持続可能な成長を目指して:女性活躍推進に関する厚労省最新報告書(2024/8/8)を読む
2024年8月8日に「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書 」が発表されました。
女性が職業生活でより一層活躍できる職場環境を整備するための現行制度や、その実施に伴う課題、今後の対応について非常に詳細に検討したものです。特に、女性活躍推進法を中心に、その効果、施行に伴う現状、課題、そして今後の具体的な対応策について幅広く議論されています。
女性が安心して働くことのできる環境を整えることは、日本社会全体の持続可能な発展と経済成長において重要な要素と位置づけられており、この報告書はそのための基本方針を示すものとなっています。
企業や行政機関がこの報告書の内容を踏まえ、さらなる女性の労働参加を促進し、性別による格差を縮小するための具体的な施策を展開することが期待されています。
私も企業人事として、このテーマには取り組んでいるところではありますが、矛盾、難しさは感じているところです。当報告書は、現状と今後に向けた課題がうまくまとめられており、今後の施策を練るのに大変有用です。内容を確認、方向性の案をまとめたいと思います。
1.女性活躍推進法の現状と効果
過去20年間にわたり、日本における女性の年齢別就業率は大きな変化を遂げ、従来のM字型から台形型へと移行しています。これは、出産後も女性が職場に復帰し、継続して就業するケースが増加していることを反映しています。このような変化は、社会全体の意識の変化や、職場における法的整備、特に育児休業制度や両立支援制度の導入が影響していると考えられます。
しかしながら、依然として男女間の賃金格差や女性管理職の割合が低いままであり、これらは政府が掲げる目標を達成する上で依然として大きな課題とされています。特に、女性の正規雇用率に関しては、25〜29歳をピークに、その後30代以降に急激に減少する「L字カーブ」と呼ばれる現象が顕著であり、この現象に対して具体的な対策が求められています。
また、企業による自主的な取組も進んでおり、女性活躍推進法の制定以降、企業が自主的に策定した行動計画に基づく施策が着実に進展していますが、国際的に見ても依然として女性管理職の割合は低く、これをさらに向上させるための包括的な取組が必要とされています。
2.男女間賃金差異の公表
令和4年(2022年)7月に改正された法律に基づき、常時301人以上の労働者を雇用する企業に対して、男女間の賃金差異の情報公表が義務化されました。この情報公表の義務化は、企業が自社内における賃金差異の原因を詳細に分析し、その結果をもとに改善策を策定し実施することを促進するものです。企業は情報を公表する際に、単に数字を示すだけでなく、その背景にある要因や理由を説明する欄を積極的に活用することが奨励されています。このアプローチにより、企業内での意識改革が進み、賃金格差の改善に向けた具体的な取組が期待されています。
また、このような取組を通じて、企業は社会的な評価を高めることができ、競争力の向上にもつながるとされています。この公表制度は、企業がその施策の効果を内外に示すだけでなく、企業間の比較を通じて他社の成功事例を学ぶ機会を提供し、全体的なレベルアップを促すものです。
3.えるぼし認定とプラチナえるぼし認定
えるぼし認定およびプラチナえるぼし認定は、企業が行っている女性活躍推進に関する取組を評価し、その成果を社会に対して明示するための制度です。これらの認定を受けた企業は、公共調達において加点を受けるなど、具体的なメリットがあります。
しかし、この認定を受けるためには高いハードルが設定されており、そのために多くの企業が認定を取得するまでに至っていない現状があります。特に大企業においては、女性管理職の比率を高めるためには大量の採用や昇進の機会を提供する必要があり、その実績を短期間で上げるのは非常に難しいという課題があります。このため、えるぼし認定制度の見直しや、認定基準のさらなる緩和が検討されています。
また、認定制度の拡充を通じて、女性活躍に対する企業の取組をさらに促進し、その社会的な評価を高めることが重要視されています。加えて、女性が働きやすい環境を提供することで、企業のブランド価値が向上し、優秀な人材の確保や定着にも寄与することが期待されています。
4.月経、不妊治療、更年期などの健康課題
女性特有の健康課題である月経、不妊治療、更年期の問題が、職場における女性の就業継続に大きな影響を与えていることが明らかにされています。
経済産業省が実施した調査によると、女性従業員の約5割がこれらの健康課題により職場で困難を感じていると回答しており、さらに約4割の女性がこれらの問題により何らかの仕事を諦めざるを得なかった経験があると報告されています。また、日本における生理休暇の取得率は極めて低く、直近の調査ではわずか0.9%にとどまっています。これには、「男性上司に申請しにくい」、「利用者が少ないため申請しにくい」、「休んで他人に迷惑をかけたくない」といった理由が挙げられています。これに対して、生理休暇の趣旨や利用方法の周知徹底が求められています。さらに、プライバシー保護の観点から、月経や不妊治療といったデリケートな問題について、職場でオープンに話し合うことを躊躇する女性が多く、これが制度の利用を妨げている要因となっています。
こうした健康課題に対して、企業がどのようにサポート体制を整備するかが、女性が安心して働くための重要なポイントとなります。また、男性を含む職場全体での理解を深めるために、性差に関するヘルスリテラシーの向上が必要とされています。さらに、経済産業省の試算によれば、女性特有の健康課題がもたらす経済的損失は年間約3.4兆円に上ると推定されており、これは社会全体で取り組むべき重要な課題であることを示しています。
5.ハラスメント対策
ハラスメントに関する問題も、職場における女性活躍を推進する上で非常に重要な課題として取り上げられています。特に、カスタマーハラスメント(顧客や取引先からの迷惑行為)やセクシュアルハラスメントについては、企業が積極的に対応することが強く求められています。これらの問題に対処するためには、法的措置だけでなく、企業内部での教育や意識改革が不可欠であり、効果的なハラスメント防止策の導入が急務となっています。また、国際的な視点から見ても、日本のハラスメント対策は先進国と比較して遅れを取っている状況があり、これを改善するための具体的な施策が求められています。
特に、女性が多く働く職場では、ハラスメントが発生しやすく、相談件数も多いことが指摘されています。このため、企業はハラスメント防止のための体制を強化し、働く人々が安心して業務に従事できる環境を整えることが必要です。
6.今後の対応の方向性
今後、女性活躍推進法の延長が検討されており、この法制度の施行を継続していくことの重要性が強調されています。特に中小企業における取組の促進が強調されており、これを実現するためには、行政による支援策の強化や、成功事例の共有が必要とされています。中小企業に対しては、女性活躍の取組が企業の業績向上にもつながるという成功事例を積極的に紹介し、女性活躍推進のメリットを広く認識してもらうことが重要です。
また、女性管理職比率の向上に向けて、具体的な数値目標の設定や、企業が積極的に取組を行うためのインセンティブの提供が検討されています。さらに、女性活躍と両立支援を一体的に進めることが重要であり、これにより企業全体の活力が向上し、持続可能な労働環境が構築されることが期待されています。特に、PDCAサイクルを通じて、企業が自社の取組を継続的に改善していくための体制を整えることが求められています。これにより、企業は長期的に女性活躍推進の効果を実感し、さらなる発展を遂げることが可能となります。
この報告書は、女性が職業生活においてより一層活躍できるよう、現行制度の見直しや新たな取組の導入を求める内容であり、日本社会全体の労働環境の改善に向けた重要な提言を含んでいます。企業や行政にとって、この報告書は今後の施策を策定する上での重要な指針となるでしょう。女性の活躍を促進することは、日本の経済成長と社会の持続可能な発展にとって不可欠な要素であり、この報告書に示された方針を基に、企業や行政が積極的に行動を起こすことが期待されています。
具体的な取り組み事例
1.女性活躍推進法に基づく行動計画の策定と実行
状況分析と目標設定
女性活躍推進法に基づく取り組みを効果的に行うためには、まず、企業内の現状を詳細に把握することが不可欠です。従業員の性別、年齢、雇用形態ごとの分布や、各職位における男女比、賃金格差、昇進の機会の違いなどを詳細に分析します。このデータに基づき、具体的な課題を明確化し、企業が目指すべき目標を設定します。例えば、女性管理職の割合を5年以内に20%に引き上げる、賃金格差を3年以内に10%未満に縮小するといった、達成可能かつ具体的な目標を掲げます。
また、各部門ごとに状況が異なる場合は、部門別に目標を設定し、それぞれの進捗をモニタリングする体制を整えます。目標設定にあたっては、トップダウンとボトムアップのアプローチを組み合わせ、従業員全体の意見を反映させることが重要です。
PDCAサイクルの導入
行動計画の策定だけでなく、その実施と継続的な改善が重要です。PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を導入し、定期的に計画の進捗を評価し、必要に応じて修正します。例えば、毎月のミーティングで進捗を確認し、四半期ごとに計画の効果を分析します。問題が発生した場合や、目標が達成されなかった場合には、その原因を追求し、次のステップでの改善策を講じます。このサイクルを繰り返すことで、計画の実効性を高め、長期的な成果を確保します。
従業員への周知と協力
行動計画の成功には、全従業員の理解と協力が不可欠です。従業員全体に対して、女性活躍推進の重要性や企業にとってのメリットを明確に伝え、計画の内容と目標を広く周知します。具体的には、社内報やイントラネット、社内研修を通じて、従業員に対して計画の意義を説明し、各人がどのように貢献できるかを理解させます。また、計画の進捗や達成状況についても定期的に報告し、従業員のモチベーションを維持します。特に、従業員の意見やフィードバックを積極的に取り入れることで、計画の実行に対するエンゲージメントを高めることが可能です。
2.賃金差異の分析と公表
賃金差異の詳細分析
賃金格差の問題に対しては、従業員の性別や職位、勤続年数、学歴などさまざまな要因を考慮した詳細な賃金差異の分析を行います。特に、性別による賃金格差がどのようにして生じているかを正確に把握し、その背景にある要因を解明します。
例えば、同じ職位に就いているにもかかわらず、男女間で賃金差が存在する場合、その原因が昇進や昇給の機会に不均衡があったり、業務の割り当てに差があったりする可能性があります。このような分析は、外部のコンサルタントやデータ分析ツールを活用して行うと効果的です。また、分析結果を元に、経営層や関連部門に対して改善策を提案し、全社的な対応を促進します。
情報公表の準備
法律で義務付けられている場合、賃金差異の情報を公表する必要があります。公表にあたっては、単なる数字の公表に留まらず、賃金差異の背景にある要因や、その是正に向けた企業の取り組みについても説明することが重要です。これにより、外部からの信頼性を高めることができます。
例えば、公表資料には、賃金差異の発生原因を詳細に記載し、どのような具体的な対策を講じているかを明示します。さらに、社内での賃金差異を解消するための中長期的な計画を提示し、その実施状況についても定期的に報告します。このような透明性のある情報公開は、企業の社会的評価を向上させ、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
3.女性管理職の育成と登用
キャリアパスの整備
女性が管理職に昇進するためのキャリアパスを明確に設計し、実際にその道を歩むための支援体制を整備します。例えば、女性従業員がどのようにして管理職にステップアップできるかを示すキャリアプランを作成し、それに基づいた教育訓練プログラムを提供します。リーダーシップスキルやマネジメント能力を向上させるための研修プログラムを定期的に開催し、女性従業員が必要なスキルを習得できるようサポートします。また、社内でのメンター制度を導入し、経験豊富な管理職が女性従業員のキャリア形成をサポートする仕組みを作ります。このようなキャリア支援を通じて、女性従業員のモチベーションを高め、管理職への登用を促進します。
採用・昇進の透明性強化
女性管理職の割合を増やすためには、採用や昇進プロセスにおける透明性を強化することが必要です。例えば、昇進基準や採用基準を明確にし、全従業員に対して公平に適用することを徹底します。また、昇進プロセスにおいて、女性従業員が不利にならないように、客観的な評価基準を設け、その適用を厳格に監視します。さらに、定期的な評価制度の見直しを行い、女性従業員が昇進の機会を平等に得られるようにします。このように、採用や昇進のプロセスを透明化し、公平な評価を行うことで、女性従業員のキャリアアップを支援し、管理職への登用を促進します。
4.健康課題への対応
健康支援制度の充実
女性特有の健康課題である月経、不妊治療、更年期に対応するため、企業内での支援制度を充実させることが重要です。例えば、月経困難症に悩む女性従業員に対して、特別休暇制度を導入し、体調に応じて柔軟に休暇を取得できるようにします。
また、不妊治療を受ける従業員には、治療と仕事を両立できるような柔軟な勤務時間制度を提供し、必要に応じて在宅勤務を許可するなどの対応を行います。さらに、更年期に関連する健康課題に対しても、特別な休暇制度やカウンセリングサービスを導入し、従業員が安心して働き続けられる環境を整備します。これにより、女性従業員が健康上の理由でキャリアを諦めることなく、長期的に働き続けることが可能となります。
ヘルスリテラシー向上
職場全体で性差に関するヘルスリテラシーを向上させるため、全従業員を対象とした教育プログラムを導入します。特に、管理職や人事担当者に対しては、女性特有の健康課題に対する理解を深めるための研修を実施し、女性従業員のニーズに配慮したサポートを提供できるようにします。
また、従業員全体に対しては、定期的な研修や情報提供を通じて、健康管理の重要性や、女性特有の健康課題に対する理解を深める機会を提供します。これにより、職場全体での理解が進み、女性従業員が健康問題を抱える際にも、安心してサポートを受けられる環境が整います。
5.ハラスメント対策の強化
ハラスメント防止の教育と対策
ハラスメント防止のための教育プログラムを定期的に実施し、全従業員に対してハラスメントが許容されない職場環境を構築します。特に、カスタマーハラスメントやセクシュアルハラスメントに対する認識を高めるための教育を強化し、従業員がどのように対応すべきかを具体的に指導します。
また、ハラスメントが発生した場合には迅速かつ適切に対応できるよう、明確な手順を整備し、全従業員に対して周知徹底します。この手順には、被害者が安心して相談できるようなプライバシー保護の仕組みや、第三者による公正な調査体制の構築が含まれます。さらに、ハラスメント防止の取り組みを強化するために、定期的な職場環境の見直しや、従業員からのフィードバックを積極的に収集し、職場環境の改善を図ります。
相談体制の強化
ハラスメントに関する相談窓口を強化し、従業員が安心して相談できる環境を整えます。相談窓口には、専門のカウンセラーや法的アドバイザーを配置し、従業員が適切なサポートを受けられるようにします。また、相談内容のプライバシーを厳守し、被害者が不利益を被ることなく相談できるようにします。
さらに、ハラスメントに関する定期的なアンケート調査を実施し、職場環境の現状を把握するとともに、問題があれば早期に対策を講じる体制を整備します。このような取り組みを通じて、ハラスメントの未然防止と迅速な対応を実現し、安心して働ける職場環境を構築します。
6.中小企業における取組の促進
成功事例の共有
中小企業における女性活躍推進の取組を促進するためには、成功事例の共有が重要です。自社や他社での成功事例を積極的に収集し、これらを基にした具体的な施策を導入します。
例えば、地域の中小企業間での情報交換会や、オンラインセミナーを開催し、成功事例を広く共有します。また、これらの事例をもとに、自社に適した女性活躍推進策をカスタマイズし、実践に移します。
特に、業種や地域による特性を考慮し、各企業が取り組みやすい方法を模索することが重要です。さらに、成功事例を広く発信することで、他の企業にも取組の重要性を理解してもらい、中小企業全体での女性活躍推進を加速させることが期待されます。
コンサルティング支援の活用
中小企業向けのコンサルティングサービスを活用し、女性活躍推進の取組を効果的に進めるための支援を行います。具体的には、行動計画の策定や実施に関するアドバイスを提供し、企業が抱える課題に応じたカスタマイズされた支援を行います。
また、専門家による研修やワークショップを実施し、企業のリーダーシップ層や人事担当者に対して、女性活躍推進のための具体的な手法を伝授します。
さらに、コンサルティングを通じて、企業が持つリソースを最大限に活用し、コストを抑えながらも効果的な取組を実現する方法を提案します。このような支援を通じて、中小企業が自主的に女性活躍推進に取り組む意識を醸成し、持続可能な発展を目指します。
まとめ
以上のような取組を通じて、女性が職場で安心して活躍できる環境を整え、企業全体の成長と持続可能な発展を支援することが、人事としての重要な役割となります。この報告書を基に、現場での実践的な取組を進めることで、組織全体の活力を引き出し、より公平で多様性を尊重する職場環境を実現しましょう。女性の活躍を推進することは、企業の競争力を高め、社会全体の持続可能な発展に貢献する重要な要素です。
現代のオフィス環境での多様な従業員の働き方です。左側のガラス張りの会議室では、自信に満ちた女性が会議をリードし、女性のリーダーシップとエンパワーメントを象徴しています。右側のオープンオフィススペースでは、他の従業員が協力し合って業務を行い、男女平等とチームワークの重要性を反映しています。背景には、賃金格差の削減、女性管理職の増加、健康問題への配慮、ハラスメント防止などのテーマが、グラフやアイコンを通じて表現されています。「女性活躍推進」というフレーズが中心にプロフェッショナルなフォントで強調されており、職場での女性の活躍を促進する重要性を伝えています。