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龍馬が駆ける#1
Rap.1, シャトルランとランニング, Start
いつかお話した通り、僕には持久走には一定の成功体験があって、嫌いではない。攻略法を知っているゲームに対する感覚に似ている。進んでやろうと思わなくても、やれと言われればやれる。なぜなら一定の成果を上げる攻略法を知っているからだ。同じかちょい上の実力のやつの後ろを走って体力を温存し、ラストでスパートをかければいい。だけれども、シャトルランはマジで嫌いだ。理由はいくつかある。まず、あれは「自分との戦い」という側面が過ぎる。みんなで一緒に走っているが、あれには意味がない。シャトルランの音源と一定の場所があれば一人でできる。第一あの音源も腹が立つ。なんなんだあの無機質で抑揚のない声は。あれだったら、初音ミクの方がまだ、やる気も上がる。あの声の主も仕事だから罪はないのだが、どうしても好きになれない。ビリーズ○ートキャンプの声の人が励ましながら記録を数えてくれる音源とかだったらもっと記録が上がるんじゃないかと思う。だれか作ってくれたら是非実験体になるので連絡してほしい。
話を戻そう。シャトルランは音源と十分な距離の直線があればできるのでみんなでやる意味はない。その点、持久走はみんなで走るからこその戦略が生まれるから好きだ。まあそれもあくまでどっちかといえばの話だ。真冬にキンキンに冷えた水と常温の水のどちらかを飲めと言われているようなものだ。ほんとは温かいお茶がいいに決まっている。では僕にとっての暖かいお茶は何かというと、ランニングということになる。
僕がランニングを好きになったのは、大学2年の冬のことだった。日曜日の昼下がり。一般にはのどかで気持ちも落ち着く時間帯かと思う。だけど僕は違った。悶々とした気持ちを抱えて自室の5畳をぐるぐる歩き回っていた。当時の僕は部活を引退して有り余った体力の使い方が定まっておらず、持て余していた。出不精という言葉は僕のためにあるのではないかと思う。授業とバイトと部活以外で家の外に出ることがほぼなかった。部活をやっていた時代は、休日はその休息に充てる日だったから、家から出ない。部活が休みになっても、テスト勉強をするか、撮りためたドラマやアニメやラジオを消費していたら寝る時間になっていたので外に出るのは買い出しくらいで、外出する必要性がなかったのだ。しかし、その時、僕は部活を引退していた。朝無駄に早起きして、観たいものを見ていたら、午後2時くらいには全部いつもの見たいものは全部見てしまっていた。新規開拓をしてもいいようなものだが、どうもそういう気になれなかった。でも、体は動かしたい。のどが乾いて死にそうだったら、世界に飲み物が無数にあったとしても、一番身近にあったものに手を出すものだ。僕に残された選択肢はもうひとつしかなかった。
「しゃあないから、走るか・・・。」
こうしてやむにやまれぬ理由で普段なら絶対にやらないランニングをした僕だったが、これが意外とよかった。なにがよかったかというとまず、すぐに始められたこと。僕は運動用の服をたくさん持っていたし、普段から見た目よりも履き心地、動きやすさから軽いランニングもできるスニーカーを履いていた。準備運動も部活の時に行っていたものをすればいいから、準備に割くエネルギーがほぼゼロだった。そしていざ走り出しても今までにない気持ちよさを感じた。僕を縛るものは何もない。時間は十分あるし、お金もかかってない。なにより、自分でペースを決められるのがよかった。部活の時なら、常に全力でやってないと周りからの反応が痛い。ゆえにしんどいので、できるだけやりたくないと思ってしまう。そうか、僕がランニングを嫌いな理由は、誰かに走らされていたからだった。走り終わったあとの風呂も、食事も部活の試合のあとのそれとは違い、自分のペースに合わせて楽しむことができる。睡眠の質もいつもより良かったように思う。
この経験で、僕が嫌いだったのは「走らされる」ことだったんだと気づいた。「走っている」と思っていた行為が、実は「走らされていた」ということに気づいたという方が近いかもしれない。ここではっきり書いておくが、「走らされる」ことが嫌いになったわけではない。むしろ逆で、「走らされる」ことの新たな良さも発見することができた。制限・ルールがあることで、考えて答えを探すという行為が生まれる。答えが見つかるまでの道のりはもしかしたらしんどいものかもしれないけど、答えが見つかったときは達成感がある。この世のすべての飲み物の中で一番うまいのはコーラに決まっている(個人の感想です。)だけどゼロカロリーで一番うまいのは?となって探す過程で、普段なら手を出さない種類の飲み物に手を出す理由が生まれ、発見する楽しみが生まれる。一周まわって「夏の部活後に飲むキンキンに冷えた水がうまい。」という至極ありきたりな答えになっても、一周するかしないかの差で納得感が段違いだ。いつか「シャトルランが一番今好き。」と僕の中でなるかもしれない。きっとそれは僕がランニングの自由度にあきて、縛りが欲しいなと思い出す時期なんだろう。その日までは自分のペースでランニングを続けようと思う。
Rap.1, シャトルランとランニング, Finish
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