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「お金」と「時間」で再定義する現代の幸せ基準ー日経ビジネス

 日経ビジネスの2024/11/26の記事に『自分にとっての幸せとは何か? 「お金」と「時間」の2軸で考える』が出ていました。

 この記事では、現代のキャリアデザインにおいて重要となる「幸せ」を考える新しい視点として、「お金」と「時間」の2つの軸を提示しています。これらを単なる価値基準ではなく、人生をより豊かにするための指標として捉えることで、これからの社会における個人の生き方や働き方を考える際に役立つ内容となっています。そして、これは個人の問題だけではなく、企業の視点で考えることも重要になります。考察をしていきたいと思います。

幸せの基準を見直す重要性

 従来、幸福や成功は多くの場合「お金」という単一の基準で測られてきました。たとえば、年収が高いほど生活が豊かになり、それが幸せにつながるという考え方です。
 しかし、この記事では「お金」だけでは満たされない部分があることを強調しています。幸福の基準を「お金」のみに頼ることには限界があり、そのため、「時間」をもう一つの基準として取り入れることが提案されています。
 この「時間」とは、単に時の流れを指すのではなく、お金を稼ぐために費やす「働く時間」を除いた「余裕時間」を指します。余裕時間を増やすことで得られる自由や選択肢が、結果的に人生の幸福度を高める可能性があるという視点です。

「お金」の尺度の限界とその影響

 お金は数字として定量的に表現でき、比較や増減の評価が容易であるため、これまで幸せや価値を測る主要な基準として広く使われてきました。しかし、この記事では、お金だけでは測りきれない「お金で買えない価値」が仕事や人生には存在することを指摘しています。
 例えば、副業や趣味のように収益がほとんどない活動であっても、そこから得られる「やりがい」や「使命感」といった定性的な要素が人々の幸福感に大きく影響する場合があります。

 また、家庭内の役割分担においても、お金を基準にすると不均衡が生じることがあります。たとえば、収入の多い方が働き、収入の少ない方が家事や育児を担うべきだという考え方が未だ根強く存在します。しかし、家事や育児を外注するコストを考えると、それらの活動にも高い価値があることがわかります。こうした事例からも、「お金」を唯一の基準とする議論には限界があるといえるでしょう。

「時間」を新たな尺度に加える意義

 「時間」という基準を幸福の尺度として取り入れることで、人生やキャリアの設計がより多面的かつ現実的になります。時間は、お金と同じく定量的な基準として扱うことが可能ですが、人生において公平性の高い資源でもあります。すべての人が1日24時間という限られた枠内で生活しており、その中でいかに「余裕時間」を確保するかが、幸福感の向上に直結するとされています。

 具体例として、残業をして収入を増やすことと、残業を断って得られる余裕時間を比較することが挙げられます。もし、残業をすることで年間120万円の収入が増える場合、その代わりに1年間で約30日分の余裕時間を失うことになります。この場合、「お金」と「時間」のどちらが自分にとってより価値が高いかを冷静に判断する必要があります。副業や趣味、家族との時間といった活動がもたらす充実感を考慮すると、残業で得られる収入以上の価値を生む可能性があることが示唆されています。

キャリアデザインの革新と提案

 この記事では、経済成長が鈍化し、働き方や生き方が多様化する現代においては、「お金」を基準とするだけでは不十分であることが指摘されています。自分自身の行動や選択によって増やすことができる「時間」をもう一つの尺度として取り入れることで、バランスの取れたキャリアデザインが可能になります。特に、従来のように出世を目指して長時間労働を続けるだけではなく、副業やスキルアップのために余裕時間を確保することで、長期的な視野で幸福を追求することが求められています。

幸福の再定義に向けて

 最終的には、「お金」と「時間」をバランスよく活用することで、より充実した人生を送るための考え方を示しています。お金は生活を豊かにするための重要なリソースですが、それだけで人生のすべてが満たされるわけではありません。一方で、「時間」はお金で買えない貴重な資源であり、これをどのように活用するかが、今後の幸福感や人生の充実度に大きく影響します。この視点をもとに、自分自身の価値観に合ったキャリアや人生設計を模索することが提案されています。幸せを「お金」だけで測る時代から、「お金」と「時間」を両軸に据えた新しい価値観の時代への転換が求められていることがいえるのでしょう。

人事の視点から考えること

 この記事を基に企業人事の立場から考察すると、従業員の幸福度や満足度を向上させるために、これまで以上に多角的で柔軟なアプローチが必要であることが見えてきます。「お金」と「時間」という2つの基準を活用することで、企業と従業員の双方にとって持続可能で充実した関係を築き上げることが可能になります。以下では、人事として検討すべき要点を、さらに考えていきたいと思います。

1. 従業員の価値観の多様化に対応するための柔軟性

 現代の従業員は、これまでのように一律の価値観や目標に縛られるのではなく、個々人が異なる優先順位や幸福の定義を持つ時代になっています。そのため、人事部門は、すべての従業員に対して一律のルールや制度を適用するのではなく、より柔軟で多様性に富んだ制度設計を行う必要があります。特に「お金」と「時間」のバランスを個々の従業員が自由に選択できる仕組みを整備することが求められます。

 例えば、ある従業員にとっては高収入や昇進が最優先の目標かもしれません。一方で、別の従業員にとっては、家庭との時間や自己成長のための時間を確保することが幸福に直結するかもしれません。こうした多様なニーズに対応するためには、次のような取り組みが考えられます。

  • 選択型の給与・時間パッケージの導入
     従業員が自身の価値観やライフステージに応じて、給与アップや労働時間短縮、リモートワークの選択ができる柔軟な制度を提供します。これにより、従業員は自身の生活状況に応じた働き方を選ぶことができ、結果としてエンゲージメントの向上にもつながります。

  • キャリアパスの多様化
     一般的な昇進型のキャリアパスだけでなく、専門性を高めるスペシャリストコースや、副業を含む新しいキャリアの選択肢を提供します。これにより、従業員は自身の価値観に合ったキャリアを築きやすくなります。

2. 「時間」という新たな尺度を重視した人材マネジメント

 従来の人事評価制度は、従業員の貢献度や成果を「お金」に結びつけて評価する傾向が強く、労働時間や効率性についての視点が不足していました。しかし、この記事が提唱する「時間」を新たな基準に加えることで、従業員の働き方をより多面的に評価する仕組みが必要となります。例えば、以下のような施策が考えられるでしょう。

  • フレックスタイム制度のさらなる活用
     フレックスタイム制度やリモートワーク制度を拡充することで、従業員が働く時間を柔軟に選べるようにします。これにより、従業員は通勤時間を削減し、家族や趣味、自己研鑽のための時間を確保できます。

  • 業務プロセスの効率化
     無駄な業務を削減することも重要です。たとえば、定例的な会議の短縮やペーパーレス化、ツールの活用による業務効率化を進めることで、従業員の時間を有効活用できる環境を整えます。

  • 時間の価値を再定義
     「時間」を金銭的な尺度と比較するだけではなく、その価値を質的にも評価します。たとえば、副業や自己啓発に充てる時間が、結果的に本業での生産性向上につながることを評価する仕組みを導入します。

3. エンゲージメントを高める新しいアプローチ

 従業員エンゲージメントを高めることは、企業のパフォーマンス向上において極めて重要な課題です。しかし、この記事で指摘されているように、日本ではエンゲージメントがしばしば誤解され、「24時間仕事にコミットすることが美徳」といった極端な文化が生まれがちです。本来のエンゲージメントは、従業員が自発的に仕事への愛着ややりがいを感じる状態を指します。そのため、人事部門はエンゲージメントを「押し付ける」のではなく、従業員が主体的にエンゲージメントを高められる環境を提供することが重要です。例えば、以下が考えらえます。

  • エンゲージメント調査の実施
     定期的に従業員満足度や幸福度を測定し、そのデータを基に組織の問題点を特定して改善策を講じます。これにより、従業員が本当に必要としているものを把握できます。

  • キャリア相談やコーチングの提供
     従業員が自身のキャリアや価値観を見直し、個別の目標を設定できるようにするためのサポートを行います。これにより、従業員は自分にとっての「お金」と「時間」のバランスを見つけやすくなります。

  • 従業員の「余裕時間」の確保
     業務外の時間を充実させるため、リフレッシュ休暇の提供や、働く時間を短縮するための施策を導入します。これにより、従業員は仕事以外の活動を楽しむことができ、結果的に仕事へのモチベーションも高まります。

4. 企業が得られるメリット

 「お金」と「時間」のバランスを尊重することで、企業は短期的な生産性だけでなく、長期的な成長を実現するための重要な基盤を築けます。たとえば、従業員のバーンアウトを防ぎ、長期的な視点で見たときにより高い成果を上げられるようになります。また、従業員の幸福度やエンゲージメントが向上することで、離職率が低下し、採用コストの削減や企業文化の向上にも寄与します。

まとめ

 この記事が示す「お金」と「時間」を軸にした新しい幸福の基準は、企業の人事部門にとって、従来の人材管理や評価制度を再構築するきっかけとなります。従業員が自身の価値観に基づき、幸福感を高められるような柔軟な制度や環境を整備することが、企業全体の成長と競争力向上につながるでしょう。これからの時代においては、「お金」だけでなく「時間」という視点を重視した、バランスの取れた人材マネジメントが不可欠であるといえるでしょう。


「時間」と「お金」を幸福の二大要素として調和させるコンセプトを、一本の木を通じて描写しています。木の枝がそれぞれ時計とコインを象徴しており、人生における両者の重要性を示しています。背景には穏やかな草原とグラデーションの空が広がり、平和とバランスを表現。見る者に、人生設計を見直し幸福の多様性を考えるよう促す一枚となっています。


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