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【書籍】「おふくろさん」の教え:森進一が語る母との絆

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp35「1月8日:「おふくろさん」の教え(森進一 歌手)」を取り上げたいと思います。

 森進一氏は、18歳という若さで、新人作曲家・猪俣公章のデモテープがきっかけとなり、歌手デビューを果たしました。そのデビュー曲「女のためいき」は、オリコンチャートで週間1位を獲得するなど、瞬く間に大ヒットを記録し、森はスターダムにのし上がります。その後も、「港町ブルース」「銀座の女」など、数々のヒット曲を世に送り出し、NHK紅白歌合戦にも3年連続で出場を果たすなど、順風満帆な歌手生活を送っていました。

 しかし、華やかな舞台の裏では、家族との生活に影を落としていました。長年の夢であった家族との同居を実現させたものの、それは同時に、家族の抱える問題と向き合うことの始まりでもありました。母の千代子は、長年の苦労からリウマチを患い、慣れない東京での生活や、息子を取り巻く女性問題やスキャンダル報道など、心身ともに疲弊していました。特に、森氏の熱狂的なファンによる婚約不履行の訴訟は、千代子を深く傷つけ、彼女の精神状態をさらに悪化させました。

 1971年、森氏は公演先の長崎で、母が自殺したという衝撃的な知らせを受けます。深い悲しみと絶望の中、彼はその日のステージで涙ながらに「おふくろさん」を歌い上げました。この曲は、もともとアルバム収録曲でしたが、母の死をきっかけにシングルカットされ、森氏の代表曲の一つとなります。哀愁漂うメロディーと、息子から母への深い愛情を歌った歌詞は、多くの人の心を打ち、共感を呼びました。

 母の死後、森氏は残された妹と弟のために生きることを決意します。妹には幸せな結婚を、弟には医師になるという夢を叶えてほしい。それは、生前、母が願っていたことでした。弟は、病床の母の姿を見て育ち、「人さまのお役に立つ人になるんだよ」という母の言葉を胸に、医師を志すようになっていました。森氏は、自らの歌を通して、多くの人に感動と勇気を与え続けました。それは、彼自身の辛い経験を乗り越え、家族への愛を糧に生きてきた証でもありました。そして、母の死から数十年後、弟は医師となり、妹も幸せな家庭を築くことができました。それは、母の願いを実現させたいという森の強い思いと、家族の絆の賜物だったと言えるでしょう。

けれど、東京に戻るわけにはいきません。私の歌を待っていてくださるお客様がいます。その日のコンサートで泣きながら唄った「おふくろさん」は、それ以来、母の命、そして私の命を込めた「おふくろさん」になりました。もっともっと親孝行したいと思っていた矢先に母を失った衝撃は、私にとって例えようもなく大きなものでした。悲しさ、悔しさ、無念さが入りまじり、無気力な日々が続きました。けれど私には妹と弟がいました。妹には幸せな結婚をさせて、弟は医者にする。それが母の望みでした。弟は病身の母を見ながら育ち、「人さまのお役に立つ人になるんだよ」と口癖のように言っていた母の言葉を聞き、医師を志望するようになったのです。ここで私がだめになってしまうわけにはいかない。妹と弟の存在がようやく私を支えてくれたのでした。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p35より引用

 森氏の人生は、まさに波乱万丈という言葉がふさわしいものでした。しかし、彼はその逆境を乗り越え、歌手として、そして一人の人間として成長を遂げました。彼の歌は、多くの人々に愛され、励まされ、そしてこれからも歌い継がれていくことでしょう。それは、彼の歌声の中に、家族への深い愛情と、生きる力強さが込められているからに他なりません。

人事として考えること

 森氏のケースは、人事にとっても、困難な状況を乗り越え、成功を収めた人物のロールモデルとして、非常に興味深い事例と言えるでしょう。彼の人生から学べる教訓は、採用や人材育成、組織文化の醸成など、人事戦略の様々な側面に活かせる可能性があります。

1.逆境を乗り越える力(レジリエンス)

 森氏は、18歳という若さで歌手デビューを果たしたものの、その裏では家族を養う重圧や、慣れない東京での生活に苦労する母の苦悩など、様々な困難に直面していました。しかし、彼はその逆境に屈することなく、持ち前の歌唱力と努力でスターダムにのし上がりました。さらに、母の自殺という悲劇を乗り越え、残された家族のために歌い続けるという強い意志を示しました。

 このようなレジリエンスは、変化の激しい現代社会において、企業が求める重要な資質の一つです。変化に対応し、困難な状況下でも成果を上げることができる人材は、組織の持続的な成長に不可欠です。森氏の例は、困難な経験を乗り越えて成長した人材が、組織にどのような価値をもたらすかを示す好例と言えるでしょう。

2.責任感と家族愛

 森氏は、若くして家族を養う責任を背負い、そのプレッシャーの中で歌手としての成功を目指しました。また、母の死後も、妹と弟の幸せを願い、彼らを支え続けました。このような責任感と家族愛は、企業にとって、組織への貢献意欲やチームワークを重視する姿勢につながる重要な要素です。

 例えば、チームプロジェクトにおいて、メンバーが互いに協力し、それぞれの責任を果たそうとする姿勢は、プロジェクトの成功に不可欠です。森氏の例は、家族への愛を原動力に、困難な状況を乗り越え、責任を果たしてきた人物のロールモデルとして、社員のモチベーション向上や組織文化の醸成に役立つと考えられます。

3.困難な状況下でのパフォーマンス

 森氏は、母の自殺という悲劇に見舞われながらも、ステージに立ち続け、観客に感動を与え続けました。これは、困難な状況下でも高いパフォーマンスを発揮できる能力、すなわち「ストレス耐性」や「感情のコントロール能力」を示しています。

 現代のビジネス環境では、予期せぬ事態やプレッシャーに直面することが多々あります。そのような状況下でも、冷静さを保ち、高いパフォーマンスを発揮できる人材は、企業にとって貴重な存在です。森氏の例は、困難な状況下でのパフォーマンス能力の重要性を示すとともに、社員のストレスマネジメント研修など、人材育成プログラムの参考になるでしょう。

4.社会への貢献

 森氏は、歌手として多くの人々に感動と勇気を与え続けました。彼の歌は、世代を超えて愛され、多くの人々の心に響いています。これは、彼の社会への貢献意欲を示しており、企業のCSR(企業の社会的責任)活動にも通じる価値観と言えるでしょう。

 企業は、単に利益を追求するだけでなく、社会の一員としての責任を果たすことが求められています。森氏の例は、社員の社会貢献意識を高め、企業のCSR活動を推進する上でのインスピレーションとなるでしょう。

5.継続的な自己成長

 森氏は、歌手としてのキャリアを通じて、常に新しいことに挑戦し続けました。彼は、演歌というジャンルにとどまらず、ポップスやジャズなど、様々なジャンルの楽曲に挑戦し、自身の音楽性を広げてきました。これは、継続的な自己成長を追求する姿勢を示しており、企業が求める学習意欲や向上心につながると評価できます。

 現代社会では、技術革新や市場の変化が激しく、社員には常に新しい知識やスキルを身につけることが求められます。森氏の例は、変化を恐れず、常に自己成長を追求する姿勢の重要性を示しており、社員の能力開発やキャリア形成支援に役立つと考えられます。

まとめ

 森氏のケースは、逆境を乗り越え、家族への愛を胸に、歌手として成功を収めたという点で、人事担当者にとって、非常に示唆に富む事例です。彼の持つレジリエンス、責任感、家族愛、困難な状況下でのパフォーマンス能力、社会への貢献意欲、継続的な自己成長への意欲は、企業が求める理想的な人材像と重なる部分が多く、採用や人材育成、組織文化の醸成など、人事戦略の様々な側面に活かせる可能性があります。


この画像は、若い森進一がステージで感情を込めて歌っている様子を描いています。背景には彼と母親の古い写真が映し出され、ノスタルジックで深い感情のつながりを感じさせます。ステージは柔らかく暖かい照明に照らされ、観客は彼のパフォーマンスに魅了されています。背景には彼のヒット曲「女のためいき」「港町ブルース」「銀座の女」を象徴する要素と、浮かぶ音符が描かれています。全体的に優しく感動的な雰囲気が漂っています。

このシーンは、森進一の歌手としての成功と、その裏にある家族への深い愛情と困難を乗り越える力を象徴しています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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