退職理由の真相ー上司と部下の信頼関係を再考する:いまのたかの組織ラジオ#210
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第210回目「真の退職理由は部下の信頼を裏切ってしまう上司の行動」でした。本当の退職理由は何なのか、そしてどうすべきなのか、ということが語られていました。退職理由の重要性は一般的に語られていますが、うまく活用できている企業は意外に少ないのではないでしょうか。内容からやるべきことを検討してみたいと思います。
1. 上司の行動が部下の信頼喪失と退職の原因に
退職理由として、特に上司の行動が部下の信頼を損なう大きな要因であると指摘されています。多くの部下は、退職理由として「労働条件の悪さ」や「給与水準の低さ」、「人間関係の悪化」などを表面的に挙げることが一般的ですが、実際のところ、直属の上司との信頼関係が崩れたことが真の退職理由であることが多いとされています。この信頼関係の崩壊は、日常の小さな行動や態度の積み重ねによって起こりやすく、部下にとって非常に重要な問題となります。上司の行動がどれほど部下にとって重要であるかを理解し、その行動が退職理由にどのように影響するかを明確に意識することが、組織の安定に繋がります。
2. 表面的な退職理由と実際の本音
退職面談などで部下が述べる退職理由は、多くの場合、表面的な理由に留まることが多いです。これは、部下が本音を伝えづらい環境や雰囲気があるためであり、特に面談の相手が社内の人事担当者や管理職の場合、部下は直接的な原因を話しにくくなる傾向があります。
しかし、今回、今野氏が実践したように、外部の第三者が退職者の話を聞くことで、より深い本音が引き出されることがあります。このような場合、表面上の理由としては「人事制度の不備」や「会社方針への不満」が挙げられることが多いですが、実際のところ、それらの制度の運用に問題があり、その運用を担う上司の行動や態度が部下に対する信頼を損なっているケースが少なくありません。具体的には、評価の不公平さや、上司の不誠実な態度が挙げられます。
3. 評価フィードバックの一貫性と信頼の崩壊
上司の行動の中でも特に、「評価フィードバックの一貫性の欠如」は、部下の信頼を損なう大きな要因です。評価面談での一貫性が欠如すると、部下は「前回の評価と今期の評価が全く異なる」などと感じ、上司の評価基準に不信感を抱きます。例えば、ある時期に良いと評価された行動が、次の評価では否定されるような場合、部下は評価基準が不安定であると認識し、上司に対する信頼感が低下します。このような一貫性の欠如は、特に長期間にわたって続くと、部下のモチベーションを著しく低下させ、最終的には退職の決断を促す原因となります。また、一貫性のある評価は、公平な評価の根幹であり、上司と部下の信頼関係を築くために欠かせない要素でしょう。
4. 1on1面談の重要性と上司の行動の影響
1on1面談は、部下との信頼関係を構築する重要な機会であり、上司の責任でもあります。話の中では、上司がワンオンワン面談のスケジュールを忘れてしまう事例が具体的に挙げられました。部下はこの面談のために時間を確保し、準備を整えているにもかかわらず、上司が現れないことにより、「自分は重要視されていない」と感じることになります。このような行動は、単なるミスに見えても、部下にとっては非常に象徴的な出来事であり、上司に対する信頼が揺らぐ結果に繋がります。特に、上司が何度もこのようなミスを繰り返すと、部下は上司に対する信頼を完全に失い、組織内でのモチベーションを維持することが難しくなります。
5. 部下の時間軽視とその影響
上司が部下の時間を軽視する行動も、信頼関係を損なう要因の一つです。具体例として、上司が部下の提出した書類をすぐに確認せず、決裁を長引かせるケースが挙げられます。これにより、部下の業務が停滞し、「自分の仕事が軽視されている」と感じるようになります。このような態度は、部下にとって無駄な待ち時間を生み出し、上司に対する不満を蓄積させる原因となります。さらに、無理なスケジュールやタスクを押し付けることも、部下に対する配慮の欠如として捉えられ、信頼関係の崩壊に繋がります。上司は、部下の時間を尊重し、迅速な対応を心掛けることで、部下のモチベーションと信頼を維持することが重要です。
6. エコひいきと公平性の欠如
上司が特定の部下を特別扱いする、いわゆる「エコひいき」も、部下の信頼を損なう重大な要因です。部下全員を公平に扱うことは、信頼関係を築く上で最も重要なポイントであり、上司の偏った行動は、他の部下に「自分は軽視されている」と感じさせます。たとえ上司に悪意がなかったとしても、部下から見ると、特別扱いされているメンバーがいるように見えることが問題です。このような不公平な態度は、部下の不満を引き起こし、退職の決断に繋がることが多いため、上司は常に公平な態度を心掛け、部下全員に平等なチャンスを提供する必要があります。
7. キャリア支援の欠如と若手社員の不満
部下が自身のキャリアや成長について上司からの支援を感じられない場合、それが最も大きな退職理由の一つとなります。特に若い社員ほど、この点に敏感であり、将来のキャリアパスについての具体的な指導がない場合、上司に対する信頼感が大きく低下します。部下は、目の前の業績やタスクの達成だけでなく、将来的なキャリアの発展を重視しており、上司からの具体的なアドバイスや支援を期待しています。このような期待に応えられない上司は、部下のモチベーションを低下させるだけでなく、最終的には部下が他のキャリアの道を模索するきっかけとなります。上司は、部下の成長を支援し、キャリアについての具体的なビジョンを共有することが求められます。
8. 上司の役割と信頼関係の構築
上司の役割は、単なるマネージャーやリーダーとしての役割に留まらず、部下のメンターとしての役割も果たすことが重要です。上司が部下の成長に対して積極的に関与し、信頼関係を築くことで、会社全体の信頼感も向上します。逆に、上司が部下を軽視する行動を取ると、組織全体に不信感が広がり、会社に対する信頼そのものが損なわれます。組織の成功には、上司が部下との信頼関係を築き、部下が安心して働ける環境を提供することが不可欠であり、日々の細かな行動がその基盤となることが強調されています。
人事の視点から考えること
企業として、この内容をどのように捉え、どのような施策を実行するかということは、長期的な組織の安定と成長において極めて重要です。ここでは、人事から考えられる取り組み例を検討してみます。
1. 上司と部下の信頼関係の再構築
上司と部下の信頼関係が組織の基盤であることを理解し、これを強化するための施策を展開する必要があります。特に、直属の上司が部下に与える影響は大きく、信頼関係が崩れると部下のモチベーションや業務パフォーマンスに直結するため、上司の行動や態度が組織全体に与える影響を十分に認識することが必要です。企業は、上司が部下に対して信頼できる存在であり続けるための支援策を強化し、部下が安心して業務に取り組める環境を整えることが求められます。具体的には、上司が部下との信頼関係を深めるための研修や、フィードバックを行うためのスキルアッププログラムの実施などが効果的です。
2. 退職者の本音を探るための仕組み作り
退職者の本当の退職理由を把握するための仕組みを整えることが重要です。表面的な退職理由だけでなく、深層的な要因を明らかにすることで、企業が抱える根本的な問題を特定し、それに対する適切な改善策を講じることが可能になります。このために、退職面談の際に外部の第三者を起用し、より率直な意見を引き出す環境を提供することが考えられます。また、退職者が本音を話しやすいよう、匿名性の高い調査やアンケートの実施も効果的です。これにより、上司と部下の関係性の問題や、評価制度の不公平感など、組織全体の課題が浮き彫りになります。企業は、こうしたデータを基に具体的な改善策を検討し、組織の健全な成長を促進する必要があります。
3. 公正で透明性のある評価制度の導入
部下が上司の評価に対して不信感を抱かないよう、公正かつ透明性のある評価制度を構築することが重要です。評価制度が不透明であると、部下は自分の努力が正当に評価されていないと感じ、上司への信頼感が低下します。このため、評価基準を明確にし、評価プロセスを可視化することが求められます。
例えば、評価面談の際には、具体的な評価基準を明示し、部下が自身の業績や努力がどのように評価されたかを理解できるようにすることが大切です。また、評価フィードバックの質を向上させるため、上司に対するトレーニングを継続的に実施し、部下が納得できるフィードバックを受けられる環境を整えることが必要です。これにより、部下は自身の成長を実感しやすくなり、企業全体の信頼感が高まります。
4. 上司の公平性を高めるための教育
上司が特定の部下を特別扱いする「エコひいき」は、信頼関係を崩壊させる要因となります。公平性を重視する企業文化を醸成するため、上司に対して公平な対応を促す教育プログラムや啓発活動を実施することが考えられます。上司が無意識に偏った対応をしないよう、無意識の偏見に関する研修を取り入れ、全ての部下に対して平等な態度で接することの重要性を学ばせることが効果的です。さらに、部下が不公平な扱いを受けたと感じた場合に安心して報告できる仕組みを整え、早期に問題を発見し対応できる体制を整えることも、企業が公正な職場環境を実現するために重要な取り組みです。
5. キャリア支援の強化と将来ビジョンの共有
社員が将来のキャリアに対して安心感を持てるよう、上司を通じたキャリア支援の強化に取り組むべきです。特に、若手社員はキャリアに対する不安が強く、将来的なビジョンが明確でない場合、モチベーションが低下しやすくなります。このため、企業はキャリア開発プログラムを充実させ、上司が部下のキャリア支援を行うための具体的なツールやリソースを提供することが必要です。例えば、キャリアカウンセリングの導入や、部下のキャリア目標に基づいた具体的なステップを共に考える機会を設けることが考えられます。また、キャリア支援に関する具体的な目標を上司に設定させ、その達成度を評価する仕組みを導入することも、効果的な施策の一つです。
6. 上司の役割を拡大し、部下との関係性を強化
上司の役割を単なるタスク管理者に留めず、部下にとってのメンターやコーチとしての役割も果たせるような体制を整える必要があります。これには、上司が部下の成長を支援し、信頼関係を築くための具体的なスキルを身に付けることが求められます。上司が部下に対して積極的に関与し、部下の意見や提案を受け入れる姿勢を示すことが、組織全体のエンゲージメント向上に寄与すると理解し、上司に対する教育や支援を強化することが重要です。
例えば、上司が部下と定期的にキャリアに関する話し合いを持ち、フィードバックを通じて成長を促すようなメンターシッププログラムの導入が効果的です。上司が部下の意見を尊重し、組織の意思決定に反映させることで、部下は自身の存在意義を感じ、エンゲージメントが高まります。
7. 退職防止に向けた長期的な戦略の立案
退職率の低下を目指すために、長期的な戦略を立案し、実行する必要があります。退職者のデータを分析し、退職理由の真の原因を特定することから始め、組織全体での改善策を検討することが求められます。
例えば、退職面談の結果を基に、上司と部下の関係性を改善するための具体的な施策を策定し、実施することが効果的です。また、部下のモチベーションを向上させるための報酬制度の見直しや、業績に基づく公平な報酬の支給も重要です。さらに、企業は定期的な社内アンケートやフィードバックセッションを実施し、社員の声を反映した施策を継続的に導入することで、組織の信頼感を高め、退職防止に繋げることができます。
8. 企業文化の改善と組織の持続的な成長
企業が持続的に成長するためには、組織文化の改善が欠かせません。信頼と透明性を重視する企業文化を醸成することで、社員は安心して働ける環境を享受でき、エンゲージメントが向上します信頼関係の重要性を組織の中核に据え、上司が部下と対話し、信頼を築くための時間を確保するよう促すべきです。さらに、企業は部下が自由に意見を述べることができるオープンな職場環境を整え、部下が自らの成長やキャリアに対して前向きな姿勢を持てるような文化を育むことが必要です。このような取り組みが、組織の持続的な成長に繋がり、企業全体の信頼性を高める結果となります。
企業としては、上司と部下の関係性をより良くするための取り組みを重視し、組織全体での信頼関係の強化に努めることが必要です。信頼が確立された職場環境では、社員がより高いパフォーマンスを発揮し、組織全体の生産性や士気が向上します。これにより、企業は長期的な成功を目指すことできるでしょう。
上司の行動が部下の信頼を損なう場面をイメージしています。上司の冷淡な態度や、部下の落ち込んだ表情が、信頼関係の崩壊を象徴しています。曇り空の背景と散らかったデスクが、職場の不安定さと部下の不満を強調しています。上司の行動がどれほど部下の退職理由に直結するかを示す、象徴的なシーンです。