#21 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第8話「思い出の場所と宝物」
21:00の夜空に浮かぶ美しい月が光を落としている神秘的な自然の姿とは裏腹に、ネオンの光が都市を輝かせていた。
このシカゴシティのいくつかあるホテルの一つである『ホテル・ローグ』ではついさっきまで起こっていた爆発によって正面玄関のガラスが粉々に砕け散っていた。
そのガラス片を箒で黙々と掃き取っていた緑色の髪をした男と、その子供とおぼしき13歳かそこらくらいの少年が二人いた。
その3人の様子を見ながら嬉しそうな顔をしている銀髪の男、エリック・ブラウンが口を開いた。
エリック「いや〜〜!!俺君達のことをすっごい勘違いしていたよ!!さっきはトンプソン兄弟と戦ってくれて、このホテル守ってくれたと思ったら!!その後は『せっかくご厄介になるので掃除くらいさせて下さい』なんてな〜!!」
すると褐色の肌をした黒髪の少年が口を開いた。
源太「声の大きい独り言だこった……」
光男「こら源太!」
緑の髪の男・藍川光男が黒髪の少年・猿渡源太を注意していた。
光男「すいません!生意気なことを言う子でして!」
エリック「いやいや構わないよ全然!!……それにしても…竜賀君はずっと静かだね?」
エリックが視線を向けた先には、黙々を散らばったガラスを慎重に集める青髪のセミロングの少年・藍川竜賀がいた。
エリック「あんな凄い戦いぶりを見せていたのに全然はしゃぐこともなく、礼儀正しくって……いい育ちしてるじゃないか?」
光男「いやエリックさん…あれはただ掃除しながらさっきの戦いの振り返りをしてるだけですよ」
エリック「え?そうなの?」
光男「だから今はそっとしておいてあげて下さいね」
二人がヒソヒソ話をしているのを無視して黙々と作業をしていた竜賀は、
竜賀(今日初めて実戦で天狩鉤爪を使ったけど上手くいってラッキーだったな…まだまだ使い方は色々ありそうだし、そこは練度を上げていくとして防御もパワーアップさせていかなきゃな…)
そんな振り返りをしていたのであった。
そして掃除が終わった後、三人はホテルの食堂に案内された。そこは玄関ホールに負けず劣らずの豪華な食堂ホールであった。三人は思わず声を漏らした。
竜賀「ふぁぁぁぁ〜〜〜」
源太「すっっげ〜〜〜!!まるでお城みたい」
エリック「はっはっはっは!!すげーーだろ!?ウチの自慢の食堂なのさ!!前まではここに来たいって客で大賑わいしてたもんさ!!」
光男「こんな豪華な食堂にホテルのお客さん皆食事するんですか?」
エリック「いやまさか!エコノミーなお客様は別の部屋に素朴な食堂を用意してあって、そこで大半の客が食事をするのさ!ここは当ホテル自慢のV.I.Pルームの一つさ」
光男「そんなところに我々が食事しても本当に良いんですか?」
エリック「もちろんだ!!俺にとってここは宝物だ!そんな場所を守ってくれたんだ!!食事も寝床も無料だ!!サービスさせてくれや!」
光男「……それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」
エリック「それよりもアンタらも良かったのか?」
光男「え?」
エリック「トンプソン兄弟に留めをささずにアジトに送り返しちまってーーーーーー」
ーーーーー数分前ーーーー
グレイブ「オイ…!ジェイコブ…!コイツらヤベェぞ…!!」
ジェイコブ「あ…ああ…!!」
トンプソン兄弟二人共フラフラの状態で必死になって走っているつもりなのだろうが、足取りがあまりにもおぼつかない。
光男はその二人に速足で余裕で追い着くと、両手でそれぞれの首根っこをガシっと掴んで二人に言い放った。
光男「オイ!!」
トンプソン兄弟「ヒッ!!?」
光男「今夜は逃がしてやるが……次はないぞ?……ここは喧嘩をする場所じゃねぇんだ」
グレイブ「わっ!…分かった!!分かったから離してくれ!!」
光男「二度とここには近付くな…!!次は気絶程度じゃ済まねぇからな…!!」
ジェイコブ「分かったから許してくれ!!もう二度とここには関わらねぇから!!」
光男「だったら…帰った時に、ボスに何か聞かれたら、こう答えとけ……『道でドジを踏んで転んでこんな大怪我しちまいました』ってな……もしテメェらのボスに事実がバレてここに来ることになったら、この道のド真ん中に大量のお前らのお仲間の死体で溢れ返っちまうことになるぞ?」
トンプソン兄弟「ひいいいィィィィィィ!!!!」
光男「分かったら、とっとと行け!!!」
エリック「ーーーーーあんな風に脅すと逆効果じゃないか?アイツらは絶対ボスにこの戦いでアンタの息子のことを報告するぜ?」
光男「その方が都合が良いんです」
エリック「なぜ??」
光男「奴らの背後にいる組織がこちらに向かって出て来てくれる方がやりやすいですからね…歩いてたら偶然でくわした方がよっぽど危険ですからね」
エリック「汚い手で襲ってくる可能性の方がかなり大きいはずだ。奴らのボスが誰であれアンタの息子達の強さを警戒して背後から撃ってくることだって躊躇なくしてくる」
光男「どっちにしろ同じなんですよ……正面からかかって来ようが搦手を使って来ようが、こっちに向かって来ていることで返技を打ち返せるんです…分かりたいのは手段じゃなくてタイミングです」
エリック「………よく解んないんだが……」
源太「とりあえずお腹めっちゃ減ったんだけど?」
竜賀「二人で勝手に盛り上がってないで御飯用意して欲しいんですけど??」
竜賀と源太が腹をグ〜〜と鳴らしながら待っているのを見てエリックは慌てて二人を宥める様に話しかけた。
エリック「あーーっ!スマンスマン!今から急いで準備するからそこで座って待っててくれるかな?」
エリックが指差した長テーブルに光男・竜賀・源太の順番で奥から詰めて三人共座っていった。
竜賀「さっきの戦いですっかり腹ペコだよ…!!」
源太「伽霊能力を使うとかなりの霊力を使ってるから、メチャクチャ疲れんだよな」
竜賀「その霊力って、一体何なんだ?前から聞いてみたかったんだけど??」
源太「適能者の源力みたいなモンだよ…何も知らない奴って伽霊能力が無尽蔵に使えると思い込んでるのもいるけど、それってとんでもない大間違いでな……1回『伽霊覚醒』を発動したら使える霊力って大体決まってんだよな」
竜賀「ああ……RPGで言うマジックポイントみたいなもんか」
源太「マジックポイントって何??」
竜賀「俺の世界にあるテレビゲームの冒険ファンタジー物お決まりのルールで魔法とか必殺技とかを使うと体力とは別の、減っていく魔法を使う為の源力みたいなことさ」
源太「そうそう!そんな感じ!…あっ、でもやっぱちょっと違うかも?」
竜賀「違うの?」
源太「そのマジックポイントってのは減っても体力に影響はないかもしれないけど、霊力は使えば使う程、スタミナも消費するからな」
竜賀「そうなのか〜〜」
源太「だから霊力使ったら腹は減るのは何もおかしいことじゃねぇのよ」
竜賀「ふーーん……父さんどう思う?」
竜賀が父親の方に顔を向けて話を振ったら、何の返事も無かった。
光男「……くー……くー……」
光男はテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。
竜賀「……父さーん……寝てるーー?……」
源太「駄目だね……完全に寝てる、充電完全に落ちちゃってる」
光男がテーブルに顔をベッタリ貼り付ける様に熟睡しているのを完全に無視して竜賀はV.I.Pルームを歩いて見て回った。
すると綺麗な壁に掛けられた1枚の写真に気が付いた。竜賀は一体誰だろうと思い写真をよく見てみると、そこには小さなボロ屋を背にして腕組みしている二人の若者の姿が写っていた。
竜賀「……これってエリック・ブラックさんか……」
源太「竜賀?どうかした?」
竜賀「この写真に写ってる人って…エリック・ブラックさんとあともう一人誰だったっけ?」
源太「ん?……何何何何??何なんだい?」
源太も席を立ち、竜賀の傍までやって来て写真を見た。すると途端に源太は写真に写るもう一人の人物に反応した。
源太「え!…この人俺達がシカゴに来た時にこのホテル紹介してくれたおじさんだよ!」
竜賀「え?……確かに…面影あるな…」
源太「でしょ!?ここに来た時なんか妙に頭に引っ掛かってたんだよな……」
竜賀「あの人……エリックさんの友達なのかな」
竜賀と源太がしばらくそうしてると、奥からカートをガラガラと引く音が聞こえてきた。
エリック「は〜〜い!お待たせしました〜!ホテルローグのスタッフのエリックが腕によりをかけて作った特製絶品料理だよ〜!!」
カートに乗せられていたのはホテルの料理の数々であった。野菜や、スープ、肉料理が出来立ての湯気を立てながら並べたてられていった。
エリック「おや?光男さん!何だよ〜!せっかく料理用意したのにすっかり眠っちゃって!」
料理を竜賀、源太の席に置いていきながら寝ている光男に声をかけていた。
エリック「ん?…竜賀くん?源太くん?そこで何をやっているんだい?」
竜賀「エリックさん?…この写真に写ってる二人の男の人って、エリックさんともう一人は誰なんですか?」
源太「この男の人…俺達がこのシカゴに来た時街中で会ったもん…そんで今夜泊まるとこ教えてくれって頼んだらここを紹介してくれたんだ」
エリック「……………」
源太「でもその人…理由は解んないけど何かすっごい寂しそうな顔してたんだ…」
竜賀「エリックさん…教えてくれませんか?…も、もちろん!できればで良いんですけど…」
エリック「………まぁ…隠す意味は特にないし…話してやっても良いが…それは料理を食べながらでも良いかな?」
竜賀「……!!是非!!」
源太「そりゃそうだ!!御馳走!!御馳走!!」
二人は並べられている料理の前に電光石火のスピードで座ると両手を前で合わせて声を揃えた。
竜賀・源太「「いただきます!!」」
エリック「そんなに急がなくても君らの料理は逃げていかねぇから!!喉と詰まるぞ!!」
口の中に食べ物をありったけ掻き込もうとする二人を見て、エリックは半分心配そうに、そして半分面白そうに声をかけた。
ガツガツと目の前の料理を食べている横でまだ突っ伏している光男はイビキをしながら眠っていた。
竜賀「〜〜〜ッ!!……ゴクッ!!……も〜う父さん!!早く食べないとせっかく作ってくれた料理が冷めちゃうよ!!勿体無いよ!!」
光男「クカーー……クカーー……スピーー…スピーー…」
竜賀「早く起きてって!」
源太「まぁまぁ…流石に5時間以上連続で運転したんだから無理もないって!」
エリック「5時間も連続で運転してたのか!?そんなことしてたら事故起こすぞ!!一体何があったんだ!?」
竜賀「実は我々マクシム連合に追われているんです」
エリック「マクシム連合だと!?何であんな大組織に追われてるってんだ!?」
源太「具体的に言うと俺が追われてるんです」
エリック「君が?なぜ!?」
源太「俺がインディアナポリス支部から脱走したからですよ。俺は元々そこの実験体として実験施設に入れられてたんですよ」
エリック「何!?」
源太「そこで同胞が何人も実験体として色んな薬を打たれてるのが嫌で監視の目を掻い潜って施設から抜け出したんですよ」
竜賀「源太が施設から抜け出してモートレートタウンの街の中で迷っていたところを、俺が助けたんですけど……それがバレてマクシム連合から逃げてる途中なんです」
とんでもない話を淡々と進めていく二人にポカーンとしながら、エリックは何とか話を飲み込もうとしていた。
エリック「え〜〜と…つまりだ……君達は大組織に追われる身となっている犯罪者ってことか?」
竜賀「追われている身であることは確かなんですけど、犯罪者ではないですね」
源太「マクシム連合インディアナ支部では非合法の人体実験を沢山やってるんですよ……でもその実験体になってるのは見捨てられた町に住む市民権を得ていない適能者達なんですよ……だからアメリカではどんなに殺しても痛めつけても罪には問われないんですよ」
エリック「そんなことが……」
竜賀「マクシム連合もそんな違法な実験が行われていることを世間にバラされたくないから、源太を捕まえに追われてたんで父さんは5時間ぐらいぶっ通しで運転してくれたんです」
エリック「それでこんなに疲れきっているのか……これはしばらく起こさない方が良いだろう」
竜賀「ところでエリックさん!」
エリック「ん?何だ?」
竜賀「あそこにある写真の人って?」
源太「俺達が会ったあの男の人とこのホテルってどうゆう関係なんですか?」
エリック「ああ……その話か……」
エリックは懐に手を入れ、ジャケットの内ポケットから葉巻を取り出し、何やら模様の付いたシルバーのライターで葉巻に火を着け煙を吐いた。
エリック「さって……どこから話したモンか……」
源太「…お友達なんですか?」
竜賀「源太!」
源太はつい気になって口を突いていってしまったが、竜賀はそれを気遣って源太を止めようとした。
エリック「いや……幼馴染だよ」
竜賀「え?」
源太「幼馴染?」
エリック「ああ……幼馴染…腐れ縁ってところか……なにせ付き合いが長いもんでね…」
源太「何歳からですか?」
ホッと胸を撫で下ろす竜賀を無視して源太はどんどん質問攻めした。
エリック「丁度君らと同じくらいの歳くらいの時にあったんだよ……二人で同じ野球クラブにいてそこで会ったんだよ」
竜賀「野球クラブ?…ってことはメジャーリーガーとかになるって夢を子供の時に語り合ったりした中だったんですか?」
エリック「え!?……竜賀君?君野球を知ってるのかい!?」
竜賀「え?え、ええ!!まぁ…たまたま知ってたんですよ!!」
源太「?……野球って何?」
竜賀「…………」
エリック「これが普通の子供の反応だよ?」
竜賀「とりあえずその幼馴染の話を聞かせて下さい」
エリック「ああ……その幼馴染の名はマーカス・ジャッジ……俺と同い年で53歳だ」
二人は食事の手を止めて、エリックの話に耳を傾けて聞いていた。
エリック「高校までシカゴとは違う街で住んでいた俺達は将来どうすれば良いのか分からないまま『まぁどうにかなるだろう』って感じで生きてたんだけどさ」
葉巻の煙がユラユラと天井に当たって儚く消えていった。
エリック「マーカスと一緒に街であるいてた時、街外れからやってきたであろう少女がやってきてな……明らかにスラム街から迷い込んでいたような姿をした少女だったんだ……」
エリック「マーカスの奴と俺はその娘をほっておけなくてな…最初は警察に預けるべきかどうか、スッゲー悩んだんだが、少女はたった1日だけ雨風を凌げる場所を欲しいとだけ言ってきたんだ」
エリック「だが屋根の付いた場所なら、何でも良いって雰囲気じゃなかった……だから俺は少女を自分の家に連れて帰ったんだ」
エリック「その少女が何か言いたげだったが……恐がっている様子にも見えた俺達はその時…『お腹空いてんのか?』って聞いてみたんだ…」
エリック「そしたらその少女は小さく…首を縦に振ったんだよ……そん時俺は何を思ったのか…『よし!じゃあ俺達が何か美味いモン食わしてやる!』って言ったんだよ」
エリック「言ったは良いが俺とマーカスはそれまで野球ばっかりしてて、料理なんかしたことは全然無かったんだ…だからとりあえずキッチンにあるありったけの食材掻き集めてさ……パンとハムエッグ、焼きソーセージそれと確か…野菜スープ…みたいなもんかな」
エリック「今、思い返してもあんまり良い出来の料理だとは思わなかったんだが、その時俺達は人生で初めて他人に自分達で作った料理を出したんだ」
エリック「そしたらその少女は料理を一口食べて『おいしい』って……そう言ってくれたんだ……その時の笑顔が今でも忘れられなくってな……」
エリック「その後も色々世話してベッドで安心して寝るところまでやったんだがな……朝御飯の準備をしようと、朝急いで起きたらその少女は部屋のどこにもいなかった……」
エリック「ベッドの横のテーブルには小さな紙切れにたった一言だけ…『ありがとう』…って書かれていたんだ…」
物音一つ立てず聞き入っていた二人は表情が徐々に柔らかくなっていた。エリックは聞き手である二人の表情に安心したのか続けて言った。
エリック「その時決めたんだ…!!俺とマーカスは、これからどんなことがあっても…こんな笑顔を生み出せる宿屋を作っていこう…ってな…」
エリック「まぁ…宿屋の仕事ってのはめちゃくちゃ大変でな…俺もマーカスも何度も心が折れそうになることがあったんだ……だけどそんな時には決まってあの女の子の笑顔を思い出してたんだ…」
竜賀「それが…切掛けですか?」
エリック「ああ……あの子に出会えてなけりゃ…俺達はシカゴの都市にホテルを建てることもできなかったんだからな……それでもここにホテルを建てるのは並大抵の苦労じゃなかったな……」
源太「ここの背景に写ってるのってこのホテルなんですか?」
エリック「いいや、違うよ…そこに写ってるのは俺達が一番最初に作った宿屋なのさ……シカゴの北の方にある町で営んでいたボロい宿だったんだけどな…経営を軌道に乗せるのに5年くらいかかったかな…」
竜賀「5年もかかったんですか!?」
エリック「ああ……何せ一番最初に作った宿屋は二人で資金が僅かな中やりくりしなけりゃいけなかったから雨漏りはするわ、虫がたかるわ、ベッドが壊れるわでクレームの嵐だったんだ…」
源太「そんなところからのスタートだったんだな…」
エリック「でも諦めなかったんだ……ずっと借金もしながら経営を続けていきながら、ようやく手応えを感じ始めた時、ある資産家からこのシカゴの都市のド真ん中でホテルをやってみないか?って言われてな……俺達は返事に2秒もいらなかったね」
エリック「このホテル『ローグ』は俺達の宿屋2号店なのさ……ここにももちろん思い出が詰まってるんだ…もう23年は経ってるんだ」
竜賀「23年間……」
エリック「お前らが影も形も無い時からずっとこのホテルで沢山のお客様の笑顔をここで見て来た……ここには俺とマーカスの“思い出”が詰まってんのさ…なのに……」
源太「……そのマーカスさんがこのホテルから出て行っちゃった?」
エリック「……ああ……それもお前らにこんな手紙を託しやがって……馬鹿野郎…」
源太「…………」
竜賀「ここは二人にとって大切な場所なんですね」
エリック「ああ……ここは俺達にとっての宝物さ……」
源太「宝物?」
エリック「ああ、そうだ…誰かから見て羨ましがられる物が宝ってわけじゃねぇんだ……マーカスと俺にとって命を懸けてでも守りたい価値のある物かどうか?全てを懸けたいと思えるかどうか?宝物の定義なんてそんなモンなんだよ」
竜賀「……大人になると、皆お金が一番大事になってくるのに…そんなに大切な物があるってすっごく幸せですね」
源太「何で大人になると皆お金が大切になるんだろう……」
エリック「金、銀、財宝に意味なんざねぇさ……そんな物に心を奪われちまうのは、そいつの心に本当に大切な物が見つかってねぇ証拠さ」
竜賀「大切なもの?」
エリック「ああ…それは金には決して代えられねぇそいつだけの“宝物”さ……金は所詮どこまでいこうが紙切れや石コロでしかねぇと思ってんだよ俺は」
竜賀「ハハハッ!」
エリック「オイオイ…笑うとこじゃねぇぞ?俺は本気で言ってんだからな!金ってのはあくまで“手段”なんだよ!夢を叶える為のな……それがいつの間にか金を持つことが“目的”に変わっちまうんだよ!だから二人にこれだけは胸の奥に秘めとけ!」
自分の話を熱心に聞いてくれる二人に気分が良くなったのか、徐々に声も大きくなっていた。しかしその後顔が暗くなり声のトーンが下がっていった。
エリック「それが今となってはこのホテルが『ブルガント団』の占領域の一つになっちまった……」
竜賀「ブルガント団?」
エリック「ん?知らねぇのか?このイリノイ州ではかなり有名どころの適能者集団だぞ?かなりの財力のあるマフィアなんだ」
源太「やっぱり俺達が戦ったアイツらって…そのブルガント団の一員だったのか?」
エリック「ああ……以前から嫌がらせは受けていたんだ…このシカゴの都市を力と金で支配しようとしていて何人もその被害を受けているんだ。現に街に住んでいた人達がどんどん別の町に引っ越す様になっちまった。今じゃこの都市は人の住んでいないゴーストタウン並みに寂しくなっちまった」
竜賀「でもエリックさんはここに残っていくことを決意したんですね」
エリック「ああ…さっきも言ったがここは俺の宝物なんだ…!!思い入れがあり過ぎて簡単に捨てられなくなっちまったよ」
源太「……でもそれはきっと…マーカスさんも一緒じゃないかな?」
エリック「え……」
源太「あの人すっごい哀しそうな顔してたから……口では『もう終わりだよ、この都市は』とか言ってたけど、本当は抗いたがっていたんだと思いますよ」
エリック「へ……餓鬼がいらない気ィ遣うんじゃねぇよ…!!ホラ!!折角のメシが冷めちまうぞ!!さっさと喰っちまえよ!!」
勢い良くエリックは椅子から立ち上がり奥の厨房に消えていった。
竜賀と源太は残っていた料理をドンドン口の中に入れていった。冷めても中々イケると思いながら御飯を食べていると、テーブルに突っ伏していた光男が漸く目を覚ました。
光男「ふああああぁぁぁぁ……あ〜〜そっか俺気が抜けて寝ちまってたのか……ん!?」
眼を擦りながら伸びをしている光男は、竜賀と源太の食べている料理を見て絶句した。
光男「お前ら!?先にメシ食ってたのか!!?」
竜賀「うん」
源太「お先に〜」
光男「何で起こしてくれなかったんだよ〜!!」
竜賀「いや起こしたって!」
源太「にも関わらずスッゲェ寝むってたから…しばらくそっとしとこうってエリックさんが言ったんだよ」
光男「俺のは!?俺の分は!!?」
竜賀「もうしょうがないな〜…エリックさーーん!!!お父さんがやっと起きたよーー!!!」
エリック「おお!!やっと起きたか!!じゃあ料理今からあったかいの持って行く!!」
光男「良かった〜〜腹減り過ぎて死にそうなんだよ」
竜賀「そりゃ良かったね?今夜のメシが美味くなるぞ」
するとすぐに厨房からエリックが出てきて、ワゴンに料理を乗せてやってきた。
光男「おおおお!!待ってました!!いっただきまーーす!!」
子供みたいにムシャムシャハイペースで料理を食べている光男を見てエリックは
エリック「………やっぱり親子だね…」
そう呟いたのだった。
食事が終わった後三人は、ホテル『ローグ』のスイートルームに案内されて、シカゴの美しい夜景を見ることのできる部屋に入った。
竜賀「うわーーー!!めっちゃ綺麗な景色!!」
源太「この部屋サイッコーーー!!!」
光男「良いんですか!?こんな良い部屋で泊まっても!!?俺達そんな金ないですよ!??」
エリック「ああ……金は良いのさ…金には代えられないくらい大切な宝物を守ってくれたお礼と思って今夜はここでぐっすり寝てしっかり休んでいってくれ」
光男「大切な…宝物?」
竜賀「父さんはその時丁度寝てたからね」
エリックは竜賀と目が会うとイタズラっぽくウインクして部屋を後にした。
To Be Continued
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