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問題解決の核心に迫る:問いを立てる重要性ー内田和成氏

 Aoba-BBTの番組「内田和成氏が語るビジネスマインド135」は、「問いを楽しむ(6)そもそも「問い」とは何か?」でした。ここでは、ビジネスや日常生活において「問いを立てること」がどれほど重要であり、その重要性が私たちの仕事の質や効率にどのように影響を与えるかが取り扱われています。問いを立てることの本質的な意味や、どのようにして良い問いを見つけ出すのか、そのために必要なスキルや心構えが取り上げられています。

 「問いを立てること」の重要性は誰でも認識するところと思いますが、その重要性はあまり語られることはないのではないでしょうか。私も改めて考えてみて、特に人事分野での問いの取り扱いについて考察を深めてみたいと思います。
 

1. 問いの重要性について

 まず、「問い」の本質について取り扱われています。学生時代には、先生や試験官から与えられる問いに対して答えを探すことが主な課題でした。しかし、社会人になると、誰も答えを教えてくれるわけではなく、自ら問いを立て、それに答える力が求められるようになります。特にビジネスの場面では、問題の核心を見極めるための問いを自分で作り出すことが必要です。

 内田氏は、ピーター・ドラッカーの名言を引用し、「経営における最大の過ちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ」と指摘します。この言葉は、ビジネスにおいてどの問いを立てるかが極めて重要であり、正しい答えを見つける以前に、正しい問いを立てることが何よりも大事であることを強調しています。たとえ正確な答えを導き出しても、それがそもそも間違った問いに対する答えであれば、問題の解決にはつながらないのです。

 さらに、問いを立てる力はビジネスにおいてだけでなく、日常生活や人間関係においても重要であると述べています。
 例えば、何か問題が生じた時に、それが本当に解決すべき問題なのかどうかを見極めるためには、まず適切な問いを立てなければなりません。そして、この問いを通じて、問題の本質を浮き彫りにし、それに対して効果的な解決策を見出すことが可能となるのです。問いを立てることができれば、次のステップが自然に見えてきて、解決への道筋を描くことができます。

2. 良い問いと悪い問いの違い

 内田氏は、良い問いと悪い問いの違いについて説明しています。

 良い問いとは、問題の本質に迫る問いであり、課題の原因を明確にし、解決策に結びつく問いです。良い問いが立てられれば、その問いに対する答えを見つけることで、問題解決が可能になります。さらに、良い問いは、答えを実行に移した際に大きな効果をもたらし、仕事の質を高めることが期待できます。

 一方で、悪い問いは、間違った問題に答えを導き出してしまう問いです。このような問いは、時間や労力の無駄になるばかりか、誤った方向に進んでしまう可能性があります。特に、答えが存在しない問いや証明ができない問いは、ビジネスの場面では大きなリスクとなります。ビジネスにおいては、結果を出すことが求められるため、問いに対する答えが確実に証明できるものでなければなりません。学問的な探求とは異なり、ビジネスでは答えが結果に直結するため、証明可能な問いが重要なのです。

 また、悪い問いの例として、課題の解決策につながらない問いが挙げられます。たとえば、問題の本質に触れずに表面的な問いを立ててしまうと、その答えは実際の問題解決に役立たないことがあります。内田氏は、このような問いを避け、問題の核心に迫ることが重要であると強調しています。

3. 具体例を通じた問いの活用:地方の八百屋の経営問題

 地方の八百屋を題材に、問いの立て方とその応用を実際のビジネス場面でどのように使うかを解説しています。この八百屋は長年、地元の固定客に支えられ、安定した経営を続けてきましたが、近隣に大手スーパーが出店したことで顧客を奪われ、売り上げが減少するという課題に直面しています。

 この状況に対して、まず経営者は「何が一番の課題なのか」を考える必要があります。そして、その課題に対して「なぜこの問題が起きたのか」という原因を探り、最後に「どのように解決すべきか」という問いを立てていきます。
 例えば、スーパーが安い価格で品揃えも豊富であるため、顧客がそちらに流れてしまったという事実が見えてきます。この問題にどう対応すべきかを考えると、品揃えや価格で競争するのは現実的ではありません。小規模な八百屋には限界があります。

 そこで、内田氏は「どうすれば価格や品揃えではなく、別の価値を提供して顧客を引き戻せるか」という問いを立てることが重要だと指摘します。
 例えば、地域に根差した特別なサービスを提供したり、八百屋ならではの新鮮で高品質な野菜を強調することで、価格競争ではなく、質で勝負することが考えられます。また、スーパーにはないサービス、たとえば自宅への配送サービスを導入するなど、顧客にとって価値のある新しい提案をすることができれば、顧客を取り戻すことができる可能性があります。

 このように、問いを立てることによって、問題の本質が明確になり、解決策も浮かび上がってくるのです。問いが具体的であればあるほど、解決策も具体的になり、実行可能なプランが見えてきます。

4. 問いを立てることの効果とその影響

また、問いを立てることによる具体的な効果についても説明しています。良い問いを立てることによって、仕事の効率が大幅に向上します。問いを通じて問題の本質に迫ることができれば、無駄な作業を省き、必要な部分に集中することができるため、仕事の質が向上し、短時間でより良い結果を出すことが可能になります。

 さらに、問いを立てることは、仕事をより楽しむための一つの手段でもあります。自分で問いを立てることで、自分自身の仕事の設計が可能になり、仕事に対するモチベーションが向上します。問いを持ちながら仕事に取り組むことで、単なる作業ではなく、自分の成長やクリエイティビティを発揮する場としての仕事が見えてきます。こうして、自分自身の興味や関心を問いに反映させることで、より主体的に仕事に取り組むことができ、仕事が楽しくなるのです。

5. 好奇心と創造力が問いを支える力になる

 良い問いを立てるためには、好奇心と創造力が欠かせないと述べています。好奇心は問いを生み出す原動力であり、創造力はその問いを発展させ、深めていく力です。例えば、子供が「お菓子が欲しい」と言った時、その理由をただ「お腹が空いている」と捉えるのではなく、その背後に隠れている理由や背景に目を向けることが大切です。甘えたいのかもしれませんし、親の注意を引きたいのかもしれません。このように、単純な出来事にも問いを立て、観察と想像を通じてその本質に迫ることが、問題解決の第一歩となります。

 また、好奇心を持ち続けることが、問いを立て続けるために不可欠な要素であるとされています。特に、仕事においては、自分の興味をどう維持するかが課題になることがあります。内田氏は、興味が持てない分野に対しても、自分の好きな分野と結びつけることで、好奇心を引き出す方法があると提案しています。たとえば、在庫管理の仕事に興味がない場合でも、ファッションなど自分の好きな分野と関連付けることで、在庫管理の重要性や面白さに気づくことができるかもしれません。このように、問いを通じて仕事に対する興味を引き出し、深く考える力が養われていきます。

まとめ

 本内容は、ビジネスにおける「問い」の重要性を多角的に捉え、その本質を深く探るものです。問いを立てることが、いかに仕事の質を向上させ、問題解決の鍵となるかが具体例を通じて示されています。
 また、好奇心と創造力を持って問いを立て続けることで、私たちの仕事や日常生活がより豊かで充実したものになることが強調されています。問いを楽しみ、その力を活用することで、私たちはビジネスの場でも日常生活でも、より良い成果を得ることができるでしょう。

人事の視点から「問い」考えてみる

 「問いの重要性」を人事の視点からさらに深く掘り下げて考察しています。そうすると、「問い」が組織の成長や社員一人ひとりの能力開発にどのように影響を与えるか、その活用法がより具体的に見えてきます。
 人事部門は、企業においてただ業務を効率化するだけでなく、社員のスキル向上、キャリアパスの形成、そして組織全体の文化や価値観を成長させるという極めて重要な役割を担っています。
 その中で「問い」を効果的に用いることで、企業が抱えるさまざまな課題に対する洞察を得たり、解決策を見出すことが可能になります。以下では、人事のさまざまな機能において問いをどのように活用できるかを、いくつかの観点で考えてみたいと思います。

1. 社員の成長を促す「問い」:自律的なキャリア形成を支援する手段として

 社員一人ひとりの成長を支援するために、適切な問いを立てることは、人事の重要な機能です。特に現代では、社員の自律性を尊重し、彼らが自らのキャリアを主体的に設計できるように支援することが求められています。この過程において、問いは社員が自己を深く理解し、将来の目標を明確にするための重要なツールとなります。
 例えば、社員に対して次のような問いを投げかけることが考えられます。「現在の業務で最も充実感を感じるのはどの瞬間ですか?」「あなたが本当に情熱を持って取り組める業務は何ですか?」「自分の強みをさらに伸ばすためには、どのようなスキルや経験が必要ですか?」といった問いは、社員が自分の強みや興味をより深く理解するためのきっかけとなり、これによりキャリアの方向性が自然と見えてくることが期待されます。

 特に、社員のキャリア開発においては、問いを通じて自己反省を促し、これまで見過ごしてきた潜在的な能力や興味に気づかせることが重要です。
 例えば、「これまでに最も成長を実感できた瞬間は何ですか?」という問いを投げかけることで、社員は自らの経験を振り返り、そこから学びを得ることができます。このような問いかけは、社員の自律的な成長を促進するだけでなく、人事としてもその社員がどのようなキャリアを目指しているのか、どのような支援が必要なのかを把握するための貴重な情報となります。これにより、企業側も社員の強みや成長可能性を最大限に引き出し、適切なキャリア支援を提供することが可能となります。

 さらに、問いを通じてのフィードバックや評価は、単なる一方向的なものではなく、対話を通じて双方向に行うべきでしょう。これにより、社員は自己理解を深め、同時に人事や上司もその社員の能力やニーズをより的確に把握できます。
 例えば、評価面談では「次のキャリアステップに向けて、どのような課題を克服すべきだと考えていますか?」といった問いを用いることで、社員が自己課題を認識し、成長のための具体的なアクションプランを立てるきっかけを提供します。このように、問いを通じた評価は、単なる成績評価に留まらず、社員が自己成長に責任を持ち、主体的にキャリアを形成するための重要なステップとなります。

2. 組織の課題解決に向けた「問い」:問題の本質に迫り、組織全体の改善を図る

 人事部門は、組織全体の課題を発見し、それを解決するための問いを立てる役割を果たすべきです。
 特に、社員のエンゲージメントが低下している場合や離職率が高まっている場合など、組織の健全性に関わる課題については、適切な問いを立てることでその原因を深く掘り下げ、根本的な解決策を見つけることが可能です。  
 例えば、離職率が高い原因を探る際には、「なぜ社員が組織に対して満足感を感じられていないのか?」「退職を決断する要因は何か?」「どのような環境や制度があれば、社員が長く働きたいと感じるのか?」といった問いを立てることが考えられます。これにより、単なる表面的な対応に終始せず、根本的な問題に対処するための具体的な施策を導き出すことができます。

 さらに、組織全体の成長戦略においても、「問い」を通じて未来を見据えた施策を考えることができます。
 例えば、「今後の市場変化に対応するために、我が社が必要としているスキルセットは何か?」「今後5年間で組織を発展させるために、どのような人材が必要か?」といった問いを立てることで、組織が抱える長期的な課題に対する明確なビジョンを描くことができます。このような問いを定期的に行うことで、組織が柔軟に環境の変化に適応し、成長を続けるための道筋が見えてきます。

 人事はまた、組織の変革プロセスにおいても問いを活用できます。特に、組織の文化や価値観を見直す際に、「現行の組織文化は社員全員にとって居心地が良いものか?」「新しい価値観をどのように浸透させ、社員のモチベーションを向上させるか?」という問いを投げかけることで、組織全体のエンゲージメントを向上させるための施策を立てることができます。また、組織のミッションやビジョンを社員全体に共有し、その実現に向けての具体的な行動計画を立てるためにも、問いが非常に効果的です。このように、組織の課題解決に向けた問いは、単なる問題解決の手段にとどまらず、組織の未来を切り開くための道具としても活用できるのです。

3. 評価・フィードバックにおける「問い」:対話を通じた成長促進とモチベーション向上

 人事における評価制度やフィードバックのプロセスにおいて、「問い」を積極的に活用することは、社員の成長を促進し、モチベーションを向上させるために非常に有効です。従来の評価制度では、一方的な評価が行われることが多かったかもしれませんが、現在では双方向的な対話が求められています。これにより、社員が自己を振り返り、自己理解を深めることができると同時に、評価者側もその社員のニーズや目標をより具体的に把握できるようになります。

 例えば、評価面談の際に「今年最も達成感を感じたプロジェクトは何ですか?」「あなたが今後目指すべき目標は何だと感じていますか?」といった問いを投げかけることで、社員が自らの強みや課題を認識し、次のステップに進むための具体的な行動を考えるきっかけとなります。これにより、フィードバックは単なる評価の場にとどまらず、社員と組織が一緒になって成長していくための対話の場となります。また、このような問いかけを通じて、社員のキャリアビジョンを共有し、組織の中でどのように成長していくべきかを共に考えることができます。

 さらに、評価制度における問いは、社員のモチベーションを高めるための重要な手段でもあります。「あなたが最もモチベーションを感じる瞬間はいつですか?」「どのようなサポートがあれば、さらにパフォーマンスを向上させることができると感じていますか?」といった問いを通じて、社員が自らのモチベーションの源を見つけ、それに基づいて行動するためのサポートを行うことができます。これにより、社員が自己成長に対して積極的に取り組む姿勢が醸成され、組織全体としてのパフォーマンスも向上するでしょう。

4. 多様性と包摂性の推進における「問い」:ダイバーシティ&インクルージョンの向上に向けて

 現代の組織において、多様性(ダイバーシティ)と包摂性(インクルージョン)の推進はますます重要なテーマとなっています。この分野においても、問いは極めて有効なツールとして活用できます。特に、人事が組織の多様性を推進する際には、「組織内で多様なバックグラウンドを持つ社員が公平に評価され、キャリアの機会を得ているか?」「多様な意見や価値観が尊重されている環境をどのように作り出すか?」という問いを立てることで、組織文化の改善や制度の見直しが進むことが期待されます。

 また、包摂性を高めるためには、「どのようにして多様な社員がチームに溶け込み、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を作り出すか?」という問いを投げかけることが有効です。このような問いを通じて、組織全体でダイバーシティを尊重し、社員一人ひとりが個性を発揮できる職場環境を構築することができます。多様性の推進は、単に人種や性別の違いを認めるだけでなく、それぞれの社員が持つ異なる視点やスキルを活かし、組織の成長に貢献できるような体制を整えることが重要です。

5. リーダーシップ育成に向けた「問い」:次世代のリーダーを育てるためのアプローチ

 リーダーシップ育成は、組織の将来を見据えた重要な課題です。次世代のリーダーを育成するためには、リーダー候補が自らのリーダーシップスタイルや価値観を深く考えるための問いを提供することが効果的です。例えば、「リーダーとしてあなたが大切にすべき価値観は何ですか?」「チームを効果的に導くために、今後どのようなスキルを強化する必要がありますか?」という問いを通じて、リーダー候補が自らのリーダーシップ像を明確にし、それに基づいて行動するための具体的な方針を立てることができます。

 また、リーダーシップの評価においても、問いを活用することができます。例えば、「今のリーダーシップスタイルでチームが最も成果を出している場面はどこか?」「リーダーとしての弱点を克服するためにはどのようなアプローチが必要か?」といった問いを通じて、リーダー自身が自己を振り返り、改善点を具体的に考えるための重要な手がかりを提供します。このような問いを通じて、リーダーは自己成長を促進し、より効果的なリーダーシップを発揮できるようになります。

まとめ

 「問い」は社員の成長を促進するだけでなく、組織全体の課題解決や将来のリーダー育成にも大きな影響を与えることが分かります。人事部門は、社員一人ひとりの能力を引き出し、組織の成長を支援するために、適切な問いを立て、問題に対処するための施策を考える役割を果たすことが求められます。問いを通じて社員や組織が自己理解を深め、持続的な成功を達成するための基盤を築くことができることでしょう。

「問い」の重要性を象徴しています。中心の人物が遠くを見つめながら光を放つ本を持っており、その上には柔らかい光の線が問いかけの象徴であるクエスチョンマークを描いています。背景の静かな山々や、昼から夜へと移り変わる空が、時間をかけて答えを探していく過程を表現しています。このように、「問い」は私たちに思索と成長をもたらし、新たな発見へと導いてくれます。


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