マネージャーのスキルとしての、新しい役割をでっち上げる力

マネージャーのみなさん、自身で組織内に新しい役割を作ったことはありますか? プロダクトやシステムの機能を担当する「チーム」として役割を定義することは普通に多くあると思います。また、エンジニアリングマネージャーやテックリードといった、他社で使われているタイトルに基づく役割を導入するといったこともあるでしょう。今回取り上げたいのは、そのようなある種既製の役割を導入するのとは異なる、カスタマイズされた役割を作る話です。

人と向き合う責務を持つマネージャーであれば、程度の差はあれど、役割を定義することを日々の仕事の中で行っています。書籍『エンジニアリングマネージャーのしごと』の中にも、第5章「その人に合った仕事とは」ではメンバーの内発的動機に基づいて職務内容を定義する話がありますし、第7章の採用において職務記述書を書く話も役割の言語化という意味で関連しています。ある程度安定的なミッションを持った一つのチームの中でも、メンバーの成長といった状況変化に合わせて、その人にあった役割を再定義し続けます。チームのミッションやチームメンバーの増減といった要素も加われば、なおさらその時その時の課題と、向かうべき方向性とのギャップはとてもダイナミックなものとなります。マネージャーはそれを絶え間なく観察し続け、ギャップを埋めるための役割を見出し、メンバーに役割を任せることを繰り返し、チームを前進させます。

同じ構造の活動は、組織というレベルでも必要です。「組織全体の設計」に関わるような話は、ミドルマネージャーである自分の仕事ではないと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、現場の課題は、その現場に近い位置で仕事をしているマネージャーでなければ感知できないことがほとんどです。経営レイヤーが現場の課題をすべて正確に把握して適切な設計を作り続けるには限界があり、俊敏に最適な組織へと変化し続けるには、現場マネージャーからの提案による組織チューニングが肝要となります。

役割をでっち上げるテクニック

チーム内のものなのか、組織サイズのものかといった役割の大小に関わらず、役割をでっち上げるには、必ず「戦略上重要だが責任の所在が不明または歪んだボール群の発見」と「新しい役割を担当するのに適した人・チーム」の両方が必要です。役割自体に重要性がなければ定義する意味がありません。また、役割を定義してもそれを担当できる人やチームに全くあてがなければ、身の丈に合わない空想の域を出ません。

ロバート・フリッツ著の『偉大な組織の最小抵抗経路』で説かれている組織構造の第八法則

上位の組織化原則が不在だと、組織は揺り戻す。
上位の組織化原則が支配すれば、組織は前進する。

『偉大な組織の最小抵抗経路』組織構造の第八法則

にもあるように、定義する役割の方向性を上位の緊張構造である事業等の戦略に沿ったものとすることで、作った役割による成果を得やすい構造となります。そうでなければ、役割の取り組みは組織からの暗黙的な、構造的な抵抗を受け、揺り戻す可能性が高くなります。

とはいえ、役割をでっち上げるための2つの要素を満たすのは、容易な作業ではありません。様々なスキルを総合することでようやく成し得ます。

戦略上重要だが責任の所在が不明または歪んだボール群を見つける

事業や組織の戦略理解、これがキーです。大きな事業戦略は組織が定義しているはずですが、自身の周辺にある責任との関係性にまで落とし込んで理解しなければいけません。そうでなければ、自身の周辺で発見した問題の重要度を、戦略の観点から論じることができないからです。
こぼれ落ちている責任を見つけたとしても、それに対して目に見えた形のまま役割化することが必ずしも良い解決策だとは限りません。組織の戦略における理想から逆算し、必要な抽象度の役割に変換することで、役割の重要性を高めることができます。ここでは、言語化や抽象化のスキルが役立ちます。
異なる観点では、発見した課題に対して「将来」自身が役割を作っていく前準備として、一旦自分(および自分のチーム)の責任として取り込んでおくという受容力や政治・交渉力があると、物事を進めやすくなります。

新しい役割を担当するのに適した人・チームを見つける

組織内の人との深い対話を通して、人のスキルと可能性を知り、ここだというタイミングで定義する役割へアサインできるよう見計らっておく必要があります。あらゆる可能性を常に検討しながら、必要となる時が来るまで自身の中に保持しておくネガティブ・ケイパビリティといったスキルも、ここでは重要でしょう。
合わせて、必要な人材が社内に必ずいるわけではないため、採用や業務委託などによって整えるための情報(採用予算や声をかけられるネットワーク)を普段から入手しておくことも必要です。

役割をでっち上げるスキルの効能

ここまで内容を読んだマネージャーのみなさんは、役割をでっちあげるスキルがチームメンバーや組織を前進させ続けるために重要なことは理解頂いたかと思います。ところでこれは、自分以外の誰かのために使うスキルだと思い込んでいませんか?
役割をでっちあげるスキルは、時に、マネージャー自身のキャリアを切り開くためにも役立ちます。組織内にまだない新しい役割を自身で定義し、それを自分で担当することだって当然可能だからです。

おわりに

どのような組織でも、役割のでっち上げが必要な場面は多くあると思います。そのような場面でみなさんがアクションするための参考になれば幸いです。

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