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マネジメントに潜む心理罠:確証バイアスと現状維持バイアス:いまのたかの組織ラジオ#196

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。2024年6月にある会合で今野氏の講演を聴き、その後の懇親会でこの番組を紹介いただきました。人事、組織開発にも従事、支援を実施している私にとって、非常に学びが多い内容です。今後、大いに参考にさせていただきたいと思います。

 今回のテーマは、「誰にでも起きて誤りを誘発する心理現象 認知バイアス」でした。認知バイアス、特に確証バイアスと現状維持バイアスについて議論しています。内容を確認・考察したいと思います。

確証バイアス

 自分の信念を裏付ける情報ばかりに目が行き、他の情報を無視してしまう傾向のことです。
 例えば、上司が部下を「仕事ができない」と決めつけると、その部下の良い仕事ぶりが見えなくなることがあります。確証バイアスによって、人は自分の先入観や偏見を強化する情報ばかりを集め、それ以外の情報を無視してしまうため、誤った判断を下してしまう可能性があります。
 このバイアスは、特にマネジメントにおいて問題となる可能性があり、部下の評価や育成に悪影響を及ぼす可能性があります。

現状維持バイアス

 変化を恐れ、現状を維持したいという心理的な傾向のことです。
 例えば、業績が悪化しているにもかかわらず、現状維持を望む経営者がいることがあります。現状維持バイアスは、主に2つの心理に基づいています。
 1つ目は「授かり効果」で、人は自分がすでに持っているものを過大評価し、失うことを恐れる傾向があります。例えば、高価な車を持っている人が、その車を手放すことに強い抵抗を感じるのは、授かり効果によるものです。
 2つ目は「損失回避」で、人は利益を得る可能性よりも損失を回避することを優先する傾向があります。例えば、宝くじで100万円が当たる可能性よりも、確実に10万円もらえる方を選ぶ人が多いのは、損失回避の心理が働いているためです。

 これらのバイアスは、誰にでも起こりうるものであり、年齢を重ねるごとに強くなる可能性があります。バイアスは、過去の経験や知識に基づいて形成されるため、年齢を重ねるほど、より多くの経験や知識が蓄積され、バイアスが強化される可能性があります。若い頃は柔軟な考え方を持っていた人も、年齢を重ねるにつれて、自分の経験や知識を絶対視するようになり、新しい情報や変化を受け入れにくくなることがあります。

バイアスを克服するためには、以下が必要になります。

  • 自分の考えが偏っていないか常に自問自答する。

  • 率直な意見を言ってくれる人を近くに置く。

  • 変化のリスクよりも現状維持のリスクを考える。

  • 「自分はバイアスから逃れられない」という前提を認識する。

 バイアスは誰にでも存在するため、まずはその事実を認識し、客観的な視点を持つことが重要です。自分の考えや判断が、バイアスによって歪められていないか、常に自問自答する習慣を身につけましょう。また、信頼できる人に意見を求めたり、現状維持を続けることのリスクを具体的に考えることで、バイアスに左右されない判断を下せるようになります。

 特に、組織のマネジメントや改革においては、これらのバイアスが大きな影響を与える可能性があります。例えば、確証バイアスによって部下の評価が偏ったり、現状維持バイアスによって組織の変革が阻害されたりすることがあります。これらのバイアスを認識し、適切に対処することで、より良い意思決定や組織の変革を促進することができます。組織においては、多様な意見を積極的に取り入れ、変化に対してオープンな姿勢を持つことが重要です。また、リーダーは、現状維持のリスクを明確に示し、変革の必要性を説得力を持って伝える必要があります。

人事の視点から考えること

確証バイアス

 確証バイアスは、人材の評価や育成において深刻な問題を引き起こす可能性があります。バイアスによって評価が歪められると、適切な人材配置や育成が難しくなり、組織全体の生産性や効率性を低下させる可能性があるからです。また、不当な評価は、従業員のモチベーション低下や離職にもつながりかねません。

 確証バイアスを軽減し、公正な評価を行うためには、以下のような対策が考えられます。

  1. 多面的な評価システムの導入
     
    複数の評価者や評価基準を設けることで、個人の主観的な評価を補完し、より客観的な評価に近づけることができます。例えば、上司だけでなく、同僚や部下からの評価も参考にできます。

  2. 評価者トレーニングの実施
     
    評価者がバイアスに気付き、客観的な評価ができるように、定期的なトレーニングを実施することが重要です。トレーニングでは、バイアスの種類や影響、具体的な対策などを学ぶことができます。私も幾度となくトレーニングを実施してきましたが、トレーニングの目的の一つに、バイアスに気づいていただくことがあります。

  3. 評価基準の明確化
     
    評価基準があいまいだと、評価者の主観が入り込みやすくなるため、評価基準を明確化し、客観的な評価を促すことが重要です。具体的な行動目標や成果指標を設定し、それらに基づいて評価を行うようにすることで、評価の透明性を高めることができます。

  4. フィードバックの機会の確保
     
    定期的にフィードバックの機会を設け、評価者と被評価者がコミュニケーションをとることで、誤解や認識のずれを修正することができます。また、フィードバックを通じて、部下の成長を支援し、モチベーションを高めることも可能です。

 これらの対策に加えて、人事担当者は、自らのバイアスにも注意を払う必要があります。採用面接や人事考課など、人事担当者自身がバイアスを持って判断を下してしまうと、組織全体に悪影響を及ぼす可能性があるからです。

 確証バイアスは、人事における重要な課題の一つであり、組織の成長や発展を妨げる可能性があります。人事担当者は、このバイアスの存在を認識し、適切な対策を講じることで、公正な評価と人材育成を実現し、組織の活性化に貢献することができます。

現状維持バイアス

 現状維持バイアスについて、主に組織変革の視点で議論がされています。一方で、人事の観点で、もう少し広い視点での議論も必要と思われます。例えば、以下のような場面で影響を及ぼす可能性があります。私も何度も直面してきました。

  • 人事制度改革
     
    新しい人事制度の導入や評価制度の変更など、変化を伴う改革に対して、従業員や管理職が抵抗感を示すことがあります。

  • 新しい働き方の導入
     
    リモートワークやフレックスタイム制など、新しい働き方を導入する際、これまでの働き方を手放すことへの抵抗感が生じる可能性があります。

  • 人材育成
     
    新しいスキルや知識の習得を促す研修プログラムなどに対して、現状のスキルや知識で十分だと考えてしまい、学習意欲が低下することがあります。

  • キャリア開発
     
    昇進や異動など、キャリアアップの機会に対して、現状のポジションや役割に満足してしまい、挑戦を避けることがあります。

 このような現状維持バイアスに対処するために、以下の考え方を丁寧に丁寧に伝えることが必要と思われます。私もこの視点で何度も検討しました。必ずしも劇的に改善される、とは言い切りはできませんが、基本的な態度としても、幾分改善するのではないかと思います。

  • 変化の必要性を明確に伝える
     
    データや事例を用いて、現状維持のリスクや変化によるメリットを具体的に示すことで、従業員の意識改革を促します。

  • 段階的な導入
     
    急激な変化は抵抗感を強めるため、段階的に新しい制度や働き方を導入し、従業員が徐々に適応できるようにします。

  • 不安や懸念への対応
     
    従業員の不安や懸念に寄り添い、丁寧なコミュニケーションを通じて解消していくことが重要です。

  • 成功事例の共有
     
    新しい制度や働き方を導入したことで、成果を上げた事例を共有することで、従業員のモチベーションを高めます。

  • インセンティブの設計
     
    新しい制度や働き方に積極的に取り組む従業員に対して、インセンティブを与えることで、行動変容を促します。

 バイアスの多くは、自分では気づかない(無意識)のことが多いものです。基本的に、ひとは誰でもバイアスを持っているものであるということを認識することもまずは大切でしょう。

 

管理における認知バイアスを表現しています。左側は「確証バイアス」を描いており、マネージャーが生産的な従業員を無視し、「無能」と見なしている別の従業員に集中しています。右側は「現状維持バイアス」を示しており、業績が低下しているにもかかわらず、古い方法に固執している経営者を描いています。現代のオフィス環境を背景に、柔らかい色調と優しいプロフェッショナルな画風で描かれており、視覚的に理解しやすくなっています。認知バイアスが組織管理に与える影響を、視覚的に分かりやすく伝えています。

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