ASU・NOTE
「もういいかい?」
遠くから聞こえるいとこの声に
「もういいよ」と答えた後、息を潜めた。
夏休みの最後の日。せっかく集まった従兄弟たちでのかくれんぼ。
お盆前から泊まっている僕には、絶対に見つからない自信がある。
おじいちゃんの昔の宝物が眠っている土蔵の奥。
趣味で集めた鎧を着てしまえば、どこから見ても飾ってある鎧いだ。
入り口で音がして、従兄弟とタケシが入ってきた。
「ケンちゃん…?」。
鎧を僕だと思って声をかける。でも返事はしない。
「…なんだ、鎧か…」。
踵を返して立ち去ろうとする。作戦成功。
「待て」
と声がする。振り返るタケシ。僕と目が合う。
「ケンちゃんなの?」。
正解だ。だけど、僕は「待て」なんて言ってない。では誰が?何が?
「そこのツヅラを開けろ」。
また声がする。どうやら声は鎧全体から出ているようだ。
「(えー!何それ!怖い!)」
急に恐ろしくなって叫んだが、全く声が出ない。
鎧に引きずられるように右手が上がり、ツヅラを指差す。
タケシは涙と鼻水にまみれた表情で、ツヅラを開けた。すると中には…
「え?ケンちゃん」
どゆこと?僕がスヤスヤと寝ているのです。タケシが起こすと、なんと目覚めるじゃないか!
「あれ、タケシ、おはよ」
「ケンちゃん、何してたの?」
おいおい、会話までしてる。二人は鎧のことなど気にせず、そそくさと土蔵を出ていった。
「じゃあ僕は…誰?どうなってんの?」
必死になって考えた。そして思い出した。
昨日、ここで1冊のノートを見つけて、こう書いたことを。
“明日のかくれんぼで、僕が見つからないように”って。