少女漂泊~Monologue by HARUKA η
うっちーセンパイに連れられて行った店は、
木屋町筋を南に下った高瀬川沿いにあった。
結構高そうなお店だ
何か敷居が高い、あたしのような子どもが
入っていいものなのか躊躇する威厳があった。
ちいちゃな店構えなのに、この風格。
さすがは京都だな。そう感じた。
センパイは意に介さず、のそのそ店に入った。
上品なカウンターが伸びているお店だった。
50代くらいだろうか、凜とした雰囲気の女将が
カウンターの中で下ごしらえの最中だった・
「あれ、なんや、耕作もどってたんか?」
「せや、しばらくこっちにおるよ。就活や。」
「ほぉ~、アンタもそんな歳になったんやな。
驚くわ。・・・あれ?」
女将さんはあたしの顔をまじまじと、
不自然なくらいに見つめた・・。
で、何か思い出すようにじっと考え込んだ。
あたしは、ちょっと不安になったよ・・。
センパイ、この伯母さん、ちょっと、やばくない?
「誰やろ・・・・。」
センパイの伯母さんは、あたしの顔を
穴の開くほど見つめながら、
何か思い出すようなそぶりをしていた。
「ゴメンね、お嬢はん、あんた、
何か昔会うたことある子とえらい似てたもんで、
ついつい不作法してしまいましたわ、堪忍な。」
・・なぁんだ、おばさんの「デジャヴ」につきあわされただけか・・。
「伯母ちゃん、今日はまだ御前様来てへんのか?」
「そろそろお見えになる時刻やな~。」
「伯母ちゃん、この子、はるかちゃんな、
御前様にあわせてやりたいんや。」
「ふ~ん、酔狂やな。」
勝手に何かはなしすすめてる感じで、
あたしはちょっとむかつきながら言った。
「おもしろいお坊さんにあわせてくれるって、
センパイが提案したので、
あたしはそれにしたがったわけです!」
すると、女将さんは、あはははは、と大笑いした。
「うん、うん、思い出したわ~。」
女将は、あたしの顔をじっくり見て
「ほうや、似てはるっていうか、
瓜二つやな・・。言うてることも。」
・・・・うん、それは「ドッペルゲンガー」ってやつだよ、
おねえさん。
「まぁ、ええわ、だけど、そのお坊はん、
おもろいけど、くせ者やから気いつけてな。」
「はぁい、承知いたしました。」
「よろし!」
「・・・邪魔するで。」
「あ、御前様、いらっしゃい。」
確かに、入ってきたのは
もう80に届くのではないかという
「老僧」だった。
「般若湯・・。」
・・・わ~、ボンノ~・・・
あたしはちょっと声に出しかけてしまった。
すると、「御前様」は、
あたしの方をちらっと見て
「・・堪忍なぁ・・」
とだけ言ってカウンターに座った。
「今日はまた、店が華やかやなぁ・・。
うん、若いおなごは、菩薩やさかいな。かかか」
なんか、声だけはとても大きなお坊さんだなぁ・・。
あたしはクリスチャンだし、
滅多にお坊さんに関わることがないから、
ちょっと珍しい世界だ。
あたしはこのお坊さんのオーラが
なんとなく気になっていた。
「お嬢ちゃんは、旅行かいな?」
お坊さんは話しかけてきた。
「いえ、こっちの大学に通ってます。一回生です。」
「かかか、ほうか、
おや、隣に耕作がおるゆう事は、耕作の彼女はんかいな?」
「ちがいます。」
あたしはきっぱりと言った。
「はるかちゃん、
そないはっきりいわんでもええやないか・・がはは。」
はっきり言いたくなる人ですけど・・・
女将さんと、お坊さんが
ツボにはまったように笑いこけていた。