#36 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第23話「黒い奇術師の能力」
アレックス・ブルガントは目の前で正体を表した男を見て呆然としていた。
アレックス「黒い奇術師か…」
ルーカス「へぇ?…俺のことを知っていてくれてるなんて光栄だね」
アレックス「マクシム連合に興味があれば、知らない方がおかしいだろ」
アレックスは立ち上がりながら、ルーカスから一瞬も目を離さず警戒し続けた。
アレックス「マクシム連合に所属する、多彩な霊具を使いこなす適能者がいると聞けば大体いくつかの候補の中にお前の名前が入っているもんだ」
ルーカス「そんなことも知ってるお前でも俺の出現は全く想定してなかったってか?」
アレックス「…お前らみたいな連中を出し抜く為に準備していた計画だったってのに、ここまで引っ掻き回されるとは思っていなかったぜ…」
ルーカス「神様は悪党を決して赦しはしねぇからな…今度はお前らが牢屋の中で悔い改め続ける余生を過ごすんだな」
アレックス「……何時からだ?」
ルーカス「は?」
アレックス「一体何時からシカゴの裏を知っていた?誰が情報を漏らした?」
ルーカス「そんなに知りいたいか?完璧だと思っていた自分達の作戦がどこで崩れてしまったのか?」
アレックス「俺は身内に裏切り者がいないかどうかをずっと警戒していた…俺に忠誠心がない奴は全員殺してきた」
ルーカス「なるほど?だからここまでアメリカ全土が出し抜かれていたって訳か…」
アレックス「それがこんな計画の最終段階の手前で何故お前がここにいる?」
ルーカス「……偶然だよ」
アレックス「何?」
ルーカス「偶然たまたまここに来たんだよ…別にインディアナ支部の方に情報が届いて俺の耳に入った訳じゃない…ここに来たのは別の任務を遂行中に寄っただけだ」
アレックス「………そんな馬鹿な…」
ルーカス「だが確かに違和感はあったよ…ここに来る途中インディアナ支部所長であるジョージ・マッカートニーから連絡があったんだよ…必ず任務を完遂しろと言われていたのにシカゴを通過しようとすると『もう任務を打ち切れ』と来たもんだ」
アレックス「…!!あの馬鹿が…!!」
ルーカス「あれだけ任務を早く終わらせろと言っていたのに急な方針転換…怪しまないわけないよな?」
アレックス「…大人しく命令に従っていればいいものを…ここまで来たってのか」
ルーカス「俺は今のお前の言葉で疑問が徐々に確信に変わってきたよ…ジョージ・マッカートニー所長は明らかに今回の事件に関わっているってな…」
アレックス「そうだと言ったら?」
ルーカス「お前等ブルガント団とジョージ・マッカートニーを逮捕して詳しく事情聴取させてもらおう…アメリカ最大の適能者組織の一支部のトップが犯罪集団と裏で繋がっているだなんて、世間に示しがつかないからな!」
アレックス「分かってねぇな」
ルーカス「何だと?」
アレックス「ウイリー・べドナーもジョージ・マッカートニーも…分かってて俺と裏で画策してたんだよ」
ルーカス「最初からお前等全員グルだったのか?そんなことしてまであの二人は一体何を狙っていたんだ!?」
アレックス「クククク…お前も大概世間知らずだな…これはお前等マクシム連合が望んでやっていることなんだよ」
ルーカス「そんな…まさか!」
アレックス「そのまさかだよ…マクシム連合には確かそれぞれの支部で研究機関の“研究成果ノルマ”があったはずだよな?」
ルーカス「ああ…そのノルマを達成する条件でそれぞれの支部に多額の支援や投資が行わてる」
アレックス「そして支部の所長を務める人間は成果を出せれば、組織の中で地位が上がり高額の契約金が手に入るが失敗すれば…」
ルーカス「多額の罰金を請求される…かなりハイリスク・ハイリターンな立場だ」
アレックス「マクシム連合の各支部の所長は立場的にもその責任が重い分、何が何でもノルマを達成する為に手段なんか選んでられねぇんだよなぁ」
ルーカス「それで研究の成果を上げるのと、アンタらが裏で手を組んでいることがどう関係があるんだ!?」
アレックス「マッカートニーの奴は裏で適能者の能力を暴走させる違法薬物の研究をしていた…べドナーはその研究を成功させる手助けとしてシカゴの都市の住人をインディアナポリスに送っていたんだよ」
ルーカス「もしやここに閉じ込められていた囚人達は…!!」
アレックス「ああそうだよ…実験材料の予定だったシカゴ市民だよ」
ルーカス「それじゃあお前は…!!」
アレックス「ここの住人共を誘拐して実験施設に送りつけるのが俺の仕事だ…そしてその代わりに、俺達ブルガント団が造った“偽造通貨”をシカゴの都市に流通させる」
ルーカス「それがお前等の目的だったのか…!!通貨の偽造は国家に対する重大な叛逆だぞ!!」
アレックス「これが成功すれば、マクシム連合の各支部の所長達は莫大な罰金を恐れずに済むって訳さ……良い話だろ?」
ルーカス「ふざけるな!!そんな経済混乱を起こせば、何の罪もない市民にも多大な被害を及ぼすことになる!!そんなことが許されて良いと思っているのか!!」
ルーカスはそう叫ぶと黒い洋杖を取り出し、剣を振るう様にアレックスに向かって突き出すと周囲にあった小石が弾丸の様に勢い良く飛んでいった。
アレックスはそれを意にも介していない様子で手を振り、電撃で小石を全て叩き落とした。
しかしそれでも追撃を止めないルーカスは洋杖を振り次々と攻撃を繰り出した。
石や、火、水、鉄をどんどんアレックス目掛けて打ち出した。しかしアレックスはそれを次々と電撃の壁にぶつけて相殺していった。
アレックス「無駄無駄無駄無駄無駄アア!!そんなちゃっちな攻撃じゃあ俺の電磁バリアは一切突破できやしねぇんだよ!!」
ルーカス「ああそうかい!!」
ルーカスは伽鍵礼符を取り出し、今度はまた別の霊具を召喚した。大きなドラム缶ぐらいのサイズの筒が出て来た。アレックスは筒から何が飛び出すかと警戒し、電磁バリアを目の前に張った。
アレックス「今度は何が出て来るのかと思えば、そんな見かけ倒しのコーヒーカップか?」
ルーカス「奇術師の使うカップは中に入った物を消すんだよ」
アレックス「だからなんだよ」
ルーカス「そしてカップの中に入った物を時間差で出現させる…それが例え数年前の伽霊能力での破壊光線であろうとな」
アレックス「!!?」
アレックスは急いで電磁バリアを解除して、攻撃の伽霊能力の体勢を取った。アレックスが両手を前に突き出し巨大な電撃の塊を作り出した。
アレックス「そんなもん撃たれる前にこっちが撃てしまえば関係ない!」
電撃の塊がバチバチと大きな音を立てながら膨れ上がると、レーザー光線の様にルーカスに向かって電撃が伸びて行った。
ルーカス「かかったなッ阿呆が!!」
ルーカスは筒をクルっと一回転させると、さっきまで1個だけだった筒が2個に増えていた。そして飛んで来た電撃を1個の筒の中に吸収した。そして同時にもう1個の筒の口から電撃を撃ち出した。
アレックス「!!?クソ!!!」
アレックスは自身に向かって放たれた光線を何とか躱そうとしたが、攻撃に全力を注いでいた反動で身体が思うように動かなかった。
ドンッ!!!
光線をモロに喰らったアレックスはそのまま背後の壁まで叩き付けられた。
ルーカス「これが俺のとっておきの返技伽霊能力の“魔法の筒”だ…さっき言った様に数年前に吸収したものを放てるし、吸収した物をほぼ同時に別の筒から出すこともできる奇術師の秘密道具さ」
ガラガラを壁の崩れる音を立てながら、土煙の中からアレックスは立ち上がった。頭から血を流しながら、殺意に満ちた目を向けるアレックスにルーカスは警戒を強めた。
アレックス「…ふざけた曲芸師だってのは分かった…これ以上遊びは無しだ」
ドンドン!!
アレックスはレーザー光線を今度は天井に向けて何発も撃ち込んだ。天井から瓦礫が一気に落ちて来たのをルーカスは黒いマントを取り出し払い除けた。重そうな石の雪崩を風を起こす様にはためかせ、ドンドンと躱していっていた。
アレックス「そんなんじゃ足元がお留守だぜ!!」
ドガン!!
今度はレーザーがルーカスの足元の地面を破壊した。ルーカスは体勢を崩した状態では、頭上に落ちて来る瓦礫をマントで払い除けられないと思った。
ルーカス「チィィィ!!!」
ルーカスはマントで自分の身を包み、一瞬で姿を消した。
アレックス「!フン同じ手が何度も通じると思ってんのか!そこから消えたんじゃなくて透明になってるだけだろうが!!」
アレックスは全身から電気を発生させ周囲に撒き散らした。辺りの壁や柱に電撃が直撃し、黒く焼け焦げていった。
アレックス「オラアアアアアアアアア!!!」
周囲が電撃により破壊されていく中、電撃がひとりでに避けている空間があった。アレックスはその違和感を見逃さなかった。
アレックス「そこだろ!!」
アレックスは地面に落ちていた瓦礫を蹴り飛ばすと、電撃を逸らしていた空間がいきなり歪んだ。そこから透明色のマントを脱いだルーカスが飛んで来た瓦礫をそのマントで払い除けた。
アレックス「やっぱりな!」
マントで攻撃を払って空中で身動きが取れなくなってるルーカスに向かって、アレックスは電気を纏った光弾を手から撃ち出した。ルーカスは全く動けないまま両手で攻撃から頭を守った。
バチバチバチィィィッ!!!
光弾が直撃し、ルーカスは身体が電気で麻痺した様に動かせなくなった。
ルーカス「……ク…ソ…」
アレックス「無駄な体力使わせやがって…」
アレックスは倒れたルーカスから視線を横に移すと、倒れている竜賀を足蹴にしているノルスタインの姿があった。竜賀の動かなくなった姿を見てアレックスは叫ぶ様に言った。
アレックス「ソルマン!!もういい!!」
ノルスタイン「!?」
アレックス「これ以上コイツらに時間を使っても無意味だ…それより計画の続きと修正を行う」
ノルスタイン「……了解」
ルーカス「待てや…」
アレックス「ん?」
ルーカス「まだ終わってねぇんだよ…」
アレックス「終わりだ…もうこの状況で貴様一人で何ができる?」
ルーカス「一人じゃねぇよ…三人だ」
アレックス「!!?」
ドンッ!!!
メリアン「そこまでよ!!!」
ルーカス「随分遅かったな…」
メリアン「ヒーローなら合格点のタイミングでしょ」
奥の部屋の扉の前でメリアン・ベイカーと藍川光男が立っていた。
光男「竜賀!!無事か!?」
竜賀「…そんな大声出さなくても生きてるよ…」
光男「ほっ…そうか…」
ノルスタイン「何安心してんだよ…これから殺すんだよ」
光男「…そういう言葉を親の目の前で口にするのは控えた方が良いぞ?息子を殺そうとするクズを地獄に堕とす父親ってのは手加減ができなくなるぞ?」
ノルスタイン「どいつもこいつも…舐めた口ばっかりききますねぇ…」
アレックス「……ソルマン…もういい」
ノルスタイン「何がです?」
アレックス「コイツらの相手をするのをだ…ここまで計画を狂わされたんだ…ここで2対4で戦いを続けてもまた時間を奪われるだけでこっち側に益が無い」
ノルスタイン「………」
アレックス「作戦がこれ以上進行が滞るなら、この戦いはコイツらの勝ちになる」
ノルスタイン「しかし!!」
アレックス「ソルマン…お前はいつから俺より偉くなったんだ?」
アレックスは身体からビリビリと空気が引き裂ける様な電気を放った。
ノルスタイン「…!!……了解…!!」
ルーカス「待てよ…!!」
アレックス「!」
ルーカス「ここまで滅茶苦茶にしておいて逃げんなよ…ケジメはきっちり付けて貰うぞ!!」
アレックス「終わりだよ…テメェら全員本当は皆殺しにしてやりてぇぐらいだが、計画が優先なんでな」
メリアン「アンタ達のこれからの計画はブルガント団全員でマクシム連合の牢屋の中で一生を過ごすことじゃなかったかしら?」
アレックス「これ以上貴様らの下らない挑発に付き合ってやってる暇なんざどこにも無いんだよ…もう散々計画を滅茶苦茶にされたんでな…」
それだけ言い残すとアレックスは通路の反対側にある扉に向かって、稲妻ぐらいのスピードで飛んで消えて行った。
ノルスタイン「もうここには用はないんでね…ここの瓦礫の下敷きにでもなっていて下さ〜〜い♫」
ノルスタインもそれだけ言い残すと壁に手を当てて、
ドン!!!
突如巨大な音は通路全体に響き渡り、壁や天井にビキビキとヒビが入り始めた。
ルーカス「マズい!!全員急いでここから脱出するんだ!!」
ノルスタイン「間〜〜に合えば良ーーいで〜〜すねーー♪」
ノルスタインは壁に吸い込まれる様に消えていった。ルーカスは他の三人を手招きし地下から脱出する道を確保した。
ガラガラガラガラガラガラ!!
天井から落ちてくる瓦礫や砂埃が四人に襲い掛かってきた_____
_____砂に地面が覆われた道を三人組の男達がノソノソと歩いていた。その中で肩に担がれながら運ばれている男が身動き一つ取っていなかった。その男を担いでいた少年は目に涙を浮かべていた。もう一人の老人は大粒の涙をポロポロと流していた。
マーカス「……畜生…畜生…!!」
源太「マーカスさん…後少しで着きます」
砂漠の様な光景が広がる道路の先にあるホテル「ローグ」に辿り着いた。玄関ホールに入り、ホールの中心の床に動かない老人をゆっくり横にした。
源太「エリックさん…無念だったよね…でも…せめて、二人の思い出の詰まったこの場所に連れて来ることしかできなかったけど…」
マーカス「…エリックの奴は…きっとそんなことを思ってねぇ筈だよ」
源太「!…でも!」
マーカス「エリックってのはそういう奴なんだよ」
源太「何で…何でだよ!!」
マーカス「小僧…」
源太「何でこんなに良い人が死ななきゃいけねぇんだよ!あんな連中がのうのうと生きてて!こんな何の罪もねぇ人が死ななきゃいけねぇんだよ!この人が何したってんだよ!!誰かを傷付ける様なことしたのかよ!!この人はただ!!自分と親友にとって大切な場所を守りたかっただけだろうが!!なのに!!」
マーカス「もういい!!」
源太が泣きじゃくりながら必死に堪えていた感情を吐き出していたのを見ていたマーカスは、その肩を抱き寄せた。
マーカス「もういいんだ!!…俺達の為に怒ってくれてるんだよな?…俺達の為にその悔し涙を流してくれてるんだよな…?ありがとう…」
源太「ぐっ……えぐっ……!!」
マーカス「エリックもきっとそんな涙を流してくれてるお前のことを感謝している筈だ」
源太「…!!……マーカスさんは…これから…」
マーカス「…この戦いが終わったら…ここに戻ってホテルの続きをするか…またゼロからスタートするさ…それをきっとエリックも望んでいるからな」
源太「マーカスさん…」
マーカス「それがきっと友の魂を弔ってやれる唯一の方法だと思うからな」
源太「魂…だけでも?」
マーカス「源太?お前はどうなんだ?このまま泣いてるだけで良いのか?」
源太「え…?」
マーカス「お前がここで泣いている姿を見せることを、俺の親友が望んでいるとは俺には到底思えない…コイツが願っているのは、もうこんな辛《つら》い気持ちになる人をこれ以上誰も出さないようにすることじゃないか?」
源太「……うん!」
マーカス「そうだろ?…ほら!行ってこい!…お前の戦いもまだまだ終わっちゃいないだろ!」
源太「マーカスさんも!絶対諦めないでね!」
マーカス「ああ!」
源太はマーカスの返事を聞くと玄関に向かって走り出した。エリックの遺体の傍で一人になったマーカスは少年が走り去ったのを見送った後、横になって冷たくなっていく親友を暫く見ていた。
マーカス「…自分の戦いもまだまだ全然終わっちゃいないってのに、逃げ出した俺が言えた義理じゃないけどな…親友」
横になっていた遺体の傍で腰を下ろし、骸をゆっくり抱き上げそれを持って奥の部屋に運んで行った。
To Be Continued