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【書籍】キャリア形成の技術と戦略: グロービス流に学ぶ10年後の自分を描く

 『グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』(東洋経済新報社、2013年)を拝読しました。2013年、既に10年前の書籍ではありますが、今でも十分に参考になるところはあります。

 本書は、急速に変化する現代社会において、個々人がどのように自分のキャリアを築いていくべきか、そのための具体的な技術や戦略を解説する書籍です。この本では、キャリアは単なる職業選択や仕事の道を示すだけでなく、人生全体の中で重要な役割を果たす要素として捉えられています。仕事を軸にするだけでなく、人生全体のバランスや価値観、そして自分が果たすべき役割をどのように理解し、それをキャリア設計にどのように反映させるべきかが強調されています。内容を考察してみます。

キャリアの位置づけとその重要性

 本書においてははキャリアの定義を広く捉えています。キャリアとは単に職業や仕事だけを指すものではなく、人生全体の中で果たす役割や使命を包括的に考え、その上で設計されるものだとされています。つまり、キャリアを考えるということは、自分がどのような人生を歩みたいか、その人生の中でどのように自分自身の役割を果たしていくかという、非常に広範で深いテーマに取り組むことを意味します。

 例えば、キャリアを設計する際には、単に仕事の選び方や職場での成功だけを追求するのではなく、家庭や趣味、地域社会との関わりなど、人生全体におけるバランスをどのように保つかを考慮しなければなりません。仕事が自分の人生においてどのような役割を果たすべきなのか、それは自己実現のための手段なのか、あるいは生活を支えるための手段なのか、人によってその位置づけは異なるでしょう。このように、キャリアを人生全体の一部として捉え、それをバランスよく設計することが、長期的な満足感や幸福感につながるとされています。

 また、キャリアの重要性は、単なる個人の成功や自己満足だけではなく、周囲の人々や社会全体に対する貢献とも深く関わっています。キャリアを通じて自分の価値を社会に提供し、その結果として自己成長を遂げることが、キャリア設計の一環であり、それが最終的に自分自身の満足度や人生の豊かさに直結するのです。そのためには、自分が何を求め、どのような価値を大切にしているのかを明確にすることが必要です。

未来を見据えたキャリア戦略の立案

 キャリアを効果的に構築するためには、未来を見据えた長期的な戦略が欠かせません。本書では特に、10年後や40歳になった時に自分がどのような状況にありたいのか、どのような立場でどのような役割を果たしていたいのかを具体的にイメージすることの重要性が説かれています。未来の自分を想像し、そのギャップを埋めるために逆算して現在の行動を計画するというアプローチが推奨されています。

 例えば、10年後に管理職として活躍していたいのであれば、今の時点で必要なスキルを身に付けるためにどのような経験を積むべきか、どのような研修や自己学習が必要なのかを具体的に計画します。また、40歳になったときに「しまった」と後悔しないためにも、今のうちから未来の自分を明確に想像し、その未来に向かってどのような準備をする必要があるのかをしっかりと考えることが求められます。このように、逆算思考によってキャリア戦略を立てることが、効率的で持続可能なキャリア設計につながるのです。

 さらに、将来の自分の姿を想像するだけではなく、5年後やさらに短期的な目標を設定することも重要です。これにより、具体的な行動計画を立てることができ、ステップバイステップで自分のキャリア目標に近づくことが可能になります。特に、現代のようにビジネス環境が急速に変化する時代においては、柔軟なキャリア戦略が必要とされます。状況に応じて戦略を修正し、適応していくことで、より現実的で実現可能なキャリアを築くことができます。

具体的な事例から学ぶキャリア構築の方法

 本書の魅力の一つは、具体的なキャリア事例を通じて、読者が自身のキャリアに対してどのような選択肢があるのかを学べる点です。例えば、社内でのキャリアアップを目指して日々努力を重ねた結果、海外事業に抜擢されたケースや、経営大学院で学び、そこで得た知識を活かして経営企画に挑戦したケース、さらには、自分の思いを実現するために起業した人の例など、多岐にわたるキャリアの選択肢が紹介されています。

 これらの事例を通じて学べることは、キャリア構築において大切なのは、一つの選択肢に固執することではなく、さまざまな可能性を柔軟に考え、実際に行動を起こすことです。自分がどのようなキャリアを歩みたいのかを明確にし、その目標に向かって努力を続けることが成功への近道です。しかし、同時に、予期せぬチャンスや変化を受け入れる柔軟性も必要です。キャリアの方向性を一度決めたからといって、それに固執しすぎるのではなく、状況に応じて柔軟に修正することが、長期的なキャリアの成功につながります。

柔軟なアプローチと「計画された偶発性理論」

 キャリア構築においては、柔軟なアプローチが欠かせません。特に、本書で紹介されている「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」は、キャリアがしばしば予測できない偶然の出来事や人との出会いによって大きく左右されることを強調しています。この理論は、スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱したもので、実際に成功したビジネスパーソンの多くが、自分のキャリアは予期せぬ出来事や出会いによって形作られたと感じていることに基づいています。

 しかし、この理論では、偶然を待つだけではなく、積極的に行動することで偶然をチャンスに変えることができるとされています。具体的には、好奇心を持ち続け、絶えず新しい学びの機会を探し、失敗に屈せず努力を続けることが求められます。また、柔軟性を持って自分の考えや行動を変え、リスクを取って行動することで、偶然をチャンスとして捉えることができるのです。こうした姿勢が、キャリアにおける新たな機会を生み出す重要な要素となります。

人的ネットワークとキャリア構築

 キャリアを構築する上で、人的ネットワークの重要性は無視できません。本書では、特に現代社会において、ネットワーキングの重要性がますます高まっていることが強調されています。ソーシャルメディアやデジタルツールの普及により、地理的な制約を超えて多くの人とつながることが容易になりました。これを活用して、意識的に人脈を広げ、強化することが、キャリアにおける大きな助けとなります。

 人的ネットワークを通じて得られる外部からの刺激や情報が、キャリアの新たな可能性を開くきっかけになることは少なくありません。例えば、転職や起業の機会、新たなスキル習得のアドバイスなど、人的ネットワークが提供するリソースは非常に多岐にわたります。特に、ソーシャルメディアの発展により、これまで接点がなかった人々とも簡単につながることができ、より広範なネットワークを築くことが可能です。このような人的ネットワークの構築と活用が、キャリア構築において非常に重要な要素となります。

ワークライフバランスとキャリアの統合

 キャリア構築において避けて通れないテーマの一つが、ワークライフバランスです。本書では、ワークライフバランスをどのように捉えるかが、キャリアの成功に大きく影響するとされています。多くの人が仕事とプライベートのバランスを取ることを重要視していますが、そのバランスの取り方は一律ではなく、個々人の価値観や人生のステージに応じて異なるべきだとされています。大切なのは、自分が何を最も大切にしているのかを明確にし、それに基づいてバランスを取ることです。

 特に現代においては、単にオンとオフを分けるという従来の考え方ではなく、仕事とプライベートを統合してフレキシブルに対応していく「ワークライフインテグレーション」の考え方が重要視されています。テクノロジーの発展により、仕事の中でプライベートの時間を確保し、逆にプライベートの時間でも仕事を進めることが可能になってきています。このような新しい働き方に適応できるかどうかが、今後のキャリアに大きく影響するでしょう。

まとめ

 本書では、現代のビジネス環境で自分自身のキャリアを戦略的に設計し、長期的な視野で考えるための具体的な手法と考え方を提供する書籍です。キャリアを単なる仕事の選択ではなく、人生全体の一部として捉え、バランスよく設計することで、より豊かで満足度の高い人生を築くことができます。また、偶然をチャンスに変える柔軟性や、人的ネットワークの重要性、ワークライフインテグレーションなど、現代におけるキャリア構築に必要なさまざまな要素が解説されています。この本は、キャリアについて真剣に考え、より良い未来を築きたいと願うビジネスパーソンにとって、非常に価値ある一冊と言えるでしょう。

人事の視点から考えること

 ここでは、本書を人事の視点から考察してみます。個々の従業員のキャリア開発が、組織の成功や成長にとっていかに重要であるかが分かってきます。キャリア開発の促進は、単なる個人の成長支援にとどまらず、企業全体の競争力を高め、持続可能な組織運営を実現するための鍵です。ここでは、具体的に人事が従業員のキャリア開発にどのように関わるべきか、またそのために必要な施策やアプローチについて深掘りします。

1. キャリア開発を組織戦略に結びつける

 キャリア開発を組織戦略にどのように結びつけるかは、人事にとって最も重要な課題の一つです。本書が強調するように、従業員一人ひとりが長期的なキャリアビジョンを持つことが重要ですが、そのためには組織全体の目標やビジョンとも整合性を持たせる必要があります。人事部門は、従業員のキャリア開発が企業の成長戦略にどのように貢献するかを理解し、そのための支援を積極的に行うことが求められます。

 例えば、企業がグローバル展開を目指しているのであれば、従業員が国際的なビジネススキルを身につけ、異文化理解や語学力を高めるための研修や実務経験を提供することが必要です。また、デジタル化やイノベーションを促進する企業であれば、従業員に最新の技術やデジタルスキルを習得する機会を提供し、個々のキャリア成長を支援することが、企業全体の競争力強化に直結します。こうしたキャリア開発の支援は、単なる従業員個人の成長支援に留まらず、組織全体の戦略的な成長を促進するための重要な施策となります。

 人事部門が果たすべき役割は、組織の戦略的な目標と従業員のキャリア目標をどのように一致させるかを考え、これをサポートするためのプログラムや研修を提供することです。これにより、従業員は自分のキャリアビジョンを実現するための具体的な道筋を描きながら、同時に組織の成長にも貢献することができます。

2. 長期的視点に基づいたキャリア戦略支援

 本書では、逆算思考によるキャリア戦略が提唱されています。これは、従業員が10年後、20年後の自分の姿を具体的にイメージし、それに向けた逆算的な行動計画を立てるというアプローチです。この考え方を人事の視点から見た場合、従業員に長期的なキャリア目標を明確に持たせ、その実現に向けた具体的な支援を行うことが求められます。

 人事部門は、従業員が自分のキャリアの方向性を明確にするために、定期的なキャリアカウンセリングやメンタリングプログラムを提供することが有効です。例えば、従業員が管理職を目指しているのであれば、そのために必要なリーダーシップスキルやマネジメントの経験を積む機会を提供し、また将来的にどのようなポジションが適切かを考慮したジョブローテーションを計画します。さらに、技術職や専門職を目指す従業員には、専門的なスキルや資格取得をサポートし、個別のキャリアプランに沿った支援を行うことが重要です。

 このように、従業員が自分のキャリア目標に向かって計画的に進むための具体的なアクションを起こせるよう、人事がそのプロセスをサポートし、必要なリソースを提供することが、従業員の成長と組織の競争力強化に繋がります。また、従業員が自分のキャリアに責任を持ち、積極的に行動するための仕組みを整えることが、人事部門の重要な役割となります。

3. 柔軟性を持ったキャリア支援と偶然のチャンスを活かす

 本書で紹介されている「計画された偶発性理論」は、キャリアが予期せぬ出来事や人との出会いによって形成されることが多いと指摘しています。この考え方を人事の視点で捉えると、従業員に対して柔軟なキャリア支援を提供し、偶然のチャンスを捉えて成長できる環境を整えることが重要です。

 例えば、従業員に対して新たな挑戦や異なる業務への異動、異業種との交流や研修機会を提供することで、偶然の出会いや新たな学びがキャリアの転機となる場面を作り出すことが可能です。また、社内外でのネットワーキングイベントや業界セミナー、異文化体験などの機会を提供することで、従業員が自分のキャリアに新たな可能性を見出す機会を提供します。これにより、従業員が意識的に自分のキャリアを広げ、偶然のチャンスを活かして成長できる環境を整えることが人事の役割となります。

 人事はまた、従業員が多様な経験を積むことができるような異動制度やプロジェクト参画の仕組みを整備し、個々のキャリアパスに応じた柔軟な選択肢を提供します。これにより、従業員は自分の成長を自発的に追求しつつ、偶然の機会を逃さず活かすことができるのです。

4. ワークライフバランスとフレキシブルな働き方の支援

 キャリア構築において、ワークライフバランスは重要な要素の一つです。従業員がプライベートと仕事のバランスを保ちながら、自己実現を追求できるようにするためには、人事が柔軟な働き方を支援することが不可欠です。本書では、仕事とプライベートを調和させる「ワークライフインテグレーション」の考え方が提唱されています。このアプローチは、仕事と生活を切り分けるのではなく、柔軟に両立させることで、従業員のキャリア開発と幸福度を高めることができるという考え方です。

 人事部門は、この考え方を実現するために、在宅勤務やフレックス勤務、時短勤務などの制度を整備し、従業員が家庭の事情やライフステージに合わせた働き方を選択できる環境を提供します。特に、育児や介護を抱える従業員に対しては、仕事と家庭の両立を支援するための具体的な施策が必要です。また、テクノロジーの活用によってリモートワークやオンライン会議を促進し、仕事の効率を高めつつプライベートの時間も充実させることが可能です。これにより、従業員はキャリアに対するモチベーションを維持しながら、自分の生活も大切にできるようになります。

5. 評価とフィードバックによる成長促進

 従業員の成長を促進するためには、適切な評価とフィードバックが欠かせません。人事部門は、従業員のパフォーマンスを公正かつ透明に評価し、その結果をフィードバックすることで、従業員が自分の強みや改善点を理解し、キャリアを効果的に進めるためのヒントを得ることができます。本書でも、自分の成長を確認し、キャリアの方向性を修正していくことが重要視されていますが、そのためには、定期的なフィードバックと評価のプロセスが重要です。

 具体的には、定期的なパフォーマンスレビューや多面的評価を導入し、上司や同僚、部下からのフィードバックを通じて、従業員が自分の成長に対する具体的な手がかりを得られるようにします。また、目標設定とその達成度合いを評価することで、従業員が自分のキャリア目標に向かって進んでいるかを確認し、それに基づいたサポートを提供することが可能です。このような評価とフィードバックのプロセスを通じて、従業員が自己成長に対して積極的に取り組む姿勢を持つよう促進することが、人事部門の重要な役割です。

6. キャリア支援のための制度と仕組みの整備

 最後に、キャリア支援のための制度や仕組みを整備することが、人事の重要な役割となります。本書で提案されているような、キャリアに対する戦略的な考え方を従業員が実践できるようにするためには、教育研修プログラムやメンター制度、キャリアカウンセリングなどのサポート体制が不可欠です。

 例えば、社内研修プログラムを通じてリーダーシップスキルや専門的な知識を習得させるだけでなく、メンター制度を導入して、キャリアに対する具体的なアドバイスを受けられる環境を整えます。さらに、キャリアパスを明確にするためのロードマップを作成し、従業員がどのようなキャリア選択肢があるかを理解し、その選択肢に向かって進むための具体的なステップを示すことが重要です。

結論

 本書において、キャリア開発は単なる個人の成長支援に留まらず、組織全体の成長と持続的な競争力強化に直結する重要な施策であることがわかります。人事は、従業員のキャリア開発を支援するために、柔軟な働き方の提供、偶然のチャンスを捉える環境づくり、適切な評価とフィードバック、そして長期的なキャリア戦略に基づいたサポート体制を整備する役割を果たすべきです。
 これにより、従業員一人ひとりが自分のキャリアに対して責任を持ち、積極的に成長できる環境を提供することが可能となり、それが組織全体の成功に繋がっていくでしょう。

キャリア設計を戦略的に考える場面です。落ち着いた雰囲気の中、デスクに開いたノートパソコンにはキャリアロードマップが表示され、キャリアに関する本やコーヒーカップが並んでいます。窓の外には夕暮れの都市の風景が広がり、キャリアを見据えた計画や、バランスを考慮した人生設計を象徴しています。







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