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【書籍】「境界マネジメント」ー仕事と私生活のバランスを取る

 『プレジデント2024年7/5号(元気が出る睡眠革命)』でした。睡眠といいうテーマとは直接無関係なのですが、「境界マネジメント」についての紹介がありました。仕事と私生活の境界線を管理する「境界マネジメント」は、現代社会においてますます重要性を増しています。共働き世帯の増加やリモートワークの普及により、オンオフの切り替えが難しくなり、仕事と私生活のバランスに悩む人が増えているからです。企業人事にとっても重要な課題であり、考察をしてみます。

 「境界マネジメント」とは、仕事と私生活を効果的に切り分けるためのセルフマネジメントスキルです。欧米では2000年頃から研究が進められてきましたが、日本ではまだ認知度が低いのが現状です。しかし、働き方改革や多様な働き方の浸透により、日本でも境界マネジメントの重要性が認識され始めています。

境界マネジメントの必要性

 境界マネジメントがうまくできていると、仕事への集中力が高まり、生産性が向上します。例えば、仕事中に私用メールやSNSの通知をオフにすることで、目の前のタスクに集中できるようになります。また、休憩時間にはしっかりと休息を取り、心身をリフレッシュすることで、午後の仕事も効率的に進められます。

 一方、境界マネジメントができていないと、常に仕事のことを考えてしまい、ストレスが溜まりやすくなります。
 例えば、休日に仕事のメールをチェックしたり、家族との時間に仕事の電話に出たりすることで、心身ともに休まる時間がなくなり、ストレスが蓄積されてしまいます。

境界マネジメントに悩む人々

 パーソル総合研究所の調査によると、20代男性や育児期の男性が境界マネジメントに苦労している傾向があるとのこと。20代男性は、キャリアアップを目指して長時間労働になりがちで、プライベートの時間を確保するのに苦労しています。また、育児期の男性は、仕事と育児の両立に悩み、自分の時間が取れないと感じることが多いようです。

 一方、50代男性は、仕事にやりがいを感じている人が多く、境界マネジメントの必要性を感じていない傾向があります。しかし、管理職として部下の境界マネジメントをサポートする立場にある場合は、自身の価値観にとらわれず、部下のニーズを理解することが重要とのことです。以下、パーソル総合研究所の調査です。

境界マネジメントとパフォーマンス

 境界マネジメントは、個人のパフォーマンスにも大きな影響を与えます。境界コントロール実感が高い社員ほど、仕事へのモチベーションや貢献意欲が高く、結果として高いパフォーマンスを発揮する傾向があります。一方、境界マネジメントができていないと、集中力の低下やストレスの増加により、パフォーマンスが低下する可能性があります。

 特に、高いパフォーマンスを発揮するハイパフォーマー層では、境界マネジメントができていないと、燃え尽き症候群に陥るリスクが高まります。企業は、ハイパフォーマー層が安心して働ける環境を整えるためにも、境界マネジメントの重要性を認識し、支援体制を構築する必要があります。

境界マネジメントの方法

 境界マネジメントを成功させるためには、6つの要素「切断」「感情抑制」「計画」「縮小」「調整」「優先」を意識することが重要です。これらの要素を参考に、自分に合った方法を見つけることが大切です。
 例えば、「切断」のために、仕事が終わったらパソコンをシャットダウンする、スマートフォンをサイレントモードにするなどの工夫ができます。「計画」のために、1日のスケジュールを立て、仕事とプライベートの時間を明確に区切ることができます。

企業と上司の役割

 境界マネジメントは個人の努力だけでは難しい場合もあります。企業は、フレックスタイム制やリモートワークの導入、有給休暇の取得促進など、柔軟な働き方を支援する制度を整備する必要があります。また、上司は、部下の状況を把握し、適切なアドバイスやサポートを提供することが求められます。例えば、部下が過重労働になっていないか、休暇をしっかりと取れているかなどに気を配り、必要に応じて業務量を調整したり、休暇取得を促したりすることが重要です。

境界マネジメントは、仕事と私生活のバランスを取り、より充実した人生を送るための重要なスキルです。自分にとって最適な方法を見つけ、実践することで、仕事のパフォーマンス向上や心身の健康維持、そして家族や友人との良好な関係を築くことができるでしょう。

企業人事の視点でも重要なテーマ

 境界マネジメントは従業員のエンゲージメント、生産性、定着率に大きく影響するだけでなく、企業の持続的な成長を支えるための重要な要素です。境界マネジメントがうまく機能している職場では、従業員は仕事と私生活をバランス良く両立でき、仕事への集中力やモチベーションが高まります。これにより、生産性の向上や創造性の発揮、そして組織全体の活性化につながり、ひいては企業の競争力強化に貢献します。

 一方、境界マネジメントができていない職場では、従業員のストレスやバーンアウトのリスクが高まり、離職率の増加や優秀な人材の流出につながる可能性があります。
 例えば、長時間労働や休暇の未取得が常態化している職場では、従業員は心身ともに疲弊し、仕事への意欲を失ってしまうかもしれません。このような状況は、企業にとって大きな損失であり、早急な対策が必要です。

 特に、高いパフォーマンスを発揮するハイパフォーマー層は、高い能力と責任感から長時間労働になりがちで、境界マネジメントができていないと、燃え尽きてしまい、パフォーマンスが低下するだけでなく、最悪の場合、離職してしまう可能性があります。企業は、ハイパフォーマー層の才能を最大限に引き出し、長期的な活躍を促すためにも、境界マネジメントの重要性を認識し、積極的に支援体制を構築する必要があります。

 企業人事としては、以下の具体的な施策を通じて従業員の境界マネジメントを支援することが重要です。

制度設計の面

 フレックスタイム制やリモートワーク、時短勤務制度など、多様な働き方を許容する制度を導入し、従業員が自分のライフスタイルや状況に合わせて働ける環境を整えます。
 例えば、育児や介護と両立しながら働く従業員のために、フレックスタイム制を導入したり、育児休業や介護休業の取得を促進したりすることで、仕事と家庭の両立を支援することができます。

意識改革の面

 経営層から一般社員まで、境界マネジメントの重要性についての理解を深め、ワークライフバランスを尊重する企業文化を醸成します。
 例えば、経営層が率先して有給休暇を取得したり、定時退社を推奨したりすることで、従業員も安心して休暇を取得したり、定時で退社したりできる雰囲気を作ることができます。

研修・教育

 境界マネジメントに関する研修やセミナーを実施し、従業員が具体的なスキルや知識を習得できる機会を提供します。
 例えば、タイムマネジメントやストレスマネジメント、コミュニケーションスキルに関する研修を実施することで、従業員が自分自身で境界マネジメントを実践できるようサポートできます。

コミュニケーション

 上司と部下、同僚同士など、日頃からコミュニケーションを密にし、お互いの状況を理解し、協力し合える関係を築きます。
 例えば、定期的な1on1ミーティングを実施したり、チーム内で情報共有を活発に行ったりすることで、従業員が抱える悩みや課題を早期に発見し、適切なサポートを提供することができます。

評価制度

 時間外労働時間や有給休暇取得率など、ワークライフバランスに関する指標を人事評価に取り入れ、従業員が境界マネジメントに取り組みやすい環境を作ります。
 例えば、時間外労働が少ない従業員や有給休暇を積極的に取得する従業員を評価することで、ワークライフバランスを重視する行動を奨励することができます。

 これらの施策を通じて、企業は従業員のエンゲージメントを高め、生産性向上や優秀な人材の定着につなげることができます。また、従業員が仕事と私生活を充実させることで、企業全体の活性化にもつながり、持続的な成長が期待できます。

 さらに、境界マネジメントは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進にも貢献します。多様な働き方を認め、それぞれのライフスタイルに合わせた働き方を支援することで、性別、年齢、国籍などを超えて、誰もが能力を最大限に発揮できる職場環境を実現できます。これにより、企業は多様な人材の能力を活かし、イノベーションを創出し、競争力を強化することができます。

 境界マネジメントは、もはや個人の問題ではなく、企業全体の課題として捉える必要があります。企業人事としては、戦略的に境界マネジメントに取り組み、従業員が安心して働き続けられる職場環境を構築していくことが求められます。

境界マネジメントの概念をリアル表しています。中央に立つ人物の左右に、仕事と私生活の分かれたシーンが表現されています。左側にはモダンなホームオフィスがあり、デスク、コンピュータ、プランナー、時計が配置されています。右側には居心地の良いリビングルームが描かれ、ソファ、本、ペットの犬が見られます。背景は仕事側のクールな青から、私生活側の暖かいピンクへとスムーズに移り変わり、仕事と私生活のバランスを象徴しています。このようなバランスが取れることで、より充実した生活が送れることを示しています。


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