことは……そこには沢山の適能者が所属しているってことですか!?」
トニー「勿論だ、そこに所属しているのは全員適能者であり、アメリカ中の優秀な適能者達が様々な活動を行っているんだ」
シャーリー「アメリカでは年齢に関係無く能力が覚醒したら、ほぼ強制的に何処かの伽霊能力連合に所属しなければならないの。それが国の義務なのよ」
トニー「そこに反する無所属の適能者は、アメリカの警察に逮捕されて刑務所に入れられるか、どっかしらの伽霊能力犯罪集団に入って犯罪を犯しながらその日暮らしをすることになるな」
竜賀と光男は顔を見合わせながら、ここに来るまでの森の中で会ったミーモスト一味の4人を思い出した。彼等の詳しい事情は分からないが、彼等は自ら望んでミーモスト一味に入った訳ではない。このアメリカ社会で受け入れて貰えず、止むを得ず犯罪を行うことでしか生きていけない立場に追いやられたのか。光男はそこまで想像した。
光男「竜賀も今からそのマクシム連合って言う所に適能者であることを自己申請すれば、このアメリカ社会で受け入れて貰えますか?」
シャーリー「それは正直難しいと思うわ」
トニー「それはどうして?」
シャーリー「さっき竜賀の持ち物をこっそりチェックしていたの……そしたら血だらけのパーカーが出てきたわ」
光男・竜賀「「!!?」」
トニー「それは……どう言うことかな?」
光男「…見たのであれば、隠し通せませんね…」
竜賀「実は……僕が…ここに来る途中ミーモスト一味に襲撃された時……その組織の幹部だったワイルズ・ダーヴィッチを……殺してしまったんです」
竜賀は決死の思いで自らの口から起きた事実を話した。ベイカー夫妻はその言葉を聞いて驚いてはいたが、竜賀の様子を見て責めたてようとは決してしなかった。
トニー「……うーん…まぁ…その時2人がどういった状況だったのかは、俺には分からないが…とりあえず今は運良くここに生きて来れて良かった」
シャーリー「……そうね……とりあえずこの場所ならひとまず安心よ」
光男「はい!ありがとうございます!」
竜賀「本当に…良いんですか?」
トニー「ああ、この辺りのモーテルは俺が経営しているから、どこでも好きなところを使ってくれて構わないよ。今日は疲れただろう?しっかり身体の疲れを落としていきなさい」
シャーリー「そうよ。料理も良かったら作って上げるわよ?」
光男「えっ!!?そこまでしていただかなくても……」
トニー「何遠慮してるんだ?こっちの世界に慣れるまで時間は掛かるだろう?」
竜賀「でも……お2人に迷惑かけて…」
シャーリー「私達は全然気にしてませんよ?せっかくお客様ですもの!」
光男と竜賀は顔を見合わせ、バツの悪そうな顔をしながら答えた。
光男「それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます」
その後はシャーリーから温かいコーヒーをいただきながら談笑したーーーー
ーーーー夕方勧められたモーテルの一室でシャワーを浴びて、スッキリした竜賀はベッドに座り込んで考え込んでいる父親に声をかけた。
竜賀「父さん。シャワー出たよ。入って来れば?」
光男「ん?…ああ、そうだな」
竜賀「何か考え事?」
光男「ん〜〜……まぁ…な……あのベイカー家のご夫妻がさ……何であんなに沢山料理準備できてたんだろうなって思って」
竜賀「……俺は倒れて眠ってたから全然分からないんだけど、俺が隠れてた場所からこのモーテルまでってそこまで遠くないの?」
光男「車で大体片道20分くらいだ」
竜賀「そんなに遠くないね」
光男「往復してここまでお前を連れてきても40分〜50分くらいだった…なのにそんな時間で明らかに4人分以上あった料理を準備できる訳がない…ましてや見ず知らずの俺達の為に」
竜賀「それって……」
光男「ああ……今日のお昼あの2人は自分達とは別で、2人〜3人ぐらいの誰かと一緒に食事する予定だったんだ…」
竜賀「それじゃあ…俺ら2人でその人達分の料理平らげちゃったってこと?」
竜賀の申し訳なさそうな反応を見て、光男はフッと笑ってみせた。
光男「それについては多分大丈夫だと思う。あの2人は恐らく一緒に食事をする予定だった人達側からドタキャンされたんだと思う……だから食べ切れない余った料理をどうすればいいか分からなかった時に俺が丁度良いタイミングで来たんだと思う」
竜賀「そう…なのかな……」
光男「明日改めて聞いてみるさ……それにせっかくあんな御馳走をいただいたんだから…恩返しに何か仕事でも見つけて来るさ」
竜賀「父さん……」
光男「それよりも竜賀!お前は英語だけじゃなく色んなことを勉強しとけよ?」
竜賀「えっ何で?」
光男「いくら異世界だからって、お前は一応学生の年頃なんだから、この世界に必要な一般的な常識ぐらいは頭にインプットしておけよ。知識は大切な財産になるからな」
竜賀「分かった……けど…」
光男「?けど?」
竜賀「これから…一体俺達どうなるんだろう?」
光男「………何が起きるか分からないからこそ……逃げずに立ち向かうんだろうが?」
光男は立ち上がると竜賀を頭を軽くポンポンと叩いて、シャワー室に向かっていった。ーーーー
ーーーーモーテルのベッドで横になっていた竜賀は深い眠りの中で不思議な夢を見た。まるで深海の様にドス黒い曇空が広がる世界。雲からは青白い稲妻が見え、耳を劈く様な雷鳴が辺り一帯を照らした。高く聳える山々が氷に覆われていた。地面には雪が積もり、近くには湖が広がっていた。
竜賀「……ここは……一体……?」
竜賀は周りを見渡し、唯一雪の積もっていない道を歩いて行った。
すると突然、天空から嵐の様に響き渡る轟音が空気を、地面を、世界を揺らした。
???「ギャアアアアアアアオオオオオオオオオン!!!!!!」
竜賀「うわあああああああああ!!!???」
世界が壊れるかと思うほどの轟音に驚き、天を見上げると、そこには雷雲の稲光に照らされる巨大な影が雲の中を蠢いていた。
竜賀「な!…何なんだ!!」
雲の中で蠢いている“何か”が突然動きを止めて、こちらを見つめていた。
竜賀「!!?」
竜賀は自分がその“何か”に認識されたと気付くと、来た道を全速力で走って戻ろうとした。しかし、天空の雲が物凄いスピードで竜賀に近付いてきた。
竜賀「はぁ!!はぁ!!はぁ!!はぁ!!」
竜賀の真後に竜巻の様に渦巻きながら近付いて来た巨大な雲は、竜賀の身体を覆ったかと思った瞬間、彼の身体を一瞬で宙に吹き飛ばし吸い込んだ。
竜賀「うあああ!!!??」
巨大な渦に引き摺り込まれる様に身体が天空に引っ張り上がり、雲の中に入るとそこには天変地異と思えるほどの世界が広がっていた。
大雨が強風に乗って顔を横殴りし、乱気流が重力を感じさせないくらい身体を浮かし、雷鳴が耳の鼓膜を引き裂くかと思えるほど響き渡る大嵐が竜賀を混乱させた。
すると突然、嵐は止み竜賀は閉じていた目を開くと、目の前には青い鱗をした巨大な竜が翼を大きく広げ、竜賀を見つめていた。
竜賀「……!!お前が俺を呼んでいたのか?」
その竜が竜賀と目を合わせると、大きな牙を見せ、グルル…と大きな唸り声を上げた。
???「藍川…竜賀……」
竜賀は突然脳に響き渡る様な声が聞こえ、声の主を必死を探す様に返事をした。
竜賀「え?……何だ!?この声!?誰かいるの!?」
???「オレだよ……」
竜賀「だからどこ!!?今すぐ助けて!!」
???「助けは来ない……」
竜賀「何で!!?」
???「助ける必要など無い……何故ならオレは今…竜賀、お前の目の前にいるだからな」
竜賀「え………?」
竜賀は再びゆっくり目の前にいる竜を見ると、竜は竜賀に何かを訴えかける様に竜賀を見つめていたことに気が付いた。
竜賀「…………お前が……俺を…呼んでいたのか……!?」
青い竜「ああ…」
竜賀「お前は……一体……誰……なんだ?」
竜賀は最初、一体何なんだ?と聞きそうになったが、初対面で何と言う質問は流石に失礼過ぎると思い、誰と聞き変えた。
青い竜「オレの名は、 だ……」
竜賀「え?……聞こえなかった!もう一度お願い!!」
青い竜「……もう一度言うぞ…オレの名は、 だ!」
青い竜はもう一度語気を強く竜賀に自分の名前を言ったのだろう。しかし、その肝心の名前は竜賀に届くことはなかった。
竜賀「……聞こえない……」
青い竜「……そうか……お前にオレの名前はまだ届かないと言うのか…」
竜賀「…あのさーーー」
青い竜「だから“お前の世界”はこうも不安定で壊れ易いのか……」
そして唐突に世界がはっきりと壊れたーーー
風でフワフワ浮いていたはずの身体がいきなり重力を感じたかと思えば、竜賀はまっ逆さまに自分が落ちていることに気付いた。
竜賀「うっ……わああああああああああああああああああああ!!!!?」
青い竜「この世界を決して恐れるな……王よ」
周りを囲っていた嵐が消え、世界が瓦礫の様に崩れ落ちていく様子が竜賀を死よりも大きな恐怖に突き落としていったーーーー
ーーーーはっとして悪夢から目を覚ました時には、風呂から上がったばかりの様に汗をかいていた。何度も呼吸を整えようとしたが上手くいかず過呼吸の様な状態になっていた。
竜賀「今のは一体……」
ただの夢だったのか……?いや違う。確かに夢と言い切った方が良いくらい、現実とは剥離した世界で、ファンタジーの様な怪物が自分に話かけて来ていた。
でも、あの世界で感じた痛み、温度、感覚は確かに実感としてちゃんと竜賀の身体に残っていた。現実と夢の区別が全くつかなくなった。
竜賀「どこまでが夢なんだか……」
竜賀は何気なく自分の右掌を見ると霊媒印が青く輝いていることに気が付いた。
竜賀「……………まさか!?」
竜賀はもしかしてと思い念じてみたら、掌から青い光を放つ伽鍵礼符が1枚出て来た。
竜賀「これは……?」
その伽鍵礼符には“3”という数字が書かれていた。そして、その横にある文字を竜賀は読んでみた。
竜賀「霊段階3『天狩鉤爪』……」
竜賀本人の理解が追い付かない霊段階3への覚醒、そして多くの適能者達が辿り着けない伽霊能力の頂へ到達する前触れであることは、竜賀自身も全く分かっていなかった。
To Be Continued