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サッカーから学ぶ人材育成のヒント - ビジャレアルCFの教えない指導法ー佐伯夕利子氏から学ぶ

 『教えないスキル~ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術~』(佐伯夕利子、小学館新書、2021年) を拝読しました。この本は、スペインのサッカークラブ、「ビジャレアルCF」の育成メソッドに焦点を当て、人材育成のあり方について深く掘り下げています。著者の佐伯夕利子氏は、長年にわたりビジャレアルCFで指導者として活躍し、その経験から得た知見を本書で惜しみなく共有しています。
 後述しますが、この書籍はサッカーの人材育成について書かれたものですが、その内容は、企業の人事にも応用できる点が相当にあります。

 本書の中心テーマは「教えないスキル」です。これは、選手に一方的に教えるのではなく、選手自身が考え、答えを見つけ出す力を養うという育成哲学に基づいています。この哲学は、育成年代のサッカー選手がプロになれるのはほんの一握りであり、多くが引退後に経済的な問題を抱えるという厳しい現実に直面して生まれたものです。選手たちがサッカー選手としてだけでなく、一人の人間として成長し、引退後も社会で活躍できるよう、ビジャレアルCFは育成の段階から「人格形成」を重視しています。

 この「教えないスキル」を育成するために、ビジャレアルCFは「ビジャレアルCF人格形成プロジェクト」と名付けた指導改革に着手しました。このプロジェクトは、指導者が一方的に教えるのではなく、選手が自分で考え、行動できるようになることを目指しています。具体的には、コーチにカメラとピンマイクをつけて指導の様子を撮影し、指導者同士でフィードバックし合うといった取り組みが行われました。この取り組みは、指導者自身の指導方法を見つめ直し、改善していくための貴重な機会となりました。

 さらに、選手とのコミュニケーションにおいても、「問い」を投げかけることの重要性が強調されています。選手が自分の頭で考え、答えを導き出すことができるように、指導者は適切な質問をする必要があると述べられています。これは、選手が主体的に問題解決に取り組む姿勢を育てる上で非常に重要です。

 また、本書では、言葉の選び方についても詳細に解説されています。「いいね!」のような無意味な言葉ではなく、選手の行動の意図を理解し、具体的な言葉でフィードバックをすることが重要です。これにより、選手は自分のプレーを客観的に評価し、改善点を見つけることができます。

 ビジャレアルCFでは、育成年代の選手たちが社会活動に参加する機会も設けています。これは、選手たちが社会の一員としての自覚を持ち、人間的に成長するためには、サッカー以外の経験も重要であるという考えに基づいています。社会活動を通じて、選手たちは、他者への貢献や感謝の気持ちを学び、より豊かな人間性を育むことができます。

 本書は、育成年代のサッカー選手の育成だけでなく、人材育成全般に役立つ考え方や方法論が紹介されています。部活動の指導者や学校の先生、私のような企業の人材育成担当者など、幅広い層の人々に。特に、日本のスポーツ界が抱える課題、例えば勝利至上主義や指導者のエゴによる指導などについても言及されており、日本のスポーツ文化を改善するためのヒントが得られるかもしれません。

 この本は、単なるサッカーの指導書ではなく、人材育成の哲学書としても読むことができます。一人ひとりの個性を尊重し、その人が持つ可能性を最大限に引き出すための方法論は、スポーツだけでなく、教育やビジネスなど、さまざまな分野で応用可能です。本書を読むことで、読者は、人材育成の本質について深く考えるきっかけを得ることができるでしょう。

人事の立場でも応用できることがたくさんある

 先日の通り、この本はサッカーの人材育成について書かれたものですが、その内容は、企業の人事にも応用できる点がいくつかあります。

従業員のエンゲージメントを高める

 ビジャレアルCFでは、選手が主体的に練習に取り組める環境づくりを重視しています。選手自身が考え、行動し、成長できるような環境を提供することで、選手たちは自発的に練習に取り組み、能力を最大限に発揮することができます。

 企業においても、従業員が自分の意見を自由に発言でき、主体的に仕事に取り組める環境を作ることが重要です。例えば、定期的な意見交換会を実施したり、提案制度を設けたりすることで、従業員の主体性を引き出すことができます。また、従業員の成長を支援するための研修制度やキャリアパス制度を整備することも有効です。従業員エンゲージメントを高めることは、結果的に生産性の向上や離職率の低下につながります。

多様な人材を活かす

 ビジャレアルCFでは、指導者であれ選手であれ、それぞれの個性を尊重し、多様な意見を受け入れることを重要視しています。多様な視点や価値観を持つ人々が集まることで、チーム全体の視野が広がり、新たなアイデアや解決策が生まれる可能性が高まります。

 企業においても、多様なバックグラウンドを持つ従業員がそれぞれの能力を最大限に発揮できるような環境を作ることが重要です。例えば、ダイバーシティ研修を実施したり、多様な人材が活躍できるような評価制度を導入したりすることで、多様性を尊重する文化を醸成することができます。多様な人材を活かすことは、イノベーションの創出や組織の活性化につながります。

育成と評価の一体化

 ビジャレアルCFでは、育成と評価が一体化しており、選手のパフォーマンスだけでなく、人間性も評価の対象となっています。選手たちは、サッカーの技術だけでなく、社会性やコミュニケーション能力なども含めて総合的に評価されます。

 企業においても、従業員のパフォーマンスだけでなく、仕事への取り組み方や成長意欲、コミュニケーション能力なども評価に含めることが重要です。多面的な評価を行うことで、従業員の能力開発を促進し、より良いパフォーマンスを引き出すことができます。また、育成と評価の一体化は、従業員のモチベーション向上にもつながります。

長期的な視点を持つ

 ビジャレアルCFでは、目先の結果にとらわれず、長期的な視点で選手を育成しています。選手が将来、トップチームで活躍できる選手になるために、育成年代から計画的に育成プログラムを組んでいます。

 企業においても、短期的な利益だけでなく、長期的な成長を見据えた人材育成が重要です。例えば、若手社員の育成に力を入れたり、中堅社員のキャリア開発を支援したりすることで、将来の組織を担う人材を育成することができます。長期的な視点を持つことで、持続可能な成長が可能になります。

コミュニケーションの重要性

 ビジャレアルCFでは、選手と指導者、保護者とのコミュニケーションを密にすることで、選手が安心してプレーできる環境を作っています。選手が悩みや不安を抱えている場合は、すぐに相談できる体制を整え、選手が安心してサッカーに集中できる環境を提供しています。

 企業においても、従業員とのコミュニケーションを密にすることで、信頼関係を築き、一体感のある組織を作ることができます。例えば、定期的な面談を実施したり、社内SNSを活用したりすることで、気軽にコミュニケーションが取れる環境を作ることができます。コミュニケーションは、組織の活性化や問題解決、さらには従業員のエンゲージメント向上にもつながります。

 これらの点は、人事担当者が従業員のエンゲージメントを高め、多様な人材を活かし、長期的な視点で人材育成を行う上で、重要な示唆を与えて暮れるでしょう。

サッカーコーチがフィールドで若い選手たちに問いかけ、考えさせています。コーチにはカメラとマイクが装着され、セッションが記録されています。選手たちは真剣に考え、議論しています。背景には、地域活動に参加する選手たちの様子が描かれ、全体的な成長が強調されています。雰囲気は支援的で育成的であり、個人の成長とチームワークが重視されています。

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