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【書籍】自己発見から始まる合唱の力ー渕上貴美子氏に学ぶパフォーマンス向上の秘訣

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp344「10月31日:合唱力を高めるポイント(渕上貴美子 杉並学院中学高等学校合唱部指揮者)」を取り上げたいと思います。

 渕上氏によると、合唱力を高めるためにはまず「自分自身を知ること」が非常に重要であるとされています。自分の持っている声の特性を理解し、他人の声に憧れるのではなく、現在の自分の声を正確に評価し、それを磨き上げることが求められます。多くの人は、他者の美しい声を模倣しようとしますが、渕上氏はそうしたアプローチではなく、自分の声の質を高めることに重点を置くべきだと説いています。その過程で、彼女は生徒に対して直接的なフィードバックを行い、自己の欠点をしっかりと受け止め、改善へと努めることの重要性を強調します。

合唱力を高めていくポイントは、まず「自分」を知ることが大切だと思います。誰かの美しい声に憧れてそこに自分の声をダブらせたり、ないものねだりをするのではなく、自分の、今あるがままの声をきちんと見つめること。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p344より引用

 合唱は個人の技術だけでなく、集団としての調和が非常に重要です。渕上氏は、他人の成功を素直に喜ぶ心が合唱のパフォーマンスを向上させるためには不可欠であると指摘しています。他人が誉められた時に妬みや羨ましいと感じるのではなく、その人の良い点を見て学び、自分も同じように成長することが重要であると述べています。また、合唱団の一員として他人の感情に敏感であること、それに共感することがグループ全体の調和をもたらし、より一層の感動を創出するためには必要不可欠だと説いています。

相手の喜んでいる姿を見て、自分にも喜びを感じられるような感性が必要だと思います。
誰かが誉められているのを見て妬ましく思ったり、相手が輝いている姿を見て羨ましく思ったり。そうやって、人と比較をして自分の能力のなさを嘆くのではなく、相手のいいところを見つけて真似ていったり、輝いている人を見て「素敵だなぁ!」と、きちんと心から思えること。そんなふうに、素直な心になることが合唱にはすごく大切だと感じています。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p344より引用

 渕上氏は、合唱において人の心を読む能力も非常に重要であるとも言及しています。彼女の指導の下、合唱部員が個人的な困難を抱えている場合、それを感じ取り、その感情を歌に込めることができるかどうかが、その年の合唱部の成績に大きく影響するとしています。例えば、親の病気や他の個人的な問題を抱えている生徒がいる場合、その生徒が抱える悲しみや苦しみを感じながら歌うことは、団体全体の表現に深みを加えると言います。このような感情の共有が、合唱団全体として一体感を生み出し、最終的にはより感動的なパフォーマンスにつながると渕上氏は強調しています。

 渕上氏の指導哲学は、合唱を通じて人間性を磨くことにも注目しています。彼女は音楽の技術だけでなく、人として成長することを重視し、そのためには自己反省と共感が必要だと説いています。これは、合唱団全体が一つの目標に向かって協力し、互いの違いを乗り越え、より高い目標を目指す過程で不可欠な要素です。渕上氏の考え方は、単に音楽的なスキルの向上だけでなく、人間関係の構築と深い理解を通じて、より豊かな合唱体験を創出することを目指しています。これにより、合唱団は単なる音楽集団を超え、共感と理解の深まりを通じて、一つの強固なコミュニティとして成長することができます。

音大にたくさんの生徒が入る年もありますが、そういう年に、全国大会に行けなかったことがあります。どんなに一人ずつのレベルが高くても合唱ではいい結果が出るとは限りません。相手のいろいろな思いを読み、感じられるようになれば、どんなに声がハスキーだろうが、多少音程が外れていようが、皆の思いが一つに揃って心が清められていきます。そこが合唱のおもしろい、一人ではできない素晴らしいところではないかと感じています。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p344より引用

渕上氏の哲学を人事に活かすには

 合唱力を高めるための重要なポイントについて、渕上氏が述べている教訓は、個人の成長とチームの調和を重視するという点で、人事の現場においても非常に価値ある示唆を与えています。具体的には、個人の自己認識の向上と他者との協調性が重要であり、これらは組織内のコミュニケーション、パフォーマンス、さらには全体の職場環境における満足度と直接的に関連しています。

自己認識の重要性とその促進

 自己認識は、個人が自らの感情、動機、行動パターンを深く理解する能力です。この能力は、効果的な自己管理とパーソナルな成長を促し、結果として職場での生産性と満足度を向上させます。自己認識が高い従業員は、自分の行動が他人や組織全体に及ぼす影響をより良く理解し、自己調整を効果的に行うことができます。企業は従業員の自己認識を高めるために、以下のようなアプローチが考えられます。

  1. 自己評価ツールの導入
    自己評価ツールや性格診断テストを利用して、従業員に自己の特性や働き方についての洞察を提供します。

  2. 定期的な自己反省の機会
    定期的なレビューと反省のセッションを設け、個々の目標達成度とそれに伴う感情や学びを振り返らせます。

  3. メンタリングプログラム
    経験豊富なメンターとの関係を通じて、従業員が自己認識を深め、キャリアパスを探求する支援をします。

他者との協調性の強化

 協調性は、多様な個性や専門知識を持つ人々が共同で目標に向かって努力するための基盤となります。渕上氏の指摘するように、合唱における調和と同様に、職場での協調性はチームの成果に直結します。協調性を高めるためには、以下のような取り組みが考えられます。

  1. チームビルディング活動
    定期的なチームビルディングのイベントやワークショップを通じて、チームメンバー間の信頼と理解を深めます。

  2. クロスファンクショナルプロジェクト
    異なる部門の従業員が協力するプロジェクトを設定し、部門間の壁を低減させます。

  3. コミュニケーションスキルのトレーニング
    効果的な聴き方、非言語的コミュニケーション、説得技術など、コミュニケーション能力向上のためのトレーニングを提供します。

人事戦略における具体的な応用例

 人事としても、以下の戦略を実施することで、自己認識と協調性の向上を図り、組織全体の効果を最大化することができるでしょう。

  1. パフォーマンス管理
    定期的なパフォーマンス評価を通じて、個々の従業員の成長をサポートし、目標に対する進捗を確認します。このプロセスでは、具体的なフィードバックと改善のための行動計画が重要です。

  2. リーダーシップ開発プログラム
    リーダーシップスキルを持つ従業員を早期に特定し、専門的なトレーニングプログラムによってその能力を伸ばします。これにより、将来の組織運営を支えるリーダーを育成します。

  3. ダイバーシティ&インクルージョンイニシアティブ
    多様な背景を持つ従業員がそれぞれの力を発揮できる環境を整え、全員が互いの違いを尊重し合う文化を促進します。

まとめ

 渕上氏の合唱に関する洞察は、人事領域においても非常に有効です。自己認識の促進と他者との調和の強化は、個々の従業員だけでなく、組織全体の健全な発展と高いパフォーマンス達成に必須の要素です。これらの要素を組織文化に組み込むことで、より協力的で生産性の高い職場を創出することが可能となることでしょう。

情熱的な指揮者が率いる高校の合唱練習です。合唱の芸術に対するチームワークと献身が強調されており、練習室は温かい光に包まれています。指揮者は表情豊かに指導を行っており、生徒たちは集中して参加しています。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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