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HRXと組織変革の未来:三菱マテリアル社・野川真木子氏に学ぶ
Aoba-BBTの「ピープルストラテジー 4」(鵜澤慎一郎氏)を拝聴しました。今回は、野川真木子氏(三菱マテリアル株式会社 執行役常務、CHRO)により、同社が取り組んでいるピープルストラテジー(People Strategy)」、人事改革(Human Resources Transformation: HRX)」が話題でした。同社の150年以上の歴史的背景や、変革期における人事制度改革、そして組織全体の変革をどのように進めているかについて、具体的な施策や展望が話題となっており、大変興味深いものでした。内容を考察してみたいと思います。
野川氏について
野川氏は豊富な人事経験を持っています。大学卒業後は、花王に入社、人事ではなく、販売会社に出向し、営業の現場を担当しました。消費者と直接接する仕事を通じ、物の流通や物流の流れを深く理解しました。その後、人事企画部門へ異動し、人事制度の設計や国際人事の業務を担当しました。変革期における人事制度の改良やグローバルな労働力の管理に関与し、幅広い経験を積むことができたとのことです。
その後は、GE(ゼネラル・エレクトリック)では、シックスシグマと呼ばれるプロセス改善手法を用いた業務改善に携わりました。GEでの経験は、人事改革においても革新的な手法を採用する基盤となりました。
続いてIBMでは、日本国内および米国本社で人事業務を担当し、特にバーチャル環境やマトリックス型組織における人材管理に従事しました。IBMでの役割は、スピード感のあるIT業界特有の業務に適応しながら、グローバル規模での高いパフォーマンスカルチャーを構築することでした。
さらに、3Mでは、日本法人の人事部門を統括し、変革期における組織改革や人材育成においてリーダーシップを発揮しました。このように、花王、GE、IBM、3Mといった異なる業界や文化を持つ大手企業での豊富な経験を持つ野川氏は、2021年に三菱マテリアルに加わり、2022年からは執行役常務として同社の人事部門全体を指揮しています。彼女のキャリアは、すべて100年以上の歴史を持つ企業で培われており、彼女の経験は、歴史ある企業での組織改革や変革の成功に不可欠な要素となっているのでしょう。
三菱マテリアル社について
三菱マテリアル社は、1871年に創業し、150年以上の長い歴史を誇る企業です。非鉄金属業界におけるリーディングカンパニーとして、同社は金属事業、銅加工事業、電子材料事業、加工事業、再生可能エネルギー事業といった幅広い事業分野で活動しています。特に金属事業カンパニーは、銅を中心とした非鉄金属の安定供給を担い、資源の循環を実現するために力を注いでいます。同社は、都市鉱山からの資源回収にも積極的に取り組んでおり、使用済みの製品から再び資源を取り出す高度なリサイクル技術を駆使しています。
また、同社は自動車や半導体市場向けの高機能製品を製造・販売しており、これらの製品はグローバル市場でも高い競争力を誇っています。同社の製品は、例えば自動車のEVコネクターやMRI向けの超電導線など、先進的な技術を活かしたものが多く、特に半導体市場において重要な役割を果たしています。
一方、再生可能エネルギー事業では、地熱発電や水力発電、さらには太陽光発電など、クリーンエネルギーの供給に力を入れています。2045年までにカーボンニュートラルを達成し、2050年までにはエネルギーの自給率を100%にするという大胆な目標を掲げています。これにより、同社は環境に配慮した持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。
売上高は1兆5,000億円を超え、全世界で約18,000人の従業員を擁する同社は、国内外でグローバルに展開しています。特に日本国内では製造拠点を数多く有しており、日本国内の従業員は全体の約6割を占めていますが、売上の約6割は海外市場からの収益となっています。このことから、同社がいかにグローバル市場に依存し、海外でのビジネス展開が重要な位置を占めているかが分かります。
人事改革(HRX)の概要と背景の拡大
ここからが本題です。同社は、2020年から「4つの経営改革」を軸に、組織全体の変革を進めています。この4つの改革には、コーポレートトランスフォーメーション(CX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、業務効率化、そしてヒューマンリソーストランスフォーメーション(HRX)が含まれます。特にHRXは、人材戦略の重要な柱として位置付けられており、従業員の能力開発や組織文化の変革を進めるための取り組みです。
HRXは、従来の日本企業に見られる年功序列型の人事制度を改革し、職務や役割に応じた評価制度を導入することを目指しています。これにより、従業員は年齢や勤続年数に関わらず、自分の業務内容や役割に応じた評価と報酬を受けることができるようになり、より公平な評価体制を実現しています。また、多様性(ダイバーシティ)、公平性(エクイティ)、包括性(インクルージョン)を推進し、従業員の多様なバックグラウンドや意見を尊重する組織風土の醸成にも力を入れています。この取り組みは、特に外部からの視点や異なる文化を持つ人材の登用を通じて、組織全体の競争力を高めることを目指しています。
具体的な取り組みと制度導入
職務型人事制度の導入
同社では、これまでの年齢や勤続年数に基づく人事制度を見直し、個々の従業員が担う職務や役割に応じた評価基準を導入しました。この新しい職務型人事制度では、従業員は自分の業務内容に応じた評価を受け、それに基づいて報酬や昇進が決定されます。
特に、管理職層に対してはこの制度が導入されており、年齢や入社年次に依存しない透明性の高い人事評価が実現されています。将来的には、この職務型人事制度を一般職にも適用することが計画されていますが、まずは管理職層での制度の浸透と成熟を見守り、その結果を踏まえた上で適用範囲を拡大していく方針です。これにより、全社的な職務型評価制度の確立を目指しています。
次世代経営人材の育成と社内公募制度の活性化
同社では、次世代のリーダーとなる経営人材を育成するために、新しいフレームワークを導入しました。このフレームワークでは、経営人材が必要とするスキルや経験を明確にし、計画的な育成プログラムを提供しています。これにより、リーダーシップを発揮できる次世代の人材を早期に発掘し、育成する体制が整っています。
また、社内公募制度も再活性化され、従業員が自主的にキャリアを形成できるような仕組みが強化されました。以前は制度があってもほとんど活用されていなかったため、応募資格の見直しや手続きの簡略化を行い、より多くの従業員が自分のキャリアに主体的に関わることができるようになりました。これにより、個々の従業員が自分の意志でキャリアを選択し、成長できる機会が増えています。
新たな研修体系とキャリア形成支援の強化
研修体系の刷新も行われており、特にオンライン学習動画サービスの拡充やキャリアデザイン研修の導入が注目されます。キャリアデザイン研修では、従業員が自分のキャリアを振り返り、将来のキャリアプランを考える機会が提供されています。
これにより、従業員は自分のキャリア目標を明確にし、会社と共に成長できる道を模索することが奨励されています。オンライン学習動画サービスは、従業員が自分の都合の良い時間に学習できる環境を提供し、従業員一人ひとりが自分のペースでスキルアップできるようになっています。このような取り組みにより、従業員が自律的にキャリアを形成できる環境が整備されています。
タレントマネジメントシステムの導入
SAP社のSuccessFactorsを活用したタレントマネジメントシステムが導入され、人材情報の可視化が進んでいます。このシステムにより、従業員のキャリア申告やエンゲージメントサーベイ、パフォーマンスマネジメントのプロセスがデジタル化され、効率的に管理されています。
例えば、次世代の経営人材の選抜や育成計画は、このシステム上でデータに基づいて行われており、より効果的な育成が可能となっています。また、退職時のインタビュー情報もこのシステム上で蓄積されており、自己都合退職の原因分析や改善策の策定にも役立てられています。これにより、従業員の離職を防ぎ、優秀な人材を長期的に育成・保持するための戦略が練られています。
課題と今後の展望の詳細
エンゲージメントサーベイの結果、従業員の中で「キャリア形成」に対する理解や意識が十分に浸透していないことが判明しました。特に、キャリアの自律的な形成という概念がまだ定着しておらず、従来のように会社からの指示に従ってキャリアを形成することが一般的とされていました。そのため、従業員が自らキャリアを積極的に選択するという新しい考え方に戸惑いが見られました。
これを受けて、同社では「マテキャリ」と呼ばれるキャリア形成支援キャンペーンを導入しました。このキャンペーンでは、キャリアに関する有識者による講演や、社内公募制度を利用した従業員の体験談を共有するパネルディスカッションが行われました。また、副業や海外駐在を経験した従業員による成功体験の紹介など、具体的なキャリアモデルを提供することで、他の従業員にもキャリア形成の参考にしてもらう取り組みが進められています。
このような取り組みは、今後も継続的に行われる予定であり、キャリア形成に対する理解と意識を高めるための重要な施策として位置付けられています。従業員が自らのキャリアを積極的に考え、行動に移すことで、会社全体の成長と持続可能な発展が期待されているといえるでしょう。
150年以上の歴史ある三菱マテリアル社、派手な取り組みがされがちな現代において、着実に、確実に取り組まれているのが印象的であり、考え方が参考になる企業も多いのではないでしょうか。
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