2.お金は借りる人と貸す人がいて作られる お金の生まれ方
現金には硬貨と紙幣の2種類がある
前の項目で、「貸す人と借りる人の記録」がお金の起源であることをお伝えしました。
そしてまた、どうしてお金が必要なのか、その答えが「貸す人と借りる人の約束事」を証明する必要があるからなのです。
その「貸す人と借りる人の約束事」の最たるものが、日銀が発行する借用証書、つまりは紙幣です。
日銀が、これは1万円の価値がある紙ですよ、これは5千円の価値がある紙ですよ、と約束してくれているからこそ、私たちはこの紙を「お金」として認識します。
また、このお金はこの現金紙幣だけかというとそうではありません。
現金硬貨ももちろん、お金ですよね。
しかしながら、現金紙幣と現金硬貨。
同じお金でありながら、大きな大きな違いがあるのをご存知ですか?
素材、形、もちろんそれも違いますが、もっと根本的なところです。
答えは、発行母体です。
現金紙幣は、日本銀行が発行していることは、ここまで何度もお伝えしてきましたが、現金硬貨は、日本銀行が発行しているわけではありません。
現金硬貨の発行元は、「日本国」つまり日本政府です。
ところで、なぜ紙幣と硬貨で発行元が違うのか、疑問に思う人もいるかもしれませんね。
かなり端折りますが、大体の流れをお話すると、以下の通りです。
最初にあったのは硬貨の方です。
いつからあったかというと7世紀の頃に生まれたとされ、実際に流通し始めたのは鎌倉時代からだと言われています。
そして紙幣が登場したのは、それからずっと後、明治維新の時です。
元々硬貨を幕府(政府)が発行していたのですが、紙幣を発行する段階で初めて「銀行」が設立されます。
これが今の日本銀行です。
それまで両替商が好き勝手に発行していた「手形」が日本銀行によって、「紙幣」として統一されたのです。
元々あった硬貨の価値を証明するものとして、紙幣が登場します。
つまりこの紙幣で硬貨いくら分と交換できますよ、という「兌換券」と言われるものでした。
そして、このように金と交換ができると約束されていることを「金本位制度」と呼びます。
ところでこの金本位制度ですが、最初は良かったのですが、後に大きな問題に直面することになりました。
それは、今国内に現存する「金」の分までしか発行できないという点でした。
つまり金の分以上にはお金が作れないということでした。
これでは経済が発展しようにも、お金がなければ発展しようがありません。
ということで、昭和になりしばらくして、この金本位制度は廃止となり、紙それ自体が価値のあるものであると、私たちは認識し続けているのです。
お金の誕生 紙のお金はこうして作られた
お金の中でも現金紙幣の誕生については、もう1つ面白いエピソードがあるのでご紹介します。
こちらも、前項でご紹介した、三橋貴明著の「知識ゼロから分かるMMT入門」から引用・参照させていただきます。
さて、時代は中世ヨーロッパ、17世紀のイギリス、ロンドンです。
その頃の中世ヨーロッパでは、おカネはまさに「物理形状を持つモノ、あるいは財産」である貴金属でした。
貴金属とは、具体的にいうと、金貨、銀貨です。
商業が盛んになるにつれ、ロンドンの大商人たちの手元には、どんどんと金貨が積み上がっていきます。
それら金貨は、自分の家、あるいは仕事をする場所にある倉庫のような場所で、積み上がった金貨を保管していくことになります。
羨ましいです。
そして自分1人では到底見ることができなくなった大商人達は、やがて金銭管理をさせるための使用人を雇います。
が、その使用人が金貨を抱えて逃亡するなど(今でいう横領ですね)の事件が相次いでいたと言います。
そして大商人達は大いに悩み、「稼いだ金貨を安全に保管したい」という需要が高まります。
お金無しの人にはお金無しなりの、お金持ちにはお金持ちなりの悩みがあるものです。
ところで地元のロンドン塔は、イングランド王国の要塞でもありました。
現在のロンドン塔は、観光地の1つにもなっていて、儀礼に必要な武器などが保管されていますが、中世では地元の大商人から金貨を預かる行政サービスも提供していました。
とうわけで、ロンドンの大商人達は、こぞって金貨をロンドン塔に預けます。
ところがです。
17世紀ヨーロッパでは、、三十年戦争やピューリタン革命、フロンドの乱など、社会・政治の不安が続く「17世紀の危機」とも呼ばれていた、混乱の時代です。
イングランドも例外ではなく、戦争へと掻き立てられていました。
やがて、1640年、財政難中で戦争に必要なお金を調達しなければならなくなり、時のチャールズ一世がこともあろうかロンドン塔の金貨の没収を図ります。
これには、ロンドンの大商人も大パニックしたことは言うまでもなく、同時にチャールズ一世にも批判が集中しました。
そして、その後誰一人としてロンドン塔を信じなくなりました。
ちなみにチャールズ一世は、ここでは書くにもはばかれるようなひどい方法で処刑されてしまいました。
ところで、当時のロンドンでは、金細工商人が多数存在していました。
この金細工商人のことを「ゴールド・スミス」と呼んでいました。
ゴールド・スミスは職業柄、大量の金を「在庫」として抱えなければなりませんでした。
そのため、とても大きくて頑丈な金庫を所有していました。
ロンドン塔の失墜から、ゴールド・スミスは大商人から金貨を預かるようになり、金貨預かりサービスが始まっていきました。
ゴールド・スミス達は、概ね以下のような流れで、金の預かりサービス、つまりはお金のビジネスをしていたようです。
①ゴールド・スミスは大商人から金貨を預かります。
②金貨を預かる代わりに預かり証(金匠手形)を渡すビジネスを始めました
やがて、ゴールド・スミスは、金貨を預けた商人たちが一斉に金匠手形を持ち込み、現金(金貨)化することは「あり得ない」ことに気づきました。
そこで、
③ゴールド・スミスは金庫の中の「商人から預かった金貨」を借り手に貸し出し、金利を稼ぐようになりました。ゴールド・スミスから金貨を融通してもらった借り手は、別に貯蔵するために借りたのではありませんでした。
④借り手は借りた金貨を自らの商売の「支払い」に使います。支払いを受けた商人も、手元に金貨を持ち続けたくはありません。
そこで
⑤支払いを受けた金貨をゴールド・スミスに預けます。ゴールド・スミスが貸し出した金貨が結局はゴールド・スミスに戻ってきます。(同じゴールド・スミスとは限りません)
同じ時期、
⑥ゴールド・スミスが発行した金匠手形が「紙幣」として流通し始めていました。
金匠手形を保有する商人は、買い付けの際にわざわざゴールド・スミスの工房を訪れ、手形を金貨に交換しようとはせず、持っている金匠手形そのものを、売主に手渡していたのです。
理由はいたって簡単です。
単に面倒くさいからです。
大量の金貨を持ち歩くのも嫌だろうし、取引の金額が高ければ高いほど、金貨で決済することは抵抗感があったでしょう。
こうして、ゴールド・スミスが「書いた」金匠手形が、事実上の現金紙幣として流通し始めました。
やがてゴールド・スミスはついに気が付いたのです。
「今まで自分は借り手に金貨を貸し出していた。だが、よくよく考えてみると、別に金貨を貸し出す必要はないんじゃないか?」
ゴールド・スミスは、貸し出しの際に借用証書と引き換えに、金貨を貸し出すことなく「数字を書き込んだ」金匠手形だけを発行するようになったのです。
しかも「ゼロ」から。
この金匠手形を発行するという行為により、まさに今で言う現金紙幣そのものの「おカネ」が誕生したのであります。
金匠手形の保有者側にとってみても、
「必要があれば、いつでもこの金匠手形を金貨に替えられる」
ということが分かっていたので(少なくともそう信じていたので)、支払いの際にいちいち金貨化(今でいう現金化)することは無くなったのです。
さあ、皆さん、ここで少しイメージしてみてください。
これって、現代の何かに似ていませんか。
そうです。
「銀行」です。
ゴールド・スミスの「金匠手形による貸し出し」は、現在の銀行融資の先祖なのです。
現在の銀行預金でも、
「必要があれば、いつでも現金紙幣に替えられる」
ということが分かっているからこそ、銀行預金はお金であることを認識しているではないですか。
銀行預金は、我々が銀行からお金を借りた瞬間に、通帳に記載される数字として発行されるお金です。
銀行は、お金を発行する際に、別に何らかの資産(現金など)を必要としているわけではありません。
銀行は、人々や企業に現金そのものを貸し出しているわけではないのです。
銀行の貸し出しによって「預金が創出される」のが真実です。
この預金が創出されるという行為を「マネークリエーション」と呼びます。
直訳すると「お金の創造」なのですが、日本語に訳されるとなぜか「信用創造」となってしまっています。
直訳で「お金の創造」とした方がよっぽど分かりやすいと思うのですが、返済能力があると信用した上で、お金を貸し出すと理解すれば分からなくもないですね。
それはともかくとして、
要は、単に銀行が借用証書と引き換えに預金通帳に「数字を書く」だけで、お金が発行されることは間違いのない事実です。
この「数字を書く」つまりは「お金を書く」という行為は、ゴールド・スミス時代では、まさに金匠手形に金額を万年筆に書くという行為から「万年筆マネー」と呼ばれています。
現代では、銀行側がキーボードでカチャカチャカチャと数字を打ち込むという行為から「キーボードマネー」と言われています。
このようにお金が債務と債権の記録である以上、貸し借りの関係が成立するだけで、「ゼロ」の段階から「お金発行」になるのです。
信じがたいかもしれませんが、これが事実です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?