#29 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第16話「聖剣・藍風の持ち主」
巨大な砂の竜巻を纏った鎚矛の一撃。普通の人間なら簡単に吹き飛ばされてしまいそうなその竜巻をあたかも剣を振るう様に振り回してくる。そして、それに立ち向かうのが刀を持った普通の人間であるこの光景は無謀と言う言葉が何より似合っていた。
ウイリー「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
光男「ッ!!」
藍川光男は、砂嵐の剣の一撃をギリギリまで引きつけ、抜刀術の構えから刀を抜き高速の斬撃を繰り出した。
まるで巨大なトラックに真正面から自転車で正面衝突しに行こうとする。そんな誰が見ても分かりきった力の差のある勝負、
のはずだった。
ザンッ!!!
刀の切先が砂嵐に触れたかと思った瞬間、刀を振った延長線上がまるで突風が吹いたかの様に砂が消え去った。
光男「!!?」
ウイリー「!!!?」
あんな刀身が青いだけの刀のどこにこんな力が隠されていたのか。二人は理解が追い付くよりも先に相手と目が合った瞬間に脊髄反射で動き出していた。
ドンッ!!!
ウイリーの鎚矛が再び襲い掛かってきたのを刀で咄嗟に逸らして、光男は急いで建物の物陰に隠れて心を落ち着けようと努めていた。
ドクン!!ドクン!!ドクン!!ドクン!!
光男(落ち着け!落ち着け!落ち着け!落ち着け!落ち着け!!藍川光男!!まずはとにかく冷静になれ!!冷静に成る為に呼吸を整えろ!!)
光男「スーーーーー……フゥーーーーー……」
光男は目を瞑り深く深く呼吸をすることで心臓の音を何とかして抑えようとした。
光男「スーーーーー……フゥーーーーー……」
光男(今…俺は居合斬りの構えから返技の一撃を無心で繰り出しただけだ……特に何か念じた訳でも無く…普段より剣速が上だっただけだ……ってことはトリックは俺の剣術じゃなくて…)
光男は右手に握られていた『藍風』を再び見つめてみた。
光男(この刀にあるってことだ……沢城大吾郎…アンタの造ったこの聖剣は俺の想像を遥かに上回った、とんでもねぇ代物らしいな…!!)
光男「ケリガン・コーエン……とりあえずは感謝しておくぜ…!これで俺も適能者と対等に戦り合う能力は手にすることが出来た…」
光男は物陰から急いで出て周りの様子を警戒しながら、歩き出した。
しかし、光男はウイリーがてっきり出て来た瞬間攻撃して来ると思って構えを取っていたが、ウイリーの姿が全く見当たらなかった。辺りには砂化された建物の瓦礫の残骸だけだった。
光男(どこに隠れた?もしかして…もうアイツらを追い掛けてるのか?…それとも……)
光男が辺りをキョロキョロしていると、ウイリーが砂の中で息を顰めていた。
ウイリー(な、何だったんだ今のは!?…風力操作系の能力か!?俺の砂嵐鎚矛をあんな剣一本で吹き飛ばすなんざ、伽霊能力でも使ってなけりゃ説明がつかねぇ!!)
ウイリーは目の前に起きた出来事に対して必死に理解しようとしたが、額から流れる汗に自分が焦燥を感じていることに気が付いた。
ウイリー(……汗?…俺が何故汗をかく…?今こんな奴に手間取っていることに焦っているのか?…いや…それとも俺が…藍川自体を恐れているのか?)
ウイリーは地中から光男を見ながら、自分の感情を何とか理解しようとした。
しかし、そのすぐ後光男は立っていたその場所からいきなり全速力で走り出して行った。
ウイリー「!!?」
光男「まずい!!アイツもしかして息子達の元に行こうとしてるんじゃ!!?」
走りながら大声でシカゴ支部に向かって|行く光男を見てウイリーは慌てふためいた。
ウイリー「あの小僧…!!俺があっちに向かってると勘違いしてやがる…!!…ッ!?イヤ!!これは寧ろ最高の機会だ!!」
砂の中をまるで魚の様な速さで泳いでウイリーは光男の後を追跡していった。鎚矛の先端を光男の背中に向け狙いを定めた。
ウイリー(ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ……この俺様を散々てこずらせやがって…最後は背後からこの一刺突して殺してやる!!)
必死に走っている光男の背中を鎚矛で突き刺せる距離まで近付いたウイリーは、地中から鎚矛を突き出した。
ガァン!!
ウイリー「捉えた!!」
地面から突如ドリルの様に飛び出して来た鎚矛、完全に光男の死角からの攻撃。絶対避けられない、そう思っていた。
光男「やっぱりそこにいたか」
まるで背中に目があったかのように、身体をクルッと時計周りに回しながら鎚矛を軽々と躱した。
ウイリー「何!!?」
地面から上半身が出て来た状態で鎚矛を持った右手を前に突き出している隙だらけのウイリーの右側に回り込み、身体の遠心力で光男は返技の体勢に入っていた。
光男「そこだッ!!」
ザンッ!!!
光男の放った斬撃は、またもや真空の刃が飛んで行ったかの様に近くの建物の壁に大きな切り傷をつけた。かろうじてその攻撃を避けたウイリーは鎚矛を手放し地面をゴロゴロと転がっていった。
ウイリー「……何だってんだよ…!!あの刀は…!!」
光男「正直…」
ウイリー「?」
光男「使ってる俺が一番ビックリしてんだよ……この剣はある人から日本に持って行く様に頼まれた逸品でな…こんなところで使うつもりなんか本当は無かったんだよ」
ウイリー「何…?」
光男「だけど仕方ねぇから、いざ使ってみたらまぁ驚き…鎌風を引き起こす剣とは知らなかったぜ」
ウイリー「カマカゼ?何なんだ一体それは?」
光男「空気中に真空の隙間が発生した時に起きる物体を切断してしまう自然現象だ……それを意図的に引き起こすことができる、それがこの聖剣・藍風の能力らしい…」
ウイリー「らしいって…お前はそんな能力がその剣に宿っていることも知らなかったってのか?」
光男「戦う為の武器として剣が欲しいとだけ言っただけなんだが…とんでもないモン引き受けちまったもんだ俺も…」
ウイリー「…ヒッヒッヒッヒッヒ……つまり何か?…お前は得体の知れない武器を使ってるってのか?…何時人の生命を奪うかもしれない正体も解っていない武器を!さっき俺に向かって言った言葉を忘れたとは言わせねぇぞ?」
光男「何のことだっけかな?」
ウイリー「自分達が使っている能力がどういった物なのか正しく認識もしないで使っているってな!」
光男「……他人の揚げ足取りが上手いのはどうやらお互い様らしいな」
ウイリー「結局貴様も俺と同じってことさ!!俺達人間は力を手にすればそれを振るわずにはいられねぇんだよ!!」
光男「………」
ウイリー「何が認識だ!!何が自然への謙虚さの欠如だ!!偉そうに説教すんじゃねぇよ無適能者が!!」
光男「…言いたいことはそれで全部か?」
ウイリー「何?」
光男「俺とアンタの違いについてそんなに知りたいかい?ド三流野郎が…」
ウイリー「!!……何つった…!!?」
光男「だったらここから教えてやるよ……明確な力の差ってのをな」
ウイリー「……面白れぇ…!!だったら…」
ウイリーは地面に落ちていた鎚矛を拾い上げ、肩の高さまで持ち上げ戦闘状態に再び入った。
ウイリー「やってみろ!!!」
ウイリーは地が割れる程の怪力で地面を蹴り、たった一歩で光男までの間合いを詰めた。
光男は自身の顔目掛けて横殴りして来ようとした鎚矛を刀で受ける構えを取った。
ウイリー「無駄だ!!!」
ウイリー(そんな剣と貴様の細腕じゃあ俺の鎚矛は防ぎきれねぇ!!)
光男「ッ!!」
スルッ!!
光男は鎚矛が切先に触れるやいなや、刀を斜めに傾け攻撃を受け流した。そして、バランスを崩したウイリーの懐にまた飛び込み身体を独楽の様に回転させた。
光男「…っせえぇぇぇぇい!!!」
ザンッ!!
遠心力に乗った渾身の一撃をウイリーの腹目掛けて放った。しかし…
光男(…!!そんな…)
光男の刃を砂の塊が受け止めていた。
ウイリー「この俺様が同じ攻撃を何度も喰らう間抜けだとでも思ったか?」
光男「いんや…こっからでしょうが!!」
砂の盾から刀を引き抜き、左手でウイリーに喉輪を仕掛けた。
ウイリー「グア!!?」
光男「オオオオオオオオオオオオ!!!」
完全に虚を突かれたウイリーはバランスが取れず地面に仰向けに倒れてしまった。そこに馬乗りになって完全にマウントを取った光男はウイリーの顔に向けて刃を突き立てた。
光男「さらばだ。ウイリー・べドナー」
しかし、次の瞬間ウイリーはまるで水に沈むかの様に、地面の砂の中に沈んで行った。
光男の刀は虚しく地面に音を立てて突き刺さっただけで何の手応えも無かった。
光男「……クソ!」
ウイリー「何がさらばだって?」
ドンッ!!!
光男は地面全体からウイリーの声が響き渡ったと思った瞬間に、右側から突然海面から翔び出るトビウオの様に地面から飛び出して光男に鎚矛を向け飛び掛かって来た。
光男「!!?」
ガキィィン!!!
鎚矛を刀で受け止めるので精一杯だった光男は体を吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。かろうじて受身を取れていた光男は再び体勢を立て直した。
光男「いきなり地面から攻撃してくるとはな…」
ウイリー「ヒッヒッヒッヒッヒ…これが俺の攻撃だ…!!予測不能の連続攻撃をじっくり味あわせてやる…」
そして、ウイリーは地面の砂に再び沈み込み、光男の背後の地面から翔び出し襲い掛かった。
ウイリー「オラァ!!!」
光男「ぐっ!!」
巨大な鎚矛を振り回し、光男に躱された直後にまた地面に潜り込んで次にまた別の位置から攻撃を仕掛けに来る。これを何度も行った。
ウイリー(コイツは典型的なカウンターを狙う型だ。こっちが下手に攻撃をした後、次の攻撃に移ろうとするモタついている瞬間を攻撃してくる。だから攻撃をした後にすぐ地面に潜って体勢を整えてから攻撃をまた仕掛けていけばコッチが圧倒的に有利なんだよ…!!)
地底からの連続奇襲を仕掛けるのを光男はかろうじて躱し続けたのだった____
____シカゴの道路の裏道を通っていた藍川竜賀と、メリアン・ベイカーと、猿渡源太はマクシム連合のシカゴ支部の地下に繋がる隠し通路に向かって走っていた。
メリアン「竜賀?」
竜賀「何?」
メリアン「本当に大丈夫だったの?」
竜賀「何が?」
メリアン「何がって…貴方のお父さんよ!相手はシカゴ支部の適能者達のトップなのよ!そんな相手に貴方のお父さんは本当に勝てるの?」
竜賀「……勝てるかどうかはさっぱり分かんない」
源太「ええ!!?」
メリアン「どうしてそんな状態で戦ったりするの!?」
竜賀「父さんがよく言ってたのが…勝負の行方ってのは最後まで戦ってみないとやっぱり分かんないってことですよ」
源太「ああ、そういうことね」
メリアン「どういう意味?」
竜賀「勝負にせよ戦いにせよ“絶対”なんて無いって言うのが父さんの剣道の師匠だった母方のお爺ちゃんの言葉だったんです」
メリアン「剣道の…師匠?」
竜賀「あー…つまり…剣術を教えていた先生ってことです」
メリアン「その人に教わったことだから大丈夫ってこと?」
源太「勝負に“絶対”は無いか……いつもおやっさんが俺達と稽古をする時にはいつも口にしてる言葉だよな?しつこいしつこい」
メリアン「だから勝てるってこと?」
竜賀「……可能性は確かに低いかもしれない…けどあの時父さんは僅かにあった勝てる数%を信じていたのかもしれません」
源太「確かに…普通に考えて無適能者が霊段階10の適能者に勝てるなんて思わねぇよな」
メリアン「だからそれが問題なんでしょ!?」
源太「でも…」
メリアン「でも?何?」
竜賀「多分源太が考えてることが僕と一緒なんだろ?」
源太「うん……稽古してた時から思ってたけど…」
源太はニカッと満面の笑顔をメリアンに向けて断言し切った。
源太「どんな奴が相手でも、あのおやっさんが負ける姿なんて全然想像できねぇな!」
____辺り一面砂漠化してしまった戦場のド真ん中で、光男は刀を両手で握った状態で肩で息をしていた。
光男「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
その疲弊した姿をした光男を地中からじっと見つめていたウイリーは、獲物を狙う獣の様な目をぎらつかせていた。
ウイリー「ヒッヒッヒッヒ…もう虫の息か……後は串刺しにして…奴の体をバラバラにして奴らの元に汚ねぇ肉片にして持って行ってやらぁ…!!」
ゆっくり背後に回り込み、鎚矛の矛先を光男の心臓に向けた。狙いを完璧に定め、光男の動きが鈍っているタイミングを狙った。
そして、光男が両手で握っていた刀を下に降ろして肩で息をし始めた瞬間、ウイリーが動き出した。
ウイリー「!!今だ!!死ねぇぇぇ!!」
地面から猛スピードで飛び出し、鎚矛で光男の背中目掛けて突き出した。
ヒョイ!!
光男に鎚矛の先端が当たると思った瞬間、光男の上半身が消えた。ウイリーが視線を下に向けると、光男は姿勢を低くして刀を構えてウイリーに狙いを定めていた。
ウイリー「〜〜〜クソッタレ…!!」
光男「……ここだぁ!!!」
ドスッ!!
光男の刀は正確にウイリーの右手首に直撃した。鋭い藍風の刃は何の抵抗も無くウイリーの手首を貫き、ウイリー自身も自分の手首に剣の刃が貫通していることを認識できていなかった。
ザンッ!!
光男は藍風を横薙ぎで引き抜くと、ウイリーの鎚矛を握ったままの右手が地面にボトッと大きな音を立てて無惨に落ちていった。
ウイリー「…ウアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」
光男「!!?」
右手首から先が綺麗に無くなった切口から今度はドバッと血が溢れ始めたのを光男は目を丸くして見ていた。
ウイリー「ウアアアアアアアアア!!!手が!!俺の手が!!」
光男「ウルセェ!!!」
ゴン!!
ウイリー「ぐ!!?」
すると光男が急いでウイリーの元に駆け寄り、その胸ぐらを掴んでいきなり強烈な頭突きをかました。
光男「腕が一本斬り落とされたくらいでピーピーピーピー喚くな!!お前も散々同じくらい酷え事してきてんだろうが!!ああ!?」
ウイリー「ううう…!!」
おでこを真っ赤にして涙目になっていたウイリーが光男に胸ぐらを掴まれグングン揺すられて、徐々にではあるがパニック状態から脱出できそうになっているところ、光男は畳み掛ける様にウイリーに尋問していった。
光男「マクシム連合のシカゴ支部はこれからどうなるんだ!?何故お前らはこの都市を攻撃しようとしている!?ブルガント団の目的って一体何なんだ!?」
ウイリー「フーッ!…フーッ!…フーッ!…そんなことをお前が何で聞く?」
光男「質問に質問で返すなボケナス!!こっちが聞いてんだよ!!」
ウイリー「……これは聖戦さ……俺達はこの戦いに命懸けてんだよ…!!」
光男「聖戦だと…!?」
ウイリー「そうさ…だから俺様はここで命を捨てることに…何の未練も無えんだよ…!!」
そしてウイリーは左手からまた別の伽鍵礼符を取り出した。しかし光男それを咄嗟に刀の切先で貫いた。
光男「させるかよ!!これ以上何も!!」
ウイリー「!!?」
ウイリーは左手に握っていた自分の礼符が剣に貫かれているのを見て、ワナワナと震え出した。
ウイリー「あ……あ……」
光男「…?……一体どうした!?」
ウイリー「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
光男「!!??」
ウイリー「貴様アアアアアアア!!!!よくも!!!よくも俺様の礼符を!!よくもオオオオオオオオオ!!!」
光男「…な…何だってんだ……」
パチッ…
するとウイリーの伽鍵礼符から黒い小さな稲妻の様な物が放たれ始めた。
パチッ…パチッ…パチッ…パチパチ…パチパチパチパチッ…
光男「何だ?…何が起こってるんだ!?」
ウイリー「そんな…そんな…!!」
ウイリーの表情が絶望と恐怖の色に染まっていくのとは対象的に、光男は何がなんだかサッパリ分からないという顔をしていた。しかし、徐々に礼符から放たれる黒い稲光が大きくなっていった。
バチバチバチバチバチチチチッ!!!!
空気をまるで引き裂く様な轟音が辺りに響き渡り、黒い稲光はウイリーの背後数メートル離れた位置に球体状に収束していった。
バチバチバチバチバチ!!!!
徐々に大きくなっていく黒い雷の塊は、それを胴体の中心にして頭、そして手足が生えてくるかの様に形をみるみる内に変えていった。
光男「一体…これは……」
ウイリー「あ…あああ……嫌だ…そんな…」
そして手足と頭が生えた“謎の何か”は細かい部分の形までクッキリと分かる様になってくると、全長30メートル近くの巨大な生き物となっていった。
その全貌はまるで…
光男「…巨大モグラ???」
???「グルルルルル…!!!」
ウイリー「はぁ…はぁ…はぁ…」
ウイリーは完全に真っ青になって呼吸も満足にできていなかった。唸り声を上げるソイツはまるで縄張りを荒された獣の様に牙を剥き出しにしてウイリーを睨み付けていた。
光男「おい!アンタ!こいつは一体何なんだ!?何でアンタの伽鍵礼符から出て来たんだ!?」
ウイリー「あああああああああああああああ!!!」
光男の言葉が引き金になったのか、ウイリーは光男を切断された右腕で突き飛ばし一目散に脇目もふらずに逃げようとした。が、それは叶わなかった。
ガブッ!!!
モグラの姿をした巨大な怪物は走り出そうとしたウイリーの身体を頭から大きな口で噛み付き、地面から引き上げた。、
グチャグチョムシャクチャクシャ…
人間の骨や肉を喰らう生々しい音が不気味に響き渡り、光男の背中に悪寒が走った。
光男(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!)
怪物は口から喰らった獲物の血を滴らせながら、肉を咀嚼して天を仰いでいた。そして全てを飲み込んだ後…
怪物「…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
天空に轟く程の大きい声で吠えた。近くにいた光男は空気がビリビリと引き裂ける様な轟音から必死に鼓膜を守る為に手で耳を塞いだ。
光男「何だコイツ…メチャクチャうるせぇ!!」
辺りの建物や地面の砂も共鳴するかの様に震えた。そして吠え声が治まると怪物は視線を下に向け、光男を睨んでいた。
怪物「…グルルルルル…!!!」
光男「…………………………やっベェ」
怪物「ガアアアアッ!!!!」
光男の言葉を引き金に怪物はウイリーの鎚矛と同じ形の巨大な爪を持った手を渾身の怪力で地面に振り下ろしてきた。
ドガアアアアン!!!!
一瞬にして辺り一面が爆弾で吹き飛んだかの様に感じた。重力に自身の身体が縛られている、そんな常識がにわかには信じ難いほどの怪力で光男は吹き飛ばされた。
光男「がはっ!!」
怪物「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
地面に叩き付けられた痛みに悶えていた光男は涙目になりながらも顔を上げ怪物を睨みつけていた。
光男「……くそ……ここまでか……ここまでなのかよ…」
自身の力が及ばなそうな強大な敵を前に心が折れそうになりかけていた光男は悔しいさで唇を噛んだ。しかし、その時また別の声が光男の耳に届いた。
???「戦いたいか?」
光男「!!?」
光男は思わず声のする方へ目を向けた。しかしそこには人影はなく声の主を探しても誰もいなかった。
???「それとも生きたいか?」
光男「誰なんだ?…!!?」
しかしそれ邪魔する様に怪物が再び巨大な手を光男に向かって振り下ろした。光男は力を振り絞って全力で避けて、攻撃の衝撃を紙一重で躱した。
光男「くっそ!!一体誰なんだ!?」
???「それとも勝ちたいか?」
光男「!??…またこの声…どこから話して掛けてきてんだ」
光男は怪物の動きに注意しながらも声の主を探すと、地面に転がっていた聖剣・藍風が目に入った。
光男「…!……まさか…嘘だろ…!?」
怪物が光男に向かってまた攻撃して来るのを光男は一歩早く動き出し藍風を取りに行った。刀を掴んで地面で受身を取りながら怪物から距離を取った。
光男「まさか……お前なのか?藍風?」
すると今度ははっきりと声が刀から聞こえた。
藍風「戦いたいか?それとも生きていたいか?それとも勝ちたいか?」
光男「……そんなも決まってらぁ…勝ちたいに決まってんだろ!!」
怪物「グルルルルル…!!」
光男「俺はあのデカブツを倒して守らなきゃいけね人達つが沢山いるんだ!!だから…だから…」
光男は怪物に目を向け、刀を構えた。
光男「藍風の能力を俺に貸してくれよ!!相棒!!」
怪物は手の爪を束ねるといきなり手がドリルの様に高速回転し始めた。そしてドリルの様な手を光男に向けて突き放った。
怪物「グアアアアアアアアア!!!」
光男「行くぜ…藍川光男流剣術…」
光男は身を屈めて、居合斬りの構えを取った。怪物は唸り声を上げて光男に襲い掛かって、高速回転するドリルが後1メートルで光男に届く刹那、
ザンッ!!!
光男「“怒神鎚”…!!!」
光男の引き抜いた刃が目にも止まらぬ速さで鞘から飛び出し、怪物目掛けて振り抜いた。
すると怪物の動きがピタリと止まりしばらくすると、手のドリルの先端から肩を通って怪物の頭に一筋の赤い線が浮かび上がった。
そして怪物の身体から大量の血飛沫を上げて、真っ二つに斬れてしまった。
光男はその様子を見て唖然としていた。
光男「………………………勝てちゃったよ」
光男は自分の握っていた刀を見た。
光男「コーエンの野郎…とんでもねぇ逸品くれたもんだぜ」
光男は全く気付いていなかった。この聖剣・藍風の主として認められているという事実に。しかし光男や息子の竜賀がそのことに気付くのはさらに後の話である。
To Be Continued