
キャリア採用を変えるコンピテンシー面接:行動事実に基づく評価:川上真史氏
川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「コンピテンシー・アセスメント #3 コンピテンシー面接の進め方 キャリア採用編」というテーマを取り上げます。
今回は、「コンピテンシー・アセスメント」に基づき、キャリア採用における効果的な面接の進め方が議論されています。ここでは、「候補者の行動事実」に注目し、「将来の成果を予測するためのデータを収集する手順と具体的な質問の仕方」が中心となっています。この手法は従来の印象や抽象的な回答に頼る面接方法とは一線を画し、実際の行動を明確にすることを重視しています。前回の「新卒採用編」に続く内容になっています。
以下、その要点を詳しく見てみて、考察してみます。
コンピテンシー面接の目的
コンピテンシー面接の最大の目的は、候補者が過去に実際に行った具体的な行動の事例を通して、その人が将来も高い成果を出す可能性を評価することです。そのため、一般的な印象論や曖昧な表現ではなく、行動事実に基づいたデータ収集が重要視されます。
例えば、「私はリーダーシップがあります」といった主観的な回答ではなく、「リーダーシップを発揮した具体的なエピソード」を掘り下げることで、実際の能力を評価します。このアプローチでは、候補者の発言だけでなく、その発言に伴う行動の裏付けが重要な判断材料となります。
この手法の目的は、面接中に候補者を評価するのではなく、まずは行動データを幅広く収集することにあります。これにより、後から客観的な視点でデータを分析し、採用の判断を下すことが可能になります。したがって、面接官が感覚や印象に頼るのではなく、明確な根拠に基づいた採用決定を行うことができるのです。
効果的な質問方法と具体的な流れ
効果的なコンピテンシー面接を実施するためには、まず候補者に最近の成果や課題を聞き出し、それを起点に具体的な行動や成果を掘り下げていく必要があります。その際、一般的な回答で満足せず、詳細な場面を特定することが大切です。
例えば、「最近最も力を入れた仕事は何ですか?」と質問し、その内容に対して「どのような困難がありましたか?」「その困難を乗り越えるためにどのようなアプローチを取りましたか?」と掘り下げていきます。このような質問を通じて、候補者が取った具体的な行動や、その行動を選択した理由、さらにその行動に加えた工夫を明らかにします。
このプロセスでは、時系列に従って一連の行動を確認することが有効です。例えば、候補者が最初に取った行動、その結果、次に取った行動という順番で、詳細に聞き出します。そして、その行動の中で最も効果的だったものや、独自の判断や工夫が加えられた点を特定します。これにより、候補者の思考プロセスや、難局を乗り越えるための能力を具体的に把握することが可能になります。
質問の具体例と注意点
効果的な質問にはいくつかのポイントがあります。まず、「例えば」といった具体例を求める質問を活用することが推奨されます。例えば、「その場面でリーダーシップを発揮した事例を教えてください」や「その成果を達成するために取った最も工夫した行動は何ですか?」といった質問をすることで、候補者の実績を具体的な形で引き出します。
また、一般的な回答に終始しないようにするため、質問を深掘りしていくことが重要です。「その行動を取った理由は何ですか?」「その判断が適切だと考えた根拠は何ですか?」と尋ねることで、候補者の判断力や創意工夫のレベルを測ることができます。同時に、候補者が取った行動がどのような結果や状況を生み出したかも確認する必要があります。
ただし、質問の際には圧迫的な態度を避け、オープンな雰囲気で行うことが大切です。面接官が上から目線で候補者を試すような質問をすると、候補者の潜在能力が正しく引き出せない場合があります。そのため、候補者がリラックスして具体的な行動事実を話せるよう、配慮することが重要です。
面接全体の流れ
コンピテンシー面接の流れは、以下の通りです。
最近の取り組みを特定する質問
候補者に最近特に力を入れた課題やテーマを尋ね、その内容を明確化します。具体的な困難な場面の特定
その課題やテーマの中で発生した最も困難な状況を聞き出します。困難に対処した行動の確認
困難を解決するために取った行動の中で、特に効果的だった場面や行動を具体的に掘り下げます。行動の理由や工夫の確認
候補者がその行動を選んだ理由や、その行動に加えた工夫を確認します。結果の確認
最終的にその行動がどのような成果をもたらしたか、あるいはどのような状況を変化させたかを聞きます。次の場面への移行
一つの場面での質問が終了したら、次に重要な場面に移り、同じプロセスを繰り返します。行動を得られない場合、ここであまり深入りしないことも重要です。
効果的ではない面接の注意点
効果的でない面接方法についても注意が必要です。例えば、候補者の考えやポリシーだけを聞いて満足してしまう場合、実際の行動事実を見逃すリスクがあります。また、抽象的な話で終わってしまう場合や、場面を特定せずに質問する場合、候補者の能力や実績を正確に評価できません。
特に注意すべきは、上記でも触れた、「圧迫面接」です。面接官が候補者を試すような質問や態度を取ると、候補者が萎縮してしまい、本来の能力を発揮できなくなります。オープンでフレンドリーな雰囲気を保ちながら、具体的な行動を聞き出すことが肝要です。
このように、コンピテンシー面接は、具体的な行動事例を収集し、それを基に評価を行う手法です。候補者の過去の行動から将来の可能性を予測するため、徹底的にデータを収集し、合理的な判断を下すプロセスが特徴です。この手法を用いることで、従来の面接に比べて採用の成功率を大幅に高めることが期待できます。
人事の視点から考えること
コンピテンシー面接は、非常に価値の高いアプローチです。この手法を通じて、採用プロセスをより科学的で客観的なものにすることが可能になります。従来の面接では、候補者の印象や主観的な評価が大きな影響を及ぼしていたため、採用後に能力のミスマッチが起こるリスクが高くなっていました。
しかし、コンピテンシー面接を導入することで、候補者の実際の行動に基づいた判断ができるため、採用の精度を飛躍的に向上させることができます。この方法を人事の視点からどのように効果的に活用するか、いくつかの観点から考察してみます。
1. コンピテンシー面接の導入がもたらす意義と価値
コンピテンシー面接の最大の意義は、候補者の過去の行動事実を基に、将来の成果を予測できる点にあります。この方法では、単に学歴や職歴のような表面的な情報だけではなく、候補者が具体的にどのような場面で、どのように行動したかを掘り下げます。その結果、単なる「自己評価」や「良さそうな印象」に頼らず、実績と能力の裏付けをもとに評価ができるのです。
例えば、「リーダーシップがある」と主張する候補者に対して、そのリーダーシップが発揮された具体的な状況や、その結果得られた成果を尋ねることで、本当にその能力があるのかどうかを確認できます。このような手法を採用することで、採用後のミスマッチを減らし、早期離職を防ぐことができます。また、こうした透明性のある採用方法は、候補者にも「この企業は公正な評価をしている」という印象を与えるため、応募者の信頼を高める効果もあります。
さらに、この手法は特定のポジションや職務に必要な行動特性を事前に明確に定義することで、そのポジションに最適な人材を効率的に選抜することを可能にします。例えば、営業職であれば「顧客の課題を深掘りする力」や「粘り強い交渉力」、管理職であれば「部下のモチベーションを引き出す力」や「戦略的な判断力」など、求める能力を具体化することで、より精度の高い人材選定が実現できます。
2. 面接官のスキル向上が鍵となる理由
コンピテンシー面接の成功は、面接官のスキルに大きく依存します。どれほど優れた質問内容を準備していても、面接官が候補者の回答を十分に掘り下げたり、具体例を引き出したりできなければ、正確な評価を下すことはできません。そのため、人事部門は面接官のスキル向上を計画的に進める必要があります。
面接官に求められる主なスキルには、次のようなものがあります。
質問の「具体化力」
候補者に対して「例えば」の質問を使い、行動事実を具体化させる能力が求められます。たとえば、「リーダーシップを発揮した場面を教えてください」と質問するだけでなく、「最近のプロジェクトで、特に困難だった状況をどのように乗り越えましたか?」と聞くことで、候補者の実際の行動を引き出します。深掘りの技術
候補者が抽象的な回答をした場合でも、それを具体化させるための追加質問をするスキルが必要です。「その行動を選んだ理由は?」「他のアプローチと比べて、その方法を選んだ判断基準は?」など、掘り下げることで候補者の思考プロセスを明らかにできます。客観的な姿勢
面接中に評価をしようとせず、まずはデータ収集に専念する冷静さも重要です。データが十分に集まる前に印象で評価をしてしまうと、後半の候補者の回答にバイアスがかかる可能性があります。
これらのスキルを習得するために、面接官向けのトレーニングプログラムを提供することが有効です。例えば、ロールプレイ形式で質問の練習を行ったり、過去の面接データを用いて評価のプロセスを学んだりすることで、スキルの向上を図ることができます。
3. コンピテンシーの定義と企業文化との連動
コンピテンシー面接を効果的に運用するためには、そもそもまず、企業が求めるコンピテンシーを明確に定義することが不可欠です。これは単なるスキルや資格の羅列ではなく、具体的な行動特性や価値観を明確にする作業を指します。たとえば、次のような項目を具体化します:
職務ごとの求められる行動
営業職であれば、「顧客の潜在ニーズを引き出す力」や「契約を成立させる交渉力」、または「社内の関係部門との効果的な連携力」など。企業文化との適合性
自社のビジョンや価値観に合った行動特性を持つ人材を採用することで、企業全体の一体感や長期的な人材定着を促進します。たとえば、イノベーションを重視する企業であれば、「新しいアイデアを試みる積極性」や「失敗を恐れない挑戦心」が重視されるべきです。
こうした定義を社内で共有し、それに基づいた面接設計を行うことで、採用プロセス全体の精度が向上します。また、この定義は採用後の育成プランや人事評価にも活用することで、組織全体の人材戦略を一貫させることが可能になります。
4. 多様性を尊重した公正な評価の実現
コンピテンシー面接では、候補者の具体的な行動を確認することで公正な評価が可能になりますが、一方で、多様性を考慮する視点も欠かせません。特定の行動や回答が「正解」とされるような偏った評価基準を避け、個々の候補者が持つ強みを正確に評価する姿勢が重要です。
特に、候補者が自分の能力を十分に表現できない場合には、適切なフォローアップ質問を行うことで、潜在的な能力を引き出す努力をする必要があります。こうしたアプローチを採用することで、多様なバックグラウンドを持つ候補者に平等な機会を提供し、企業全体の多様性を向上させることができます。
5. データドリブンな採用プロセスの構築
最後に、会社としてコンピテンシー面接を活用する際には、収集した行動データを組織的に活用することが求められます。候補者ごとの行動事例を蓄積し、他の候補者や過去の成功事例と比較することで、採用基準の精度をさらに高めることが可能です。また、このデータを分析し、採用プロセス全体の改善点を見出すことで、組織的な採用能力を向上させることができます。
まとめ
コンピテンシー面接は、人事戦略において極めて有効なツールです。この手法を効果的に活用することで、採用プロセスを公正で客観的なものに進化させることができます。ただし、その運用には面接官のスキル向上や、評価基準の明確化、多様性の尊重が不可欠です。また、収集したデータを活用し、継続的な改善を行うことで、採用活動が企業全体の成長に貢献する仕組みを構築することができるでしょう。

コンピテンシー面接の場面です。モダンなオフィスで、面接官がノートパソコンとメモ帳を使いながら、構造化された質問を進めています。一方、候補者は過去の具体的な職務経験を熱心に説明し、自然なジェスチャーでその内容を補っています。背景には、大きな窓からの自然光が差し込み、柔らかい印象を与えています。また、ホワイトボードには「チームワーク」「リーダーシップ」「問題解決」といった重要なコンピテンシーが書かれており、面接のテーマが強調されています。プロフェッショナルでありながら温かみのある雰囲気が、候補者と面接官の真摯なやり取りを引き立てています。