「小世界大戦」の【記録】 Season1-10
吾郎の就職を境に、恋人である結城涼美は、
吾郎と同居することになっていた。
これは、かねてからの約束事であって、
「婚約」という既成事実を作ろうという、互いの意図があった。
基本的に楽天家である吾郎は、
何かしら「尻を叩く」システムがないと、動かない気質だった。
涼美にはそれがよくわかっているのだろう。
もはや、夫婦モードである。
連休明けには、涼美は都内のアパートを引き払い、
ちょうど中間点の船橋に少し大きめなアパートを借りたのだ。
ろくな家具もない中、吾郎は連休まで寝起きし、通勤することになった。
この日も始発近い電車で吾郎は職場に向かった。
今日は始業式で、すべての在校生が登校してくる。
そして午後は入学式というスケジュールだった。
そして、今日の「申し合わせ」は生徒登校2時間前出勤だった。
それで、5時台の2番電車に乗らなくては間に合わないのだった。
吾郎は自家用車の購入を本格的に考えていた。
逆方向の電車は、都内行きに比べ不便すぎたからだ。
===しかしまた、なんで2時間も早く出勤なんだろう?===
吾郎は不思議に感じていた。
聞けば、指導部の数人は前日から保健室に泊まり込んだという話だった。
数年前までは「宿直」が行われていた関係で、
保健室に限らず,宿直室に泊まり込むことも可能だという。
「どうせ、お泊まり組は、宿直室で
酒盛りでもしてたんじゃないでしょうかね。」
途中駅から乗り込んで来た財前先生が、
がらがらの電車の中でロングシートを独り占めする感じで
座りながら話しかけてきた。
「そうだ、酒巻さん、こういう寝ずの番や早朝出勤は、
卒業式の時も同じくあると思いますよ。」
聞くと、卒業生や、問題児たちがガラスを割ったり、
会場を破壊したりするのを防ぐためのパトロールだという説明を受けた。
吾郎はふと、初出勤の日の派手なバイクに乗った
卒業生の事を思い返していた。
二人とも、とりあえずはスーツ姿だった。
むろん、学校ではジャージに着替えるが、
今日ばかりは入学式という儀式的行事がある手前、
大荷物にはなるがそうせざるを得ない。
==やっぱり自動車が必要だなぁ==
心底そう思ったが、
財前は学校が落ち着くまで、よした方が良いという。
「生徒にいたずらされても良いような、安い車にしないと・・。
でも、校外で生徒が問題起こしたときは、
公用車だけでは足りないこともありますから、
クルマを持っていたとしても無駄にはなりませんけどね。
むしろ重宝がられる。」
なるほど、理に適っている。
やがて、学校の最寄り駅の改札を出ると、
満仲が立っていて、こちらに手を振った。
「おはようございます!一緒に行きましょう。」
相変わらず脳天気な表情でさっさと歩き出した。
早朝なので、都心に向かう電車のホームには
たくさんの通勤客で一杯だったが、
ここで降りたのは、この3人だけだった。
生徒の姿はもちろんのこと、一人も見かけなかった。
学校に近づくにつれ、少しざわついた様子の雰囲気が漂ってきた。
体育館の一角に人が数人集まっているのが確認できた。
「酒巻さん、満仲さん、様子を見に行きましょう。
何かあったみたいです。」
財前はそう言うと、足早に体育館の方向に向かった。
吾郎たちもそれにつづいて走り出した。
To be CONTINUE
この物語はフィクションであり、
設定および固有名詞等、その他はすべて架空のものです