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【書籍】ゲーテと森本哲郎ー努力する人間の永遠の迷い
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp320「10月7日:人間は努力するかぎり、迷うものだ―ゲーテの言葉(森本哲郎 評論家)」を取り上げたいと思います。
森本氏は、人間の努力と迷いに関連する深い洞察を提供しています。彼はゲーテの『ファウスト』から引用した「人間は努力するかぎり、迷うものだ」という言葉を中心に、その深い意味を解析し、これがどのように日常生活や決断の瞬間に影響を与えるかを探求しています。この言葉は、目標に向かって進む過程での不確実性と葛藤を普遍的な経験として描写しており、森本氏はこのテーマを自身の人生経験と絡めて語っています。
特に、森本氏は自らが経験した将棋の観戦体験を例に挙げています。彼がかつて新聞の学芸記者時代に升田幸三と大山康晴の名人戦を見学した際の話は、印象深いものでした。このとき森本氏は、将棋の各手が進むのをただ待つだけで非常に退屈を感じたと述べていますが、その後の大山名人とのインタビューで彼が「うまくいきすぎている時に長考する」と聞いたことから、物事が順調に進むときほど慎重になるべきだという教訓を学びました。大山名人は、物事がスムーズに進む際には常に何か問題が隠れている可能性を疑い、それが彼の勝利へのアプローチであり、生活の哲学でもあったのです。
また、森本氏は戦時中の自らの青春時代を振り返り、召集されたら必ず死ぬと考えたこと、それが彼の読書や議論への熱心な取り組みにどう影響したかを語っています。彼は多くの本を読み、多くの人と議論を重ねることで、さらに多くの迷いに直面しましたが、その過程でゲーテの言葉に出会い、大きな啓示を受けました。迷いが深ければ深いほど、それは努力している証拠であり、その努力は目標達成の過程で必然的に伴うものだと理解しました。
森本氏は、迷いが単なる障害ではなく、人間の努力と成長の本質的な部分であることを強調しています。彼にとって、迷いは努力の過程で避けられないものであり、それを受け入れることが自己受容と前進への鍵となると考えています。この考え方は、彼の人生の多くの側面に影響を与え、読者に対しても、迷いを恐れず、それを成長の機会として捉えるよう助言しています。
何かを成し遂げようと思った時、迷うことなく目標に達することなど、決してあり得ません。高い目標を掲げれば掲げるほど、何かを成そうと願えば願うほど、人はあれこれ悩むものです。逆に見るなら、迷わない人間とは、何の努力もしない人間と言えましょう。努力しなければ、迷うことさえないのです。ゲーテは迷いこそ生きている証拠であり、迷ったあげく目標に到達するところに人間の真実がある、と確信していたのです。
それ以来、私は迷うことを少しも苦にしなくなりました。迷うということは、それだけ真剣に努力していることの証拠だと考えたからです。
この話は、人生の難しい瞬間においても、迷いを肯定的な光で見ることの重要性を説いており、私たちが直面する様々な挑戦に対して、どのように心構えを持ち、どのように対処すべきかについての示唆を与えています。森本氏の洞察は、読者にとって、自己反省の機会を提供し、より豊かで意味のある人生を送るための哲学的な指南となるでしょう。
人事としてどう活かすか
ゲーテの「人間は努力するかぎり、迷うものだ」という言葉は、人事業務の各段階において非常に重要な示唆を与えます。これは、採用、人材開発、組織変革などの複雑で難解な決断を迫られる局面で、意思決定者が直面する不確実性や多様な選択肢との闘いを象徴しています。ここでは、この名言が人事業務における具体的なシナリオでどのように適用されるかをさらに詳細に掘り下げ、その洞察を深めていきます。
採用と人材確保
採用プロセスは多くの場合、企業にとって重要な意思決定の連続です。新卒採用から中途採用に至るまで、適切な人材を見極めることは、その後の組織のパフォーマンスに直接影響を及ぼします。候補者のスキル、経験、潜在能力だけでなく、チームへの適合性や企業文化との調和を評価する必要があります。これには、面接、能力テスト、グループディスカッションなど複数の手法が用いられますが、各手法が持つ利点と限界を理解し、適切に組み合わせることが求められます。
「人間は努力するかぎり、迷うものだ」というゲーテの言葉は、この採用プロセスの中で、完璧な候補者像を求め続けることの困難さを表しています。迷いは、候補者選定の難しさと、将来的にその人物が組織にどのように貢献できるかという不確実性から生じます。採用担当者は、これらの迷いを乗り越え、時には直感に頼りながら、最終的な判断を下す必要があります。
人材開発とパフォーマンス管理
人材開発では、従業員のスキルアップとキャリアパスの設計が中心です。適切なトレーニングプログラムの選定、効果的なキャリア支援策の提供、そして個々のパフォーマンスに基づいた目標設定が求められます。従業員一人ひとりのニーズに合わせた個別のアプローチを考えることは、多大な努力と洞察を必要とします。さらに、効果的なフィードバックシステムを設計し、従業員のモチベーション維持とスキルの最大化を図る必要があります。
ゲーテの言葉は、人材開発におけるこれらの迷いや挑戦が、ただの障害ではなく、むしろ人事担当者が真摯に取り組むべき重要なプロセスであることを教えています。目の前の困難や選択肢に対する深い考察が、結果としてより質の高い意思決定をもたらすのです。
組織変革とイノベーション
組織を変革し、イノベーションを推進する際には、従来の枠を超えた発想と大胆な行動が求められます。市場の変化に応じた新しいビジネスモデルの採用、テクノロジーの導入、労働プロセスの再設計など、多くの決断が迫られます。これらの決断には高いリスクが伴い、組織内での抵抗や不安を生むこともあります。
ここでもゲーテの言葉が重要な意味を持ちます。変革の道のりは簡単ではありませんが、その過程での迷いや不安は、より良い解決策へと進むための必要なステップです。変革を推進する上で、これらの感情を正面から受け止め、解決策を模索することが重要になります。
まとめ
ゲーテの「人間は努力するかぎり、迷うものだ」という言葉は、人事領域における多様な業務に対する深い洞察として機能します。採用、人材開発、組織変革といった重要な業務において、迷いは避けられないものですが、それは同時に成長と進化の証でもあります。人事としては、これらの迷いを恐れず、それを乗り越えることで、より良い意思決定を行い、組織の発展に貢献することができるでしょう。
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ゲーテの『ファウスト』からの引用を反芻しているイメージです。彼が本に囲まれた木製のデスクに座り、静かな日本庭園が見える窓のそばで深く考え込んでいるシーンです。部屋は柔らかい照明で照らされており、哲学的な洞察の深さを引き立てています。
1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。