見出し画像

#76 過去の感染歴が新型コロナの重症化を左右する?

前回の記事「ワクチンをめぐる最近の話題と最近注目されている免疫細胞について」では、以下のことを概観しました。

・世界のワクチン開発状況と日本の開発状況
・ワクチンのはたらき(抗体産生と免疫記憶)

この記事の最後のほうでは、ワクチンのはたらきは「抗体をつくらせること」だけでなく、結果として「病原体に関する情報を記憶する、いわゆる“免疫記憶”を誘導することにもある」ということを紹介しました。

その“免疫記憶”に関して大変興味深い研究報告が相次いでいますので、今日はそのことをご紹介したいと思います。

今後、これらの研究が良い方向に進展することで、新型コロナに感染しても重症化しにくい理由が明らかになったり、重症化しやすい人を事前に見つけ出して適切なケアができるようになるなど、新型コロナ対策の大きなターニングポイントになる可能性があります。

今後の研究の進展にぜひ注目したいと思います。

〜ちょっとその前に〜
京都大学再生医科学研究所の河本先生のホームページに、免疫記憶のメカニズムがわかりやすく書いていますので、もしご興味のある方は見てみてください。


従来型コロナへの感染歴により、新型コロナに感染した際の重症化が抑制されるという報告

さて、まずは一般向けに書かれている記事が参考になると思いますので、下記の記事から紹介します(全文は無料会員又は有料会員が読むことができます)。

記事の冒頭、リード部分を抜粋します。

 新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくい患者がいる理由として、新型コロナが登場する以前から流行する従来型のコロナウイルスに感染した「免疫の記憶」が働いたとする研究が注目されている。新型コロナに感染経験がない人の体内から、新型コロナをたたく免疫細胞が相次いで見つかった。こうした免疫を持つ人は全体の2~5割にいるとされる。
 ウイルスなど病原体に感染すると、再び感染しないよう体内の免疫がその病原体...(以下は会員限定で読めます。)

過去に感染した“免疫記憶“による、類似した病原体への免疫応答を「交差免疫」と呼びますが、要するに過去に流行した“旧型”コロナウイルスに感染したことがある人は、“新型”コロナへの耐性を持つ可能性があるかもしれません。

もう少し詳しく説明します。

“旧型”のコロナウイルスに感染して相応の免疫応答が起きた場合には抗体が産生されたり免疫系が活性化して“旧型”コロナが排除されますが、その際に働いた免疫細胞の一部が生き残り、病原体に関する情報を記憶する“メモリーT細胞”となります。

その後“新型”コロナに晒された際には、このメモリーT細胞が活性化し(交差免疫が起き)、速やかな抗体産生や他の免疫細胞の活性化を介して“新型”コロナを速やかに排除できる可能性があるということです。


世界中の研究機関から同様の報告が相次いでいる

さて、一連の研究の最初の報告は米ラホヤ免疫研究所からで、5月に超一流誌であるCellに発表されました。

原著論文はこちら↓

少し専門的ですが、ある程度わかりやすく解説されているので日経バイオテクの記事を貼っておきます。

この論文では、軽症者においても強力な抗ウイルス免疫応答※が起きていることが示されました
※全ての人に抗体産生とヘルパーT細胞(病原体の情報を他の免疫細胞に伝える細胞)が誘導され、さらに70%の人にキラーT細胞(感染した細胞を殺す細胞)が誘導されていたとのこと。

また、世界で開発中の多くのワクチンが標的とするスパイク(新型コロナウイルスの構成成分)に対する免疫応答が強力であることが示され世界中で開発されているワクチンの有効性を占う上でポジティブな結果であったと言えそうです。

さらに、これがこの論文のもっとも興味深いところですが、新型コロナの流行前(2015年から2018年)に収集された健康な人のT細胞のうち、40〜60%において新型コロナウイルスを構成する4つのタンパク質を認識したとの結果が得られたとのことです。

「4つのタンパク質を認識=強力な免疫応答が起きる」かどうかは不明ですが、もし交差免疫を強力に誘導できるのであれば、新型コロナに感染したとしても多くの人は強力な免疫応答が起きて無症状または軽症で回復する可能性があると考えられます。

これは、新型コロナ感染者の7割は軽症であるという話ともある程度合致する気がします(ただし、個人的には自然免疫(基礎的な免疫力)も非常に重要であり、交差免疫だけで無症状または軽症の人が多いことは説明できないと思っています)。

記事では最後に、国別あるいはBCGの使用等による死亡率の違いなどについても交差免疫の関与があるのか?ということにも言及していますが、このあたりは今後の研究の進展を待ちたいと思います。

いずれにしろ、もし交差免疫が強力であることが明らかとなれば、今後のワクチン開発の方向性や外出自粛等の経済活動、政策の方向性も変わってくると思われ、早期の研究進展が待たれるところです。


さて、同じくラホヤ研の研究チームから、8月にScienceという超一流誌に以下の論文が発表され、やはり交差免疫が起きていそうなことを示す結果が報告されています(こちらの報告は先に紹介した論文の続編といった位置づけなので、詳細は割愛します。)

原著論文はこちら↓

一応、こちらも解説記事が日経メディカルに出ていますので、参考までにリンクを貼っておきます。


また、他の研究グループからも同様の報告がなされており、信頼性はそれなりにありそうです。

ちなみに他の研究グループの一つ、スウェーデンのカロリンスカ研究所が8月に超一流誌のCellで発表した論文では、新型コロナ流行前に採血した25人の血液を調べたところ、28%から新型コロナを攻撃するメモリーT細胞が見つかったとのことです。

原著論文はこちら↓

この論文の筆頭著者は日本人で、なんだか誇らしい気持ちになります(^^)

ただし、これらの報告はあくまでも未感染者の“血液由来の免疫細胞”を調べたものに過ぎず、実際の人の身体の中で交差免疫が起きるかどうか、特に強力な交差免疫が起きて“新型コロナ”を強力に排除できるかどうかを示したものではなく、過度な期待は禁物です。

とは言え、こういった報告は今後も続々と出てくると思いますので、これは!という報告があればまた紹介したいと思います。


さて、次回は感染症対策と経済対策のバランスについて、改めて検証したいと思います。

感染症対策を最重視すべきなのか?経済を優先すべきなのか?はたまたその中間でバランスをとるべきなのか?

これは答えがない問いではありますが、スペイン風邪の際の事例が参考になりますので、そのことについて議論したいと思います(時代背景は異なるので、比較する意味は慎重に考えるべきですが)。

今日の記事が参考になれば、「スキ」を押してくださると嬉しいです(^^)

それではまた!

<了>

#新型コロナ #旧型コロナ #ワクチン #免疫記憶 #交差免疫 #メモリーT細胞

↓関連記事↓


いいなと思ったら応援しよう!