#41 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第28話「お別れと旅立ち」
藍川光男と竜賀はホテル『ローグ』から少し離れた所においてあったジープに近付いた。
光男「えーーっと……確か…ここに鍵が入ってる筈だけど…」
竜賀「…もしかして失くしたとか言うんじゃ?」
光男「お!…あったあった♪…ほらよ」
光男はポケットの中から車の鍵を取り出しドアを開けた。
竜賀「父さん…源太はどうするの?」
光男「ん?…まっ…そのまま寝かせておいてやりな…」
竜賀「また連れて行かなかったって聞いたら、怒るかもよ?」
光男「まぁまぁ…『サウザンド・ダイ』にはあの歳のアメリカ人が見るには刺激が強過ぎると思ったしな」
竜賀「刀についてケリガン・コーエンさんに聞きに行くんでしょ?別によくない?」
光男「あの人の店にはこの藍風だけじゃなく、銃も沢山あったから…悪い知恵でも付いたら大変かな〜てな」
竜賀「……はぁ…後で絶対怒られるけど…それなら甘んじて受けるしかないな…」
_____千の死に竜賀達は到着した。
光男「さてと…これもチェックしてもらうとして…竜賀も聞きたいことがあるんだよな?」
竜賀「うん…」
店の前に来た時には扉には『close』の看板が出ていた。
光男「やっぱりな…」
竜賀「もしかしたら…居ないかな?」
竜賀は扉をできるだけ大きな音が出る様に叩き、大声で呼び掛けた。
竜賀「ごめんくださーーい!!!Mr.コーエン!!!」
すると暫く待っていると扉の奥から足音が響き渡った。徐々に近付いて来る足音が穏やかではなかったので竜賀と光男は顔を見合わせ、急いで刀や鞄を地面に置いて両手を挙げた。
バンッ!!
物凄い勢いで扉が開いたと思ったら店の門番が回転弾銃を構えて出て来た。
門番A「誰だ!!」
光男「私ですよ…取り敢えず…落ち着いて銃を下ろして頂けませんか?ジェントルマン?」
門番A「おお!!?…Mr.アイカワではありませんか!?これはとんだ失礼を!!ささ!中へ!!」
竜賀「……初めて会った時と全然対応が違いますね?」
門番A「それもそうですよ!!貴方方はこの都市シカゴを救って下さった英雄でございますから!!」
二人は刀と鞄を持ち店の中に入って行った。店の中には武器が所狭しと並んでいたが竜賀と光男はそこには目もくれず、案内されるまま店の奥に入って行った。
門番A「師匠!お疲れの所申し訳ないんですが、もう一つ仕事が来ましたよ!」
ケリガン「何だ?一体…」
奥の部屋の扉から疲れた様な声を出しながら筋肉隆々の白人大男が出て来た。その男は二人の客人の顔を見ると途端に顔がパァっと明るくなった。
ケリガン「おお!!またすぐに来てくれるとは!!シカゴの英雄達よ!!」
光男「コーエンさん…単刀直入にお願いがあってきました…」
ケリガン「良いよ…俺にできることなら何なりと!」
光男「今朝終わったばっかりのブルガント団のシカゴ襲撃事件で、貴方から預かっていた大切な刀を実戦でかなり使ってしまいました。その刀のメンテナンスを貴方にお願いしたい」
光男は刀袋から藍風を取り出し、ケリガンに渡した。
ケリガン「そんなことか…良いよ、そこにテキトーに掛けて待っていてくれ」
ケリガンは作業台に鞘から抜いた藍風を置き、椅子に座って明かりに照らしながら刀身の状態を見ていた。竜賀と光男はケリガンが指した椅子に腰掛け、ケリガンの様子を見守っていた。
そこから沈黙が続き10分経ったくらいのタイミングでケリガンは一つ深呼吸をした。それを合図に二人共顔を上げた。
光男「どうでした?」
ケリガン「うん…見る限り状態は良好…目立った刃毀れも無かった」
その言葉に光男はホッとした様に息を吐いた。その様子を見たケリガンはニヤッと笑いながら光男に言った。
ケリガン「ははは…当然刀は剣の心得を持たない素人が振えば、唯の鉄の棒切れに成り下がってしまう…しかし、一度達人が握ればそれは“芸術品”と成る」
光男「え?」
ケリガン「俺の師匠であった沢城大吾郎の言葉さ…刀は飾っても格好良い。しかしやはり刀が選んだ持ち主が使っている時が最も刀の本来あるべき姿なんだと言う教えだ…」
光男「俺が師匠から剣道を学んだ時とは全く違う教えですね」
ケリガン「ほう?…それはどんな教えかな?」
光男「剣は凶器…剣術は殺人術…刀とは触れる者の生命を奪う為に生まれてきた物…そして剣士とはその運命を操る者である…と」
ケリガン「………興味深い言葉だね…剣は人を殺す為に生まれてきたと……」
ケリガンは握っていた刀に目を移し、刀身の刃をじっと見ながら呟いた。
ケリガン「確かにそうかもしれないな…藍風も本当は人の血を求めてんのかもしれねぇな…刀は持ち主を選ぶ」
ケリガンは立ち上がって光男に刀と鞘を渡した。
ケリガン「刀の声は俺には聞こえねぇ…しかしもしその声を聞けるとすれば、君の言う通り藍風も人の血を求めてんのかもしれねぇ…それがこの刀の運命であり、望みかもしれん」
光男は刀を鞘に納めて、刀袋に入れた。
ケリガン「この刀が光男君を選んだのは、藍風を満足させられる技術を持っている剣士が漸く見つかったからかもな」
光男「真実はまだ分かりません…しかし、それが本当だったとしても私は人間を殺すつもりは一切無いので…」
ケリガン「それが良い」
竜賀「Mr.コーエン」
ケリガン「!おお忘れていたよ竜賀君!」
竜賀「あの…もう一つ見て欲しい刀があるんですけど…」
ケリガン「……今持っていないようだが…?」
ケリガンは竜賀の手元を見た。竜賀は右掌を広げ霊媒印を出すと、伽鍵礼符を取り出した。光を放ちながら礼符は刀の姿に変わった。
ケリガン「なるほど…その霊具か…」
竜賀「前来た時に見て欲しかったんですけど、タイミング逃しちゃって…これを機に見ていただけませんか?」
ケリガン「…本来霊具って言うのは謎に満ちた道具だ…その秘められた力を理解できるのは…その持ち主だけなんだがな…研究機関でもねぇのに霊具を調べてくれなんて言ってきたのはお前が初めてだぜ」
ケリガンは刀を受け取ると、鞘からゆっくり刀を抜き出した。するとケリガンの目は吸い込まれる様に刀身に釘付けになった。
ケリガン「…………………何だこれは……」
ケリガンは刀を抜き切ると眉を寄せて、刃を怪訝そうな表情で見ていた。
光男「………やはり……妖刀ですか?」
ケリガン「そうとしか説明できんだろうな……しかもかなり悪質な…」
ケリガンは慎重に持ち上げ色んな角度で刃を見ていた。
ケリガン「悪いがこれを一度分解して確かめさせてもらえるかな?」
竜賀「はい……」
ケリガンは柄の中央にあった金具を取り外し、木槌で目釘を外し柄から刀身を布を使って取り出した。
竜賀も初めて見た自分の刀の刀身は部屋の灯りに照らされ不気味に輝いていた。
ケリガン「見たこともねぇ刃紋だし……反りがそんなに無い…」
竜賀「反りが無い?」
ケリガン「そうだ…日本刀は大体湾刀つって刀身が全体的に曲線状に曲がっているもんだが、この刀は反りがあんまりない直刀型の日本刀だ」
竜賀「直刀型だと湾刀型とどう違うんですか?」
ケリガン「湾刀型だと…例えば薙ぎ払う時に刃が喰い込んで止まった時に刀を引くと斬りながら刀を引き抜くことができる。つまり薙ぎの攻撃に強いんだ。丁度今君のお父さんの握っている藍風はオーソドックスな湾刀型だ」
ケリガンが藍風を指差して示すと光男は鞘から少しだけ刃を抜き、刀身の曲がり具合を見せた。
ケリガン「それに対して竜賀の持っているこの直刀型は抜く時にも多少斬れ味があるかもしれんが、かなり刀身が真っ直ぐだから薙ぎ払うよりは突く方が力を発揮するんだ」
竜賀「突く?突き技ってこと?」
光男「剣道でも歴とした技としてはあるが、刺突技だけを極める剣士なんて見たことがない」
竜賀「でも幕末の日本では刺突を得意としていた戦闘集団がいたって」
光男「ああ…新撰組だな…戦術の鬼才土方歳三が編み出した“平刺突”だな」
ケリガン「ヒラ…ヅキ?何なんだそれは?」
光男「通常の剣術における刺突は刃を下に向けるんですけど…」
光男は藍風を使って技の説明を始めた。
光男「新撰組の使っていた“平刺突”は刃を横向きにして刺突を行うことで、仮に避けられても間髪入れずに横薙ぎの第二攻撃に変換することができるんです」
ケリガンはその説明をかなり興味深そうに聞き入っていた。自分が関わっている武器に対して使用者がどんな使い方をしているのか気になっているようだ。
竜賀「そっか…それじゃ無理に父さんの真似をしようとせず、この刀に合う突き技を磨いていけば良いのか…」
光男「それと…お前の身体に見合った技をな」
ケリガンは柄に刀身を戻し、鞘に刀を納めると刀を竜賀に返した。
ケリガン「竜賀…今分かっているのはコイツは相当凶暴な武器だ…持ち主の意志を無視して人の生命を奪ってしまうかもしれない」
竜賀はその言葉を聞いた瞬間何かを思い出してハッとした。ケリガンはその表情を見逃さなかった。
ケリガン「何か心当たりがあるんだな!?」
光男「……Mr.コーエン…この子は…この刀で人を殺したことがあるんです」
ケリガン「いつ!?」
ケリガンは険しい顔で光男に問い詰めた。
光男「丁度十日前ぐらいです…」
ケリガン「………」
光男「この子が伽霊能力に目醒めた時ぐらいの時にこの刀も現れたんです…でもこの子は初めて握る真剣に腰が引けて満足に扱えなかったんです」
竜賀は暗い表情になっていった。ケリガンはワナワナと震えていた。何か怒りを抑え付ける様に喋りかけた。
ケリガン「それで?…どうなったんだ?……罪も無い人を殺したとでも?」
光男「いえ、ミーモスト一味って伽霊能力の犯罪集団です。そいつらと戦闘になって最後息子が殺されそうになってた時だったんですよ」
さっきまで怒りに震えていたケリガンがコロっと表情が柔らかくなった。
ケリガン「なーーんだ!!そうか!!ミーモスト一味か!!良かった良かった!!」
竜賀「怒らないんですか?」
ケリガン「罪の無い無適能者を殺してしまったんなら、それは赦せねぇ事態だったがミーモスト一味なんてごろつき集団だったなら良かったよ…一鍛冶職人としては剣や刀が正義の為に使われているんなら職人冥利に尽きるってもんだ」
光男「……お気楽だなぁ…」
ケリガン「でも君らの言いたいことも理解できる。妖刀とは言え剣士と呼ばれる者が剣を操るのではなく、剣に使われていただけなんて情けない話だからな」
ケリガンは向き直って真っ直ぐな目で竜賀に言い放った。
ケリガン「竜賀……これは俺の師匠が言っていた言葉だ…妖刀とは天命を全うする誉高き剣であるってな」
竜賀「妖刀が!?だって呪われているんですよ」
ケリガン「俺もその言葉の意味は解らなかった…今日君の持つその刀を見るまではね」
竜賀「この刀?」
ケリガン「ああ…俺も妖刀ってのはもっと不気味な気を放っていると思っていた。でもそうじゃなくて……その刀の刃は刃毀れ一つ無く美しいままだった…そして最高の切れ味をずっと保っている。惚れ惚れするほどにな」
竜賀「こんな持ち主の意志を無視して勝手に動き出して、無闇な殺生をする刀が美しいなんて…」
ケリガン「その結果その刀は持ち主である君を守ったじゃないか?違うか?」
竜賀「それは……そうですけど…」
ケリガン「持ち主を守る為に勝手に動いた。刃毀れ一つ起きない。切れ味は絶大。戦い続けているのに刃は美しさをずっと維持している。そんな刀を造れるなんて刀鍛冶にとっては誇りだよ…例えそれが“妖刀”と凡人に恐れられようがな」
竜賀「刀鍛冶の…誇り…」
ケリガン「竜賀。その刀に名前はあるか?」
竜賀「名前?そんなモノがあるんですか?」
ケリガン「あるさ!全ての霊具には名前がそれぞれあるんだ!その名前を聞き出せるのは持ち主である適能者だけだがな…竜賀、これからもっと強い適能者になっていけばいつかこの刀の名前を知る日が来るかもしれん!それまで死んだりすんなよ!」
竜賀「精進します」
ケリガン「それと光男君…俺の親友にその刀を必ず届けてくれ!それが俺の願いだ!頼んだぞ!それを使って戦っても良いから…その本物の藍風をな」
光男「本物?」
ケリガン「師匠が俺にその刀を託す時にそのことを話してくれたんだ…藍風だけじゃない、沢城大吾郎作七聖剣は名のある剣客であれば喉から手が出る程欲しい逸品だ…だからそれを巡って幾つもの争いが起こるだろう……6本の真打は見つかっているが最後の1本の真打は幻としてケリガン・コーエンが隠しておいて欲しいってな」
光男「これがその真打…ってことは影打は!?」
ケリガン「そう…藍風に成れなかった影打…つまり贋作が今の日本で3本出回っているらしい…なるべく早くこの真打の存在を世の中の明るみ出して安全な場所で保管しておいて欲しい」
光男「それまでにこの刀が折れたりしないかが心配だけどね」
ケリガン「大丈夫…その刀は持ち主を光男だと認めている。そこはもっと自信を持って良い」
ケリガンはそう言うとニコッと笑った。竜賀と光男はケリガンの言葉で少し気持ちの整理がつき車に乗ってホテル『ローグ』まで戻った。
戻って来た時には猿渡源太は食事を終わらせた後だった。源太はホテルの玄関ホールで二人を待っていた。
源太「俺に内緒でまたサウザンド・ダイに行ってきたなんてズル過ぎるよ!!」
光男「だって源太ずっと寝てたからな」
竜賀「俺らは唯刀のチェックをしてもらいに訪ねただけだから」
源太「俺だって如意棒のチェックしてもらいに行くぜ!!」
そうやってギャーギャー叫んでいるところで源太の後に二人のマクシム連合の隊員が近付いてきた。
ルーカス「Mr.アイカワ」
メリアン「ご機嫌いかがかしら?」
光男「お!ルーカスとメリアンじゃないか!」
二人は光男に何やら複雑そうな表情をしていた。
光男「どうしたんだ?何か元気が無さそうだけど」
メリアン「あの…申し訳ありませんでした!!!」
光男「え?」
ルーカス「我々の勘違いで貴方方を攻撃してしまって!!それに息子さんである竜賀君まで傷付けてしまった!!」
光男「ああ…そのこと?」
竜賀「別に気にしてませんよ」
ルーカス「しかし!!そのせいで貴方方は!!」
光男「貴方達は何も知らされず自分達の任務を全うしようとした。それを咎めるつもりはありませんよ」
竜賀「二人は源太の事情をちゃんと理解してくれてる。それで今は十分ですよ。な!源太!」
源太「うん!」
メリアン「そう言ってくれるのは有難いですが…」
思いの他律儀だったルーカスに光男は少し驚いていた。光男はこのままでは話が前に進まなそうと感じて、あることを閃いた。
光男「それじゃあ我々の頼みを二つ聞き入れてもらえませんか?」
ルーカス「!…どんな頼み事ですか?我々にできることであればどんなことでも!」
光男「この子…源太が亡くなったことにしてもらえないですか?」
光男は源太の肩を掴んで言った。
光男「マクシム連合のインディアナ支部も咄嗟に吐いた嘘で大事にしたくないでしょうし、源太はこのシカゴの騒動に巻き込まれて死んだことにしておけばそれ以上は何も言ってこないと思うんです」
ルーカス「それは良いですけど……」
竜賀「何か気掛かりなことでも?」
ルーカス「それじゃあ源太君はどうするんですか?」
光男「それは…我々が一緒に日本に連れて帰ろうかな、と」
ルーカス「それは…正直お勧めできませんね」
メリアン「私も同感です!今の貴方方と一緒にこの子を連れて行けば目立ち過ぎてしまいます!」
竜賀「え!?何で!?」
ルーカス「今シカゴでは藍川光男と、竜賀は噂になってしま程有名人になっています…源太君が死んだと嘘の情報を流しても、貴方方親子の傍にいるだけでインディアナ支部にダミアン・シーベルトが生きていることがバレます」
竜賀「それじゃあ行方不明なら…」
メリアン「そっちの方が血眼になって探しに来るでしょうね……」
竜賀「そっか…」
五人は考え込む様に黙り込んだ。しかしそこに口を挟みに来た者がいた。
マーカス「良かったらウチでその子を預かろうか?」
その提案に五人が一斉に振り返った。そこには一仕事終え、ほっと一息ついたマーカス・ジャッジが立っていた。
ルーカス「良いんですか??」
マーカス「ああ…親友がいなくなっちまって俺一人って感じだし…辛うじて無事だったこのホテルを回していくには人手が欲しいのさ」
源太「それだったら嬉しい!!俺頑張って仕事覚えるよ!!」
マーカス「そうか……それにコイツが一番生きていることが確認できる上に、そのインディアナ支部の裏をかくことができる絶好の穴場がホテルスタッフだからな」
メリアン「確かに…死んだって言う報告を受けても一応調べ直しそうではあるから必ず貴方方二人はマークされるでしょうね」
光男「そんなタイミングで源太が俺達の傍にいたら…」
ルーカス「勿論我々二人は嘘の報告をしたことで処罰され、貴方方は皆殺されるでしょうね…そうならない為にもインディアナ支部の目を欺く必要があります」
マーカス「その為にシカゴ都市内のホテルのスタッフとして働かせる……大分紙一重の賭けにはなっちまうが」
竜賀「でも日本には『灯台下暗し』って言葉もあるくらいだから…シカゴ支部の目と鼻の先のホテルでお目当てのダミアン・シーベルトが呑気に仕事してる訳なんてないって思うかも?」
メリアン「大分希望的観測になるわね…それでも一人で行動させるよりずっとマシか…」
光男「マーカスさん…この子のこと…宜しくお願いします!」
マーカス「ああ…任せておけ!この子はいつか自分でホテルを持てるところまで育て上げるさ」
竜賀「源太?それでも良いか?」
源太「うん!…いつかまた会える日まで俺は俺で成長していくよ!」
光男「棍術の腕も並行して伸ばしながらな?」
源太「うん!!」
_____必要な荷物を車に載せ終わった光男と竜賀はもう忘れ物はないかどうか確認していた。
マーカス「本当に行っちまうんだな?もっとゆっくりしていっても良いんだぜ?」
光男「いえ!ここに今の我々がいると何かと状況が悪くなりますんで…なるべく早く出て行こうと思ってます!」
竜賀「それに!僕達も早く日本に行きたいですし!」
レスリー「本当に…何て御礼を言えば良いか…」
竜賀「その気持ちだけで十分ですよ!」
光男「それで言うんなら、アンタだけは知ってるっと思うけど…インディアナ支部にいるジョージ・マッカートニーって男が源太を探しに来る筈だけど、それに関しては知らないフリして守って下さい」
レスリー「はい。それについては責任を持って彼を守ります」
メリアン「Mr.アイカワ…さっきの話なんですが…」
光男「ああ…二つ目の願いね…君とお兄さんのウィルソン君と一緒にモートレートタウンに戻って両親に会って挨拶して来いって願い」
メリアン「あの……そんなことで良いんですか?」
荷物を積め込む作業の手を止め、メリアンの目を真っ直ぐ見ながら言い放った。
光男「君は大分あのご両親のところに顔を出してないんだろう?仕事が忙しいのを理由にして」
メリアン「!……やっぱり…両親のこと知ってたんですか?」
光男「ああ…世話になっていたからね」
メリアン「この仕事が今の適能者としての私が輝ける居場所だから…」
光男「その気持ちは理解できるが…君もウィルソンもちゃんと成長できてはいないらしいな…」
メリアン「どういうことよそれ!私達はマクシム連合で能力を磨いて霊段階をドンドン上げてきた!それなのに!」
光男「両親がその努力を全く見てくれないって?それは違うぞ」
メリアン「え?」
光男「君達のご両親はね、君達の適能者の霊段階の高さとか、組織の軍人としての地位の高さなんて外側の部分を見て評価してるんじゃない」
メリアン「どういうこと?」
光男「君達の内面を見て評価してるんだ…適能者としてではなく、メリアン・ベイカーっていう一人の人間の成長を…見守ってるんだよ」
メリアン「私達の…内面…」
光男「ちゃんと一端の大人としてあの二人に認められたいなら、“一人の人間”としてやるべきことはちゃんとやれ…自分でやったことの責任も取らず終わらせてる内はまだまだ半人前だな」
メリアン「そんな…!!」
光男「俺にもそんな時期があったよ…自分の力を過信して突っ走って、周りの大人達に迷惑ばっかり掛けてたからな…君はそんな風にはなるなよ」
メリアンは光男の話で反対意見をクッと飲み込んだ。するとそこへルーカスがやってきた。
ルーカス「丁度良いじゃねぇか!ここんところ働きっ放しだったから休暇ついでに親に会って来いよ」
メリアン「リーダーまで…」
光男「ついでにお兄さんも連れてな」
メリアン「兄は仕事に没頭してしてますので…」
ルーカス「俺が上に頼んで二人の休暇を取得できるようにするから、お前は兄貴を力づくでモートレートタウンに連れて行って長期の休息を取れ」
メリアン「………解りました…」
光男「あの二人も君達兄妹に暫く会えなかったのを寂しく思ってたらしいから…しっかり二人の我儘に付き合ってやってくれ」
メリアン「………はい」
大人達がそんなやり取りをしている中、竜賀と源太は大人達に見えない物陰に隠れていた。
源太「何だよ竜賀?」
竜賀「源太これから俺ら離れ離れになっちまうだろ?だからまた会えるまで…これ…」
竜賀は右手から伽鍵礼符を取り出した。それは竜賀がこの戦いで手に入れた霊段階4の礼符であった。
源太「これ…!!?」
竜賀「その能力が昨日俺をずっと守ってくれたんだ…源太も大変かもしれないけど御守りだと思って」
源太「でもこの能力、竜賀じゃないと使えないんだよ?」
竜賀「うん!だからこれは源太が大切に持ってて…そんでいつか大人になったらこれを俺に返しに来て」
竜賀はそう言うと源太の手に伽鍵礼符を握らせた。源太はそれを大切そうに持って竜賀の目を真っ直ぐに見つめた。
源太「………よし!!そんじゃ俺もっと強くなる!!強くなって立派な適能者になって竜賀と一緒に戦えるくらいになって!これ返しにくる!それまでに竜ちゃんも強くなってろよな!!」
竜賀「うん!!!」
二人の少年はお互いに手を握り、1枚の礼符に誓いを込めた。いつかまた会えるその日までに強くなると。
そしてジープに二人は乗り出発しようとした。その運転席の窓にレスリー・コーナーが近付いて来た。
レスリー「ヘーイ…ほんっとうに行っちまうのかい?暫くシカゴに居れば良いじゃないか?」
光男「言ったでしょ、俺達には帰る場所がある…ここにはずっといられないですよ」
竜賀「コーナーさん!短い間でしたけど本当にお世話になりました!貴方に知り合えたこと心から光栄に思います!」
レスリー「ありがとう竜賀…また会おう」
光男「…源太のこと宜しくお願いしますね」
レスリー「任して下さい」
そして光男と竜賀の二人を乗せたジープは瓦礫の山が広がるシカゴの都市をあとにした。さらなる試練が二人を待ち構えているとも知らずに。
To Be Continued