障害者雇用が生む新たな価値:中小企業の成功事例に学ぶー日本経済新聞記事より
2024/09/03の日経記事に「障害者雇用は貴重な戦力 中小、やりがい重視で離職防ぐ」が掲載されていました。
この記事では、障害者を雇用する中小企業が増加しており、彼らがやりがいを感じられる職場作りに積極的に取り組んでいる様子が詳しく報告されています。
静岡県長泉町にある電子部品製造のフカサワでは、全従業員の約10%にあたる5名の障害者を雇用しており、耳が不自由な男性従業員は国の技能検定に合格し、健常者2人の指導役を務めるまでに成長しています。このように、障害者が会社で重要な役割を果たすことで、彼ら自身も「頼りにされていることがうれしい」と感じ、働く意欲を高めています。
同社はまた、全従業員のキャリアアップを支援するためにスキル表を作成し、社員が次に習得すべき技能を視覚的に把握できるように工夫しています。これにより、障害者を含むすべての社員が自分の成長を意識しやすくなり、結果的に会社への貢献度も高まるという効果が期待されています。フカサワの深沢好正会長は、「仕事である以上、障害の有無に関わらず会社に貢献してもらうことが大切であり、彼らの能力を引き出すことが経営者の役割だ」と強調しています。
一方、徳島市にあるプラスチック袋製造の船場化成も、2019年から障害者の雇用を本格化させました。以前は国の法定雇用率を満たすための雇用に過ぎなかったと語る美馬直秀社長は、現在では障害者を戦力として見なし、彼らの能力を最大限に引き出す取り組みを進めています。
具体的には、上司が毎日のように変わる職場の環境を改善し、障害者が安心して働ける環境を整えることに力を入れています。これにより、単純作業に飽きていた障害者たちがより多様な業務に挑戦できるようになり、職場の活気も増しているといいます。
さらに、北海道釧路市にある釧路製作所では、障害者が健常者と同じ土俵で働くことに喜びを感じ、フォークリフトの免許を取得した社員もいるなど、障害者のキャリアアップが促進されています。このような取り組みを通じて、障害者を戦力として考える企業が増えており、彼らの雇用が企業全体の生産性向上にも貢献していることがわかります。
法定雇用率の引き上げに伴い、障害者を戦力と見なす企業の割合が増加していることが背景にありますが、それだけでなく、中小企業が人手不足を解消するために障害者のスキルアップやキャリアアップを積極的にサポートするようになったことも大きな要因です。企業ごとに異なる受け入れ環境が存在する中で、障害者が働きやすい環境を整える努力が続けられています。
横浜市立大学の影山摩子弥教授は、「障害者を戦力と見なすことが大切であり、そのためには障害者のやる気を引き出し、スキルアップを後押しする仕組み作りが必要だ」と指摘しています。経営者が特別支援学校や就労支援施設を訪れて、入社希望者に仕事内容を事前に伝えたり、就業体験の機会を提供したりすることが、障害者との理解を深め、会社と社員のミスマッチを防ぐための第一歩であると強調しています。こうした取り組みが進むことで、障害者と企業の信頼関係が強まり、結果的に障害者の雇用が企業の成長にもつながるのです。
障害者の雇用は法定雇用率の達成だけでなく、企業の戦力として重要な役割を果たしており、中小企業の成長や社員の離職防止にも大きく貢献していることが分かります。これからも、障害者がやりがいを持って働ける環境を整えることが、中小企業の持続的な発展に寄与していくものと思います。
人事の視点から考えること
障害者雇用については、人事の視点からも極めて重要なテーマの一つになっています。障害者雇用は単なる法的義務を果たすだけでなく、企業の多様性と包摂性を高め、長期的な企業成長に寄与するための戦略的な取り組みであるべきです。以下に、人事として注目すべき論点を挙げ、考察してみます。
1. 多様性と包摂性の推進
人事の役割として、企業全体の多様性(ダイバーシティ)と包摂性(インクルージョン)を推進することが挙げられます。これらは企業文化の根幹を成し、組織の柔軟性と創造性を高める要因となります。特に障害者の雇用は、異なる視点や経験を持つ人材を組織に取り入れることで、多様なアイデアが生まれやすくなり、問題解決の幅も広がります。
たとえば、フカサワの事例では、障害者が電子機器の組み立てで健常者を指導する役割を担っていることが示されており、これは彼らの技能と視点が企業にとって価値あるものであることを証明しています。多様な背景を持つ従業員が協働することで、企業全体のチームワークが向上し、イノベーションの促進につながることが期待されます。
2. 個々の能力を引き出すための職務設計
障害者の雇用において、彼らが持つ特性や能力を最大限に引き出すための職務設計は極めて重要です。フカサワや船場化成の事例にあるように、各個人の強みを活かし、適切な業務に配置することが、人事の重要な役割となります。
例えば、フカサワでは、障害者の作業場所を変更し、事務職が常に目を配ることで、適切なタイミングでサポートが行えるようにしています。これにより、障害者が自身のスキルを最大限に発揮し、職務において成功体験を積むことが可能になります。
さらに、職務設計においては、障害者が次に何を学びたいのかを明確にイメージできるようなスキル表の活用も有効です。これにより、個々の成長意欲を引き出し、長期的なキャリア開発を支援することができます。
3. 継続的なキャリア開発とスキルアップの支援
障害者を戦力として活用するためには、彼らの継続的なキャリア開発とスキルアップを支援する体制が不可欠です。これは単に業務をこなすだけでなく、長期的に見て組織の成長に貢献できる人材として育成することを意味します。
フカサワの例では、スキル表を活用して社員全員のスキルを可視化し、それぞれがどの技能を習得しているか、どの技能を次に学ぶべきかを明確にしています。これは社員の成長を支援し、モチベーションを高める効果があります。人事は、このような仕組みを導入し、社員が自らのキャリアパスを描けるようサポートすることで、企業全体の生産性と満足度を向上させることができます。
4. 職場環境の調整と適応
障害者が働きやすい職場環境を整えるためには、物理的なバリアフリーだけでなく、心理的なサポート体制の充実も求められます。具体的には、障害者が働く際に直面する課題を理解し、それに対する適切な対応策を講じることが重要です。
フカサワでは、知的障害を持つ社員のために作業場所を変更し、事務職が常に目を配る体制を整えました。これは、作業に集中できる環境を提供し、障害者が安心して働ける職場を実現するための工夫です。さらに、障害者が業務において必要なサポートを受けられるよう、社内の体制を整えることも人事の責務です。これにより、障害者が自らのペースで仕事に取り組み、成長するための環境を提供することが可能になります。
5. 雇用の法的側面とコンプライアンスの遵守
障害者雇用促進法などの法的要件を満たすことは、企業の基本的な責務であり、人事部門が主導するべき重要な分野です。法改正に伴い、法定雇用率が引き上げられる中、企業はその達成だけでなく、障害者を戦力として捉え、彼らの能力を最大限に引き出すための戦略を策定する必要があります。法定雇用率の達成が企業の目標である場合、その達成が目的ではなく、障害者の雇用を通じて組織全体の価値を高めることを目的とするべきです。人事部門は、法的要件の遵守だけでなく、障害者の雇用を通じて組織の文化を強化し、企業全体の持続可能な成長を支援する役割を果たすべきです。
6. 社員全体の理解と意識向上
障害者が職場でのびのびと働けるためには、全社員の理解と協力が不可欠です。これは単に障害者だけの問題ではなく、組織全体の問題として捉えるべきです。人事は、社員教育や研修を通じて、障害に対する理解を深め、偏見や差別をなくすための取り組みを推進する役割を果たします。
例えば、障害者と共に働くことで生まれる可能性のある誤解や偏見を防ぐために、ダイバーシティ研修を実施することが考えられます。また、障害者が活躍する姿を社員に見せることで、共に働くことの意義を共有し、全社員の意識を高めることが重要です。これにより、職場全体がより協力的で包括的な環境になることが期待されます。
7. 障害者雇用の成果と評価の明確化
障害者の雇用を戦略的に進めるためには、その成果を評価し、効果的なフィードバックを行う仕組みを整えることが重要です。障害者が持つ能力を正当に評価し、その成果を認めることで、彼らの働きがいとモチベーションを高めることができます。
例えば、釧路製作所の事例では、知的障害を持つ社員がフォークリフトの免許を取得し、その頑張りが評価されて正社員に昇格したことが示されています。こうした取り組みは、障害者が職場で達成感を感じ、長期的に働き続ける動機づけとなります。また、障害者の雇用を通じて得られた知見を組織全体に共有し、より良い雇用環境の構築に役立てることも重要です。
8. 長期的な雇用戦略と持続可能な組織作り
障害者の雇用を長期的な視点で捉え、持続可能な組織作りを目指すことも人事の重要な役割です。これは、単に法定雇用率を達成するだけでなく、障害者が長期的に働き続けることができる環境を整えることを意味します。障害者が安心して働ける職場環境を提供することで、企業全体の離職率の低減にもつながります。
また、障害者の雇用を通じて得られた知識や経験を活用し、他の分野でも多様性を推進する取り組みを行うことで、組織全体の成長を促進することができます。
9. コミュニケーションとフィードバックの強化
障害者が職場で成功するためには、適切なコミュニケーションとフィードバックが不可欠です。人事は、障害者とその上司や同僚との間で効果的なコミュニケーションを促進し、障害者が自分の意見を表明しやすい環境を作ることが重要です。また、定期的なフィードバックを通じて、障害者が自分の業績を理解し、次のステップに進むための支援を行うことも求められます。これにより、障害者が自分の能力を最大限に発揮し、職場での存在感を高めることができます。
人事部門としても、障害者の雇用を単なる法的義務ではなく、企業の成長戦略の一環として捉え、その能力を引き出し、活用するための包括的な支援体制を整備することが求められます。これは、企業全体の持続可能な成長を支えると同時に、社会的な責任を果たすためにも重要な取り組みといえるでしょう。
製造業の小さな会社における職場環境をの様子です。障害を持つ従業員が活躍している様子が鮮明に表現され、チームワークとサポートが強調されています。職場の多様性がどのように職場を豊かにしているかを視覚的に伝えています。