さて、いざ柴又帝釈天へ ~後編
「ねぇ、一つ訊いていい?」
「え?なに?」
鰻を丁寧に寄せながら、彼女は訊くのだ。
「鰻重の上と並って、何が違うの?」
そうだ、考えれば素朴な話だ。なんとなく、ざるそばともりそばの違いは何か?くらいの素朴な疑問だ。
しかし、その答えは簡単である。並、上、特上の違いは、乗っかっている鰻の量の違いなのだ。並だとだいたい鰻二分の一。上で三分の二、特上で一匹まるまるってところか。
これは店によって配分は変わるだろうが、どの階級でも味は変わらないというわけだ。
まぁ、それに付加される付け合わせなどの違いは、あるものの、基本的にはそうだ。
「へぇ~~。」
彼女は私のある意味根拠に乏しい説明に、感銘を受けたようだ。
「なら、あたしは並で十分かなぁ」
話を帝釈天に戻してみる。
帝釈天が密教由来による、インドの神であることは前に述べた。そして、帝釈天にはライバルがいるのだ。それが奈良の興福寺にある乾漆像で有名な阿修羅なのだ。
しかも、帝釈天には妻がおり、その名を舎脂というが、彼女はなんと阿修羅の娘なのだ。
でも、帝釈天と阿修羅は仲が悪く、いつも戦っている。
「なんで~?。義父さんと娘婿なのに?」
彼女はますます不思議そうな顔をしてこちらを見る。
そもそも、帝釈天と阿修羅は、仲が悪くて意外と仲がいい関係。
そう、寅さんとタコ社長の関係みたいに、いつも喧嘩ばかりしてる。
しかもその喧嘩の理由も、時代に応じて変化しているのだ。インドの神話にはこの二人の争いや関係が記されているが、評価がばらばらなのが面白い。
『ヴェーダ聖典』では、阿修羅はどうしようもない悪神で、日照りとか洪水のような災害をもたらし、そのため帝釈天が退治したという。
ところが、ヒンドゥーの時代になると帝釈天の評価は変わるのだ。帝釈天この時代、めちゃサイテー男になる。
まず、阿修羅の娘をかっさらって、無理矢理妻にしてしまうのだ。これが舎脂なのだが、そもそも阿修羅は娘を帝釈天に嫁がせようと思っていたのに、強奪婚に走ったこいつが許せないわけだ。
しかもこの頃の帝釈天は、冴羽獠みたいなやつで、めっちゃ強いんだけど、めちゃ女好きのもっこり男だったわけです。それで、舎脂をめとった後も、浮気しまくって、全身に女性器をつけられちゃうという呪いまで受けてます。
結局最終的には、仏陀に諭されて、帝釈天も阿修羅も仏法を守る守護神になったというのが、顛末なのです。
しかも部署を別にされ、お目付に梵天を配置したのかな。
あれ・・・。
彼女飽きて寝ちゃった。
「おいおい、だんご食べよう。」
「あ、は、サンセイ!」
花より団子だね・・
さて、次はどこに行こうかな。