#22 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第9話「託された宝刀」
真夜中のネオンに照らされた大都市シカゴ。しかしそんな場所とは思えないほど不気味な薄暗い石造りの狭い長いトンネルを二人の双子の男達が足を引き摺る様に歩いていた。
グレイブ「ジェイコブ?大丈夫か?」
ジェイコブ「ぅ……ああ…」
グレイブ「後少しでアジトに着く…だから頑張れ」
血が頭から滴り落ちる男の肩を担いでいるのは兄であるグレイブ・トンプソン。足も満足に動かせない方が弟のジェイコブ・トンプソン。
二人共トンネルの奥まで歩いていくと、木の扉の前に立ち扉を独特のリズムで叩くと、小窓が開きが大きな二つの眼がギョロギョロと二人を捉えた。
門番「合言葉」
グレイブ「戦場こそ金のなる木」
門番「入れ」
ガチャッ!
扉の鍵が開けられ、門番が二人を急いで招き入れた。
二人は扉の中に入ると、そこには大理石の綺麗に整えられた床と白い柱が並べられており、高い天井から釣り下げられていたランプが通路を明るく照らしていた。
その通路の傍らにある壁に背を預け、もたれかかっているオレンジ色の髪の男がグレイブに話しかけた。
???「ヨーーー……これはこれは〜ハハハハハハ…トンプソン君ではあーーりませんか〜〜?その頭から流れてるのは…ホットドッグのケチャップではあーーりませんか〜〜?中々私の様な凡人には到底理解の及ばないファッションセンスをお持ーーちのようで〜〜!?」
グレイブ「ノルスタイン卿……相変わらず…ふざけた口調だな」
ノルスタイン「オーーー…ソーリー…これはこれはお気に障ーーりになりましたか〜〜?しかーーし普段であれば気にも止めーーないようなトンプソン君が〜〜その様な恐ーーい顔をなさーーるだなんて〜〜」
グレイブ「何が言いたい…?」
ノルスタイン「君達トンプソン兄弟をそこまで苦しめーーる宿敵と呼ぶに相応し〜〜い強敵だった…とでも言い訳なさりたーーいのですか〜〜我らがボスに…??」
グレイブ「…ッ!!!」
ドン!!
グレイブのレーザービームがノルスタインの顔目掛けて放たれた。しかしノルスタインはその攻撃をいとも簡単に躱し飄々とした顔で言葉を続けた。
ノルスタイン「おお〜〜恐い恐いでーーす!何ともヤバーーンなお方で〜〜す!」
グレイブ「うっせぇぞ!!次またその鬱陶しい口を開きやがったらただじゃおかねぇぞ!!」
???「トンプソン!そこまでにしておけ!!」
通路でまた別の雄々しい声で呼び掛ける男が奥から現れた。
グレイブ「スティーブン……」
スティーブンと呼ばれるその男は英国騎士の様な服装をし、背筋をピンと伸ばし整えられたオールバックの黒髪と髭をした、いかにも軍隊のお偉いさんにしか見えない風貌の男だった。
スティーブン「グレイブ…苛立つ気持ちを抑えてくれないか?今はボスは取り込み中なんだ。来客でマクシム連合のウイリー少将が来ていらっしゃるんだ。ノルスタイン卿……そんな時に人を揶揄う様な口調は控えていただきたいと頼んでいたはずだが?」
ノルスタイン「オオ〜〜ソーリーソーリー……私も気を付けまーーすのでその様な恐〜〜い顔をなさらな〜いで下さーーい」
スティーブン「……グレイブ…ジェイコブの治療はとりあえず俺が医療チームに頼んでおく。お前は何があったのかボスに報告しろ。ウイリー少将が帰った後でな」
グレイブ「了解……」
スティーブンはジェイコブの身体に触れると、ジェイコブの身体が宙を浮き始めスティーブンの手の動きに合わせて移動していったーーー
ーーーしばらく時間が経つと奥の扉が開き、白い軍服を身に纏ったネイビー色の髪の男が部屋から出てきた。その隣にスーツを来た片眼鏡の男が帰りに付き添っていた。
ウイリー「それでは…私はこれで失礼する」
???「ええ…ウイリー少将……これからもこの関係が長く続く様にお願いいたしますね?」
ウイリー「あ、ああ……こちらも君の組織の資本力の恩恵を受け取って、この地位を“買う”ことができたんだ。ではまた」
???「こちらこそ!」
二人の男はお互い握手して、そこで別れた。片眼鏡の男はウイリー少将が出て行くのを見届けた後部屋に戻ろうとした。
グレイブ「ボス!!Mr.アレックス・ブルガント!!」
アレックス「?」
通路で待っていたグレイブが、ボスらしき片眼鏡の男に声を掛けて引き止めた。
アレックス「グレイブ……一体何があった?お前をそこまで苦戦させる敵は誰なんだ?」
グレイブ「ッ!……シカゴのホテル『ローグ』の前で殺り合ったんです!名前はゲンタ・サワタリとリュウガ・アイカワです!二人共適能者です」
アレックス「…………」
グレイブ「俺と弟の攻撃を一撃も喰らわず俺達を倒したガキ共です」
アレックス「…とりあえず中で話を聞こうか…」
アレックスはグレイブを手招きすると、グレイブはそれに従って中に入っていった。
その部屋は黄金の硬貨に囲まれていた。綺麗に並べ立てられた金貨が眩い光を放っていた。
アレックス「さっきの話だが……ガキってことは、子供って言うことか?」
グレイブ「え、ええ!……ゲンタって言うガキは棍棒使いで、もう一人のリュウガってガキが剣術使いです!二人共接近戦に強く機動力も高いですが、遠距離からの攻撃には弱いので……」
アレックス「……で?」
グレイブ「え?」
アレックス「そこまで解っていながら、なぜお前らはそのガキ共に良いようにやられたんだ?倒せない訳はねぇよな?そこまで分析できてて」
グレイブ「それは……あっちがガキだったモンでこっちが油断しちまって…」
アレックス「結局…理由はそこにあるんじゃねぇか?お前らが敵を前にして相手の見た目で判断して手を抜いた結果が今だろう?」
グレイブ「……!!」
アレックス「まぁ…そこの椅子にでも座りな」
グレイブ「それじゃ」
グレイブはアレックスの指差した椅子に腰掛けるとなにやら罰を受ける子供の様に、ビクビク恐がっていた。
アレックス「なぁ」
グレイブ「はっはい!!」
アレックス「この金貨どうだよ?中々良い出来だろ?」
アレックスは机の上に置いてあった金貨の一枚を取り上げ、それをグレイブに投げ渡した。グレイブは慌ててそれを受け取ると、金貨に彫られている文字や絵を必死に見た。しかしグレイブの意識は金貨には向かっていなかった。グレイブの額からはもの凄い量の汗が吹き出ていた。
グレイブ「………はぁ…はぁ……ッ!とっ!とっても!!とっても素晴しい出来だと思います!!」
アレックス「そうだろう!そうだろう!ハッハッハッハッハッッハ!!」
グレイブは吃りながらも何とか言葉を捻り出した。それを聞いたアレックスはわざと高らかに笑って見せた。
アレックス「ハッハッハッハッハッハ!!……でもな?所詮どれだけ良い品質のモン造ったってな……否が応でも“偽物”だってことに気付かされんだよ…」
ガッ!!
グレイブ「!!?ガハッ!!」
そう言った瞬間、アレックスは左腕をグレイブの首に回し締め上げ始めた。ジワジワと締め上げる腕力を強くしていき、グレイブは苦しさのあまり頭の中が真っ白になっていった。
アレックス「こうやって偽造通貨を造り続けてるとよ……“偽金”だってバレんのが恐ぇから必死になって品質に拘り続けて頭が狂っちまいそうな毎日を過ごすことになっちまうんだよ」
グレイブ「うううう……!!アレックスさん……!!ぐるじ…い……!!」
アレックス「でもそんな時ふと気付いちまったんだよ……金ってのはどこまで行こうが、ただの石コロと紙切れにしかならねぇんだってことになぁ…!!!」
グレイブ「あ……!!カハ……!!!」
グレイブは手足をバタバタさせ必死に抵抗しようとするが背後からの首絞めに苦しむだけでどんどん力が抜けていくだけだった。
アレックス「元々“金”に“力”があるんじゃねぇ…“力がある者”が“金”を使わせるから……だから皆誰もが“金に力が宿っている”と言う“幻想”を見るんだよ」
グレイブ「ウグ………!!」
アレックス「“金を造る側”の人間は弱者を力づくで黙らせて金を流通させなきゃ意味ねぇよな?グレイブ?テメェとテメェの弟がそのガキ共に負けちまったせいで、俺の造る金の価値が下がっちまったんだよ!ここにある金貨もただの石コロに成り下がっちまった」
アレックス「テメェみたいな馬鹿に今の事態が解るか?そのガキ二人如ききっちりシメられねぇ奴がいるブルガント団なんか何にも恐くねぇって思われちまうんだよ!テメェの醜態晒したおかげでな!」
グレイブ「オ……エ……」
アレックス「テメェも適能者だってんならシメるとこはきっちりシメてこいや!!!」
ガン!!!
グレイブ「ガハ!!!……はぁぁ…!!はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!!!」
地面に叩き付けられたグレイブはようやく解放されて必死に肺に酸素を満たそうと呼吸をした。
アレックス「……チッ!ソルマン!!」
アレックスが半ばキレながら呼びつけると、壁をすり抜ける様にノルスタインが部屋の中に入って来た。
ノルスタイン「オオ〜〜お呼ーーびですか〜〜??」
アレックス「グレイブがやらかしたしくじりの為にこの俺が直々に出ることになった…」
ノルスタイン「まぁーーー何てこ〜〜とでしょーーう?敵はいった〜〜い誰でーーすか〜〜??」
アレックス「都市内のホテル『ローグ』ってとこにいるガキ二人らしい……このままブルガント団をナメられたままにしてたまるか!!」
アレックスはその後扉を蹴破る様に部屋を出て行った。ノルスタインはその様子を見てしばらくしてその後を着いて行く様に歩いて行った。
ノルスタイン「……シカゴもこれで終わりでしょーーかね〜〜」
ーーーーーー早朝ホテル『ローグ』にて、
竜賀・源太「どりゃああああああ!!!!」
ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガガン!!
光男「おお!やってる♪やってる♪朝から稽古とは師匠冥利に尽きるな〜!」
藍川光男が木刀を肩に担ぎながらホテルの庭で実戦稽古をしているのを見て愉快そうな声を上げた。木刀で戦っている藍川竜賀と、木製棍で戦う猿渡源太はその声に気付いて手を止めた。
源太「あ!おはようございます!!」
竜賀「!?おはようございます!!」
光男「おはようございます!!今日は一段といい挨拶だねぇ……昨日の戦い勝てたのがそんなに嬉しかったか?」
源太「いやーーバレちゃいましたぁ〜?」
竜賀「おい!そんなんじゃないけど」
光男「いいよいいよ!そうやって一つの成功体験を自信に繋げていくってのは」
源太「ホラ!おやっさんもこう言ってんだし!」
光男「……だが成功体験が邪魔する時もかなりあるからな」
竜賀「ホレ見ろ!そんな簡単に油断して良いことじゃねぇんだ!」
光男「ハハハ……まぁ昨日の戦いは二人共悪かったとこも良かったとこもキッチリ整理して自信になったと思うよ…慢心じゃなくて、自信にな」
光男も身体を伸ばしながら準備体操を進めていき、二人のもとへ近付いて来た。
竜賀「父さんさ……今日はどうする予定なの?もうすぐでシカゴから出て行くの?」
光男「ん?…イヤ、ちょっとこの都市の様子を見てみようかなって思ってる」
源太「え?この都市から出て行かないの?」
源太は不安そうな顔をしていたが光男はそれを落ち着かせるように優しく語りかけた。
光男「大丈夫だよ源太…なるべく早くこの都市から出て行く様にするから…」
竜賀「この都市で何か欲しい物でもあるの?」
光男「うん」
源太「何が欲しいの?」
光男「俺が戦う為の真剣…つまりは刀だな。なるべく日本刀の方が良いけど」
竜賀「やっぱり昨日みたいに父さんだけ丸腰ってのは不安なの?」
源太「木刀があるじゃん」
光男「木刀じゃ防御に心許なさ過ぎるからな……そこはなるべく良い真剣を手に入れておきたいんだよ」
竜賀「でもアテはあるの?」
光男「そりゃエリックさんに聞くのさ!おっ!噂をすればナントやらだ」
庭に部屋着で入って来て、目を擦りながら欠伸をしていた。
エリック「こんな朝早くから、剣術の訓練?」
光男「いつもの日課ですよ!朝の人間が集中力を発揮しやすい時間帯にキツめの稽古をすると技術が身に付きやすいんですよ!」
エリック「そっか…そりゃ良いけど…今日はどうするんだい?この都市から出て行くのかい?」
光男「それもあるんですが……この都市に鍛治屋か武器屋はありませんか?」
エリック「え?……そりゃあるにはあるが……何だい?無適能者として武器が無いのが怖くなったのかい?」
光男「ええまぁ……あんなに適能者が物騒な規模の破壊力を持っているんであれば、僕自身今のままじゃ息子達の何の助けにもならないので……」
エリック「分かった……そんじゃあ良い武器屋をいくつか知ってるから、そこに行くと良い!かなり良い拳銃や機関銃が揃ってるらしいから…」
光男「ああ!いや!!…あの…」
エリック「どうした?」
光男「欲しいのはピストル系じゃなくって…剣なんですよ…できれば刀が良いので」
エリック「はぁ!?剣!?光男!!アンタ正気かい!?そんなもんじゃ息子どころか自分の命だって守れやしないぜ!!」
光男「いえ…銃は使い慣れていないので、馴染み深い武器の方が良いんです」
エリック「………アンタがそう言うんなら……とりあえず心当たりのあるとこに連絡して、紹介状もアンタ達に出すよ」
エリックは言葉を飲み込んで、光男の要望通りにすると腹を括った。光男はその言葉に深々と頭を下げた。
光男「ありがとうございます」
光男「ーーーーーここか…」
光男は車を降りながらそう呟いた。シカゴの都市の目立たない路地を少し入ったすぐそこに探していた店があった。
ーーーー鍛冶屋『サウザンド・ダイ』ーーーー
竜賀「“千の死”…か……カッコいいんだか、物騒なんだか」
光男「まぁまぁ…これから手に入れる物を考えたらかわいい名前じゃないか…」
店自体は鉄筋コンクリートでできた頑丈なバーの様な雰囲気を出していたが、店の内側からは異様な空気が漂っていた。
源太「こんなところに本当に欲しい武器があんのか?」
竜賀「さぁね?」
光男「元々日本にある様な骨董品で尚且つレアな品物だからな……駄目で元々かもしれん」
竜賀「そんじゃここで大人しく車見てろよ」
源太「はぁ?せっかくだし!俺も店に入りたいっての!!」
竜賀「我儘言うなよ……車の中には食料や旅の必需品が山の様にあるんだぞ!誰かが監視してなきゃ駄目だ!」
源太「だったら竜賀がやれよ!」
竜賀「日本刀の見本を今持っているのは俺なんだよ……それにお前だけじゃなくて見つかって困るのは俺も父さんも一緒なんだからリスクも一緒だ」
光男「そういうことだ……けどもし本当にやばくなったらこの場から離れてもいいからな」
源太「……分かった」
光男「ありがとう…マクシム連合が来る前に帰ってくるのを祈っといてくれ」
それだけ言い残すと光男と竜賀は駆け足で店の入口まで走って行ってしまった。源太は車の中で身を屈めながら祈っていた。
源太「マジで急いでくれ二人共…」
ーーーーサウザンド・ダイの入口に近付いた時、突然扉が開き二人を突き飛ばしそうになった。
光男「おおう!??」
竜賀「うわあ!??」
扉の内側から屈強で大柄なスキンヘッド男が出て来た。いかにも自分達はこの店の門番ですと主張するかの様に腕組みして光男の前に立ち塞がった。
門番A「何の用だ?」
門番B「子供を連れていれば怪しがられないと思っているのか?」
光男「……はぁ…こんなとこで喧嘩したくは無いんですよ…」
光男はポケットの中に手を突っ込んだ。門番は素早い動きで腰のホルスターにあった拳銃を抜き、光男の頭に向けた。しかし光男はそれに動じずポケットから手紙を取り出し、それを門番の男にゆっくり差し出した。
光男「エリック・ブラックさんからの紹介でここに来た。これがその証拠です」
門番達は目を丸くしてお互いに顔を見合わせたが警戒を一切解かず、一人が手紙をゆっくり受け取り手紙の中身を確認した。
門番A「………確認した。こちらへどうぞ」
そういうともう一人の門番も拳銃を下ろし入口への道を譲った。光男は竜賀にアイコンタクトを取り店の中に入って行った。
ーーーー店の中は全ての壁にズラッと立てかけられている拳銃、機関銃、重火器が所狭しと並んでおり、様々な武器が客を迎える造りになっていた。
門番の一人が入口でまた待機して、もう一人の門番が光男と竜賀の二人を店のカウンターにまで案内した。
門番A「この店のリーダーはこの奥にいます。着いてきて下さい」
光男「ありがとうございます」
そのまま門番の後に着いてカウンターの奥にある扉の中に入って行った。
カーン!カーン!カーン!
そこにはこれまた筋骨隆々な白人の男が巨大な釜戸の前で鉄を打つ作業をしていた。
門番A「リーダー!例のお客様を連れてきました」
光男「Mr.ケリガン・コーエンですね?」
ケリガン・コーエンは作業の手を止め後を振り返り光男の顔を見つめ、さっきまでの無表情を崩して気難しそうな顔を向けた。
ケリガン「ああ……アンタらか…Mr.ブラックの言ってた客人ってのは…」
光男「ええ……藍川光男と言います。こっちは私の息子の竜賀です」
竜賀「藍川竜賀と言います!よろしくお願いします!」
ケリガン「元気が良い餓鬼だな……だが俺はあんまり世間話には疎くってな…興味が無いからあんまり話は弾まねぇぞ」
光男「……今日我々がここに来た理由を事前にMr.ブラックから連絡を受け取っていますよね?」
ケリガン「ああ……俺に銃以外の武器を貰いたいそうだな?」
光男「ええ……私達親子は銃社会とは随分縁の無い世界に過ごしていたものなんでね、銃は全く使い慣れていないんで脅しにもならないんですよ…」
ケリガン「……ほう?……見たところ二人共…東洋人に見えるが間違いないかな?」
光男「ええ…日本人ですよ」
ケリガンはその言葉を聞いた途端顔がパァっと明るくなり、口数が一気に増えた。
ケリガン「おお!!マジか!?俺昔日本に行ってたことがあるんだぜ!!」
光男「本当ですか!?」
ケリガン「ああ本当さ!!こりゃ良い客が来たもんだ!!俺は昔日本の冥臥連合に命を救われてから人生が変わったんだからな!」
竜賀「冥臥…?連合??何ですかそれ??」
ケリガン「おん?知らねぇのか小僧?冥臥連合と言えば日本で唯一の適能者組織じゃねぇか!俺は昔冥臥連合のダイゴロウって男に助けられてな!その人から今の武器造りの基礎の知識を教わったのさ!」
光男「そうだったんですね!」
ケリガン「ああ!………そうか日本人か…ってことは御所望の品ってのは銃ではなくアレだな?」
ケリガンは少し眉をイタズラっぽく上下に動かしながら光男の目を真っ直ぐ見つめた。
光男「もちろん我々親子は剣士ですので剣です!できれば日本刀で!」
ケリガン「だろうな!!話がようやく分かる客が来てくれてありがてぇよ!待ってろよ!」
ケリガンは勢いよく立ち上がり、部屋の隅に置いてある宝箱に近付いていき胸元から鍵を取り出し、それを光男に見せびらかしながらニヤニヤしてきた。
ケリガン「風の噂ではな……日本の名のある剣士なら喉から手が出るほど逸品だからな…コイツは」
ケリガンが宝箱をその鍵で開き、重そうな蓋をゆっくり上げた。ケリガンは大きく深呼吸し緊張感を持ちながらゆっくり箱の底に両手を入れていった。
ケリガンが宝箱から取り出したのは、白い絹の布が掛かった刀掛けだった。
竜賀はそれを見て背筋がゾクゾクした。光男も緊張した顔の奥に興奮が漏れていた。剣士であれば条件反射的に反応するこれは、
竜賀「真剣ですか……!!?」
ケリガン「ああ…!!だがそこいらにあるナマクラのレプリカやハンパもんじゃねぇ…正真正銘本物の真剣だ」
光男「一体……誰が打った…逸品なんですか?」
ケリガン「さっきも言ったがな、俺の師匠に当たる人……沢城大吾郎の渾身の七作『沢城大吾郎作七聖剣』の内の一振り『聖剣・藍風』だ」
光男「……なぜそんな凄い作品を私なんかに?一応剣術の心得を持っているとは言え、見ず知らずの赤の他人の私にそんな大切な物を…?」
ケリガン「いやな?……実は昔俺が日本からアメリカに帰ってくる時、大吾郎先生が俺が一生懸命刀造り頑張ってた御礼の意味を込めてこの藍風をいただいたんだよ。でも日本では今『沢城大吾郎作』の宝刀が実は六作じゃなくて七作あったってことで剣士達の中で大パニックが起きてるらしいんだ」
竜賀は引き込まれる様にケリガンの話に聞き入っていた。今日本にいる剣士達がこのアメリカに持ち込まれた伝説の逸品を血眼で探しているというのだ。
光男「これを……私が使っても良いと?」
ケリガン「それもある!…でも本当はこれを日本にいる俺の友達に渡して欲しいんだ」
光男「日本人の?」
ケリガン「ああ!名前は大嶋丈って言うんだ。そいつは俺が中華連邦に拉致されているのを助けてくれた大吾郎先生の所でお世話になっていた時に親友になったんだ」
竜賀「その大嶋さんってMr.コーエンが何歳の時に知り合ったんですか?」
竜賀はどうしても気になってつい口をついて質問してしまった。
ケリガン「ん?俺が10才の時さ。その時は丈の奴が12才だから今は確か61歳のはずだ」
竜賀「それじゃあMr.コーエンは今59歳なんですか!?見た目メチャクチャ若そうなのに!!」
またつい思ったことが口をついて出てしまった。
ケリガン「ハッハッハッハッハッハ!!そう言って貰えて光栄だね!若さの秘訣は筋トレだぜ!!筋肉は裏切らねぇからな!」
光男「大分話逸れましたけど、この藍風をその大嶋丈さんに友情の証として納めに行って欲しいってことですね?」
ケリガン「ああ…アイツとは腐れ縁だからな……離れてても丈は親友だ」
光男「連絡は取り合っているんですか?今でも?」
ケリガン「いや……もう随分前から連絡は取り合えてねぇんだ。だから藍風は師匠が俺にくれた、俺と丈の友情の誓いなんだよ。丈が藍風を見てくれれば思い出してくれるはずだ。まだまだ未熟だったけど刀造りに魂を込めていた頃の誓いを…」
竜賀「ケリガンさんって刀造りが大好きなんですね」
ケリガン「ああ……師匠が刀造りに生命を懸けてる様な人だったからな…この藍風だって師匠自身の伽霊能力で造ったんだよ」
光男「え?刀を打つのにも伽霊能力を使ったんですか?」
ケリガン「ああ…それで言うなら俺もそうさ……この火を操る伽霊能力で金属を熔かして、錬成して、武器を鍛える技術は師匠から教わったもんだからな」
光男「そうだったんですね」
竜賀「どうしてそんな大切な宝物をなぜ僕達に託してくれたんですか?日本人だからですか?」
ケリガン「……理由か……そんなモン特にねぇよ」
竜賀「へ?」
ケリガン「強いて無理矢理理由を付け加えるとすれば、光男!アンタが武器が欲しくてここに来たはずなのに銃には目もくれず真っ先に刀をくれと言って来たからかな?人と殺す武器でもなく、聖剣・藍風でもなく、『俺達は剣士だから剣でお願いします』ってな」
光男「それぐらいの理由でこんなに大事な刀を我々に託してくれるなんて……」
ケリガン「ま…勘って奴だな……アンタになら託しても大丈夫そうだなと勝手に思っただけさ…」
ケリガンが絹布に手を掛けて二人に目で合図した。
ケリガン「さて!!前置きはここまでだ!まずは藍風を見て貰おうか!」
バサッ!!
絹布を勢いよく払い除けた時、刀掛けの上には藍色に黒い雲模様の漆塗りの鞘と柄に美しい銀の装飾を施された見事な太刀が乗っていた。
光男と竜賀はその美しさに息を飲んだ。
ケリガン「まだ驚くのは早いぜ?まだ外面を見てるだけだ」
ケリガンは鞘を掴んで柄を光男の方に向けて、抜いてみろと目で訴えた。
光男「それじゃあ…」
光男は恐る恐る柄を握り刀を引き抜くと、刀は青みがかった黒く輝く刀身を覗かせた。
光男・竜賀「ふわああああ……」
ケリガン「クククク…」
感嘆の溜息を漏らす二人を必死に笑いを堪えながら見ていた。刀を完全に鞘から引き抜くと切先まで美しい直刃が全貌を現した。
ケリガン「適能者としての能力を生涯日本刀造りに捧げ続け死んだ伝説の刀匠沢城大吾郎の傑作の一振り……」
光男「これが……聖剣・藍風」
竜賀「………綺麗」
ケリガン「光男……これは今だけアンタが使ってもいい…時間が掛かってもいい……でもいつか…」
光男「この刀を大嶋丈さんに届ける!……でしょ?」
ケリガン「……ああ!!そうだ!!」
ケリガンは満足そうな笑顔を見せた。
そして光男はあることにハッと気がついたのか、突然ドッと滝の様な汗をかき始めた。
光男「………ち…ちなみに代金って……」
ケリガン「何言ってんだよ……これはむしろ俺からの頼みなんだ!金なんか要らねぇよ!久々に日本の剣士の目を見れたんだ!これを大事に使って、丈のもとに送り届けるのが代金代わりだ」
光男「それじゃあ……これは預からせて貰います」
光男は刀を鞘に納め、その刀を刀袋に入れた。光男は竜賀に続き武器として真剣を手に入れた。
To Be Continued