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【書籍】行動科学が変える企業戦略:目標達成の持続可能なモデルーオウェイン・サービス氏他

 オウェイン・サービス他著『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える 目標達成のルール 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2024年)を拝読しました。

 本書では、従来の根性論や個人の意志力に頼るのではなく、行動科学の確かな知見に基づき、目標達成をより確実なものにするための具体的な戦略を提示する画期的な一冊です。私たちは日々の生活の中で様々な目標を掲げ、それを達成するために努力を重ねますが、しばしばその道のりは困難に満ち、途中で挫折してしまうことも少なくありません。
 なぜなら、目標達成のプロセスは、単に「頑張る」だけでは乗り越えられない、複雑な人間の認知や行動の特性が深く関わっているからです。本書は、そうした人間の特性を理解し、それを巧みに利用することで、目標達成をより効果的に、そして持続可能なものにするための方法を、詳細かつ実践的に解説しています。

 本書の根幹をなすのは、目標達成を支援するための7つのステップから成るフレームワークです。このフレームワークは、単なる理想論ではなく、行動科学の厳密な研究に基づいた、現実的な行動変容を促すための実践的な指針です。このフレームワークに沿って、読者は自身の目標をより深く理解し、それを達成するための具体的な行動計画を立て、実行していくための力を身につけることができるものと思います。

1. 目標設定:達成への第一歩を明確にする

 まず初めに重要なのが、自分自身が本当に達成したい目標を明確にすることです。目標設定は、単に漠然とした願望を抱くだけではなく、より深く自己分析を行い、真に自分を突き動かす原動力を探求するプロセスです。この段階で私たちは、「それは本当に自分が心から望むものなのか?」「なぜそれを達成したいのか?」といった本質的な問いに向き合い、目標が単なる義務感や周囲の期待によるものではなく、自分自身の内なる動機に基づいていることを確認する必要があります。目標を明確にしたら、次はそれを具体的な到達点と期限に落とし込む必要があります。

 例えば、「痩せたい」という目標であれば、「5月末までに5キロ減量する」というように、より具体的で測定可能な形に変換することで、進捗状況を把握しやすくなります。また、期限を設定することで、先延ばしを防ぎ、目標達成へのモチベーションを維持することができます。最後に、目標をより小さな、管理可能なステップに分解します。これは、巨大なプロジェクトを目の前にしたときに感じる圧倒感を和らげ、一歩一歩着実に前進していくための戦略です。

2. プランニング:具体的な道筋を描く

 目標が明確になったら、次はそれを達成するための具体的なプランを立てる段階です。この段階では、目標達成までの道のりを、シンプルで分かりやすい計画に落とし込むことが重要です。複雑な計画は、実行に移すのが困難になるだけでなく、途中で挫折してしまう可能性も高まります。プランは、具体的であればあるほど実行に移しやすくなります。

 例えば、「運動する」という目標であれば、「毎週月水金の朝7時に30分ジョギングする」というように、具体的な時間と場所、行動を定めることが重要です。また、このプランを日々のルーティンと関連づけることで、より習慣化しやすくなります。例えば、毎朝、起きたら顔を洗う、歯を磨く、といった行動に、運動を取り入れることで、新たな習慣をスムーズに定着させることができます。

3. コミットメント:決意を固め、公言する

 目標を達成するためには、目標に対する強いコミットメントが不可欠です。このコミットメントをより強固なものにするために、まず、自分の目標を明確に言葉にしてみましょう。次に、そのコミットメントを、紙に書き出すなど目に見える形にすることも効果的です。そして、最も重要なのが、そのコミットメントを周りの人に公言することです。公言することで、目標を達成しなければならないという心理的なプレッシャーが生まれ、より行動に移しやすくなります。また、信頼できるコミットメントレフリー(監視役)を任命することで、目標達成の過程を客観的に見てもらい、途中で挫折してしまうのを防ぐことができます。

4. 報酬:モチベーションの源泉を設計する

 報酬は、目標達成へのモチベーションを維持するために非常に重要な役割を果たします。しかし、報酬を設定する際には、いくつかの注意が必要です。まず、報酬は、目標達成と直接的に関連付けられる必要があります。例えば、マラソンを完走したら旅行に行く、といったように、目標を達成した場合にのみ得られる報酬を設定すると、モチベーションが維持しやすくなります。

 また、小さな目標を達成するたびに、小さな報酬を設定することも有効です。例えば、毎日30分運動したら、お気に入りの音楽を聴く、といったように、小さな報酬を頻繁に与えることで、良い習慣を形成しやすくなります。ただし、報酬を設定する際には、報酬によって内発的な動機を損なわないように注意が必要です。例えば、本来好きでやっていたことを、お金で釣るようにしてしまうと、モチベーションが低下してしまう可能性があります。

5. 共有:他者の力を活用する

 目標達成は、決して一人で成し遂げるものではありません。周りの人に協力を求めたり、社会的ネットワークを活用したり、グループの力を利用したりすることで、より効果的に目標を達成することができます。私たちは、周りの人に助けを求めることを恐れがちですが、実際には、多くの人が助けを求められると快く応じてくれるものです。また、目標を共有することで、励まし合ったり、情報交換したりすることができ、よりモチベーションを高く保ちやすくなります。

6. フィードバック:進捗状況を把握し、改善を促す

 フィードバックは、目標達成の過程を客観的に見つめ直し、改善点を見つけるために非常に重要なツールです。効果的なフィードバックを得るためには、まず、目標に対する自分の現在の立ち位置を正確に把握する必要があります。次に、フィードバックは、具体的で、タイムリーで、かつ、行動可能なものでなければなりません。

 例えば、「あなたはもっと頑張るべきだ」という抽象的なフィードバックではなく、「あなたはプレゼンテーションの資料作成は上手だが、質疑応答に課題がある」といったように、具体的な点を指摘する必要があります。また、フィードバックは、できるだけタイムリーに、つまり、問題が発生してからすぐに与えることで、その後の改善を促すことができます。

 最後に、フィードバックは、個人の能力ではなく、努力に注目したものである必要があります。例えば、「あなたは頭が良いからできた」というようなフィードバックではなく、「あなたは努力したからできた」というように、努力を認めるフィードバックをすることで、さらにモチベーションを高めることができます。

7. あきらめない:持続的な成長を促す

 長期的な目標を達成するためには、困難に直面しても諦めない、粘り強さが不可欠です。そのためには、練習の質と量を高める必要があります。ただ闇雲に練習するのではなく、自分の課題を明確にし、集中的に練習することが重要です。また、新しいアプローチを試しながら、学び続けることも重要です。時には、自分のやり方がうまくいかないことに気づくこともあるでしょう。そんな時も、諦めるのではなく、別の方法を試してみる。そして最後に、目標を達成したときには、その達成を心から喜び、その経験から学びを得ることが重要です。達成したことを振り返り、成功体験を記録に残すことは、その後のモチベーションの維持にも繋がります。

本書が提示するフレームワークの核心

 本書の核心は、私たちの行動は、感情や意志力だけでなく、心理的なバイアスや周囲の環境に大きく影響されるという認識に基づいています。このため、目標達成のためには、単に自分を鼓舞するだけでなく、行動科学に基づいた具体的な戦略を立て、自分の認知や行動の特性を理解し、それを最大限に活用することが必要不可欠なのです。
 目標達成の道は決して平坦ではありません。しかし、本書で紹介したフレームワークを実践することで、あなたは、より効果的に、そしてより楽しく、目標達成への道のりを歩むことができるでしょう。
 本書は、単なる理論書ではなく、実践的なツールと具体的な例を用いて、読者が自身の目標を達成するための明確な道筋を示した、まさに目標達成への羅針盤とも言うべき一冊です。目標を達成したいと願う全ての人にとって、本書は、その願いを現実にするための強力なサポーターとなるでしょう。

企業人事の立場から深掘りする:「根性論や意志力に頼らない行動科学が教える目標達成のルール」

 企業人事の視点から、本書の内容を考察してみます。企業研修や人事施策が抱えていた課題を克服し、従業員の成長を加速させ、組織全体の成果を最大化するための、非常に示唆に富んだ戦略が数多く含まれていることがわかります。
 従来の企業人事における人材育成は、個人のモチベーションや根性、そして抽象的な「頑張り」に依存する部分が大きく、どうしても従業員の能力や資質によって成果にバラツキが生じやすく、持続性にも課題がありました。
 しかし、本書が提唱する行動科学に基づいたフレームワークは、人間の認知や行動の特性を深く理解し、それを組織目標の達成へと繋げるための、より効果的で、再現性のあるアプローチを提供してくれます。このフレームワークを組織に導入することで、従業員はより自律的に、そして効果的に目標を達成できるようになり、組織全体としては、より強固な成果を創出できる、持続的な成長サイクルを確立できるものと感じます。

1. 目標設定:組織と個人の成長を調和させる戦略

 企業人事として最も重要な役割の一つは、従業員一人ひとりの成長を促し、それが組織全体の目標達成に繋がるようにすることです。この観点から、本書の目標設定ステップは、非常に重要な示唆を与えてくれます。従業員に目標を設定させる際には、単に組織の目標を一方的に押し付けるのではなく、従業員自身のキャリア目標や成長意欲と合致するような目標設定を促す必要があります。
 目標は、具体的かつ測定可能でなければなりません。例えば、「営業成績を上げる」という目標であれば、「四半期ごとに売上目標を10%ずつ上げる」というように具体的な数値目標を設定することで、従業員は自分の進捗状況を客観的に把握できるようになります。
 また、達成期限を設定することで、目標達成までの道のりを明確化し、モチベーションを維持することができます。さらに、目標を小さなステップに分解することは、従業員が目標を達成するまでの過程をより具体的にイメージし、進捗状況を把握しやすくし、成功体験を積み重ね、達成感を味わいながら、目標に向かって着実に歩を進めていけるようにサポートします。人事部門は、これらの要素を踏まえ、従業員がより主体的に目標設定に取り組めるよう、研修やツールを整備していく必要があります。

2. プランニング:実行可能性を高める組織のサポート

 目標が明確になったら、それを実現するための具体的な計画を立てる段階に入ります。従業員が効果的な計画を立て、それを実行に移せるように、様々なサポートを提供していく必要があります。まず、プランは可能な限りシンプルで明確であることが重要です。複雑すぎるプランは、実行するのが困難なだけでなく、途中で挫折してしまう可能性も高めます。プランを立てる際には、具体的な行動内容、時間、場所などを明確にし、従業員が迷うことなく行動に移せるようにする必要があります。

 また、プランを日々の業務ルーティンに組み込むことで、習慣化を促すことができます。例えば、毎日、業務開始前に15分間、目標達成のために必要なタスクを整理する時間を作る、といったように、ルーティン化することで、プランの実行をより効果的に、そしてより継続的なものにすることができます。

 さらに、従業員がプランを実行する上で障害となる要因を特定し、それらを組織的な取り組みによって取り除く必要があります。例えば、業務量が多くてプランを実行する時間が確保できないのであれば、業務効率化のためのツールを導入したり、業務を分担したりするといった対策を講じることで、従業員がよりスムーズにプランを実行に移せるようにサポートすることができます。

3. コミットメント:自律的な成長を促す組織文化

 目標達成には、従業員自身の強いコミットメントが不可欠です。従業員が自らの目標に責任を持ち、最後までやり抜くための環境を整備していく必要があります。具体的には、従業員が目標を公言しやすい雰囲気を作り、進捗状況を共有し、互いに励まし合えるようなチーム文化を醸成していくことが重要です。

 また、本書で紹介されている「コミットメントレフリー」の仕組みを組織内で応用すると、上司や同僚が、従業員の目標達成をサポートする役割を担うことで、より効果的に従業員の成長を促すことができます。人事部門は、組織全体として、目標達成に対するコミットメントを共有し、互いに支え合いながら成長していく、そんな自律的な組織文化を醸成していく必要があります。

4. 報酬設計:公平性と透明性を重視する

 報酬は、従業員のモチベーションを維持し、目標達成を促進するために不可欠ですが、その設計には細心の注意を払う必要があります。報酬は、金銭的なものばかりが注目されますが、、昇進の機会、新しいプロジェクトへの参加機会、研修の機会など、様々な形があります。

 従業員の個々のニーズや価値観を考慮しながら、より多様な報酬体系を設計していく必要があります。また、報酬は、公平かつ透明性の高いものでなければなりません。報酬制度が不公平だと感じられたり、評価基準が不明確だったりすると、従業員のモチベーションが低下し、組織全体の士気にも悪影響を及ぼします。人事部門は、従業員が、報酬によって自分の貢献が正当に評価されていると感じられるような、公平で透明性の高い報酬制度を構築していく必要があります。

5. 共有とチームワーク:組織全体の知恵を結集する

 個人の目標達成を組織全体の成果に繋げるためには、従業員が互いに協力し合い、知識やスキルを共有できる環境を整えることが重要です。チームワークを促進するための研修やイベントを企画するだけでなく、部門を超えて互いに交流できるような機会を提供したり、従業員が自由に意見を交換できるようなコミュニケーションプラットフォームを整備したりする必要があります。

 また、本書で紹介されている「助け合いの輪」の考え方を組織に取り入れることで、従業員は、自分のスキルや経験を活かして、他の従業員をサポートする機会が増え、組織全体として、互いを尊重し、助け合う文化を醸成することができます。

6. フィードバック:成長サイクルを回すエンジン

 フィードバックは、従業員の成長を促すための最も重要な要素の一つです。人事部門は、従業員に対して、定期的かつ建設的なフィードバックを提供する仕組みを構築する必要があります。フィードバックは、単に良かった点や悪かった点を指摘するだけでなく、具体的な行動や改善点を伝えるものでなければなりません。

 また、フィードバックは、一方的に上司から部下へ与えられるだけでなく、多面的評価のように、同僚や部下からも受けられるような多角的なフィードバックの機会を設けることも有効です。

 さらに、フィードバックは、従業員の成長を促し、次なる目標へのモチベーションを喚起するために、ポジティブな要素を含んでいることが重要です。人事部門は、これらの要素を考慮しながら、従業員の成長を継続的にサポートできるような、効果的なフィードバック制度を構築していく必要があります。

7. 学習と改善:変化に対応する組織能力

 変化の激しい現代社会において、組織が持続的に成長していくためには、常に新しい知識やスキルを学び、変化に対応していく必要があります。人事部門は、従業員が、失敗を恐れずに新しいことに挑戦し、そこから学びを得るような文化を醸成する必要があります。

 また、成功事例だけでなく、失敗事例も共有し、そこから組織全体で学ぶことで、より高いレベルでの改善を促すことができます。人事部門は、従業員が自己成長を継続的に行うための機会を提供し、組織全体の学習能力を高めるための戦略を策定していく必要があります。

企業人事戦略への応用:期待される組織変革

 本書のフレームワークを企業の人事戦略に組み込むことで、以下のような変革を期待できるでしょう

従業員の自律的な成長
 
行動科学に基づいたフレームワークを通じて、従業員は自らの意思で目標を達成できるようになり、自律的な成長を遂げられるようになります。
組織全体のパフォーマンス向上
 
従業員一人ひとりの成長が、組織全体のパフォーマンス向上に繋がり、より高いレベルでの目標達成が可能になります。
効果的な人材育成
 
行動科学に基づいた研修やフィードバックによって、従業員の能力開発をより効果的に行えます。
変化に強い組織文化
 
失敗を恐れずに新しいことに挑戦し、常に改善を続けることで、変化に対応できる柔軟な組織文化を醸成できます。
従業員エンゲージメントの向上
 
働きがいのある環境と、自身の成長を実感できる機会が提供されることで、従業員の組織へのエンゲージメントが高まります。

結論:行動科学を駆使した新たな人事戦略へ

 本書は、企業にとって、人材育成と組織開発のあり方を根本的に見直す機会となるでしょう。これまでの人事施策の限界を理解し、行動科学の知見を積極的に取り入れることで、組織は、より効果的に従業員の能力を引き出し、目標達成を支援し、持続的な成長を遂げることができるようになります。これからの時代を生き抜くために、企業は、従業員の根性や意志力に頼るのではなく、行動科学を駆使した、より効果的な人事戦略を構築していく必要があるでしょう。

目標達成に向けたフレームワークを階段の形で視覚的に表現しています。各ステップには「目標設定」「計画」「コミットメント」「報酬」「共有」「フィードバック」「継続」といったキーワードが示され、モチベーションを高めるための視覚的な要素やチャートが周囲に配置されています。柔らかな色調とモダンなデザインが、科学的かつ実践的な目標達成のプロセスを象徴しています。


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