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緑の透明の加工食品に引力が発生する謎が半世紀の時を経て解明された話

人には様々な性癖があります。ちなみに「性癖」とは、人間の心理・行動上に現出する癖や偏り、傾向、性格、性向のことであり、性的(セクシャル)な意味はありません。近年は誤って性交の意ととらえ、性的まじわりの際に現れる癖・嗜好(性的嗜好)、一般的ではない嗜好(性的倒錯)、交接時の習慣・習性(フェティシズム)の意で用いたり、誤用が見られるようになっている(参考:Wikipedia)とのことですが、今回も本来の意味での性癖を指しています。

今回は、私が幼い頃から持っている性癖、緑の透明の加工物に惹かれてしまうという謎が、一気に解明された経緯についてご紹介したいと思います。

あえて申し上げるほどでもありませんが、ほとんどの人にとって何の役にも立たない情報です。


謎の性癖とは

緑の加工食品に惹かれる

とにかく緑色の食品に惹かれます。「抹茶」関連のものが多いのですが、特に抹茶に限定されているのではなく、着色料強めのメロンパンや、よもぎ団子等にも強烈に惹かれてしまいます。

抹茶のスイーツ

高速道路のサービスエリアのベーカリーにありそうな緑色の着色料強めのメロンパンは、味の良し悪しに関係なく惹かれます。

緑色の着色料が強めのメロンパン

道の駅に寄ると、地元の商店のおばちゃんたちが作っている「よもぎ団子」を無意識の中で探している自分がいます。

よもぎ団子

それは単純に、緑色の加工食品の大半が美味しいからだという仮説が立ちますが、一概にそうとも言えません。空港の土産売り場等には、緑色の菓子類がたくさん並んでおり、そこまで美味しいものではないだろうという予測が立っているにも関わらず、やはり妙な引力を感じてしまい、買ってしまうのです。

土産売り場にありそうな抹茶系の菓子

また、菓子類に限った話でもありません。糖分の量に関係なく、食品全般において、緑色のものに惹かれるのです。

緑色の「加工食品」に限られる

緑色の食品に惹かれるからといって、ブロッコリーやキュウリに惹かれるわけではありません。緑色の野菜は普通に好きですが、それらに謎の引力は発生しないのです。このことから、加工食品であることが、この性癖の条件であることが判ります。

透明度と粘度が高い方が引力が強い

緑色というだけで十分に惹かれるのですが、透明度が高いとさらに惹かれます。わかりやすいのは、抹茶のわらび餅だったり、緑色のゼリーですが、透明度に加えて、粘度が高い方(液体より固体に近い方)が惹かれます。例えば、メロンソーダの方が緑色が強く、透明度も高いのですが、緑色の薄い抹茶のわらび餅の方が惹かれます。

但し、これには程よい具合があり、固体であっても食すのに適度な固さであることが望まれるため、程よいプルプル感があると理想です。固体であってもガラスのような固さでは逆効果ということになります。

メロンソーダ
抹茶のわらび餅

これらの条件を整理すると、以下のようになります。

・緑色の食品
・加工食品(素材の原型が残っていない)
・透明度が高い
・粘度が高い(固形・但し適度なプルプル感)

この条件に最も該当するのが、ゼリーです。その証拠に、私はゼリーには全く惹かれないのに、それが緑色であるだけで、絶大な引力を感じるようになるのです。

ゼリエース メロン味が最強

ここまでの条件を全て兼ね備えた食品であり、私の大好物、それは、ハウス食品が販売しているゼリエースのメロン味です。知らない人はいないと思いますが、1967年に発売された粉末状の「ゼリーの素」であり、お湯や水に溶かして冷蔵庫で固めて食べるものです。完成した状態のプルンプルン感は、他のどのゼリーも足元にも及びません。

我が家では月に一度程度の頻度で、ゼリエースを作ります。子供たちは、特に緑色に惹かれているわけではないので、イチゴ味を作ったり、メロン味に缶詰のみかんを入れたりしますが、私用のゼリエースは何も入れない純粋なメロン味です。

ここまで話しても、単に緑色の美味しいものを食べた記憶によるものではないか、だとか、幼い頃に食べたゼリエースが強烈に美味しかったからだ、等という短絡的な結論に至る人もいるかと思いますが、その程度であれば性癖などとは言いません。

食べ物以外にも引力が

緑色で透明度が高いものであれば、脳内変換されて美味しそうに感じてしまいます。実際に食べてみたいとか、舐めてみたいという変態チックな感情は持ちませんが、何だか妙に魅力的に感じるのです。説明が難しいのですが、その魅力とは、美意識ではなく、味覚や嗅覚に関わる刺激なのです。

甘さを感じるデスクライトのカバー
美味しそうな緑のガラス

青信号を食べたいと思うことはありませんが、食欲が刺激されていることは否めません。この青と緑の中間的な色と、ガラスの透明感には、引力を感じるのです。このことを、全く理解できない貴方は、きっと正常な人間ですが、少しでもわかるのであれば、もしかしたら同じ因子を持っているのかもしれません。

美味しそうな青信号
メロン味がしそうな歩行者信号

信号でも標識でも、黄色は危険や注意を表し、赤は停止や禁止等の制止を促すものであるのに対して、青(緑)は安全やGOサイン、非常口のように「こちらにどうぞ」的な意味合いを持っています。もしかしたら、これは私だけの性癖ではなく、人類共通のものなのかもしれません。

ただ、誰もが非常口のサインを見て、美味しそうに感じるのかは疑問です。緑のガラス張りのビルを見て、ゼリエースに見える人が、どれほどいるのか、調査できるものならしてみたいです。

原因の追求

幼い頃のうっすらとした記憶

この緑色の透明度があるものに惹かれる現象について、その原因が全く思い当たらないわけではありません。うっすらとした幼少期の記憶があり、それは絵本でした。

怪獣(優しそうなモンスター)が森の中でパイを焼いているという絵本であり、そのパイの上にのっかっているものが、緑色で半透明だったという曖昧な記憶がありました。

私の幼少期なので、40〜50年前の絵本です。何冊かセットになっている絵本で、私はその物語が好きで、何度も繰り返し読んでいた、そんな記憶というか、感覚が残っていました。

もしかしたら、いやおそらく、その緑色の半透明のパイを食べてみたくてしかたなかった感情が、今の「緑の透明の加工食品に惹かれる」という症状に繋がっているのだと思います。

このことは、これまでも時折気になって、何度もネットで検索してみたのですが、該当する情報はヒットせず、全く進展は見られませんでした。

遂に原因となる絵本を発見

結婚して11年目になる妻とも、これまで何度もこの話はしてきました。先日も、何かがきっかけで、「緑の透明の加工食品に惹かれる」話を熱弁していたところ、妻がスマホで話を聞きながら検索していました。

そして、妻が「これじゃないの?」と見せてくれた絵本の表紙は、確かに記憶にうっすらとあった優しそうなモンスターと緑のパイでした。

それだけではありません。ネットの情報を見ると、私のように、その緑のパイに惹かれている人、再現して作ってみようとした人、その絵本に影響を受けたいろんな人がいるようでした。

絵本の入手を試みるが

その絵本のタイトルは「王さまのすきなピックル=パイ」(原題は「Pickle Chiffon Pie」)であり、私が生まれた年、昭和46年(1971年)に講談社より発行されたものでした。うっすら記憶にあった通り、「世界の絵本」というシリーズで、何冊かセットで売られていたようです。

検索すると、情報は少しヒットするのですが、残念ながら現時点では新品はもちろん、中古も出回っていないようです。ネットオークションでは過去に出品された形跡が残っていましたが、現在は取引されていません。

どうしても内容を確認してみたかったので、最寄りの県立図書館に問い合わせました。残念ながら蔵書の中にはなかったのですが、親切な図書館の職員の方が調べてくれて、山口県の図書館に存在していることがわかりました。取り寄せて、借りることができるとのことだったので、すぐに手続きをして、送ってもらうことにしました。

約50年ぶりに再会した大好きだった絵本

二週間ほど待ち、ようやく手元に届きました。かなり古い本なので、慎重に扱わないと、破けたり、外れたりしそうなコンディションです。

ページを捲っていくと、脳内でどんどん記憶が鮮明に復元していくのがわかります。長年の謎が解けていく、感動を味わうことができました。

(王さまのすきなピックル=パイ)

王さまのすきなピックル=パイ

基本情報

世界の絵本(アメリカ)
王さまのすきなピックル=パイ
絵・文/ジョリー・ロジャー・ブラットフィールド
訳/飯沢 匡
発行/株式会社 講談社(昭和46年4月10日)

Pickle Chiffon Pie
Jolly Roger Bradfield
http://www.rogerbradfield.com/
https://en.wikipedia.org/wiki/Roger_Bradfield

王さまのすきなピックル=パイ

あらすじ

著作権の侵害に当たるので、物語の丸写しはできませんが、ざっくりとあらすじを紹介します。

とある国に、とてもお利口さんの王様がいて、平和に国を治めていました。王様はピックルパイが大好物でした。王様には美しい姫がいて、その姫を目当てに、他国から多くの王子様がやってきていました。

王子様がくると、もてなすために食事会に招待するのですが、その度に困ったことに王様の大好きなピックルパイが減ってしまいます。そこで王様は、姫を結婚させることにしました(なかなかすごい動機です)。

姫がお気に入りの王子様を三人選び、三日間の猶予を与え、森の中で一番面白いものを見つけてきた王子様に、姫を嫁がせることにしました。

王様と三人の王子
(王さまのすきなピックル=パイ)

森の中にはとても変わった生き物がたくさんいます。一番背が高くて逞しいマセルボーム王子は、曲芸ができるライオンを見つけました。頭がよく数は684まで数えることができるウェルレッド王子は、ピアノが弾ける大男を見つけました。

強くもなく、ハンサムでもなく、頭も良いわけではないバーナード王子は、人喰い鬼を見つけましたが、これを連れて帰ると姫が怖がると思い、やめました。二日目に素晴らしい絵を描くねずみたちを見つけましたが、絵を描くのを邪魔したくなかったので、やめました。

三日目、オレンジ色の水玉模様のネクタイをした鼻が三つもあるスノズルを見つけました。彼はとてもピックルパイを焼くのが上手でした。

ピックル=パイを焼くスノズル
(王さまのすきなピックル=パイ)

このスノズルを連れていけば、きっと王様が喜ぶと思い、バーナード王子はスノズルを引っ張っていきました。すると、森の影から小さなスノズルが見つめていました。

スノズルを連れていこうとするバーナード王子
(王さまのすきなピックル=パイ)

ピックルパイを焼くのが得意なスノズルを連れていくと、小さなスノズルの世話をする人がいなくなります。

可哀想なスノズルを連れていけずに悩むバーナード王子
(王さまのすきなピックル=パイ)

迷った挙句、バーナード王子はスノズルを森に返すことにしました。

こうして約束の三日は終わり、バーナード王子は手ぶらで王様の元へと戻りました。

結局スノズルを離して手ぶらで帰るバーナード王子
(王さまのすきなピックル=パイ)

お城では、王様の前でそれぞれ王子様が連れて帰ってきた珍しいものを披露しました。マセルボーム王子も、ウェルレッド王子も自信がありました。

そして、王様は、曲芸ができるライオンも、ピアノが弾ける大男も、大変喜んでくれました。

バーナード王子の番になりました。バーナード王子は、人喰い鬼を連れて帰ると姫が怖がると思ったこと、ねずみたちの絵の邪魔をしたくなかったこと、そしてスノズルの子だけを森に置いてくることはできなかったことを、小さな声で伝えました。

お城は静まり返り、誰も話しをせず、皆がバーナード王子を見ていました。バーナード王子はどこかに隠れたいと思っていました。

すると、姫とお妃様が、王様にささやきました。王様はうなずき、バーナードに「君が姫と結婚するのに相応しい」と告げました。

王様は「親切と、愛と、思いやりのお話を持って帰ってきた。これこそ、一番素晴らしいものだよ」と続けました。

スノズルからの結婚祝いのピックルパイを食べるバーナード王子
(王さまのすきなピックル=パイ)

バーナード王子と姫の結婚式の日、マセルボーム王子が連れてきた曲芸ができるライオンは曲芸をし、ウェルレッド王子が連れてきた大男は結婚行進曲を弾き、お客様を楽しませました。

そして、誰が見ても結婚祝いとわかるような大きなピックルパイをバーナード王子と姫に贈ったのは…

そう、オレンジ色の水玉模様のネクタイをした三つ鼻のスノズルでした。

素晴らしい物語と絵

今読んでみても、本当に素晴らしい物語です。読みながら、この物語が好きで、何度も何度も繰り返し読んでいたことを思い出しました。そして、目頭が熱くなりました。

絵も作者のロジャー・ブラットフィールドさんが描いているのですが、物語にとてもマッチした素晴らしい絵です。それに、なぜか、ここに描かれている緑のパイが、とてもとても美味しそうに見えるのです。

ピックル=パイを再現

そもそもピックルパイとは

ずっとずっと憧れてきた、緑の半透明のピックルパイを、ただ絵で見て満足するわけにはいきません。実際に食べてみないと、この複雑な感情を整理することはできないのです。

そこで、ピックルパイを作ってみることにしたのですが、絵本の中ではピックルパイのレシピや、どんなパイなのかについては言及されていません。原題の「pickle chiffon pie」と「recipe」で検索してみると、いろんなレシピがヒットしますが、ピックルとはピクルスのことを指すようです。ピクルスとは野菜や果物を酢や塩水に漬けて保存した食品、つまり洋風の漬物であり、ハンバーガーに入っているキュウリのピクルスが代表的なものです。

他にも、緑色を出すためか、ピスタチオを使ったレシピもありましたが、どうやらデザートとしての甘いパイではなく、料理としてのパイの可能性もありそうです。

約50年前の日本では、そもそもパイというものにまだまだ馴染みがなく、ケーキのような甘いデザートをイメージしていましたが、作者がイメージしていたものとは少し違っていたのかもしれません。

再現するのは思い出の味

原作に忠実に再現すると、おそらく当時の思い出の中で描いていたパイとは程遠いものになりそうなので、あくまでも再現するのは、幼い頃に頭の中でイメージして、食べたい食べたいと願っていたパイです。

そして、その願いは約半世紀の時を経て、脳内で進化をしていき、明確なイメージへと昇華していきました。

そう、それは美しい緑色であり、透明度が高く、固体でありつつ程よくプルンプルンとした質感のものなのです。

ピックルパイ初号機は大失敗

パイ生地を焼いて、その中にお湯で溶いたゼラチン、かき氷用のメロンシロップを混ぜたものを入れて、冷蔵庫で冷やしました。

見た目はなんとなく、それっぽい感じがしなくもないのですが、そもそもしっかり固まらずに、ドロドロしたものになりました。口に入れると、吐き出したくなるほどまずかったです。

完成の数分後にはゴミ箱行きでした。

ゼリエース 再び

緑色の透明度と最適な粘度、固さがあるもの、それは前述したとおり、ゼリエースのメロン味が最強であり、これまでの人生で、それを超えるものを見たことはありません。

半世紀もの間、謎だった不思議な性癖の原因がわかった今、ここであえて最強であるゼリエースメロン味を除外する意味なんてありません。

そうと決まれば、もう迷いはありません。

パイ生地とは別に、ゼリエースのメロン味を2個、パイ生地の補強のためにホワイトチョコレートを用意しました。

ホワイトチョコレートは湯煎で溶かし、パイ生地に塗れるように準備をしておきます。

ゼリエースのメロン味は、粉末をお湯で溶き、さらに水を追加するのですが、少し固めにしたいので、説明書にある分量よりも水は少なめにします。その状態が上の写真の色ですが、少し色が足りないので、緑色と黄色の着色料を足して調整します。

緑が濃くなり、イメージしていた色に近くなりました。

焼いたパイ生地を少し冷やし、溶かしておいたホワイトチョコレートを塗り、冷蔵庫に入れて固めます。

ホワイトチョコレートが固まってから、ゼリエースを流し込みます。ホワイトチョコレートで補強していますが、それでも隙間からゼリーが漏れますので、ゼリーは一気に入れるのではなく、少しずつ入れては固めるということを繰り返します。

ゼリエースはそのままだと表面はきれいな平らになってしまうので、絵にあるように凹凸を作るために、別の皿に入れて固めたゼリエースを入れてみたりして、表面に変化を付けました。

ピックルパイ降臨

こうして、イメージしていたピックルパイが完成しました。鮮やかな緑色で、透明度が高く、少し揺らすとプルンプルンと心地よく動く最高の仕上がりです。

カットすると、アニメのようにゼリエースがブルンブルンと動き、まさにおとぎ話に出てくるような素晴らしく美味しいパイです。

「王さまのすきなピックル=パイ」の中に描かれ、幼い私がイメージを膨らませ、半世紀かけて憧れてきたパイが、ようやく完成しました。

子供たちにも、「王さまのすきなピックル=パイ」を読んで聞かせました。YoutubeやTiktokのショート動画ばかり見てる子供たちにも、じっくりと言葉を噛み締めながら、何度も繰り返し絵を眺めて、頭の中で想像を膨らませることの大切さを、少しでも感じてもらえれば嬉しいです。

また、非常口のサインや青信号を見て、緑色の透明度の高い加工食品が食べたくなったら、この我が家オリジナルのピックル=パイを作って楽しもうと思います。

おしまい

追記

英語版を買いました

50年前に出版された日本語版を図書館に返却した後、やっぱり手元に置いておきたかったので、Amazonで売っていた英語版を購入し、数週間後に届きました。日本語版は立派なハードカバーでしたが、英語版は小さめのペーパーバックでした。ただ、イラストはとても大きく、満足しています。

Pickle-Chiffon Pie

レシピも掲載されていました!

絵本の裏表紙に、ピックルシフォンパイのレシピが紹介されていました。日本語に訳して紹介すると…

Maling Pickle-Chiffon Pie

・想像力 2カップ
・ユーモア 小さじ3杯
・1ページに1つのわくわくするイラスト
・少なくとも1匹のドラゴン
・ばかばかしさ 大さじ2杯
・美しいお姫様1人とよく味付けされた英雄1人を組み合わせる
・ひとつまみの道徳的価値観を活気あるプロットに混ぜ合わせる

なるほど。これも楽しくて美味しそうですね!
興味がある方はぜひお試しください。

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