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【書籍】面倒だからこそ挑む価値:自己成長の秘訣ー渡辺和子氏『面倒だから、しよう』より

 先日取り上げた、「いまのたかの組織ラジオ」の206回「心の筋肉のトレーニング」にて取り扱われた、渡辺和子氏の書籍『面倒だから、しよう』(幻冬舎、2013年)を拝読しました。

 本書は、渡辺氏が自身の体験や思想をもとに綴ったエッセイ集であり、日常生活で誰もが感じる「面倒だ」という感情に対する新しい視点を提示しています。多くの場合、私たちは「面倒だ」という気持ちを抱いたとき、それを避ける傾向にあります。
 しかし、渡辺氏はこの「面倒」という感情こそが、人生をより豊かにし、自己成長の機会であると考えています。そのため、彼女は「面倒だから、しよう」という逆説的なフレーズを用いて、あえてその面倒に立ち向かうことで、日々の生活に深みをもたらすことができると説いています。

 この言葉には、人生において重要な選択をする際に、安易な道を選ばず、困難や手間のかかる道を選ぶことで自分を高めるという考えが込められています。渡辺氏自身が面倒なことを避けがちな性格でありながらも、日常の中で「面倒だから、やめておこう」と考えるのではなく、「面倒だから、あえてやろう」と自分に言い聞かせることで、自己を鍛え、成長してきたと述べています。これは、単なる自己啓発の一環ではなく、日々の生活に深い意味を与え、他者との関係を豊かにするための姿勢でもあるのでしょう。内容を紐解いて、考察してみたいと思います。

自己成長への第一歩 - 面倒なことに取り組む意味

 本書の中で渡辺氏は、日常的な「面倒だ」と感じる瞬間が、実は自己成長のチャンスであると語ります。多くの人は、面倒なことを避けて楽な道を選びがちですが、彼女はあえてその面倒に挑むことで自分を高めることができると主張します。特に、自分の感情や怠け心に打ち勝つことが、真の成長をもたらすと強調しています。著者自身が「面倒くさがり屋」であることを認めつつも、あえて「面倒だから、しよう」と自分に言い聞かせることで、日々の生活における選択に意味を見出してきたと述べています。

 彼女は学生たちに対しても、この考え方を共有し、「この世の中にはお金で買えないものがあり、その一つが心の美しさである」と教え続けてきました。心の美しさとは、自己との戦いや内面的な成長によって生まれるものであり、それは外見の美しさとは異なるものです。自分自身と向き合い、怠けたいという感情に打ち勝った時にこそ、真の美しさや自己らしさが生まれるのだと彼女は説いています。

内面的な美しさ - マザー・テレサの教えから学ぶ

 渡辺氏は、内面的な美しさについて深く考察する中で、マザー・テレサのエピソードを引用しています。マザー・テレサが日本を訪れた際、日本の街並みや人々の服装が非常に清潔で美しいと感じた一方で、もし家の中で家族間の愛情や思いやりが欠けているなら、それは表面的な美しさに過ぎないと述べました。ここで渡辺氏は、心の美しさが真に大切であることを強調し、それはお金で買えるものではなく、内面的な輝きによってのみ得られるものだと語っています。

 マザー・テレサの言葉から、渡辺氏は「きれいさ」はお金で手に入るものかもしれないが、「美しさ」は心の輝きであり、それは日々の生活の中で小さな戦いを経て育まれるものであると述べています。心の美しさとは、日常生活において自分の弱さや怠け心と戦い、あえて面倒なことに取り組む姿勢から生まれるものであり、それが人々の心を明るくし、社会全体を温かくする力となるのです。

丁寧な生活の重要性 - 日常の小さな選択がもたらす影響

 本書では、「面倒だから、しよう」と自分に言い聞かせることで、日常の小さな行動がどれだけ重要であるかを多くのエピソードを通じて語っています。例えば、小学生が横断歩道を渡る際に、疲れ切ったトラックの運転手が一瞬不満を抱いたものの、その子供から感謝の言葉を受け取ったことで、彼はそれ以降、歩行者に対して笑顔で見送ることを心がけるようになったというエピソードがあります。このように、日常の小さな行動や言葉が他者に影響を与え、それが次第に広がり、優しさや愛が社会全体を温かくするのです。

 渡辺氏は、日常の中で行う選択や行動が、最終的には自分自身の内面を形作るものであり、周囲にも大きな影響を与えることを強調しています。面倒に感じることも多いかもしれませんが、それを避けずに丁寧に取り組むことで、結果的には自己成長や人間関係の豊かさを得ることができるのです。日々の生活の中で、丁寧に物事に取り組むことがいかに重要であるかを述べています。

教育の現場での実践 - 学生たちへのメッセージ

 渡辺氏は、長年の教育者としての経験から、「面倒だから、しよう」という言葉を学生たちに伝えてきた背景を語っています。彼女は、教育の現場において、学生たちが何を面倒に感じるか、そしてその面倒さをいかに克服するかが、その後の人生において重要な要素となると信じています。面倒なことに取り組むことで得られる成長や自己満足感が、どれほど大きな影響を持つかを学生たちに教え続けてきました。

 例えば、授業中に学生が消しゴムのかすをそのままにしておくか、きちんと片付けるかという行動が、最終的にはその人の性格や人生の選択にまで影響を与えると述べています。小さな行動が大きな結果をもたらし、日常生活の中でどのように選択するかが、その人の人間性を育てる重要な要素であることを教育現場でも強調してきました。

心を込めた生活 - 丁寧さがもたらす豊かさ

 渡辺氏は、日常生活において「丁寧に生きる」ことの重要性を繰り返し強調しています。日々の生活の中で、どんなに些細なことでも、心を込めて行うことで自分自身の内面が豊かになり、それが周囲の人々にも伝わり、最終的には社会全体にも良い影響を与えると考えています。
 例えば、マザー・テレサが「小さなことに大きな愛を込める」という教えを通じて、日常の中でどれほど丁寧に生きるかが重要であることを説いているように、渡辺氏もまたこの考えを本書全体を通じて繰り返しています。

 外見の美しさや物質的な成功よりも、心の中で自分との戦いに勝ち、他者への思いやりを持って行動することこそが、真の美しさを生み出すという彼女のメッセージは、現代社会においても非常に重要な教訓となるでしょう。私たち一人ひとりが、日常生活の中で丁寧に生きることが、社会全体をより良い方向へと導く力になるのです。

社会への貢献 - 小さな行動が広がる力

 渡辺氏は、「面倒だから、しよう」という姿勢を貫くことが、結果的に社会全体に光をもたらし、人々の心を豊かにする力になると説いています。日々の生活の中で感じる面倒なことに挑戦し、それを乗り越えることで、自己成長が促され、周囲の人々にも良い影響を与えることができると考えています。彼女は、自己の成長だけでなく、他者とのつながりや社会全体の調和にも寄与できるという信念を持っており、そのメッセージが本書全体を通じて繰り返されています。

 面倒なことに向き合うことで、私たちの内面が輝き、それが他者へと広がり、社会全体を明るくする力となるのです。渡辺氏は、このような日々の小さな行動が社会にどれだけ大きな影響を与えるかを読者に伝え、彼女自身の経験から得た知見を共有しています。結果として、「面倒だから、しよう」という哲学が、個人の成長を超えて、社会全体をより豊かにする力を持っていることが分かります。

まとめ - 面倒だからこそ挑戦する生き方

 本書は、日常生活における「面倒だ」と感じる瞬間に対して、どのように向き合い、それを乗り越えることで得られる自己成長や心の美しさについて深く考えさせられる一冊でした。渡辺氏は、面倒なことに挑戦することで、自己成長だけでなく、周囲の人々や社会全体にも良い影響を与えると考えています。本書を通じて、私たちは自分の内面と向き合い、日々の生活の中で「面倒だから、しよう」という心構えを持つことで、より豊かで充実した人生を送るためのヒントを得ることができるでしょう。

 本書が読者に伝えるのは、単なる自己啓発のための哲学ではなく、日常の中で丁寧に生き、他者との関わりを大切にすることの重要性です。それは、最終的には自分自身の人生をより豊かにし、社会全体にも貢献する道を示しているといえるでしょう。

人事の視点からの考察

 本書を拝読すると、人事の立場からも種々考えることがあると強く思ったところです。もう少し考察をしてみたいと思います。

1. 自己成長と学びを促進する仕組み作り

 本書で示される「面倒なことに取り組む姿勢」は、社員の成長を促進するための非常に重要な要素です。人事の視点から見ると、社員が業務の中で感じる「面倒くさい」と思う作業や挑戦を回避するのではなく、それに正面から向き合う姿勢を組織全体で育むことが、社員のスキルアップやキャリア成長に大いに寄与します。特に重要なのは、社員がそのような面倒な仕事を前向きに取り組むための適切な仕組みや環境を整備することです。これにより、社員は単に業務をこなすだけでなく、その過程で新しいスキルや知識を身につけ、長期的に見て自己成長を遂げることが可能になります。

 企業としては社員が学び続ける文化を作ることが重要です。たとえば、社内研修や勉強会、資格取得のための支援プログラムなどを提供することで、社員が常に新しい挑戦を受け入れる準備ができる環境を整えることができます。また、「面倒だ」と感じる仕事こそが、後に自分のスキルを向上させ、キャリアを発展させるための貴重な機会であるという意識を社員に持たせることが重要です。これを実現するためには、上司や先輩社員が率先して面倒な業務に挑み、その過程で学びを得る姿勢を示すことが大切です。リーダーシップを持つ者が「面倒なことを避けるのではなく、むしろ進んでそれに取り組む」という模範を示すことで、組織全体の文化が自然と形成されていくでしょう。

 また、キャリア成長のために重要なポイントは、社員がチャレンジングな課題に取り組むことができる環境を提供することです。面倒な仕事を避けるのではなく、それに挑戦し、失敗しても学びの機会と捉える文化を組織内で醸成することが、社員の自己成長を促す大きな要素となります。例えば、業務の中で困難なプロジェクトを担当させたり、イノベーションを促進するための新しい役割を与えたりすることで、社員が面倒なことを積極的に取り組むようになります。これによって、社員は自分自身を高め、組織全体のスキルレベルも向上していくでしょう。

2. 丁寧な仕事の姿勢と企業文化の醸成

 渡辺氏が強調している「丁寧に生きる」という考え方は、人事の視点から見ても非常に重要な意味を持っています。社員が自分の業務に対して真剣に、そして丁寧に取り組む姿勢は、組織全体のパフォーマンス向上に直結します。特に、現代のビジネス環境ではスピードや効率性が重視されがちですが、それでも一つ一つの業務に心を込めて丁寧に対応することの価値は変わりません。このような丁寧な仕事の姿勢を全社的に促進することが、社員の仕事に対する満足度やエンゲージメントを高めるだけでなく、組織全体の成果向上にもつながります。

 人事部門としては、この「丁寧な仕事の姿勢」を企業文化の一部として根付かせるために、いくつかの取り組みが考えられます。まず、経営陣やリーダーシップ層が率先して丁寧な仕事の価値を社員に伝え、実践することが重要です。
 例えば、社内での成功事例やフィードバックセッションを通じて、どのような小さな行動が大きな成果をもたらしたかを共有することで、社員一人ひとりが自分の仕事に対して誇りを持ち、丁寧に取り組む動機づけを行うことができます。また、業務に対して心を込めた対応を行った社員には、積極的にフィードバックを与え、その努力を評価するシステムを導入することで、ポジティブな行動が組織全体に広がるでしょう。

 企業文化として、どんなに小さなタスクであってもそれを大切にし、丁寧に取り組む姿勢を持つことが、組織全体の成功につながるという考えを徹底することが重要です。特に、部下や後輩社員に対して上司が丁寧に指導し、彼らが自身の業務にどのように取り組むべきかを示すことが求められます。これにより、若手社員もまた自分の仕事に対する責任感を持ち、常に丁寧に業務を遂行することが習慣化されるのです。このように、丁寧な仕事の姿勢が組織文化として根付けば、組織全体のクオリティや成果が向上するだけでなく、社員一人ひとりが自己成長を実感できる環境が整うでしょう。

3. リーダーシップ育成と面倒への挑戦

 リーダーシップの育成においてもヒントが多く隠されています。リーダーは、困難な課題や予期せぬ問題に直面したときに、それをどのように解決していくかが求められます。面倒なことから逃げずにそれに向き合うことが、強いリーダーシップの証であり、社員からの信頼を得るための重要な要素です。リーダーシップを発揮するためには、まずリーダー自身が「面倒なことにどう向き合うか」を真剣に考え、それを実行に移す姿勢が必要です。人事部門としては、リーダー候補となる社員に対して、面倒な課題に取り組む機会を提供し、リーダーシップを育成するための具体的な経験を積ませることが重要です。

 具体的には、リーダーシップ育成プログラムの中で、あえて難しいプロジェクトや複雑な課題を担当させることで、面倒なことにどう対処するかを学ばせることが考えられます。リーダー候補者は、このようなチャレンジングな経験を通じて、自分自身の限界に挑戦し、困難を乗り越えることでリーダーとしての自信を深めることができます。また、失敗を恐れずに挑戦することの大切さを学ぶことで、リーダーシップを発揮する際に必要な「判断力」や「柔軟性」を養うことができます。

 さらに、リーダーシップ育成において重要なのは、リーダーが自分自身だけでなく、周囲のフォロワーと共に「面倒なこと」に挑む姿勢を持つことです。リーダーが孤立して全てを引き受けるのではなく、チーム全体で面倒な仕事に取り組むことで、組織全体の力を引き出すことができます。リーダーシップ育成においては、リーダーだけでなくフォロワーシップの重要性も忘れてはなりません。リーダーとメンバーが協力して困難な課題に取り組む姿勢が、組織全体のパフォーマンス向上につながるのです。人事部門は、このような協力的なチーム文化を育成し、リーダーとメンバーが共に成長できる環境を作ることが求められます。

4. 社員のモチベーション維持とエンゲージメント

 本書の考え方は、社員のモチベーションやエンゲージメントの向上にもつながります。面倒なことに挑戦するという姿勢は、短期的にはストレスや負担を伴うかもしれませんが、長期的には社員が自己成長を感じ、達成感を得る大きな原動力となります。人事の視点からは、社員が自分の仕事にやりがいや意義を見い出し、面倒な業務に対しても前向きに取り組めるような仕組みを整備することが重要です。

 まず、社員が自分のキャリアパスを明確に描けるようにすることが大切です。面倒な仕事や挑戦的なプロジェクトが、どのようにして自身の成長やキャリアアップに結びつくのかを明確に示すことで、社員のモチベーションを高めることができます。例えば、個人目標やキャリア相談を通じて、社員が自分の将来に向かって成長できる道筋を具体的に描けるよう支援することが効果的です。また、組織としても、成長意欲の高い社員に対して適切なサポートやアドバイスを提供することで、彼らの挑戦を後押しする姿勢を示すことが重要です。

 さらに、面倒な仕事に取り組む社員に対して適切なインセンティブを設けることも、モチベーション維持には不可欠です。報酬制度や評価システムを通じて、努力を正当に評価し、結果だけでなく過程を重視する風土を醸成することで、社員が面倒な業務に対しても意欲的に取り組む姿勢を強化することができます。具体的には、チャレンジした社員に対して特別なボーナスやプロモーションの機会を提供するなど、彼らの挑戦をしっかりと報いるシステムを構築することが求められます。

5. メンタルヘルスと働き方のバランス

 「面倒だから、しよう」の精神は、社員にとって非常に前向きなメッセージである一方で、働きすぎや過度な負担につながらないようなバランスも必要です。人事の視点では、社員のメンタルヘルスを守りつつ、彼らが面倒なことにも挑戦できるような働き方改革を進めることが重要です。社員が健康的に働きながらも、自分の限界に挑戦し、成長していける環境を整えることが、人事部門の大きな役割の一つとなります。

 まず、フレックスタイム制度やリモートワークの導入など、柔軟な働き方を推進することで、社員が自分のペースで業務に取り組めるような環境を整えることが重要です。これにより、社員がストレスを抱えすぎずに、面倒な業務にも前向きに取り組むことができるようになります。また、メンタルヘルスのサポート体制も充実させることで、面倒なことに挑む過程で生じる精神的な負担を軽減することができます。カウンセリングやメンタルヘルス相談の窓口を設置し、社員がいつでも安心して相談できる環境を提供することが求められます。

まとめ

 本書は、人事の視点から見ても多くの気づきを与えてくれるものでした。社員が面倒なことに挑戦し、自己成長を遂げるためには、組織としての支援体制や文化が非常に重要です。面倒なことに取り組むことで社員は成長し、その成長が組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。また、リーダーシップの育成や企業文化の醸成にも「面倒だから、しよう」という姿勢が重要な役割を果たすことが理解できたところです。

人生の挑戦に立ち向かう瞬間です。険しい山道の前に立つ人物が、これから困難を乗り越える覚悟を表しており、周囲の自然はその道のりがもたらす成長と充実感を象徴しています。温かい光と咲き誇る花々が、面倒なことを受け入れることで得られる豊かな人生を暗示しています。


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