見出し画像

【書籍】 『努力革命 ラクをするから成果が出る! アフターGPTの成長術』(尾原和啓・伊藤羊一著):AIの力で人間の可能性を解き放つ

 『努力革命 ラクをするから成果が出る! アフターGPTの成長術』(尾原和啓・伊藤羊一著、幻冬舎、2024年)を拝読しました。

 ChatGPTなどの生成AIの登場は、私たちの働き方や学習方法を大きく変え、「努力革命」とも呼べるゲームチェンジを引き起こしています。AIは、私たちの生活や仕事の効率を向上させ、新しい可能性を切り開く一方で、従来の仕事のあり方や価値観を大きく変えようとしています。

 本書では、AIがもたらした3つの変化、すなわち「80点」がスタート地点になること、あらゆる物事の個別化、正解主義から修正主義への移行について詳しく解説しています。人事視点でもおおくの気づきがありました。

「80点」がスタート地点になる

 これまで人間が担ってきたルーティンワークや定型的なタスクをAIが代行するようになることで、私たち人間はより創造的で付加価値の高い仕事に集中できるようになることを意味します。
 例えば、議事録作成、スケジュール調整、市場調査、資料作成などはAIが80点まで仕上げてくれるため、人間はそれをブラッシュアップし、100点、120点を目指せるようになるのです。リクルートの「当たり前価値」「ワクワク価値」という考え方でいうと、AIが「当たり前価値」を担い、人間は「ワクワク価値」を生み出すことに注力できるようになるのです。

あらゆる物事の個別化

 AIが個人のニーズや状況に合わせて情報を提供したり、サービスをカスタマイズしたりすることを指します。ChatGPTを使えば、「小学生にもわかるように説明してください」といったように、質問者のレベルやニーズに合わせて回答を調整できます。この個別化は、教育現場で生徒一人ひとりの学習速度や興味に合わせた学習を可能にするだけでなく、ビジネスの現場でも、各従業員の能力や適性に応じたマニュアル作成や、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングなど、様々な場面で応用できます。

正解主義から修正主義へ

 AIが膨大な情報を処理し、最適な答えを導き出す能力を持つことで、私たち人間は、完璧な答えを求めるのではなく、試行錯誤を繰り返しながら、より良い答えを見つけ出すアプローチが重要になることを示しています。これまでの日本社会は、ミスなく品質の高いものを提供できる「正解」を出す力を重視してきましたが、AIが80点の答えを提示してくれる時代においては、その先をどう改善していくか、より良いもの、みんなが納得するものをつくれるかが重要になります。リクルートの初代フェローである藤原和博氏は、この変化を「正解主義から修正主義へ」と表現しているとのことです。

 これらの変化は、私たちに新しい働き方や学習方法を模索することを迫りますが、同時に、AIを活用することで、より創造的で、効率的で、個々に合った成長が可能になるという、大きなチャンスをもたらします。

 この本では、これらの変化に対応し、AI時代における成長のゲームチェンジを楽しむための具体的な方法として、ChatGPTを活用した「壁打ち」を提案しています。

ChatGPTを活用した「壁打ち」

 「壁打ち」とは、ChatGPTと対話しながら自分の考えを整理し、アイデアを練ったり、問題の解決策を探したりするプロセスです。具体的な5つのステップ、「まずはざっくり」「問題を小分けにする」「打ち手を考える」「絞り込む」「じっくり質問を繰り返す」を踏むことで、ChatGPTの能力を最大限に引き出すことができます。これが、ChatGPTに代表されるような生成AIがなかった時代と比較すると、問題へのアプローチの大きな変化点となります。

まずはざっくり
 最初に漠然とした質問を投げかけることで、ChatGPTから幅広い情報を引き出すステップです。

問題を小分けにする
 ChatGPTの回答から、自分が深掘りしたいテーマを選び、より具体的な質問をすることで、問題の核心に迫るステップです。コンサルタントがよく使う「2割8割」の法則のように、全体にインパクトを与えるであろう重要な部分に焦点を当てていくことが重要です。

打ち手を考える
 ChatGPTとの対話を通じて、問題解決のための具体的なアクションプランを検討するステップです。

絞り込む
 
前提条件や制約条件を追加することで、ChatGPTの回答を自分の状況や目的に合わせて調整するステップです。例えば、「あなたはマーケターです」「ターゲットは40代男性です」といった前提や、「140字以内で答えてください」「箇条書きでまとめてください」といった制約条件を加えることで、より具体的な、欲しい回答に近づけることができます。

じっくり質問を繰り返す
 ChatGPTとの対話を重ねる中で、新たな視点やアイデアを発見し、思考を深めていくステップです。ChatGPTは同じ質問でも、再生成ボタンを押すことで異なる回答を生成しますし、「もっと詳しく教えてください」といったように質問の仕方を変えることで、さらに深い回答を得ることができます。

「頭の良さ」「経験」「センス」をコピーできるツールとしてのChatGPT

頭の良さ
 「引き出しの多さ(=知識量)」と「つなげる力(=推論力)」から成り立っています。ChatGPTは、私たちの質問に対して、インターネット上の膨大な情報から知識を引き出し、論理的な推論を行うことで、これらの能力を私たちが活用できる形で提供してくれます。例えば、何かしらの事象についてChatGPTに質問すると、多角的な視点からの情報や、抽象化された解釈、さらには具体的な事例などを教えてくれます。

経験
 例えば、ある分野の専門家の知識やノウハウを学習したChatGPTに質問することで、その分野の経験を疑似的に体験することができます。また、ChatGPTはYouTube動画を要約することもできるので、様々な分野の動画を短時間でまとめて視聴し、効率的に学習することができます。

センス
 
ChatGPTは、大量のデータからパターンや傾向を学習し、私たちが新しい視点や発想を得るためのアイデアを生成してくれます。例えば、画像生成AIを使って大量のデザイン案を作成したり、ChatGPTに新しいおにぎりの具のアイデアを出してもらったりすることで、私たちの創造性を刺激し、センスを磨くことができます。

 このように、ChatGPTを活用することで、私たちは、従来の「努力」の概念を覆し、より効率的に成長できるようになります。

「飛ぶ力」はコピーできない、人間独自のもの

 しかし、ChatGPTがコピーできないものも存在します。それは、論理的思考力や合理性から「飛ぶ力」、つまり、直感や感情に基づいた意思決定です。どんなにAIが進化しても、最終的な決断を下すのは人間です。AIが提示する情報や分析結果を踏まえた上で、自分の直感や感情に従って決断する力が、ますます重要になっていきます。

 「飛ぶ力」は、自分自身の内なる声、「やりたい」という思いに素直に従うことから生まれます。AIを活用し、自分の「やりたい」を起点に行動することで、私たちは、新しい時代を生き抜き、成長し続けることができるでしょう。

 その意味では、「構想力」のようなものは、AI時代にはかえって重要なものになるのでしょう。

人事の視点から見ても多大なる影響がある

 生成AIの台頭は、人事の視点においても、従来の戦略や業務の進め方を根本的に見直す契機となるでしょう。以下に、生成AIが人事にもたらす影響野一例と、その対策について考察します。

評価基準の再定義と新しい能力開発

 これまでの人事評価は、主に過去の経験や知識に基づいて行われてきました。しかし、ChatGPTのような生成AIがルーティンワークや情報収集を代行する時代においては、創造性、問題解決能力、批判的思考力、そしてAIを使いこなす能力など、新しいスキルセットが評価の焦点となります。
 具体的には、AIが生成したコンテンツを評価・改善する能力、AIを活用して新しいアイデアを生み出す能力、AIが出した答えを鵜呑みにせず、その妥当性を検証する能力などが求められるでしょう。

個別最適化された人材育成プログラムの構築

 生成AIは、従業員一人ひとりの学習スタイル、進捗状況、課題に合わせて、パーソナライズされた学習教材やトレーニングプログラムを提供することを可能にします。各従業員の強みと弱みを把握し、それに基づいた最適な学習プランを提供することで、従業員のエンゲージメントを高め、成長を促進することができます。
 また、生成AIを活用することで、時間や場所にとらわれずに学習できる環境を整え、自己主導型の学習を促進することも可能です。

自律性と協調性を重視する組織文化の醸成

 生成AIの活用は、組織の意思決定プロセスやコミュニケーション方法にも影響を与えます。トップダウン型の意思決定から、ボトムアップ型の意思決定へと移行し、従業員一人ひとりが自律的に考え、行動できる組織文化が求められます。同時に、AIと協力しながら、チームとして成果を最大化するための協調性も不可欠です。1on1ミーティングやチームビルディング研修などを通じて、これらの能力を育成することが重要になります。

「やりたい」を重視する採用戦略の転換

 生成AI時代においては、「スキル」よりも「やりたいこと」を持つ人材が企業の成長を牽引します。採用活動においても、これまでのスキルや経験偏重の評価から脱却し、応募者の「やりたいこと」や「情熱」を重視する必要があります。そのためには、従来の面接に加えて、ポートフォリオ評価、課題解決型のアセスメント、価値観を共有できる場などを設けることが有効です。

多様な人材のエンパワーメント

 生成AIは、障がいを持つ人や、異なる文化的背景を持つ人など、多様な人材が能力を発揮するためのサポートツールとしても活用できます。例えば、音声認識や自動翻訳機能を活用することで、コミュニケーションの障壁を軽減し、誰もが平等に活躍できる環境を整備することができます。また、生成AIを活用したメンタルヘルスサポートや、多様な価値観を理解するための研修プログラムなどを導入することで、インクルーシブな組織文化を醸成することができます。

 生成AIは、人事のあり方を大きく変え、企業の成長を加速させる可能性を秘めています。これらの変化を理解し、積極的にAIを活用することで、企業は競争力を強化し、新たな価値を創造することができるでしょう。

AIがホログラフィックインターフェースやフレンドリーなロボットとして登場し、スケジュール調整、レポート作成、市場調査などの様々なタスクを支援しています。一方で、人間はブレインストーミング、デザイン、戦略的な計画などの創造的で高付加価値な仕事に集中しています。

個別化された学習や個人に焦点を当てた支援を象徴する要素として、AIチューターと対話する学生や、カスタマイズされたトレーニングプログラムで働く従業員も描かれています。背景には、伝統的な働き方からAIによって強化された協力的で連携の取れた方法へのシフトを強調するシンボルが散りばめられています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?