管理職の再定義:現代の課題と新たな役割ー高橋俊介氏、坂爪洋美氏
Aoba-BBTの番組・高橋俊介氏による「組織人事ライブ#706 改めて管理職の役割を考える」を視聴しました。今回は、法政大学の坂爪洋美氏を招き、企業における管理職の重要性やその役割の変化について深く議論されています。その内容から考えること、人事企画にどのように活かすかを考えてみたいと思います。
現代の管理職が直面する根本的な課題
管理職は極めて重要な存在でありながら、深刻かつ複雑な課題に直面しています。最も顕著な問題は、管理職というポジションが「罰ゲーム化」していることです。この状況は、単なる業務負担の増加だけでなく、管理職という役職自体の社会的価値や魅力の低下を示唆しています。特に若手社員たちの間では、管理職というキャリアパスに対して強い忌避感が広がっています。彼らは管理職を、仕事と私生活のバランスを崩壊させ、過度なストレスにさらされる立場として認識しているのです。
この背景には、管理職の業務が著しく複雑化していることがあります。従来の業務管理や成果創出といった基本的な役割に加えて、多様な働き方やライフスタイルへの配慮、個々の社員のメンタルヘルスケア、キャリア支援など、求められる役割が急速に拡大・多様化しているのです。さらに、DXの推進やグローバル化への対応など、新たな経営課題への取り組みも管理職の重要な責務となっています。
また、管理職に就くことへの不安や負担感が増大しており、特に若手社員の間では、ワークライフバランスの観点から管理職を敬遠する傾向が顕著に表れています。彼らは、自身の専門性を高めることや、私生活の充実を優先する傾向があり、管理職としての責任やプレッシャーを負うことに消極的です。このような状況は、将来の組織運営における深刻な人材不足を招く可能性があります。
多様化する職場環境におけるマネジメントの変革
管理職を取り巻く環境の変化は、従来のマネジメントスタイルの根本的な見直しを必要としています。特に、部下の多様化は従来の画一的なマネジメント手法では対応できないレベルに達しています。性別や年齢層の多様化に加え、雇用形態や働き方の違い、さらには価値観や人生観の多様化まで、考慮すべき要素が格段に増加しています。
とりわけコロナ禍以降、リモートワークの一般化により、従来の対面を前提としたマネジメントスタイルは大きな転換を迫られています。オンラインでのコミュニケーションでは、非言語情報が制限されることや、チームの一体感醸成が困難になることなど、新たな課題が浮上しています。また、ハイブリッドワークの導入により、同じチーム内でも働く場所や時間が異なる状況が常態化し、公平性の担保やパフォーマンス評価の難しさなど、新たなマネジメント課題が発生しています。
さらに、育児や介護との両立など、個々の社員のワークライフバランスへの配慮も欠かせません。特に、共働き世帯の増加や核家族化の進行により、仕事と家庭の両立支援の重要性は一層高まっています。管理職には、個々の事情に応じた柔軟な勤務体制の構築や、業務分担の最適化など、きめ細かな対応が求められています。
若手社員とのコミュニケーションスタイルの変化も顕著です。従来の電話や対面での急な相談を好まない傾向が強まり、代わりにチャットやメールでのコミュニケーションが主流となっています。このような変化に対応するため、管理職には新たなコミュニケーションスキルやデジタルツールの活用能力が求められています。また、世代間のギャップを埋めるための柔軟な対応力や、多様な価値観を受容する包容力も必要とされています。
拡大し続けるキャリア形成支援の責務
キャリア形成支援における課題は、管理職の役割の中でも特に複雑化している領域です。従来の業務指導や能力開発に加えて、個々の社員の将来のキャリアプランニングまでも管理職の責務となっており、その範囲は際限なく拡大しています。特に、定期的なキャリア面談や育成支援の実施が求められているものの、その具体的な範囲や方法については曖昧な部分が多く、管理職自身も手探りの状態で対応を迫られています。
本来、専門的なキャリアカウンセリングは、キャリアコンサルタントなどの専門家が担うべき領域です。しかし現状では、そのような専門的なスキルを持たない管理職にまで、高度なキャリア支援が期待されています。この状況は、管理職に過度な負担を強いるだけでなく、適切なキャリア支援の実現を困難にしています。
また、部下の将来のキャリアについて相談を受けても、実際の人事権が限られている中で、具体的な支援を提供することが難しいという矛盾も抱えています。特に、部署間異動や昇進・昇格などの重要な人事決定に関して、管理職の裁量権が限られていることが多く、これが効果的なキャリア支援の障壁となっています。
このような状況は、管理職自身のストレスや負担を増大させるだけでなく、社員のキャリア発達にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、キャリア支援の質にばらつきが生じることで、組織内での不公平感を助長する恐れもあります。さらに、管理職自身のキャリア開発との両立も課題となっており、自身の専門性向上や将来のキャリアプランニングにも支障をきたしています。
プレイングマネージャーの実態と課題
プレイングマネージャーの問題は、現代の管理職が直面する最も顕著な課題の一つです。調査によると、実に約90%の管理職が自身もプレイヤーとして業務を行っており、そのうち約30%は時間の半分をプレイヤー業務に費やしています。この状況は、本来のマネジメント業務に十分な時間を割くことを困難にしているだけでなく、管理職自身の業務効率や健康管理にも深刻な影響を及ぼしています。
特に問題なのは、プレイヤー業務とマネジメント業務の両立が、時間的・精神的な負担を著しく増大させていることです。緊急の業務対応や重要プロジェクトへの参画など、プレイヤーとしての責任を果たしながら、同時にチームのマネジメントや部下の育成も行わなければならない状況は、極めて高いストレスを生み出しています。
ただし、この問題は職種によって評価が分かれます。医師や研究者、コンサルタントなど、高度な専門性が求められる職種では、管理職であってもプレイヤーとしての業務継続が必要不可欠な場合もあります。これらの職種では、現場での実務経験の継続が、適切なマネジメントを行う上での重要な基盤となっているためです。
また、組織規模や業界特性によっても、プレイングマネージャーの必要性は異なります。特に中小企業や新興企業では、人材リソースの制約から、管理職がプレイヤーとしても活躍することが組織の生産性維持に不可欠な場合も多いのです。
このため、プレイングマネージャーの是非を一概に判断することは適切ではありません。むしろ、職種や組織の特性に応じて、プレイヤー業務とマネジメント業務の最適なバランスを見出すことが重要です。そのためには、組織として明確な方針を示し、必要な支援体制を整備することが求められています。
管理職の役割再定義に向けた具体的な改善提案
これらの課題に対する改善案として、複数の具体的な方策が提案されています。まず、最も重要な施策として、部下の人数を適正規模に縮小し、より丁寧なマネジメントを可能にすることが挙げられます。これにより、個々の部下に対するきめ細かな指導や支援が可能となり、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながると期待されています。
具体的には、現状の10人以上の部下を持つ管理職の負担を軽減するため、5-7人程度の適正規模にチーム編成を見直すことが提案されています。これにより、一人一人の部下との対話時間を確保し、より深い理解に基づくマネジメントが可能となります。
また、仕事のマネジメントと人材育成の役割を分離し、それぞれに専門性を持った人材を配置することも重要な改善策として挙げられています。例えば、業務管理や成果創出に特化した「ビジネスマネージャー」と、人材育成やキャリア支援に注力する「ピープルマネージャー」という役割分担を導入することで、それぞれの機能の専門性と効率性を高めることができます。
さらに、管理職の裁量権を拡大し、より機動的な意思決定を可能にすることも重要です。特に、人事権や予算執行権限の拡大により、状況に応じた柔軟な対応が可能となります。これには、適切な権限委譲システムの構築や、管理職の意思決定をサポートする体制の整備が必要となります。
部長クラスの役割についても、従来の曖昧な位置づけを見直し、より明確な責任と権限を付与することが提案されています。特に、戦略的意思決定や組織開発における役割を明確化し、より高次のマネジメント機能を担う立場として再定義することが求められています。
これらの改善策を実行することで、管理職の負担軽減と効果的なマネジメントの実現が期待できます。ただし、これらの施策を成功させるためには、組織全体としての理解と支援、そして必要な投資が不可欠です。
今後の展望:管理職の新たな価値創造に向けて
今後の管理職のあり方として、組織における役割の再定義と価値創造が重要となります。これは単なる業務効率化や負担軽減にとどまらず、組織全体の変革を推進する中核的な存在としての管理職の役割を確立することを意味します。
まず、管理職の役割を企業や職種ごとに明確に定義し直すことが必要です。全ての管理職に同じ役割を期待するのではなく、職種や部門の特性に応じて、求められる役割を柔軟に設定することが重要です。これには、各組織の特性や課題を深く理解し、それに適合した管理職像を構築することが求められます。
また、管理職に対する適切なトレーニングも不可欠です。従来の「背中を見て覚える」式の育成では不十分で、体系的な研修プログラムの確立が求められます。特に、デジタルスキル、多様性マネジメント、変革マネジメントなど、現代の経営環境で必要とされる新しいスキルの習得を支援する必要があります。
さらに、管理職以外のキャリアパスを確立することも重要です。全ての優秀な人材が管理職を目指す必要はなく、専門職としてのキャリアも同様に価値あるものとして認識される必要があります。このため、専門職制度の整備や、複線型人事制度の充実など、多様なキャリアパスの確立が求められています。
組織としては、管理職の育成と支援に対する投資を戦略的に行う必要があります。これには、管理職候補者の早期発掘と育成、継続的なスキルアップ支援、そして適切な評価・報酬制度の整備が含まれます。
また、テクノロジーの活用により、管理職の業務効率化を図ることも重要です。AI や自動化ツールの導入により、定型的な管理業務を効率化し、より付加価値の高い業務に注力できる環境を整備することが求められています。
これらの取り組みを通じて、管理職という役割の魅力を高め、組織全体の活性化につなげていくことが求められています。管理職が真の価値創造者として機能することで、組織の持続的な成長と発展が実現できると考えられます。
企業人事の立場から考えること
現代の管理職が直面する課題に対するアプローチを深く考察することは、企業の長期的な成長戦略や、社員の満足度向上にとって極めて重要です。現代の管理職は、従来以上に多様な役割と責任を負っており、その負担は年々増加しています。このような現状を踏まえ、どのようにして管理職をサポートし、組織全体の活性化を図るかという点が、今後の企業経営において大きな焦点となります。以下では、管理職に関するいくつかの重要なポイントを詳細に説明します。
1. 管理職の業務負担軽減と役割の再定義
現代の管理職は、従来の業務管理に加えて、社員のメンタルケアやキャリア支援、DXやリモートワークの推進といった多岐にわたる責務を担っています。これにより、管理職の役割は複雑化し、その業務負担も増加しています。業務の範囲が広がることで、管理職が自分の業務に集中できなくなる問題も生じており、このような状況は、管理職自身のストレスを高め、結果的に組織全体の生産性にも悪影響を及ぼします。
この問題を解決するためには、管理職の役割を明確に定義し直し、その業務負担を軽減するための施策が必要です。例えば、管理職が一度に担当する部下の数を適正な規模に縮小し、業務の優先順位を再設定することが効果的です。一般的に、10人以上の部下を抱える管理職は、日常的な業務に追われ、個々の社員に対して十分な指導や支援を行う時間が取れないという問題があります。したがって、話にも出たように。チーム編成を見直し、管理職が担当する部下を5~7人程度に抑えることで、よりきめ細やかなマネジメントが可能となります。これにより、管理職が個々の社員に対して深い理解を持ち、適切な指導と支援を行うことができ、組織全体のパフォーマンス向上につながると期待されます。
また、業務管理と人材育成の役割を分離し、それぞれの領域に専門的なスキルを持つ人材を配置することも効果的です。例えば、「ビジネスマネージャー」として業務管理に特化した役割と、「ピープルマネージャー」として人材育成やキャリア支援に注力する役割を明確に分けることで、管理職の業務がより効率的かつ効果的に行われるようになります。これにより、管理職自身の負担が軽減されるだけでなく、組織全体の効率性も向上します。
2. キャリア支援と管理職の教育
キャリア支援は、現代の管理職に求められる役割の中でも、特に複雑で困難な課題の一つです。従来の業務指導や能力開発に加えて、現代の管理職は、部下の将来のキャリアプランニングや育成支援にも責任を持つことが求められています。しかしながら、多くの管理職は、キャリアカウンセリングやコーチングの専門的なスキルを十分に持ち合わせていないため、実際のキャリア支援において困難を感じていることが多いです。
このような状況を改善するためには、まず管理職に対して適切な教育やトレーニングを提供することが不可欠です。特に、キャリア支援に関する専門的な知識やスキルを習得するための研修プログラムの整備が求められます。さらに、キャリアカウンセラーやコーチといった専門家と連携し、管理職が部下のキャリア支援を行う際のサポート体制を強化することも重要です。これにより、管理職が自信を持ってキャリア面談を行い、部下のキャリア発展に貢献できるようになります。
また、管理職自身のキャリア開発も重要な課題です。彼らが自分自身のキャリアを見据え、将来的なキャリアプランを描けるよう支援することが必要です。管理職が自身の成長を実感できる環境を整えることで、モチベーションを高め、組織への長期的な貢献を促進することができます。
3. プレイングマネージャーの課題
現代の多くの管理職は、プレイングマネージャーとしての役割を担っています。すなわち、彼らは自らプレイヤーとしての業務をこなしながら、同時に部下のマネジメントも行うという状況にあります。しかし、プレイヤー業務とマネジメント業務の両立は、時間的にも精神的にも大きな負担となり、管理職自身のパフォーマンスや健康状態に深刻な影響を及ぼすことがあります。
特に問題となるのは、プレイヤー業務に多くの時間を割くことで、部下の育成やチームのマネジメントに十分な時間を割けないという点です。このため、プレイングマネージャーとしての役割を担う管理職には、業務の優先順位を明確にし、必要に応じて業務の一部を外部に委託するなどの対策が必要です。また、人事部門としては、管理職がプレイヤー業務に集中できる環境を整えるとともに、マネジメント業務に関しては適切な支援を行うことが求められます。
4. デジタルツールの活用と新しいコミュニケーションスタイルへの対応
リモートワークやハイブリッドワークの普及により、管理職が従来の対面型のマネジメント手法から、非対面でのマネジメントに適応する必要性が高まっています。特に、オンラインコミュニケーションでは、対面時に得られる非言語情報が制限されるため、より精緻なコミュニケーションスキルが求められます。
さらに、チャットやメールを活用したデジタルツールの使用が一般化しており、管理職にはこれらのツールを効果的に使いこなすスキルが必要です。管理職がデジタルツールを適切に活用することで、リモートワーク環境でもチームの一体感を醸成し、部下との円滑なコミュニケーションを維持することが可能になります。
管理職向けにデジタルツールの活用方法を学ぶための研修を提供し、彼らが現代の働き方に対応できるようサポートすることが重要です。また、世代間のコミュニケーションスタイルの違いに対応するため、柔軟な対応力や多様な価値観を受け入れる包容力を管理職に持たせることも求められています。
5. 管理職に対する報酬や評価制度の再設計
現代の管理職は、その役割が拡大する一方で、責任も増しています。しかし、管理職に対する報酬や評価制度がその役割に見合ったものでなければ、彼らのモチベーションを維持することは困難です。特に、業務成果だけでなく、部下の育成やチームの一体感の醸成など、プロセス面での貢献を正当に評価する制度の導入が重要です。
また、成果主義の偏重を避け、長期的な視点からの評価を行うことで、管理職が部下の成長に真剣に向き合い、組織全体の成果向上に貢献できるようにすることが必要です。このためには、プロセス評価を重視する評価制度の見直しと、管理職の成果を適切に評価するための基準の整備が不可欠です。
6. 組織全体のサポート体制の整備
最後に、管理職を支えるためには、組織全体でのサポート体制の整備が不可欠です。管理職が一人で抱える業務が多すぎる場合、組織として彼らを支援する仕組みが必要です。例えば、業務の一部をチームで分担する体制を整えることで、管理職が負担を軽減し、重要なマネジメント業務に集中できるようにすることができます。さらに、適切な権限委譲システムの構築や、管理職の意思決定をサポートする体制を整えることで、管理職がより効率的に業務を遂行できる環境を整えることが求められます。
これらの取り組みを通じて、管理職が単なる業務遂行者としてではなく、組織の成長を支える「価値創造者」としての役割を果たすことができるようになります。人事部門としては、このような視点から管理職の支援を強化し、組織全体の活性化と持続的な成長に貢献するための施策を積極的に推進していくことが重要になってきます。
管理職が多様な責務を持ちつつ、チームメンバーを指導しているイメージです。オフィス内では個々に集中して仕事を進める従業員や、小グループで協力してプロジェクトに取り組む姿が見られます。自然光が差し込み、オープンスペースで協働しやすい職場環境が整っており、管理職がキャリアアドバイスを提供しつつ、プロジェクトの進捗も確認する姿が強調されています。プロフェッショナルでありながら、サポートが行き届いた職場の雰囲気が感じられます。