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神戸の丸刈り校則を打破した中学生たちの挑戦

あまり記録に残されていない話を、記憶に留めておくために記します。
Wikipediaにも載っていない、私の体験です。

私が中学生の頃、日本にいた時期に通っていたのは神戸市須磨区にある神戸市立西落合中学校でした。
そこには二学期の終わりまで在籍していましたが、当時の神戸市の多くの公立中学校には男子生徒に対する丸刈り校則がありました。
つまり、男子生徒は全員が丸刈りでなければならなかったのです。
(女子生徒には当然丸刈りの規定はありませんでしたが、髪をまとめることなどの規則があったと記憶しています。)

私は入学時点で、翌年には日本を離れて移住することがほぼ決まっていました。
それもあり、この校則にはどうしても納得できず、例外を求めて校長先生に掛け合うことにしました。
当時の校長先生は、前年に他の学校から転任してきたばかりの方で、前任校では丸刈り校則の撤廃を実現した経験がある先生でした。
この点で非常に理解があり、私の家庭からの文書による申し入れを受けて、すぐに自宅に電話をくれました。
その電話で、校長先生は私に対して丸刈り校則を適用しないことを確約してくれました。

実際に学校生活を送る中で、このことで教師から注意を受けることは一切ありませんでした。
恐らく校長先生が徹底して通達してくれていたおかげでしょう。
当時の私にとっては、自分の髪型を守ることが大きな意味を持っていたのです。

入学前から、生徒会でもこの丸刈り校則の撤廃が議題として取り上げられているという話を聞いていました。
どうやら既に一年以上にわたって議論が続けられていたようでした。私は「自分も参加してこの議論に関わりたい」と思い立ち、学級の委員長に立候補しました。
思えば若さゆえの行動でしたね。校則の適用を免れている生徒が生徒会に加わるわけですから、周りから見ればかなり目立つ存在だったと思います。

生徒会での議論が長引いていた理由は、「丸刈りを撤廃する代わりにどのような校則にするべきか」という点にありました。
個人的には「単に削除すれば良いのでは?」と考えていましたが、職員会としては何か代わりの規定が必要だと考えていたようです。
当時の生徒会の仕組みとして、各学級の委員長・副委員長で構成される生徒会の決定が、最終的には全校生徒が参加する生徒総会で承認され、さらに職員会の承認を得るという流れでした。
そのため、生徒会での結論も職員会の意向を無視することは難しかったのです。

話し合いは一学期の終わりまで続き、最終的には「男女ともに中学生らしい髪型を保つこと」といった、曖昧で当たり障りのない文言に落ち着きました。
この条文が採択された後、生徒総会で可決され、職員会も承認しました。
もちろん、生徒会や生徒総会の背後には常に教師の指導があったことは言うまでもありませんし、職員会が承認しないような議題はそもそも生徒総会にかけられなかったでしょう、なのである程度予定調和的な部分はあったと思います。

丸刈り校則の撤廃が決まった後、今度は男子生徒の制服に指定されていた制帽についても「必要ないのではないか」という意見が上がりました。
この点についても議論の末、制帽の廃止が決定されました。
この件は比較的些細なものであったためか、生徒総会にかけられた記憶はありません。
おそらく職員会の直接の承認で決まったのだと思います。(少し記憶が曖昧ですが事前に丸刈り校則撤廃の生徒会採択の後に続けて議論され、丸刈りと制帽廃止が併せて生徒総会に持ち込まれたかもしれません。)

こうして私の中学校での丸刈り校則は終わりを迎えました。
1992年のことでした。
若さゆえの勢いで挑んだ挑戦でしたが、当時の自分にとってその一端を担ったことに意義を感じることができました。

Wikipediaでは「1995年(平成7年)、神戸市の中学校での男子生徒に対する丸刈り校則全廃が達成される。」の一文でくくられているこの校則全廃は、このストーリーのような経緯があったのではないかと思います。
このストーリーは同じ経緯を踏んだであろう、幾多もの中学校のうちの一つの話でした。

【追記】

神戸市立西落合中学校の公式ページに学校生活のルールやきまりというページがありました。

  • 現在、頭髪に関しては以下のようになっているようです。

    • パーマ、染色、整髪料の使用禁止。 体育や実技教科の実習・実験など頭髪が邪魔になるときは、ゴムで束ねる。 髪型や髪のくくり方、ゴムの色は自由。

  • 他の校則に関しては、私の在校時では「白の運動靴」だったのが「白を基調とした運動靴」を経て、令和4年3月4日(4月から実施)で「色は問わない。ただし、スパイクやハイカットは除く。」及び「運動靴」となったようです。

  • 靴下の色や長さも自由になっているようです。
    長さは覚えていませんが、白は指定されていたと思います。

  • 「通学かばんはリュックタイプ・ボストンタイプがある。」リュックタイプがあるのはいいですね……。
    当時、ボストンタイプしかなかったので、例えば宿泊訓練なんかで長距離を歩く場合、片掛けのかばんは辛かった……。

  • やはり全体的には校則は緩和傾向であるようです。