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【書籍】情熱と試行錯誤の結晶ー辻口博啓氏が語るパティシエの道

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp369「11月24日:お菓子の神様に魂を捧げる(辻口博啓 パティシエ)」を取り上げたいと思います。

 辻口氏は、「モンサンクレール 」のオーナーシェフです。その名を知られる有名パティシエとなるまでの道のりが語られています。

 彼は幼少期から強い情熱と情熱を持ち、お菓子作りに専念することを決意しました。この道のりは一筋縄ではいかず、多くの困難や挑戦を経て現在の地位に至っています。

 彼のキャリアは住み込みでの修行から始まりました。最初に働いたケーキ屋での初任給は4万5千円、そのうち1万5千円が部屋代に消えました。さらに将来、自分の店を持つために毎月1万円を貯金していたため、実際に使えるお金はわずか2万円でした。彼はこの少ない資金で生活しながら、常に技術を磨くことに専念しました。

 辻口氏は仕事中、先輩の動きを細かく観察し、技術を盗むことに努めました。休みの日には全国のお菓子屋を巡り、その技術や材料を学びました。特にコンクールで優勝しているお店では、ゴミ箱を漁って材料の仕入れ先を調べるほどの徹底した研究を行いました。例えば、アーモンド一つとっても、カリフォルニア産とスペイン産では味が全く違うことに気付き、それを自分の店で試作し続けました。

 彼は、お菓子作りにおいて人より優れた者になりたいという強烈な思いを持ち続けました。また、一流店と自分の作るものとの違いを理解するために試行錯誤を繰り返しました。しかし、学ぶ方法が分からない中で、彼は自らの道を切り開いていきました。

 辻口氏は時代の変化に対応するために常に新しいことに挑戦し続けることの重要性を強調します。彼は「トライする気持ち、戦う気持ちがなくなったら終わり」と語り、どんな年齢になっても挑戦する心を忘れないことが大切だと述べています。負けることもあるが、そこから学ぶことが多く、それが成長の糧になると考えています。彼にとって、何かを成し遂げるためには挑戦は不可欠であり、そこから逃げることはないと決心しています。

時代はどんどん変化して、常にいろんなものが出てきます。そこでトライする気持ち、戦う気持ちがなくなったら終わり。何歳になっても勝負だと僕は思っています。もちろん負けることもあるでしょうが、そこから学べることも大きい。何か事を成そうと思えば、勝負は宿命づけられると思うし、そこから逃げて生きたいとは思いません。だからお菓子を僕の人生を表現する一つのツールとして戦を繰り広げているんです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p369より引用

 彼の戦いの原動力の一つは実家の危機でした。お菓子屋のボンボンとして育った彼が、貧しさを経験したことは大きな転機となりました。周囲から哀れみの目で見られ、人々が離れていく中で、彼は人の恐ろしさを肌で感じ、自身も大きく変わりました。この経験が、彼の強い信念と情熱を生み出し、何もないところから形を生み出す力を育みました。試行錯誤を重ね、もがき苦しむことで得た経験が、現在の彼の力となっています。

 辻口氏は、実際に10年で自分の店を持つことができたと述べています。この10年間は、人間としての生活をほとんどしていなかったと振り返ります。朝から晩までお菓子作りに没頭し、寝る間も惜しんで働き続けました。彼は「そこまでやれば、誰でも10年でお店を持てる」と確信しています。能力よりも、やるかやらないかが重要であり、十年間本当に馬鹿になってやれば、必ず成果が出ると強調します。

 彼は、怒られようが何されようが、全てを「はいっ!」と受け入れ、お菓子の神様に魂を捧げるくらいの覚悟で全ての仕事に取り組むことが大切だと語ります。トイレ掃除から何から何まで、とことんやることで見えてくるものがあると述べています。辻口氏の言葉は、彼が経験してきた過酷な道のりと、それを乗り越えるための不屈の精神を物語っています。

 彼の経験談は、多くの人にとっての励みとなり、挑戦することの大切さを教えてくれます。辻口氏は、お菓子作りを通じて自分の人生を表現し、戦い続けることを選んだ人物です。その姿勢は、何事にも全力で取り組むことの重要性を示しており、若い世代に向けての強いメッセージとなっています。

人事としての応用

 辻口氏のストーリーは、情熱と努力、そして自己犠牲を通じて成功を収めるまでの過程を物語っています。彼の経験は、どの職業においても共通する重要な教訓を提供してくれます。以下では、辻口氏の経験を元に、人事領域における採用、育成、そしてキャリア開発にどのように活かせるかを考えてみます。

採用プロセスにおける熱意の重要性

 辻口氏のストーリーは、採用時に候補者の情熱と熱意を重視する重要性を示しています。彼が住み込みで修行を始めたケーキ屋での初任給が僅か4万5千円だったことからもわかるように、報酬よりも学びの機会を重視する姿勢が成功に繋がりました。したがって、人事担当者は応募者の熱意や自己成長への意欲を評価するために、面接や選考プロセスで具体的な質問を設定することが重要です。

具体的な質問例

  • あなたが情熱を注いでいる分野や活動について教えてください。

  • 困難な状況を乗り越えた経験を教えてください。その時、どのような学びがありましたか?

  • どのようにして自己成長を続けていますか?

 これらの質問は、候補者の情熱や自己成長への意欲を明らかにするためのものです。辻口氏のように、自己犠牲を厭わない姿勢を持つ候補者は、企業の成長に大きく寄与する可能性があります。特に、将来的なリーダー候補を見極める際には、情熱と自己成長への意欲が重要な要素となります。

育成・教育プログラムの設計

 辻口氏のように、成功を収めるためには自己学習と試行錯誤が不可欠です。彼は先輩のやっていることを目で盗み、休みの日にはお金を使ってお菓子屋巡りをするなど、積極的に学びの場を広げました。この姿勢を社員に持たせるためには、会社としても積極的な教育プログラムを提供することが重要です。

具体的な施策

  • メンター制度の導入
    経験豊富な社員が新人や若手社員を指導することで、実務に基づく学びを促進する。例えば、辻口氏が先輩の技術を目で盗んだように、メンターが新人に対して実際の業務を通じて知識やスキルを伝えることができる。

  • 継続的なトレーニングプログラム
    定期的なワークショップやトレーニングを実施し、最新の技術や知識を提供する。例えば、新しい材料や技術のトレンドを学ぶ機会を提供し、社員が常に最新の知識を持ち続けられるようにする。

  • 自己学習の支援
    社員が自己学習のために使用できる予算や時間を提供し、外部のセミナーやコースに参加する機会を設ける。辻口氏が自費でお菓子屋巡りをしたように、企業も社員が外部の学びの機会を得られるよう支援することが重要です。

 これらの施策は、社員が自主的に学び続ける文化を育むためのものです。自己学習の機会を提供することで、社員は自分のペースで成長することができ、結果的に企業全体の知識とスキルのレベルが向上します。

キャリア開発と成長機会

 辻口氏は、自ら試行錯誤を重ね、最終的には独自の店を持つことに成功しました。このようなキャリアの道筋を描ける環境を提供することが、社員のモチベーション向上に繋がります。

具体的な施策

  • キャリアパスの明確化
    社内でのキャリアパスを明確にし、社員が自身の成長ビジョンを描けるようにする。例えば、一定の経験を積んだ後にはどのようなポジションに進むことができるのか、具体的なキャリアパスを提示する。

  • 内部公募制度
    社内での異動や新しいポジションへのチャレンジを奨励する内部公募制度を設け、社員が多様な経験を積む機会を提供する。辻口氏が様々なケーキ屋で学んだように、社員も異なる部署やプロジェクトで多様な経験を積むことが重要です。

  • 成果主義の評価制度
    努力と成果を正当に評価する制度を整備し、社員のモチベーションを高める。具体的には、業績評価に基づく昇給や昇進、賞与などを導入し、社員の努力が正当に報われる仕組みを作る。

 キャリア開発の機会を提供することで、社員は自身の成長ビジョンを持ち、モチベーションを高く保つことができます。また、内部公募制度や成果主義の評価制度を導入することで、社員のチャレンジ精神を促し、企業全体のダイナミズムを高めることができます。

エンゲージメント向上とモチベーション管理

 辻口氏の話から学べるもう一つの重要な点は、モチベーションの維持とエンゲージメントの向上です。彼が貧しさを経験し、それが原動力となったように、社員が内発的なモチベーションを持てるような環境を作ることが重要です。

具体的な施策

  • 目標設定とフィードバック
    社員が自身の目標を設定し、それに対するフィードバックを定期的に行うことで、成長を実感できるようにする。例えば、四半期ごとに目標設定を行い、その進捗に対するフィードバックを提供することで、社員の成長をサポートする。

  • 認識と報酬
    努力や成果を適切に認識し、報酬や表彰を行うことで、社員のやる気を引き出す。具体的には、優秀な成果を上げた社員を表彰する制度を導入し、他の社員にとってもモチベーションとなるような環境を作る。

  • 心理的安全性の確保
    失敗を恐れずにチャレンジできる環境を整えることで、社員が新しいアイデアを提案しやすくする。例えば、失敗を許容する文化を育み、社員が安心して新しい試みを行えるようにする。

エンゲージメントの向上は、社員の生産性や企業への忠誠心を高めるために不可欠です。目標設定とフィードバックのプロセスを通じて社員の成長をサポートし、認識と報酬を適切に行うことで、社員のやる気を引き出します。また、心理的安全性を確保することで、社員が安心して新しいアイデアを試すことができ、企業全体のイノベーションを促進することができます。

組織文化の形成

辻口氏の経験から学べるもう一つの重要な教訓は、組織文化の重要性です。彼が「お菓子の神様に魂を捧げる」ような思いで仕事に取り組んだように、組織全体が一体となって共通の目標に向かって努力する文化を築くことが重要です。

具体的な施策

  • ビジョンとミッションの共有: 組織のビジョンやミッションを社員全員に共有し、共通の目標に向かって努力する文化を育む。例えば、定期的な全社員ミーティングを開催し、会社の方向性や目標を共有する。

  • チームビルディング活動: 社員同士の絆を深めるためのチームビルディング活動を定期的に実施し、協力し合う文化を促進する。例えば、ワークショップや社外活動を通じて、社員間のコミュニケーションを深める。

  • リーダーシップの育成: 組織文化を牽引するリーダーシップを育成するためのプログラムを導入し、社員がリーダーシップスキルを身につける機会を提供する。例えば、リーダーシップ研修やメンター制度を通じて、将来のリーダーを育成する。

 組織文化の形成は、社員が一体感を持ち、共通の目標に向かって努力するために不可欠です。ビジョンとミッションの共有やチームビルディング活動を通じて、社員間の絆を深め、協力し合う文化を育みます。また、リーダーシップの育成を通じて、組織全体の方向性を牽引するリーダーを育成することが重要です。

まとめ

 辻口博啓氏のストーリーは、人事領域においても多くの示唆を与えてくれます。採用時には候補者の情熱を見極め、育成プログラムでは自己学習を奨励し、キャリア開発の機会を提供することで、社員の成長とエンゲージメントを促進することができます。

 社員のモチベーションを維持し、高めるための施策を講じることで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができるでしょう。辻口氏の経験を活かし、人事施策をより効果的に設計することが、企業の持続的な成長に繋がると考えます。

 また、組織文化の形成やリーダーシップの育成も重要な要素です。ビジョンとミッションの共有、チームビルディング活動、リーダーシップの育成を通じて、社員が一体感を持ち、共通の目標に向かって努力する文化を築くことができます。これにより、企業は一層の成長と発展を遂げることができるでしょう。

パティシエが、白いシェフジャケットを着て、温かみのある明るいベーカリーで細心の注意を払ってデザートを作っています。背景には様々な美しい焼き菓子やケーキが並んでおり、木製のカウンターや棚が店舗に居心地の良い雰囲気を与えています。自然光が差し込む大きな窓もあり、店内を明るく照らしています。
シェフの表情は非常に真剣で、彼の技術と情熱が感じられます。彼の決意と努力が、この温かなベーカリーの中で生き生きと表現されています。この光景は、辻口氏が語る努力と挑戦の物語を視覚的に描写しています。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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