経営と人材方針を変えるニューロダイバーシティの力ーKaien鈴木慶太氏より
Aoba-BBTの番組『組織人事ライブ703』のテーマは「ニューロダイバーシティで考える経営・人材方針(鈴木慶太氏(株式会社Kaien 代表取締役))」でした。
株式会社Kaien代表取締役の鈴木慶太氏をゲストに迎え、高橋俊介氏と、ニューロダイバーシティの観点から経営・人材方針について議論しています。発達障害の強みを活かした就労移行支援・自立訓練(生活訓練)を実施している企業です。人事にとっても極めて重要な、興味深いテーマでもあります。
人的資本経営とニューロダイバーシティ
人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値向上を目指す経営のあり方です。近年、人的資本経営が注目される中、ダイバーシティ(多様性)はその重要な要素の一つとして認識されています。ダイバーシティには様々な側面がありますが、特にニューロダイバーシティ(神経多様性)は、近年、企業経営においてますます重要性を増しています。
ニューロダイバーシティとは
ニューロダイバーシティは、脳神経の多様性を指す言葉であり、発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症など)、知的障害、精神障害などを含みます。これらの障害は、従来の「できないこと」に焦点を当てる医学モデルではなく、「できること」に焦点を当てる社会モデルの視点で捉えるべきです。つまり、個人の特性を理解し、それぞれに合った環境を提供することが重要になります。発達障害は、先天的な脳の特性であり、環境や状況によって「障害」となったり、「個性」となったりします。この多様な特性を理解し、それぞれの強みを活かすことが、ニューロダイバーシティの考え方において重要です。
企業におけるニューロダイバーシティ
企業は、障害者雇用を法定雇用率達成(いわゆるコンプライアンス対応)のためだけでなく、それぞれの能力を活かせる「戦力」として活用する視点を持つべきです。紹介されていた、エーザイの事例では、障害者雇用率が高い企業ほど、人的資本が高く、企業価値も向上しているという相関関係が見られます。つまり、障害者雇用は、コストではなく投資と捉え、企業の長期的な成長と価値向上に貢献する可能性があるのです。
ダイバーシティ&インクルージョン&エクイティ(DE&I)
DE&Iは、多様性を受け入れるだけでなく、それぞれに公平な機会を提供し、過剰な配慮をしないという概念です。企業は、合理的配慮を通じて、従業員の多様なニーズに対応し、個々の能力を最大限に引き出す必要があります。合理的配慮とは、障害者が能力を発揮できるようにするための調整であり、具体的には、職場の環境調整(照明や音の調整など)、業務内容の変更(得意分野への配置など)、コミュニケーション方法の工夫などが挙げられます。
ニューロダイバーシティの推進
ニューロダイバーシティの推進は、単に障害者雇用を促進するだけでなく、組織全体のマネジメントや企業文化を変革していくことを意味します。個人の特性を理解し、それぞれに合った環境や役割を提供することで、企業はより強くなり、イノベーションを促進することができます。
そのためには、経営層のコミットメント、社員教育、そして多様な人材が安心して働ける環境づくりが不可欠です。社員教育では、ニューロダイバーシティに関する正しい知識を共有し、偏見や差別をなくすことが重要です。また、多様な人材がそれぞれの能力を発揮できるよう、柔軟な働き方や評価制度を導入することも有効です。
まとめ
日本企業は、従来の画一的な人事制度やマネジメントから脱却し、ニューロダイバーシティを積極的に推進していく必要があります。個人の多様性を尊重し、それぞれが能力を発揮できる環境を整えることで、企業は新たな価値を生み出し、持続的な成長を遂げることができるでしょう。これにより、多様な人材が活躍できる社会を実現し、企業の競争力を強化することが期待されます。
鈴木氏のメッセージ
鈴木氏は、Kaienのビジョンとして「障害者雇用を超えて」を掲げています。つまり、障害者雇用にとどまらず、企業が個人の多様性を尊重し、それぞれが能力を発揮できる社会の実現を目指しています。Kaienは、企業へのアドバイスや協働を通じて、このビジョンを実現していくことを目指しています。ニューロダイバーシティは、社会全体で取り組むべき課題であり、企業はその中心的な役割を担っています。企業が積極的にニューロダイバーシティを推進することで、よりインクルーシブな社会の実現に貢献できるでしょう。
人事の視点から考えること
このテーマは人事領域にとって極めて重要です。ニューロダイバーシティを考えることは、従来の画一的な人事制度やマネジメントからの脱却を意味し、多様な人材の能力を最大限に引き出すための戦略的なアプローチといえます。考察をすすめてみます。
採用と育成
従来の画一的な採用基準や新卒一括採用といった慣習を見直し、多様な経験やスキルを持つ人材を獲得するために、中途採用や経験者採用を積極的に活用する必要があります。
また、個々の特性に合わせた育成プログラムを開発し、それぞれの能力を最大限に引き出すための個別最適化された育成プランを提供することが重要です。
メンター制度やコーチング制度などを導入し、多様な人材が安心して相談できる体制を整えることも有効です。
人事評価
従来の成果主義的な評価だけでなく、個人の特性や能力を多角的に評価する仕組みを構築する必要があります。例えば、目標設定において、個人の特性や能力を考慮し、達成可能な目標を設定することが重要です。
評価基準においても、成果だけでなく、プロセスや行動、チームへの貢献度などを考慮し、多様な人材が評価されるようにする必要があります。
人材配置
適材適所を徹底し、個人の特性や能力に合わせた最適な配置を行うことで、多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮できる環境を整備する必要があります。
例えば、コミュニケーション能力が高い人材は、顧客対応やチームの調整役といった役割に、分析能力が高い人材は、データ分析や戦略立案といった役割に配置することで、それぞれの強みを活かすことができます。
また、ジョブローテーションやプロジェクトベースの働き方を導入し、多様な経験を積む機会を提供することで、個人の成長を促進し、新たな才能の発掘にもつながります。
合理的配慮
障害のある従業員に対して、個別に必要な配慮を提供することで、能力を発揮できる環境を整備する必要があります。
合理的配慮は、法的な義務であるだけでなく、企業の社会的責任として積極的に取り組むべきでしょう。
具体的な配慮としては、職場の環境調整(照明や音の調整、休憩スペースの確保など)、業務内容の変更(作業手順の簡素化、柔軟な勤務時間の設定など)、コミュニケーション方法の工夫(文字でのコミュニケーションツールの導入など)などが挙げられます。
合理的配慮は、障害のある従業員だけでなく、すべての従業員にとって働きやすい環境づくりにつながります。
多様な人材の活躍促進
多様な人材が活躍できる企業文化を醸成し、多様な視点やアイデアが生まれる環境を創出する必要があります。
そのためには、ダイバーシティ推進のための研修やセミナーを実施し、社員の意識向上を図ることが重要です。
また、社内ネットワークやコミュニティを形成し、多様な人材が交流できる場を提供することも有効です。
さらに、ロールモデルとなる多様な人材を積極的に登用し、社内外に発信することで、企業全体の意識改革を促進することができます。
人事担当者の意識改革
人事担当者がニューロダイバーシティに関する正しい知識を持ち、多様な人材を理解し、それぞれの能力を最大限に引き出すための意識改革を行う必要があります。
そのためには、人事担当者向けの研修やセミナーを実施し、最新の知見や事例を学ぶ機会を提供することが重要です。
また、社内外の専門家との連携を強化し、多様な人材の採用、育成、評価、配置に関するノウハウを共有することも有効です。
人事担当者自身が、多様な人材との対話を積極的に行い、それぞれのニーズや課題を理解することも重要です。
これらの点を踏まえ、人事の視点からニューロダイバーシティを推進することで、企業はより強くなり、イノベーションを促進し、持続的な成長を遂げることができるでしょう。
オフィス環境でニューロダイバーシティが実現されている様子です。多様な年齢、性別、民族の人々が協力し合い、現代的で開放的なオフィスで働いています。自然光が差し込む大きな窓や緑の植物が配置された空間で、コンピュータを使ってコーディングをしたり、ホワイトボードを使ってブレインストーミングを行ったり、小グループでアイデアを議論したりしています。全体の雰囲気は包括的で支援的、そして生産的であり、誰もが調和して働いている姿が描かれています。ニューロダイバーシティが強みとして活かされている職場の理想的なイメージです。
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