【書籍】成功の裏にある運と努力ー白鵬翔の教訓
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp363「11月18日:“たまたま"ということはない(白鵬翔 第六十九代横綱)」を取り上げたいと思います。
白鵬自身の経験と哲学を通して、努力と運の結びつき、そして人間関係の重要性を強調しています。彼が関取(十両力士)に昇進するまでの三年間、常に心がけていたのは「稽古は本場所のごとく、本場所は稽古のごとく」という姿勢です。これは、日々の練習を本番の試合のように真剣に行い、逆に本番では練習のようにリラックスして取り組むという意味合いを持っています。また、彼は他者を尊重し、怒らせないように努めることが重要だと考えていました。このような姿勢が、相撲という勝負の世界で成功を収めるために大いに役立ったと感じています。
さらに、白鵬は自身の成功を振り返り、運にも恵まれていたと述べています。具体的には、彼が幕下9枚目で6勝1敗という成績を収めた際、通常であれば関取に昇進することは難しい成績でした。しかし、その時は多くの力士が引退したために枠が空き、彼も関取に昇進することができました。彼はこのような出来事を「たまたま」と表現しつつも、ある人から「そういう星の下に生まれた」という説明を受け、なるほどと納得したと語っています。これは、自分の運命や巡り合わせが自身の努力とともに作用しているという考えを示しています。
また、白鵬は歌手の松山千春との会話を通じて、「運」という漢字の意味について教えられた経験を述べています。松山千春は「運」という漢字が「軍が走る」と書くため、戦わなければ運は来ないと説明しました。この教えは、白鵬にとって非常に印象深く、戦う姿勢や努力の重要性を再認識する機会となりました。こうした様々な人々との交流や教えは、白鵬の心の成長に大きく寄与しており、相撲の世界で結果を出すことで、通常では会うことができないような著名な人々とも会う機会を得ることができたと述べています。これらの出会いが彼の成長を促し、素直に人の話を聞くことの大切さを改めて感じています。
白鵬は、自身が大関から横綱に昇進した時の経験についても詳しく語っています。彼は当初、大関の一つ上の地位として横綱を考えていましたが、実際には全く異なるものであると感じました。もし現在大関であれば、横綱を目指さなかったかもしれないとも言っています。しかし、「地位が人を作る」という言葉通り、横綱という地位が彼に新たな責任感と自覚をもたらしたと述べています。横綱昇進後、彼はそれまで面識のなかった大鵬親方に自ら電話をかけ、自宅を訪問しました。そこで、大鵬親方から横綱としての在り方について三時間から四時間にわたり話を聞くことができました。この経験を通じて、白鵬は横綱としての自覚を深め、次第にその重みを実感するようになりました。
また、白鵬は相撲界での不祥事や様々な出来事を経て、横綱としての責任や期待をより強く感じるようになったと述べています。横綱としての地位を十年間守り続けることは非常に困難であり、その間には多くの試練がありました。しかし、白鵬はそれを乗り越えた先に新しい景色や視点が広がっていると感じています。やめることは簡単であるが、続けることで見えてくるものがあり、その先に自分がいると信じています。彼は、努力と継続がもたらす成長と新たな発見の重要性を強調し、これからもその信念を持ち続けることでしょう。
人事の視点から考えること
白鵬が十両に昇進し関取になるまでの3年間に心掛けていたことや、相撲の世界での成功とその裏にある考え方、努力、運について深く掘り下げられています。これらの経験や思考は、ビジネスや人事の分野においても非常に貴重な教訓を提供してくれます。このエッセイから得られる知見をもとに、ビジネスや人事戦略への適用について考察してみます。
1. 継続的な努力と準備
白鵬が述べる「稽古は本場所のごとく、本場所は稽古のごとく」という言葉は、日常の努力と本番でのパフォーマンスの一致を示唆しています。これは、ビジネスにおける準備と実践の重要性を強調しています。例えば、新製品の開発や市場への参入を考えるとき、日々の市場調査や顧客フィードバックの収集が成功の鍵となります。常に本番を意識した準備をすることで、どのような状況にも対応できる柔軟性と即応力を身に付けることができます。
さらに、企業内でのトレーニングプログラムの設計にも、この考え方を取り入れることができます。社員が日常業務の中で本番を想定した訓練を受けることによって、実際のプロジェクトでのパフォーマンス向上が期待されます。これにより、企業全体の競争力が強化されるとともに、社員のスキルアップにも繋がります。
2. 人との関わり方の重要性
白鵬が「なるべく人を怒らせないようにしよう」「なるべく人を立てよう」という思いを持っていたことは、人間関係の重要性を物語っています。これは、組織内のコミュニケーションやリーダーシップにおいても非常に有用な指針です。良好な人間関係を築くことで、チーム全体の士気を高め、効率的なコラボレーションを促進することができます。
具体的には、リーダーが部下の意見を尊重し、積極的にフィードバックを求めることで、信頼関係を築くことができます。これにより、社員は自分の意見が尊重されていると感じ、より主体的に業務に取り組むようになります。また、社員同士のコミュニケーションを促進するためのワークショップやチームビルディング活動を導入することも有効です。
3. 運とチャンス
白鵬は「運がよかった」と振り返りつつ、その背後には日々の努力があったことを示唆しています。また、「運は“軍が走る”と書くから、戦わないと運は来ない」という松山千春さんの言葉を引用し、行動の重要性を強調しています。これは、ビジネス環境においても、積極的にリスクを取り、新たな挑戦をすることの重要性を示しています。
企業が新市場に進出する際には、十分な市場調査と分析を行い、リスクを評価した上で積極的に行動することが求められます。また、イノベーションを推進するためには、社員が失敗を恐れずに新しいアイデアを提案し、それを実行に移す環境を整えることが重要です。これにより、企業は市場の変化に柔軟に対応し、持続的な成長を実現することができます。
4. 学びと成長
白鵬が「いろんな方の話を素直によく聞くことが、自分を成長させるために大切だと感じています」と述べるように、他者から学ぶ姿勢が自己成長には不可欠です。これは、人材開発や社員教育プログラムにおいても非常に重要な視点です。社員が外部の専門家や業界リーダーから学ぶ機会を提供することで、組織全体の知識とスキルの向上が期待できます。
具体的には、外部講師を招いたセミナーや業界カンファレンスへの参加を促進することが考えられます。また、メンター制度を導入し、経験豊富な社員が新入社員や若手社員に対して知識や経験を共有することで、社内の知識伝承を促進することも効果的です。これにより、組織全体のスキルアップと、社員個々のキャリア成長が促進されます。
5. 地位と責任
「地位が人をつくる」という言葉は、リーダーシップの役割と責任の重要性を示しています。白鵬が横綱昇進後に大鵬親方から学び、次第に「綱の重み」を感じるようになったように、ビジネスリーダーもその地位に伴う責任を深く理解し、果たすことが求められます。
新たにリーダーシップポジションに就いた社員には、その責任と期待を理解し、適切に対応できるよう支援するプログラムが必要です。リーダーシップ研修やコーチングプログラムを通じて、リーダーとしてのスキルやマインドセットを強化することが重要です。また、リーダーが自身の役割に自信を持ち、チームを効果的に導くためのサポート体制を整えることも重要です。
6. 長期的な視野
白鵬は「十年やるのは本当にきつい」と述べつつ、その先に見える景色を想像し、続けることの重要性を語っています。これは、ビジネス戦略や人事計画においても、短期的な成果だけでなく、長期的なビジョンを持つことの重要性を強調しています。
企業の長期的な成長を目指すためには、持続可能なビジネスモデルの構築や、未来を見据えた人材育成が不可欠です。例えば、次世代リーダーの育成プログラムを導入し、将来的な経営陣の準備を進めることが重要です。また、社員のキャリアパスを明確にし、長期的な視野でのスキル開発やキャリア成長を支援する施策を導入することも有効です。
7. 組織の文化と価値観
白鵬の体験談から、組織文化や価値観の重要性が浮き彫りになります。彼が横綱としての責任を感じ、綱の重みを理解していったように、組織全体で共有される価値観や文化が、社員一人ひとりの行動や意識に大きな影響を与えます。
組織文化を強化するためには、企業のビジョンやミッションを社員全員が理解し、それに共感することが重要です。定期的なミッションステートメントの見直しや、社員とのコミュニケーションを通じて、組織の価値観を共有することが求められます。また、リーダーが率先して組織の価値観を体現し、日常の業務に反映させることで、社員の行動規範が一貫したものとなり、組織全体の一体感が強化されます。
結論
白鵬のエッセイから得られる教訓は、ビジネスや人事戦略においても非常に価値があります。継続的な努力、人間関係の構築、運とチャンスの捉え方、学びの姿勢、地位と責任の自覚、長期的な視野、そして組織文化の重要性など、これらの要素を企業の戦略や人事施策に取り入れることで、組織全体の成長と成功に大きく貢献することができるでしょう。
具体的な施策としては、社員のトレーニングプログラムの充実、リーダーシップ研修の強化、社員の意見を尊重したコミュニケーションの促進、リスクを取る文化の醸成、外部からの学びの機会の提供、長期的なキャリア支援プログラムの導入、そして組織の価値観を共有するための施策の実施などが挙げられます。これらの取り組みを通じて、企業はより強固で持続可能な成長を実現し、社員一人ひとりがその成長に貢献できる環境を整えることができるでしょう。
伝統的な道場で稽古に没頭する第六十九代横綱、白鵬翔のイメージです。彼の集中した姿勢は、その献身と規律を象徴しています。昇る太陽と優雅に舞い落ちる桜の花びらは、努力と幸運の調和を表しています。背景には、彼の旅路に影響を与えた重要な人物の姿がさりげなく描かれ、シーンに深みを加えています。このアートワークは、努力と継続がもたらす成長と新たな発見の重要性、そして他者への敬意の重要性を見事に体現しています。
1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。