今後の人事業務の重要な一つになるかも知れない「RBA(責任ある企業同盟)」について
RBAとは何か
Responsible Business Alliance(RBA:責任ある企業同盟)をご存知でしょうか。RBAは、グローバルなサプライチェーンにおける責任あるビジネスを促進することを目的とする非営利団体です。かつては、Electronic Industry Citizenship Coalition(EICC)とよばれていましたが、2017年に現在の名称に変更されました。
RBAは、世界中の企業やサプライヤーと協力し、人権、労働権、環境保護などの重要な問題に対処するためのフレームワークやツールを開発しています。これには、サプライヤー行動規範や監査プロセスの標準化、トレーニングや教育プログラム、データ収集や報告のためのツールが含まれます。
RBAは、グローバルなサプライチェーンにおける企業やサプライヤーの社会的・環境的責任を強化することを目的としています。この取り組みにより、サプライチェーンにおける人権や環境に対する影響を最小限に抑え、サプライヤーの労働者の健康や安全を保護し、社会的・環境的な責任を果たす企業の存在感を高めることが期待されています。
世界はもちろん、日本でも大企業が多く加盟し始めています。RBAは、サプライチェーン関連の取り組みを目指すため、当該企業を顧客とする企業、また、その先の企業にも影響するというところが重要な点です。サプライチェーンの一旦をなしているとすると、「自社は加盟企業でないから関係ない」というわけにはいかず、中小企業でも対象になり得ます。
以下にRBAの主な特徴を解説します。
RBAの主な特徴
RBAの主な特徴は以下の通りです。
メンバーシップと参加
RBAは、電子機器、衣料品、およびその他の業界に属する企業が参加することができる非営利団体です。メンバーシップは自発的であり、企業はRBAのガイドラインに従うことを約束します。
労働者の権利
RBAは、労働者の権利を重視しています。メンバー企業は、労働者の安全と健康を確保し、適正な労働条件を提供するための取り組みを行うことを求められます。これには、強制労働や児童労働の撲滅、最低賃金の遵守、働く環境の改善などが含まれます。
サプライチェーンの透明性
RBAは、サプライチェーンの透明性を追求します。メンバー企業は、自社のサプライチェーンにおける労働条件や環境影響を評価し、改善策を策定するためのデータの収集と報告を行う必要があります。
監査と認定
RBAは、メンバー企業のサプライチェーンに対して監査を実施し、ガイドラインの遵守状況を評価します。また、メンバー企業は、独立した第三者機関による認定を受けることもできます。
持続可能な調達
RBAは、環境への影響を最小限に抑えるための取り組みも行っています。メンバー企業は、持続可能な調達プラクティスを促進し、廃棄物削減、再生可能エネルギーの利用、排出削減などの活動を推進することが求められます。
プラットフォームと協力
RBAは、メンバー企業が情報やベストプラクティスを共有し、協力するためのプラットフォームを提供します。このネットワークを通じて、企業は共通の課題に対処し、持続可能な事業活動を推進することができます。
RBAの具体的主な活動
RBAは、具体的には、主に以下のような活動を行っています(上記「RBAの特徴」と重複する部分があります。)。
行動規範の策定と普及
RBAは、サプライチェーンでの社会的責任に関する行動規範を策定し、会員企業に普及を図ることで、人権や労働者の権利を保護するよう促しています。各種対応は、この「行動規範」に照らして実施することになります。
→最新の行動規範(V8.0:2024年1月1日現在))は以下になります。
https://www.responsiblebusiness.org/media/docs/RBACodeofConduct8.0_Japanese.pdf
行動規範は、労働、安全衛生、環境、倫理およびそれぞれのマネジメントシステムの5領域からなります。図で示すと以下の通りです(TUV社が掲載している図を借用させていただきました。ありがとうございます。)。
A.労働
このセクションでは、労働者の人権を尊重し、尊厳を持って扱うことが求められています。強制労働の一切の形態(借金労働や契約労働を含む)の禁止、未成年労働の禁止、労働時間の上限の設定、公正な賃金の支払い、差別やハラスメントの禁止、労働者の集団交渉の自由などが定められています。
B.安全衛生
安全衛生の基準では、労働関連の事故や病気の最小化に加え、作業環境の安全性と健康を確保することが強調されています。具体的には、緊急事態への備え、職場での健康と安全に関する継続的な教育と労働者からのフィードバックの重要性が述べられています。
C.環境
環境セクションでは、事業活動における環境への影響を特定し、コミュニティ、環境、自然資源への悪影響を最小限に抑えることが目標です。ここでは、環境許可の取得、汚染防止と資源の保全、危険物質の管理、廃棄物の減少とリサイクル、エネルギーの消費と温室効果ガスの削減が含まれます。
D.倫理
倫理セクションでは、企業とその代理人が市場での成功を達成し、社会的責任を果たすために最高の倫理基準を遵守することを求めています。これには、ビジネスの透明性、贈収賄や腐敗の防止、知的財産の尊重、競争と広告の公正な基準の維持などが含まれます。
E.管理システム
管理システムのセクションでは、適用可能な法律、規制、顧客要求に準拠し、このコードに適合し、このコードに関連する運用リスクを特定し、軽減するために、管理システムを確立または採用することが求められています。これには、リスク評価とリスク管理、目標の設定と改善、労働者とのコミュニケーションとエンゲージメント、監査と是正措置の実施が含まれます。
監視と報告
RBAは、サプライチェーンにおいて人権や労働者の権利に関する問題が発生した場合、会員企業がこれに対処するよう支援し、監視と報告を行っています。
研修や啓発活動
RBAは、人権や労働者の権利に関する研修や啓発活動を実施し、サプライヤー企業やその従業員に対して、社会的責任を果たすための知識やスキルを提供しています。
データ収集と分析
RBAは、サプライチェーンにおける人権や労働者の権利に関するデータを収集し、分析を行うことで、課題の洗い出しや解決策の検討を行っています。
RBAの労働人事における立場【重要】
行動規範を改めて見ると、労働人事の立場でいうと、RBAは労働人事に関し、非常に広範囲にわたる項目を含んでいます。労働人権は、労働者が人間としての尊厳を持ち、安全で健康的な労働環境で働く権利を保障するものです。以下に、労働人権分野で取り扱われる主な問題をいくつか挙げてみます。労働、安全衛生、倫理の分野になります。
・労働時間や賃金の不当な扱い
・児童労働、強制労働、奴隷労働の問題
・安全で健康的な労働環境の確保
・性的ハラスメントや差別的な扱いに関する問題
・労働組合の権利や労働者の団結権の問題
・雇用の機会均等に関する問題
以上のように、労働人権分野には多岐にわたる問題が含まれており、企業や社会が取り組むべき課題がたくさんあります。労働者の権利を尊重し、適切な労働環境を整備することは、企業の社会的責任として非常に重要な問題であるといえます。
これらについては、単にRBAの基準をクリアするというだけに止まらず、責任ある企業としての立ち位置としても重要となってくるものと思われます。人事に関する重要な業務が1つ増えるわけです。対応は大変になります。しかし、これら自体は、既述のように、企業の社会的責任を果たすという意味では重要なものであり、前向きにとらえていくことが良いと思います。
RBA対応にどう向かえば良いのか【重要】
RBA自体は、海外はもとより、日本の大手企業も参加しています。「自分には関係ない」と思うかも知れませんが、以下の通り、「参加企業は少なくとも一次取引先に対し本規範の認識と実施を要請」とあることから、参加企業である場合には、同等の遵守を求められます。また、現状は、「少なくとも一時取引先」となっていますが、RBAの目指すところは、サプライチェーンが適切に取り扱われていることから、自社(一時取引先)の取引先にも同様の扱いを求められる可能性もあります。そういう時代になってきているということなのでしょう。
<RBA加盟企業例>
外部監査機関の対応状況
外部監査機関も、RBAの監査の活動を始めています。
(DNV)
(TUV)