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#16 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第3話「二人の稽古開始!」
早朝、モートレートタウンの辺境のモーテルにて朝日が昇り始めた頃、徐々に目を覚ましアメリカの太陽を浴びようとする人が窓を開け始めていたのだった。
青いセミロングほどの髪のこの少年もその1人だった。その少年藍川竜賀は大きく伸びをしながらミシガン州のカラッと照りつける太陽を身体全身に浴びていた。
竜賀「〜〜〜〜〜ッ!!……はぁぁ……よし!!今日も一日やるか!!」
竜賀は部屋から出ていくとプール付きの庭で真剣での素振りの稽古を始めた。
フォンッ!! フォンッ!! フォンッ!!
竜賀「…ッ!!…ッ!!…ッ!!…」
空気を切り裂く様な鋭い音が響き渡っていた。足の踏み込みと同時に刀を振るい、力強いを生み出す彼の素振りは別の少年を早朝から叩き起こしてしまった。
その少年は竜賀とシャーリーが先日買ってきた部屋着を身に纏って寝室から降りてきた。
竜賀「!…ハローよく眠れたか?源太」
目を擦りながら大欠伸をしていた猿渡源太に向かって竜賀は挨拶した。
源太「ふぁぁぁぁぁ……ああめっちゃくちゃ久しぶりに腹もいっぱいになって、寝たから…メチャクチャ体は元気だ」
竜賀「そっか!そりゃ良かったな」
源太「ところでその剣みたいなの何?」
源太は竜賀の左手に握られていた日本刀を指差して、怪訝そうな顔で聞いてきた。
竜賀「ん?…ああこれね……俺の伽霊能力で発動した…能力?…の1つだよ」
源太「つまり、それは竜賀の霊具なのか?」
竜賀「ギーツ?」
源太「適能者の能力を補助をしたり、武器になる伽霊能力で召喚できる道具だよ」
竜賀「源太…お前伽霊能力について詳しいのか?」
源太「もっちろん!!だって俺も適能者だからな!!何でも聞いてくれ!!」
胸を張って豪語する源太に、スッゲェ自信家だなと言う印象を受けた竜賀は若干引きながら質問を続けた。
竜賀「……んじゃ伽霊能力って一体何なのか教えてよ?」
源太「伽霊能力は特定の人間だけが手に入れることのできる特別な能力なんだ」
竜賀「うん」
源太「生まれてくる能力は人によってそれぞれ違うんだけど、能力の進化ってのは共通してるんだ」
竜賀「能力の進化?」
竜賀は今まで聞いたことのない内容に興味を引かれた。
源太「うん!まず未適能者が最初に覚醒すると何が起きるか解るよな?」
源太から聞かれて竜賀は右手から霊段階Aの伽鍵礼符と出した。
竜賀「この霊段階A……伽霊覚醒の礼符が出てくるんだよな?」
源太「大正解!!おめでとう!!」
源太は大袈裟なリアクションを取りながら竜賀を褒めた。竜賀は満更でもないかの様にニヤっとした。
源太「ここまでは全適能者共通してるところなんだけど…」
竜賀「けど?…」
源太「次の覚醒からバラバラなんだ」
竜賀「どういうこと?」
源太「霊段階A以降の霊段階2からは発動する能力は人それぞれ色んなタイミング、色んな種類があって一定の規則性や法則性がないんだよ」
竜賀「それじゃあ次能力が覚醒したらどんな能力が出てくるのか分からないの?」
源太「イエス!もうそれは…出てのお楽しみって奴!そしてそれらの能力の覚醒が霊段階2から10まであるんだ」
竜賀「2〜10までが能力の覚醒?11以降は?」
源太「そっからはさらに特別で10以降は順にJ、Q、Kっていう3つの覚醒があるんだ」
竜賀「J、Q、K??それじゃあまるでトランプみたいじゃねぇかよ」
源太「トランプ?何それ??」
竜賀「え!?トランプ知らないの?あのスペードとか、ハートとか、ダイヤ、クローバーの4種類の絵柄のA、2〜10、J、Q、Kまでのカードとジョーカーの53枚のカードゲームだよ!」
源太「そうそうッそれそれッ!!なるほどね〜!竜賀の世界では『プレイングカード』の事を『トランプ』って呼ぶんだな?」
竜賀「いや…もしかしたら日本もそう呼ぶかもしれないけど……」
源太「俺はプレイングカードって呼んでて『トランプ』はジョーカーのことを示すんだけどな」
竜賀「とにかく話を戻すけど!伽霊能力はプレイングカードの数字に沿って伽鍵礼符の数字が割り振られてるんだな?」
源太「そういうこと!一番最初のAの伽鍵礼符で覚醒して身体能力が強くなって、2〜10の伽鍵礼符で特殊な能力を使る様になるんだ」
竜賀「それが金属を操ったりとか、火を生み出したり、武器を召喚する奴って訳か…」
源太「特に霊段階10の伽鍵礼符で発動する能力ってのは反則級のチートカードって言われてるくらいなんだ」
竜賀「それじゃあJの礼符は?」
源太「これが不思議なことにJからKまでは適能者は漏れなく全員共通の伽鍵礼符なんだ」
竜賀「何?」
源太「霊段階Jは『召喚』、霊段階Qは『伽霊融合』、霊段階Kは『神化』って言う礼符になるんだよ」
竜賀「さ…サモン?ギアモルフォーゼ?エボリューション?…何それ?一気に情報が多過ぎて混乱してるんだが…」
源太「何でも適能者ってのは皆能力が覚醒して成長するにつれて自分の体のどっかに伽霊獣ってのが棲みつくらしい。ある奴は何十年も経って伽霊獣の存在に気付いたりもするし、世界には能力が覚醒してすぐそんな奴が自分の体にいるって気がつく奴がいるらしいぜ」
竜賀「!!」
源太「どうした?」
竜賀「…………いや……何でもない……」
竜賀は絶句した。この世界に来て間もなく自分の夢の中に出てきた謎のあの青い竜。それがまさか今源太の言った伽霊獣だとでも言うのか。
源太「?…そんでその伽霊獣を召喚する為の伽鍵礼符が霊段階Jって訳」
竜賀「それじゃあ…霊段階Qって言うのは?」
源太「その伽霊獣と適能者を融合させる伽鍵礼符なんだ」
竜賀「融合?」
源太「なんか伽霊獣の怪力や能力を純粋に発揮できる様になるんだってよ…実際には俺も見たことないんだけどな!」
竜賀「え!?見たことないの!?」
源太「ああ……なんせ霊段階J以上の適能者なんて世界に数百人しかいない、滅多にお目にかかれないレアな存在だからな」
竜賀「そっ…か…」
源太「そんで最後の霊段階Kの伽鍵礼符が『神化』、伽霊獣をさらに強い怪物に進化させる伽鍵礼符だ」
竜賀「そうするとどうなるんだ?」
源太「俺今までそんな奴当然見たことないけど、あくまで噂で聞いたのは一つの小さな国をいとも簡単に滅ぼせる神話の怪物ぐらいに進化できて、それと伽霊融合すると適能者は神に近い能力を手に入れるんだとか何とか」
竜賀「なるほどね」
竜賀は頷きながら源太の話を聞いていた。
源太「因みにさ…」
竜賀「ん?」
源太「竜賀の伽霊能力って今どんな奴があるの?適能者だろ?」
竜賀「あ…ああ、それじゃあ源太もどんな伽霊能力持ってるのか教えてね」
源太「OK」
竜賀と源太は自分の伽鍵礼符を霊媒印から出すと、お互いにカードゲームのデッキを見せ合う様に礼符を広げた。
源太「おーー…竜賀はもう3枚あるのか…」
竜賀「源太は5枚あるのか…凄いな…」
源太「今の俺は礼符5枚が覚醒してるから、霊段階5。そして…」
竜賀「俺が3枚の礼符が覚醒してるから、霊段階3ってことね」
源太「正解!」
竜賀「んで?源太はどんな礼符持ってるの?」
源太「俺はまずAの『伽霊覚醒』、2の『伸縮』、3『如意棒』4『焔玉』、5『分身』ってところかな」
竜賀「……これってさ…覚醒するのにどのくらい時間掛かったんだ?」
源太「ん〜〜〜…分かんない!」
竜賀「………は?」
源太「だってさ…俺昨日まで自分の名前も知らなかったんだし、自分の年齢とか能力が覚醒した日とか覚えてる訳ないじゃん」
竜賀「…………ごめん…」
源太「そんな深刻そうな顔しないでよ。別に今は気にしてないから」
竜賀「………」
源太「おやっさんも言ってたろ?これまでがどうかじゃなく、これからがどうかって方がずっと大事だから」
竜賀「………はぁぁ…色々ごちゃごちゃ考えすぎだな俺は…源太お前の言う通りだよ」
そう竜賀に言われた源太はニカッと笑うと嬉しそうな声で話し始めた。
源太「へへへ……ところで竜賀の礼符ってどんなの?」
竜賀「ん?…あ、ああ…ほれ、これが俺の伽鍵礼符だよ」
竜賀は3枚の礼符を源太に見える様に身体の前に差し出した。
竜賀「まず霊段階A『伽霊覚醒』、霊段階2の『海斬刀』、そして…この…霊段階3…『天狩鉤爪』って…」
源太「?……あのさ何で自分の礼符の事あんまり良く知らないの?」
竜賀「だってさ…俺と父さんこの世界に来たの五日前だぜ?この世界の事良く知らないのは当たり前じゃん」
源太「そっかー…五日前か〜そりゃこのせ…かい…」
源太はあることに気付いた様子で徐々に顔が青ざめていった。
竜賀「?」
竜賀はそれをポカンとした怪訝そうな表情で源太の顔を見た。源太は声を震わしながら竜賀に聞いた。
源太「え〜っと…その……つまり……竜賀が霊段階3になったのって……四日間ってコト???」
竜賀「いや……一昨日この3枚目が覚醒したから三日間だね」
源太「!!??」
源太はアゴが外れるんじゃないかと言うくらい口を大きく開いて、びっくりしていた。
竜賀「な、な、何!?」
源太「何!?はこっちの台詞じゃい!!たった三日間で霊段階3まで覚醒するなんて聞いた事ないぞ!!?」
竜賀「そ、そうなの?」
源太「当たり前じゃねぇか!!伽霊能力ってのは霊段階を1つ上げるだけで最低でも1年くらいかかるんだ!普通は3〜4年くらいかかって1つずつ霊段階上昇したら、順調に成長してますね〜とか評価される世界なんだぞ!?」
竜賀「ん〜〜…」
源太「どうしたんだよ?」
竜賀「もしかしてこの世界には霊段階Aとか2になったまま、何にも成長せず一生を終える適能者も大勢いるの?」
源太「…ああ…そうだよ…もちろんいるさ…もっと能力が欲しいと願っていても、能力が手に入らず死んでいく奴も山ほどいるんだ」
竜賀「ふ〜〜ん……?」
源太「何だよ?」
竜賀「まぁ俺もまだまだこの世界に来たばっかりで何にも解ってないけど、そのうち解るだろうから今はそんなに深く考え過ぎずやっていこうか!」
源太「………俺の住んでいた見捨てられた町では能力こそが生きていく為に必ず使うモンだったんだ」
竜賀「人を殺して奪う為に?」
源太「それが全てだった…そうしなけりゃ生きていけなかったんだ」
竜賀「そして…マクシム連合の研究所で研究材料として過ごしていたわけか」
源太「ああ…」
竜賀「なぁ?…マクシム連合ってどんなところなんだ?何か凄いデカい組織ってのは解るんだが…?」
源太「……表向きはこの国で最も大きな伽霊能力研究機関って言われてっけど……実際には適能者に様々な薬品を投与したりして人体実験をしているところだ」
竜賀「そのマクシム連合ってのは研究以外は何やってるんだ?」
源太「国の治安を守る為の警察とか軍隊みたいなこととやってるって聞いたことある」
竜賀「なるほどね…警察は表向きの顔で裏の顔が非人道的な人体実験施設場ってことね」
源太「…そうだ…」
光男「おーい!おはよ!」
その2人の会話を陰で聞いていた光男は何事も無かったかの様に振舞いながら2人に挨拶した。
竜賀「おはようございます!!」
源太「おはよう…」
光男「今日も良い天気だな!良い稽古日和だな!」
光男は身体を伸ばしてストレッチをしながら、木刀を振っていた。
光男「源太!俺と竜賀はな…毎朝、剣道の稽古をするんだ」
源太「?……ケンドウ?ケイコ??」
竜賀「ああ!稽古ってのは訓練のことを言うんだ…剣道って言うのは……えーっと…」
光男「竜賀!剣道に英訳なんてねぇよ……ま、強いて言うなら…そうだな…ソードプレイってところかな?」
源太「何でそんな物騒なモノをするんですか?人を殺す為ですか?」
光男「ん?いや…」
源太「それじゃあする必要なんてないんじゃ…」
光男「答えは単純!その道を極める為だよ…」
源太「極める?道を??」
光男「ああ!…人は大切な何かに気付く為には、何か1つで良いから!……それに全身全霊で没頭することが1番なんだ」
竜賀「余計な事を考えなくて済むしね」
源太「そうなの?」
竜賀「まぁ…百聞は一見にしかずって言うし…源太もやってみる?」
源太「俺もやって良いの?」
光男「当たり前じゃねぇか!武道は来る者拒まずだ!道を極めようとする志を持つ者は皆侍だよ」
源太「侍…?」
竜賀「それじゃあ源太お前は初心者だから本物の真剣は危険だからこの木刀で素振りしなよ!」
竜賀は自分が使っていた木刀を源太に渡そうとしたが、
源太「え……でも……」
源太は今まで触ったこともない物を見る目で、竜賀の手に握られていた木刀を見て明らかに戸惑っていた。
光男「……!!源太…お前普段伽霊能力使う時どんな武器……霊具使ってるんだ?」
それを言われた時に源太の顔がホッとした表情に変わり、光男もやっぱりかと言う顔をした。
竜賀「どういうこと??」
光男「竜賀……源太はおそらく日本刀やサーベルの類に触ったことも、見たこともないんだろ」
源太「うん」
竜賀「だから?」
光男「はぁぁ…だから前にも言っただろう竜賀?使い慣れていない武器は持ってても意味が無いし争いの元になるってな」
竜賀「………耳が痛い限りです…」
光男「そういうこと!……と言う訳で源太!!」
源太「はい!!」
光男「お前の霊具、俺達に見せてくれないか?」
源太「分かった!!」
源太はそう返事すると左掌を上に向け、霊媒印から伽鍵礼符を出した。
竜賀「さっき言ってた霊段階3の能力だね…」
源太「ああ!霊段階3『如意棒』だ!!」
源太は竜賀の興味津々のリアクションに鼻高々に自分の霊具を天に掲げ見せてきた。
源太「へっへーん!!」
光男「源太それ一回それ俺に見せてくれないか?」
源太「オッケー!!」
源太は持っていた棍を光男に手渡した。光男はそれを受け取ると手がまるで棍に持って行かれそうになるくらい引っ張られた。
光男「グオッ!!?……おっ……もぉ…!!!」
光男は予想外の棍の重さにビビって急いで棍を肩で担ぐ様に支えながら縦にした。
光男「……っはぁ!!…はぁ…はぁ…げ、源太これ何キログラムあるんだ!?…めちゃくちゃ重かったぞ…!?」
源太「知らないです。そんなの普段気にしながら使ってないので」
竜賀「俺もそういや自分の真剣の具体的な重さ全然把握してねぇや」
光男「お前ら……自分の武器の詳しい仕様とかちゃんと解っとけよ……」
竜賀・源太「えへへへ〜」
光男は棍を実際に両手で持ち上げてみたり、握りながら太さを確かめながら調べていった。
光男「ふむ…さっきはびっくりしたけど、大体…長さは190cm、太さは直径は3cm、重さは7kgってところか……かなり見た目に反して重さは相当だな」
源太「…そうなの?俺普段から何にも重さとか気にせず振るってるから」
竜賀「7kgは相当重いはずだけど、伽霊覚醒が発動してる時はパワーアップしてるからあんまり重過ぎて持てないとか感じずらいのかも?」
光男「……そういうことか…道理で…」
竜賀「何が?」
光男「竜賀の持ってるその海斬刀ってのを持った時、明らかに通常の刀剣より重かった」
源太「そうなんですか?」
光男「通常、竜賀の使ってる様な日本刀なら重さは1〜1.5kgくらいなんだけど…」
竜賀「けど…?」
光男「初めて竜賀の刀を持った時は4〜5kgに感じたぞ」
竜賀「そんなに?確かに竹刀よりはめっちゃ重っ!って思ったけどさ」
竜賀と源太が冗談でからかって言っている訳ではないと感じて光男は溜息を吐きながら呟いた。
光男「お前ら適能者ってのが怪力インフレ起こすってことはよく分かった」
光男は源太に棍を手渡しながらストレッチをする様に身体をほぐしていった。
光男「ところで源太?」
源太「はい?何ですか?」
光男「お前棒術の稽古は受けたことあるのか?」
源太「いや、そんなの全然やったことないけど……」
光男「…ふ〜ん……」
竜賀「何か嫌な予感するな……」
竜賀が顔を青くしながらこの後起きることを予想しているのを見て、源太は首を傾げていた。
光男「……よし!!…そんじゃあまず源太!!お前の実力を見てみたいから、俺にその棍で攻撃しに来い!!」
竜賀「出たよ……」
源太「マジで!?そんじゃあ、おやっさんは何の武器使うんですか!?」
光男「何も…」
源太「は!?」
光男「徒手空拳……つまり素手でお前の攻撃を全て躱して見せようか?」
源太「…舐めてるんすか?適能者の速さと怪力を…!?」
光男「だったら試してみようか……適能者ってのがその能力に感けて、どんだけ思い違いしているかってことをさ」
源太を挑発する光男の目は自信に満ち溢れていた。竜賀は自分がワイルズを殺した夜を思い出した。
竜賀(こうなった時の親父容赦ないからな……せめて怪我だけはさせんなよ…)
源太「トシュクウケンだか何か知らねぇけど…素手で霊具持ちの適能者の攻撃を躱すだと!?俺より身体が大きいってだけで勘違いしてんのはそっちだろ!!」
源太は棍を頭上に構え、攻撃する準備をした。源太も光男の言葉にムカついている顔をしていたが、自分が負ける訳がない自信に満ち溢れた感情が身体中から漏れていた。
光男「そんじゃ竜賀、始めの合図出してくれ」
竜賀「はぁ…はいはい」
竜賀は源太と光男の真ん中に立ち右手を前に突き出し、面倒臭そうな顔をしながらーーー
竜賀「そんじゃ…始め!」
ドンッ!!
竜賀の掛け声の瞬間に、源太は空高く飛び上がり身体を大きく反らしながら棍を振りかぶりっていた。
源太「アアアアアアアア!!!!」
光男目掛けて落ちてくる源太は身体全体の力で棍を振り下ろしてきた。
光男は慌てる様子を一切見せず、やれやれと呆れた表情で棒立ちしていた。
源太「ガアッ!!!」
光男はその渾身の一撃を身体を源太の右側に回り込む様に紙一重でヒョイと躱した。
ドカアアアン!!!
源太の棍は物凄い衝撃音を響かせながら、地面をめり込んでいた。光男はそれをまるで何事もないかのような表情で見つめていた。竜賀は少しビビっているような表情をしていた。
竜賀「スッゲェ怪力……」
源太「へっ……運良く避けたのか…」
源太は地面からそのまま横に薙ぎ払う様に光男の顔面目掛けて棍を片手で振ってきた。
源太「おりゃ!!」
光男「…ん」
光男は顔に向かって飛んでくる棍の先端を頭を下げながら簡単に避けてみせた。その後再び攻撃を仕掛けようと棍を振り回していたが全く擦りもしなかった。
源太「oh sit!!」
光男「やれやれ…やっぱりそんなもんか……」
竜賀「相変わらず子供弄ぶのが好きだなあ」
源太は自身の攻撃を紙一重で全て避けられるのにイライラしている様子であった。それを見ていた竜賀は徐々にもどかしい気持ちになっていった。
竜賀(源太…それじゃあ父さんに棍棒当てることなんて出来ねぇよ……確かにギリギリで父さん避けてるみてぇに見えるけど大分余裕そうだぞ……)
竜賀は心の中で源太にそう言っていたが、そんな思いも虚しく源太の棍は光男に軽々と避けられていた。
光男「もういいよ」
光男はそう一言だけ放つと、源太の両手首を掴み取り、手首を捻る様に源太の身体を地面に叩きつけた。
ドン!!!
源太「ぐあッ!!?」
光男「こりゃ重傷だな……今まで無事だったのが奇跡なくらいだな」
源太「何だと!?」
光男「竜賀!!今の源太が何が駄目だったと思う!?」
竜賀「何が駄目って言ったって……」
源太「俺に駄目なところなんてあんのかよ…」
竜賀「見てる感じ良いところ探せって方が難しいと思うけど…」
源太「はぁぁっ!!??」
竜賀がサラッと源太の悪口を言ったことで源太はカッとなっていたが、竜賀が続けた言葉で怒りがスッと引いていった。
竜賀「源太は実戦剣術稽古の時の俺と同じ失敗をしてるってこと??」
源太「え?」
光男「はい我が息子、正解!」
光男は竜賀を指差し、よくぞ気付いたと言わんばかりにニヤッとした。
源太「一体何なんだよそれ!!訳わかんねぇよ!!何で俺が竜賀と同じ失敗をしてるって言われるんだよ!?」
源太が何やら答えを求めるかのように声を荒げたが、光男はそれを落ち着いた様子で諭す様に話しかけた。
光男「それをこれから説明していくんだよ…でもな…」
そこで話を切って改めて2人に向き合った。
竜賀「何で改まってるの?」
光男「竜賀にしろ…源太にしろ…これから俺が話すことをちゃんと“納得”することが大事なんだ。“理解”するだけじゃ足りねぇんだ…“納得”する必要がある」
源太「何が違うの?」
光男「……仮に伽霊能力や体格が伸び代0の状態になっても…それが自分の限界なんて絶望する理由には決してするな。“技”と言う伸び代がある…」
竜賀「……技……」
光男「ああ…“技”ってのは己の人生全てを捧げて探究するもんなんだ。“技”に終わりはねぇ」
源太「そんじゃその“技”を手に入れればおやっさんにだって勝てるってことだな!!」
光男「ああ……そう言うことだ…そのことをしっかり各々考えながら稽古してみるこった」
そして光男は木刀を手に取り、2人と距離をとって素振りを始めた。
竜賀「源太…」
源太「ん?何??」
竜賀「俺もお前もさ多分…戦う才覚とか、伽霊能力とか……生まれる時に与えられた力に胡座をかいてここまで戦ってきたと思うんだよ」
源太「うん…でもそれも自分の立派な力の1つだろ?」
竜賀「そうなんだけど…さ……多分それじゃあすぐ俺達すぐ限界来ると思うんだ」
だから、と言葉を続ける竜賀の顔を見ながら、次の言葉を源太は待った。
竜賀「ただ漠然と稽古してちゃ時間を無駄にするだけなんだと思う。1人の人間に与えられてる時間って思ってるより“有限”だからさ?……考えながら稽古してみようぜ、今からでも全然間に合うからさ!」
源太「……ああ!!」
その様子を横目にフッと光男は笑っっていた。
光男(ようやく…一歩目ってところかな?)
To Be Continued