カルダモンを縁側で
カルダモンロール。
自分で店をするときは絶対に出すと決めていた。
特定の商品についての想いをいつか書きたいと思いつつ、あまり店のポップやインスタで語りすぎても…ということで、この場で。
初めてカルダモンロールを食べたのは、「上野桜木あたり」にあるVANER(ヴァーネル)を訪れたとき。
VANERが入る前のパン屋も落ち着いた雰囲気や王道のようなパンが好きで、谷中へ行ったときには足を伸ばして行くこともあった。それがいつの間にか閉店してしまっていて、そのあとVANERができた。
以前の店の面影を残しつつも、大きな木の面台がガラス越しに見える斬新な内装。無骨なアルミラックに並べられているのはサワードゥブレッドというガッツリ焼き込まれキラキラと光るパンを筆頭に、絶対にパリパリだと見ただけでわかるクロワッサンやパンオショコラ。そして店内に立ち込める香りの根源、シナモンロールとカルダモンロール。
パンの種類はこれだけなのに、全てが美味しそうに見えた。
何を買うか迷いに迷い、食べたことないサワードゥブレッドとカルダモンロールを購入。
そして外の椅子で一人、カルダモンロールをひと口。
なんだこれは!!?
私はシナモンが得意ではない。だからシナモンロールと一緒によく使われているカルダモンもあまり得意ではないと思っていた。
それがどうだろう。真逆。ひと口で大好きになってしまった。
そのあといくつかの店でカルダモンロールに出会うも、個人的にはVANERを超えるカルダモンロールには出会えなかった。
VANERでカルダモンロールを食べたのは、私がパン屋を辞めてすぐだったと思う。
ITエンジニアからパン屋を志しパン屋へ転職。そこで2年ほど働いて、開業資金を貯めるためにエンジニアに戻った。パン作りは家で続けており、パン屋との環境の違いに苦戦しつつも、将来どういうパンを作りたいかと考えていた頃。
そんな時にカルダモンロールに出会い、これだ!と思った。
とはいえカルダモンロールは他店ではあまり見かけないし、レシピもなし。
ネットで探すもVANERのパンとは別物になりそうなものばかり。
だからこういう生地だったからこの粉で、カルダモンは粗かったからホールを剥いて粗めに挽いて、成形は Youtube で研究。
何度か試作を重ね、VANERのカルダモンロールを理想としつつも、より自分好みのカルダモンロールができた。
うちの店 Humme(ハム)のカルダモンロールは、外はカリッとしていて、中はギュッと詰まり気味。ひと口噛むとカルダモンの香りがこれでもかと口に広がり、鼻に抜ける。粗く挽いたカルダモンが時折コリコリと食感に面白さを生む。
苦手な人もいる。私の母もあまり好きではない。でも、ハマる人にはかなりハマる。カルダモン好きのためのカルダモンロール。
材料はこだわっているけれど、謳ってはいない。それを先に聞くとそういうものとして食べてしまう気がしてだが、せっかくなのでこの場で。
小麦は霧島産のオーガニック小麦が主。この方の小麦は何がすごいって、小麦の味、風味が強いこと。ほぼ全てのパンでこの方の小麦を使用している。いくつかある品種の中で、カルダモンロールでは全粒粉の細挽きを使用し、全粒粉7割という、この手のパンにはあまりない配合。ムギュっとした食感を目指した。
カルダモンもオーガニックのもの。試作時に他のものも試したが、香りも質も段違い。中の種子だけ取り出して、ミルサーで粗く挽いたものを使用している。この種子が他のものだとスカスカだったりして、このカルダモンがお気に入り。オーガニックだからというより、量も質も一番と感じため使用している。
ただ、この剥く作業が中々大変でもっと楽にやる方法はないかと考え中。
この点についてもちょっとVANERに憧れている。何回目かに訪れたとき、お客さんがカルダモンを剥くのを手伝っていた。笑
店員さんや、来店したお客さんと世間話しながら、手元でカルダモンを剥く。その光景がなんか良くて、いつかうちの店でも剥きながら話をしたい。おばあちゃん、おじいちゃんが縁側で話をしているように、珈琲飲みながら一緒にカルダモン剥く。笑
今の世の中ではなかなか難しいけれど、いつか一緒にカルダモン剥ける日が来たらいいなと思っている。妻には剥きたい人なんていないと言われるけれど。笑
Instagram もやっています。