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#6 あたしにつながるSTORY

  チチの日記は、読み込めばバックグラウンドのstoryが浮き上がってくる。あたしは夢中になってその世界にのめり込んでいく。

 その日記には「漂泊幾花」という表題が付けられていた。まるで、小説のようにつづられている体裁だった。

 でも、それをひもとくのが、なんだか怖い気もするのだ。

 なぜならば、所々破かれたページが存在するからだ。しかし、それは類推するしか無いだろう。

 しかし、その資料は補完される事でもある。歴史は一面からは捉えられないのが常道なのだ。

 ひょっとしたらハハの日記も見つかるかもしれないからだ。

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 朝、どんな時間なのかは全く僕の意識にはなかった。隣にまどろんでいる咲も全くそんな気はなかっただろう。
 ただ、そのまま外とは何の関わりもない二人だけの時間がそこにあった。

 咲は僕の目覚めた気配を察して目を開けた。
「・・・・。」

 咲は何とも言えない深みを帯びた目で僕を見つめ、そして、布団の中に潜った。
「・・・見ないで・・恥ずかしい・・。」
「・・今日、先生に謝りに行かなくっちゃ・・。」
「・・・そうだね、娘を傷物にしたから・・。」
「そりゃ言いすぎだ・・。」

 咲は笑った。そのまま華奢な身体を僕に向けた。小さな乳房がその時ふるると揺れた。

「柴田耕作・・。」
 咲は僕をまたじっと見つめながら改まった物言いをした「・・なんだよ・・。」
「あたしは聖女じゃないぞ・・・。」
「・・・うん・。」
「汚いところも、綺麗なところもすべて含めてあたしを好きなのか?」
「・・・・うん・・・。」
「・・シンシアも・・?」

 僕はこの答が咲が僕に突きつけた卒論試問のような気がしていた。いや、それよりももっと厳しい試問だった。

「・・・・咲だから・・・。シンシアも愛せる。」
「・・・・うん・・・。」

咲はそこで僕に裸のまま抱きついてきた。
「・・シンシアが復活したいと言うとるとぉ・・・。」
「・・・バカめ・・。」

 僕は『シンシア』を抱く気はなかった。いや、むしろ『シンシア』を内に秘めた咲そのものを受け入れたいと感じていた。
「・・今のあたしは・・・『咲』そのものよ・・・。」
「・・・・。」
「・・汚いし、淫乱だし、家出はするし・・。親に明言して外泊はするし・・・。」
「だけど、高僧をもへこます高貴な女・・・。」
「・・・・・・うふふ・・・・・。」

 咲は参りましたと言うような顔をした。
「・・だから、耕作が大好き・・・。」
咲は力を入れて僕に抱きついた。咲の目には涙が光っていた。
「・・・下も上も濡れてる・・・。」
「・・・・。」
「・・・耕作も・・・硬いね。」

 確かに僕の身体は狂おしく咲を求めていた。

咲のすべてをありのままに受け入れたいと、心から思った。
 そして、そのためならどのようなことでもやれると感じたのだ。

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 読めば赤面するような内容だ。しかしそこに卑猥さは感じられない。

 だけど、急にチチとハハが身近なものに感じ始めた。あたしがこの世に生まれる過程にはこういういきさつがあったのだということを感じ取れたからだ。
 だから、あたし自身もどこか吹っ切れるような気もする。

 そして、あのけちんぼ和尚が言うように「すべてをありのままに受け入れる」ということがしっくりと心の中に入ってくるのだ。

 そうか、これが十七清浄句なのかもしれないと・・。

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